ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
そもそも、弓という武器の利点は何か? 銃火器に比べて修練を要し、運搬性で劣り、有効射程で劣る。
唯一勝っているのは、投射する質量が桁違いに重い、という事だ。
有名な映画のワンシーンで、爆弾を括りつけた矢を放つシーンがあるがアレが一例だ。銃弾とはくらべものにならないほど重たい物質を、正確に狙った所に送り届ける事が出来る、それは否定できない利点である。例えば防弾ジャケットなんかを着ていても、恐らく弓矢の一撃は防げない、耐えられない。
利便性において遥かに銃に劣るとしても、弓には弓の明確な利点が存在する。
とはいえ、利便性に勝る利点はない。ましてや、18m級のロボットが戦うビルドロボオンラインの世界においては、そのサイズの矢を飛ばせる弦を担当できる物質なんて存在しない訳で……少なくとも、弓矢を武器にしている奴は聞いた事が無い。
だがここに例外がある。
大目牙大弓の特徴は、質量を投射する為の弦の代わりにビームを用いているという点である。チェンバー内にビームを高圧で封入し、それを一挙に解放する事で得られる爆発的なエネルギーで大質量を投射する。
欠点は、まだ構造が洗練されていないので発射と同時にチェンバーが爆裂四散してしまう事と、圧力を受けるダンパーごと矢が飛んでってしまうため、一発撃ったら終わりという事だが。
それでも、この大質量弾をこの速度で撃ちだせば、一撃大破間違いなし。
「喰らえぇ!!」
乾坤一擲の矢が放たれる。
それに対して、敵もまた切り札を切った。
鯉口から刃が覗くように、ギラリ、とビームの光が煌めく。振りかぶったビームソードが、一瞬で長大な刃を解放して振り下ろされた。
激突する、刃と矢。
圧縮されたビーム粒子の刃が、音速で飛来する鏃を融解させる……だが、可能な限り高強度の金属で構成され、何より銃弾より遥かに質量の大きい矢は光の斬撃を受けても一刀両断とはいかなかった。
矢が刃を突き抜け、敵の右半身に突き刺さる。同時に、長く伸びた光の斬撃がこちらの機体の左腕を両断した。
「ぐぅ!?」
衝撃と共に機体が傾ぐ。コクピットにアラームが鳴り響き、コンソールにはいくつもの警報が鳴り響く。
『左半身喪失によりフロート推力低下。姿勢制御不可能。墜落します』
「ならばスラスターで……!」
幸い、この機体はサブエネルギー消費が激しくはない。スラスターを断続的に噴射して、ひっくり返りかけた機体の姿勢を制御する。
だがダメージは深刻だ。左腕は肩口から消失、さらに余波で左のビーム砲口が破損、使用不能。さらに不完全な大目牙大弓の使用で、右腕も肘から先が中破、転送装置も偏向装置も動作不良。勿論、右のビーム砲は絶賛冷却中でしばらく使えない。無事と言えば辛うじて右側のフローターが回っているぐらいである。
だが満身創痍なのは敵も同じ。
大弓の直撃で、ビームソードを保持していた右半身は大破。崩れた推進バランスを、残った左側のスラスターでなんとか体勢を維持している。
条件は五分と五分。
まだだ、まだ私は負けていない。今度こそ奴に……勝つ!
「やるぞぉ!」
スラスターを噴射して前に出ながら、頭部バルカンの照準を敵に。
「しょぼい武器が最後に活躍するのも浪漫だよなあ!」
しかしそれもまた相手は同じ。無事だった左腕が、腰の後ろからライフルを引き抜きこちらに向けるのが見える。
早撃ち勝負だ。
私がバルカンの引き金を引くと同時に、敵の銃口が発光したのが確かに見えた。
衝撃。
視界が激しくぶれると同時に、コクピットの内壁右側がボコッと膨れた。ひび割れた樹脂の隙間から、バチバチと火花が飛び散る。
『警告、胴体右部に深刻な損傷。機体システムの稼働率、急速に低下。危険です、脱出してください』
「相手はどうなった?!」
『敵機の行動不能を確認。パイロットは急ぎ脱出してください』
罅割れた正面モニターには煙を吹いて墜落していく“ソードレイヴン”の姿。出来れば確実にトドメを刺したのを見届けたかったが、こっちが限界だ。
炎に包まれ始めたコクピットで、脱出レバーに手をかける。
「脱出する! TLS、ここまでありがとう!」
『マスターも、奮闘お疲れ様でした』
対話型インターフェイスに最後の別れを告げて、レバーを思い切り引く。同時に胸部ブロックの上半分が吹き飛んで青空がのぞいた。それも一瞬の後、座席が小型ロケットモーターで蒼穹に撃ちだされる。
「んがぐぐぐ」
実際にGや衝撃を感じる事はないのだが、視覚効果で思わず歯を食いしばってしまう。射出の頂点に達した所で下を見下ろすと、ゆるゆると高度を落としていく“テンペストゥス・サイレン”がビルに激突し、そのまま地面に落下していくのが見えた。バラバラに部品を飛び散らせる愛機の末路に、思わず手を合わせる。
「お疲れ様。……んで、敵はどうなった?」
同じように墜落したはずのソードレイヴンの姿を探すと、道路上に墜落、炎上している敵機の姿が見えた。だが同時に、その近くのビルの屋上に一つのパラシュートが舞い降りるのも見える。
あっちも脱出したか。
そこまで確認した所で、こちらもパラシュートが展開。ゆるやかに落下しながら、ハンドルを手繰って近くのビルの屋上に着陸する。
ベルトをナイフで切って自由を取り戻し、私は周囲を確認した。
「……試合の決着がまだつかない。って事は、このままパイロット同士で戦えって事か……」
ロボット同士の戦いであればドローだ。だが考えてみれば、ビルドロボオンラインにおいてプレイヤーがゲームオーバーと見なされ、ホームに戻されるのはパイロットが死亡した場合だ。機体が無事でもパイロットが死亡すればホームに戻される……逆に言えば、機体が大破してもパイロットが生きていれば戦闘続行と見なされる訳か。
「ええいくそ、そんなときの備えなんかしてないぞ」
手元にあるのは初期装備のナイフとハンドガン。こんな事になるんなら、マシンガンの一つでも装備しておくんだった。
屋上から階段を駆け下りて、地上に向かう。しかし、これだけ広い街の中、大体の落下ポイントは分かっているとはいえ人間一人探すのは大変ではないか?
そう考えた途端、視界の端に赤いカーソルが表示された。
「ああそっか。FPSには位置レーダーが必須だもんな……」
カーソルを頼りに、敵の元に向かう。この手のレーダーは動きを止めると消えるはずなので、ちょこちょこ物陰で停止しながら、慎重に大通りを渡る。
敵も同じ考えらしく、カーソルの表示はちょこちょこ消えている。だが、表示されている時のカーソルの動きが大きくなってきた。相手の場所は近い。
今私が潜んでいるのは、ホテルか何かの一階だ。壁に空いた大穴から潜り込んだ広いホールには、一定間隔で柱が立ち並んでいる。大理石の床には薄く埃が積もっていて、放棄されてから長い時間が立っている事をうかがわせる。
と。
林立する柱の向こうで、何か小さな影が動いた気がした。
「そこっ!!」
身を乗り出し、パンパンパン、と拳銃を連射する。ぶっちゃけFPSなんて特異じゃないし、なんとかなれーの精神だ。
「やったか……?」
反撃はない。だが、ゲーム終了のアナウンスはない。まだ生きている、あるいは……
柱の陰に身を潜めていると、ガサリと別方向から物音。
振り返ると、ホールの受付にサブマシンガンらしきものを手にしたパイロットスーツが見えた。
やべえ、さっきのは囮か!?
慌てて駆け出した後を追うように、マシンガンの連射が火花を散らす。何発か掠めてHPバーがガクッと減った。
「く、くそ、このまま一方的にやられてたまるかっ」
罅割れた窓ガラスを突き破って外に逃げ出す。が、そこで私は位置取りを間違えた事に気が付いた。
目の前に広がるのは、片側3車線もある大通り。こんな広い所をちんたら走っていたら良い鴨もいい所だ。
慌てて引き返そうとした矢先、鼻先を弾丸が掠める。このまま戻れば蜂の巣間違いなしである。
だ、駄目だ。イチかバチかでこの大通りを走り抜けるしかない。
「く、くそぉおお!」
覚悟を決めて、せめてもの抵抗でジグザグに走る。
だがやはり無理があったのだろう。ある程度は回避できたものの、足元で跳ねる銃弾がついに右足を撃ちぬいた。
ぐらり、と姿勢が傾き、地面にそのまま倒れ込む。
「あいててて」
いや痛くはないんだけど。残り僅かで真っ赤に変色したHPバーを視界にいれながら身を起こすも、どうやら足に欠損ダメージを受けたようで上手く立てない。振り返ると、ホテルの入口から姿を現した相手プレイヤーが、弾切れになったと思わしきサブマシンガンを投げ捨て、ハンドガンを手ににじり寄ってくるのが見えた。
「ええい、くそ。……あれ?」
こっちもハンドガンで撃ち返そうとするが、いくらトリガーを引いても反応がない。あれ、と手元を見下ろすと、アバターの指にハンドガンはなく、少し離れた所に転がっているのが見えた。倒れた時に手放したらしい。
万事休すである。
「ああ、くそう。ここまでかー」
苦笑いを浮かべて、両手を掲げる。せめて一発で仕留めてくれよ、そう願って目を閉じた。
ざり、ざり、と足音が近づいてくる。がちゃり、と撃鉄を上げる音。そして……。
『ぶっころします』
ヴォオオオオオオオ! と耳をつんざく轟音が鳴り響いた。
「うひゃあ!?」
音の壁が叩きつけられてくるような爆音に思わずひっくり返る。驚愕に目をぱちぱちさせると、大通りの景色は一変していた。
道路の一角が、巨大なスコップで抉られたように消滅している。ホテルの入口も跡形もなく、そこに立っていた対戦相手の姿は影も形もない。
茫然と振り返ると、大通りの向こうに、火花を散らす巨大な影があった。
テンペストゥス・サイレン。
撃墜され墜落した機体。四肢も千切れもはや自力では一歩も動けない機体が、ビルに寄りかかるようにしてこちらを見ていた。そのこめかみのバルカンから立ち昇る、一筋の煙。
……ええと。
もしかして……TLSが? そうか、合体機体とかで無人機を操作とかしてたし、できなくもない……?
《YOU WIN》
唖然としている私の元に、勝利の報告が届く。
いまいち実感のないまま、それでも私は小さく拳を握りしめた。
「……とりあえず、ヨシッ!」
とにかく、勝ちは勝ち。
さあ……次はいよいよ決勝戦だ!
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