ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
「ああー、やられちまったぁ……」
「どんまいどんまい、切り替えて行こう」
控室に戻ってくるなり肩を落とすチームメイト。それを既に脱落していた友人が、肩を叩いて慰める。
これで俺達のチームで生き残っているのは俺一人だ。いやまあ、決勝が個人戦になった以上、チームも何もないのだが、気分的にはね。控室も一緒だし。
一応、運営もチームメイト同士でぶつかるような組み合わせにはしてないようだし。まあブロックを勝ち進んだ場合は話が別だけど。
「これで俺達、チーム“地球防衛軍第66機動小隊”で生き残ってんのはお前だけかあ。ま、順当な結果ではあるけど」
「銃で戦ってる俺らよりチャンバラごっこしてるお前の方が生き残ってるの納得いかぬぇー。まあ俺はそもそも参加できてないけどね……」
「そりゃあ、まあ。だからこそだよ。銃への対応はしってても、突っ込んでくる侍擬きの対処法は、お前らだって知らんだろう?」
極端な効率重視のメタばっかりが回っていた弊害ともいう。
通常ではありえない速度で、通常ではありえない武器を振るってくる相手への想定と対策が、対人戦の環境では甘かった、それだけの事だ。
「そういう問題かな? なんかズレてね」
「っていうか、お前さっきからずっとアレの試合ばっか見てんね。次の対戦相手はどうでもいいってか」
「うん、ぶっちゃけね」
実際には全く興味がないという訳ではないが、ちらりと見て十分対応できると判断した。幸いな事に、俺の居るブロックには与しやすい相手ばかりである。申し訳ないが、ライフルで牽制しつつ突っ込んで切れば終わりだ。
正直言うと物足りない。実力者の中では、“赤い残像”あたりならなかなか白熱した試合になったろうに。
だが彼は破れた。ほかならぬ、閃光の魔人こと“野生のレイドボス”に。
「しかし、うーん。前線基地なし、チーム戦も廃止、ってなると流石にあのびっくりどっきりメカ野郎も年貢の納め時かと思ったんだが……」
「まさか単機であんなトンデモマシン持ち出してくるとはね……」
「吃驚したよね。一体どういう仕組みなのか見当もつかないや」
俺は動画のタイムバーを指でスワイプして、適当に巻き戻す。
再生を再開すると、それはちょうど青い光に包まれた機体が、ふわふわと空中をホバリングしている所だった。
「これどうやってんだろな。多分プラズマビーム? を周囲に滞留させてるんだよね……どうやって?」
「低速とはいえ、移動してる訳だしな。ただ機体の周囲をぐるぐる回転させてるだけとは訳が違うし……」
チームメイトが首を傾げ、そして俺も勿論皆目見当もつかない。
だがこの機体の恐ろしいのはここからだ。
胸部の砲口に光が収束し、フォトンビームが放たれる。本来、まっすぐにしか飛ばないビーム砲……それが、突如として何もない空中で向きを変える。
それも一度や二度ではない。何度も多角的に角度を変えたビームが、死角から敵に襲い掛かる。何度も、何度も。哀れ対戦相手は、一体何が起きているのかも満足に理解する事なく撃墜されただろう。
初見殺しもいい所だ。そして、初見でないからといってその脅威度が下がる訳ではない。
分かった所で、いつ、どう曲がるのか予想もつかない屈折ビーム。まともにやり合っていてはとてもではないが対応できない。
まあ、うん。それを反射神経のみで攻略しかけた例外もいるが、あれは本当の意味でのイレギュラーだ。
参照にするべきは三戦目。
この戦いにおける対戦相手は重スナイパー。ビーム偏向装置を多目的バインダーに搭載した彼は、一見すると戦いを優位に進めていたかに見えたが……。
「これ吃驚したよな。なんか突然死したんだけど」
「パイロットが即死したって話だよな。何が起きたんだ?」
「……多分、なんだけど。プラズマビームの粒子を、直接コクピットに転送されたんだと思う」
「転送ぉ?」
俺は動画を停止させて、画面を拡大した。ビームが曲がる直前、その進路方向を友人達に見せる。
「これ。何か青い粒子みたいなものが漂ってるのが見えないか? んで、これにビームが接触すると……」
「ビームが曲がる、と。……つまりあれは、ビームに曲がる性質があるんじゃなくって……」
「ああ。多分、ビーム偏向力場の発生装置が生み出す粒子だか磁場だか、それをビームの進路上に展開して曲げてるんだと思う。機体を覆うビームバリアも多分同じ理屈だ」
どうやって転送しているかは、この際どうでもいい。方法は問題じゃない。大事なのは、奴は曲がるビームを撃っているのではなく、撃ったビームを曲げている、という事だ。
「じゃあ、この粒子だか磁場だかを観測すれば……」
「少なくともビームの曲がる位置は判別できる」
「だけどよ、こんな微量なエネルギー反応、攻撃の飛び交う実践で判別……あ、そっか。お前なら特に問題ないか」
そういう事である。
こちらはあくまで、ライフルは牽制程度にしか用いない。その一方で、高速での近接戦闘を可能にするためにセンサー系はかなり強力なのを搭載している。ビームの飛び交う戦場であっても、ギリギリ見出せるはずだ。
とはいえ、曲がるポイントが分かってもどう曲がるかまではわからない。あとは俺の勘次第、という奴だ。
と、そこでこちらの次の試合のカウントダウンが始まった。
「どうやら出番らしい、行ってくる」
「うーんその余裕、腹正しいから負けて欲しい」
「そこはチームメイトの勝利を祈る所じゃないのか? まあいいけど」
そんな訳で戦場に出陣。エレベーターが上昇した先は、吹雪に閉ざされた大雪原。
低感度のレーダーやセンサーでは敵を見失いかねない環境だ。最も、そのあたりは対策済み。
熱源探知を最大限回避するべく、徒歩で移動を開始する。
「索敵開始」
がぱん、と頭部装甲が展開して高精度スキャンを開始する。数秒のちには周辺の詳細な地形がモニターに表示され、それを元に戦術を組み立てる。
と、同時に熱源反応。どうやら敵は先制攻撃を恐れず、まっすぐ雪原をつっきって来てるらしい。
あるいはこれまでのこちらの戦闘スタイルから、待ちは不利と判断したか。
「来たか」
敵機体のスタイルは大体把握している。
ビルドロボオンラインで今現在主流のテンプレ構成。大出力スラスターで機体をぶん回し、強力なバトルライフル二つをメインウェポンとした対人DPS特化機体。対人戦に特化しきっていて、レイドボス相手では火力不足、雑魚狩りには出費が多すぎて赤字になる、そんな機体だ。
もちろん、伊達や酔狂でテンプレになっている訳ではなく、蟲毒の如き勢力戦で研ぎ澄まされたその構成は極めて高性能だ。
だがだからこそ、与しやすいともいえる。なんせ、勢力戦では同じアセンがコピペのごとく10や20では効かない数で溢れかえっているのだ。対策を心得ていないのでは独自のアセンでなんてやっていけない。
「さて、と」
機体のポーチから透明なフィルムを取り出すと、ばさりと羽織る。敵のスキャニングなどを阻害するステルスシートだ。これで、敵との距離が一定以下になるまで潜伏する。
言うまでもないが、これを使うのはこの大会でこれが初めてだ。探知を避けて潜伏する方法は軽く10ほど用意してある、試合の度に違う手を使えばいいだけの話。腕は良くてもテンプレアセンを使ってる時点で考える事をやめた相手だ、大体面白いほど引っかかる。
「来た来た……あと少し……今っ!!」
まったくこちらに気が付かず、迂闊に距離を詰めてきた相手に一気に飛び掛かる。スラスターの熱がフィルムを溶かす中で、最大速度で接近する。
反応した相手がバトルライフルを放ってくるが、それを不規則に機体を左右に振る事で回避する。そしてこちらも、ライフルで応射。
敵の使うバトルライフルは、射程と威力に優れたモデル。威力保証距離が長く、さらにやや長めの発射間隔の御蔭で考えなしにWトリしてもレティクルの拡散が小さく、他のライフルが精度・威力が低下する間合いでも安定した火力を供給できる。結果的に、得意な間合いでは他と比べて圧倒的に高いDPSを発揮する訳だ。
しかし逆に言えば、やや遠目の間合いでなければ最大威力を発揮できないという事でもある。ここまで距離を詰められれば、逆にやや長めの発射間隔が仇になって他のライフルにDPSで劣る事になる。
連射重視のこちらのライフルが猛全と弾を吐き出し、吹雪の向こうで火花が散る。撃ち合いではこちらが有利……だが、対弾性の高い敵のアセンをライフルだけで仕留めようというのは聊か難易度が高い。今は奇襲であちらが押し込まれているが、冷静になって距離を取られればこちらが不利だ。
だから、このまま一気に決める。
「アクセラレーション」
背部のメインスラスターの左右に懸架した、大型のクラスターエンジンを起動。無数の手持ち花火を束ねたような火花がスラスターから噴射され、一気に機体を加速させる。それでいて、大口径ロケットブースター等と違って機体の制御は安定している。
みるみる減少していくサブエネルギーを片手に、俺はラックから一振りの実体剣を引き抜いた。太いケーブルがグリップに繋がれた、日本刀型のブレード。このトーナメントで何機もの敵を切り捨ててきた、この機体のメインウェポンだ。
吹雪の向こうに、敵の機体のシルエットが迫る。ブルーグレーに塗装されたテンプレ機体。いい加減見飽きてきたそのシルエットに、全力で刀を振る。
「……シッ!」
上段から斜めに振り下ろされるブレードの一撃。加速の乗ったその一撃は、一刀のもとに敵を切り捨てる……そのはずだった。
操縦桿に強い反動。見れば、振り下ろした刃は、相手のライフルの銃身で受け止められていた。いや、正確にはその銃身にマウントされた補助装備が、振り下ろされた装備を受け止めている。電動ノコギリのような特殊装備……ソードブレイカー。櫛を思わせる外殻がブレードを受け止め、その内部に仕込まれたノコギリが、火花を散らして刃を削っている。
「へぇ」
必殺の一撃が止められた事に感嘆の声を上げた直後、実体ブレードが真ん中から切断される。敵機は即座に反対側のライフルをこちらに突きつけた。
この距離では流石に回避できない。まともに食らえばコクピット貫通で即死、俺の負けだ。
最も。
その引き金が引かれる事はないのだが。
へし折れたブレード、その刀身を即座にパージ。根本に僅かに残されたナイフのような刀身から、光の刃が放出される。
一閃。
逆袈裟に切り上げられた一撃が、ライフルごと敵機を両断。赤熱した切断面に沿ってずるり、と敵の機体が上下にずれ、直後動力炉の暴走で爆発した。
《YOU WIN》
軽くバックステップしてその爆発範囲から逃れながら、ビームソードを振り払って鞘に納める。キラキラと高エネルギ―粒子が、蛍の光のように吹雪の中に煌めいた。
「悪いな。切り札はこっちなんだ」
耐粒子超硬度セラミックを用いたビームソード。かつて参加した超高難度レイドボス“クラウド・センチピード”攻略戦。散々に打ちのめされ、命からがら逃げ延びた先でたどり着いた高射砲基地で発見したレアアイテムの欠片。
なんとか持ち帰ったそれを研究し、開発したのがこれだ。
以前はビームエネルギーを貯め込む事を利用し、高出力のプラズマビームを暴発ギリギリまでため込み、その熱量で敵を切断する武器として用いていた。アップデートが入って熱エネルギーの周辺へ与える影響が激減した事で使い物にならなくなったと思われたが、逆に言えばため込んだエネルギーを制御しやすくなったという事でもある。
今はギリギリまでエネルギーを貯め込み、使用時に最後の一押しを加える事でため込んだエネルギーを放出、高出力のビーム斬撃を繰り出せる装備となっている。過剰な対物破壊能力が抑えられた事で、エネルギーをプールできるようになった訳だ。
実体ブレードはその鞘に過ぎず、いってみればオマケである。それでも、コイツは奴相手まで抜くつもりはなかったんだが……。
「ま、俺にこれを抜かせただけでも大したもんだ。さて、あちらはどうしたもんかな……」
できれば、“野生のレイドボス”はコイツで初見殺ししたかった所なんだが。
まあいい。それならそれで、ガチンコ勝負といこう。
「決着をつけようぜ。あの時は三対一だったからな、こんどこそガチンコだ」
俺はきっとこちらの試合を観察しているであろう、彼だか彼女だかに向けて宣告するように機体の人差し指を高く掲げた。
次は、お前だ。