ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
『レディース&ジェントルメーン! 皆さま、長らくお待たせいたしました……ついに! ビルドロボオンライン最強のプレイヤーが決定します! 一度鳴ったゴングは取り消せない……果たして、鐘が響いた後、最後に残るのは一体どちらのプレイヤーなのか! 選手入場と参ります!』
朗々と響き渡る司会の声。
決勝戦ともなると、演出にも気合が入っている。エレベーターの上昇が止まると、コクピットから見えるのは戦場ではなく、観客一杯のスタジアム。空を見上げるととっくに日は落ちているらしく、スタジアムを無数のライトがまばゆく照らしていた。
……もしかしてここでいきなりドンパチ始めたりする? 盛り上がる観客席からは、風船が一斉に飛び上がり、ポップコーンの空箱やら空き缶やらが飛び交い、コンコン、と装甲の上で音を立てた。
やめろ凹む、物理的に。見た目は頑丈そうに見えるがぺらっぺらなんだよコイツの装甲。
『決勝戦は、このAスタジアムがある“要塞都市アルマゲドン”で行われます! 今後解放予定の、人類最後の生存圏! 日常と砲火が共存するこの戦闘都市に最初に流される事になる血は誰だ! まずは赤コーナー、噂のアイツがやってきた、通称“野生のレイドボス”ことプレイヤー・ショウとその愛機、“テンペストゥス・サイレン”だぁー!!』
わーー、と観客から歓声……いや罵倒が上がる。「ふっざけんなよテメー!」「チートだチート!!」「運営は何やってんだー!」って感じの声が飛び交っている。……被害者かな、多分。結構派手に暴れたし……。
まあ別に気にしない。テレサさんの力を借りてあくまで合法的にカスタマイズしただけだし。恨むなら運営のバランス調整を恨んでくれ。私は恨んでる。
さて、対戦相手の入場はまだかな。
確か事前の調査によると、相手はガチタン乗りだったはず。極端に装甲を偏らせた、横から見たら凸みたいな形状のタンク機体。特定方向への装甲厚はそれこそ何メートルになるんだろうな……それだけなら単純に横に回ればいいものを、凄まじい先読みと戦略的な機動で敵に決して死角を取らせず、さらにはキャタピラも装甲スカートで完全防備という隙の無さで、これまでの対戦相手を装甲と火力で押しつぶしてきた凄腕だ。ガチタンは下手な奴が乗っても強いが、強い奴が乗ると手が付けられない、の典型だ。
だが私からすれば相性は有利。自由自在に曲がるプルートアタックの前では、偏重装甲も無意味。武装も大口径のヘビーライフルだったが、計算上はビームバリアでダメージの9割は抑えられる。
技量的にはあちらが上だが、機体相性でこちらが大幅有利だ。この勝負貰ったね。
『そして、Bスタジアムに入場するのは、青コーナー! これまで圧倒的な装甲と火力で並み居るライバルを曳き潰してきた、正体不明の凄腕ガチタン乗り! プレイヤー・テミスとその愛機、“バラックレイ……あ、あれ?!』
スタジアムの空中に、ホログラムが投影される。どうやら違う場所にあるコロシアムのスタジアムに、対戦相手は配置されてるらしい。まあ、どれだけ広くてもロボットからすれば狭いからな。よーいどんで目の前の相手と殺し合ってください、ではまあ色々とアレだし。
しかし……おかしいな。
リフトを昇って現れたのは、それまで乗っていたガチタンとは似ても似つかない、真っ黒な中量二脚機体だった。
見た事の無い骨太フレームに、鋭角的な装甲が纏われている様はどことなくF1マシンを思い起こさせる。そしてその手にする武器は流麗さとは無縁の武骨極まりない重武装。右手には機体の全長程もある三連装ガトリングガン……銃口が三つ、という意味ではなく、六連砲身のガトリング砲が三つ束ねてある化け物武装。その反対側、左手には、同じく全長程もある巨大なビーム砲らしき装備。ごっついシリンダーが下部から放射線状に生えているそれは、私も知らないビーム兵器だ。
ガチタンじゃ……ない?
『こ、これは……なんと! 決勝戦の場で、乗機変更だあ! 機体名“オブシディアン・トレーサー”! テミス選手、ここに来て機体を乗り換えてきました! これは一体なんという事でしょう、対戦相手への姑息な対策か、それともこれまで本気を出していなかったという事なのか!?』
ええー、ありなのそれ?
いやでも、確かにトーナメント中のカスタマイズは禁止されてないし、用途に合わせて機体を乗り換える為のサブハンガーっていうシステムがあるんだし、ありといえばありなのか。
戦術を相手に対策されずに済むし、初見殺しを押し付けられるというメリットも大きい。だが、まさか決勝トーナメント、それも決勝戦でそれをやってくるなんて……。
よほど実力に自信があるのか?
『これは思わぬ展開になってきました! その判断、自信かそれとも驕りか!? それではいよいよ決勝戦、カウントダウンを開始します! 両選手、準備をよろしくお願いします!』
そこで操縦系以外の制御がこちらに戻ってくる。最後の戦いを前に、ステータスを念のため確認。よし、問題なし、オールグリーン。
人事は尽くした。あとは天運に身を任せるのみ。
正面モニターに表示されるカウントダウンが、一つずつ減っていく。
『3』
『2』
『1』
『それでは! 決勝戦、スタート!!』
司会の合図とともに、フロートユニットを展開。スタジアムからスラスターの勢いを借りて飛び上がる。
眼下に遠ざかるスタジアム。その周囲には、暗闇の中に無数の看板が浮かび上がる、雑多で退廃的で、活力に満ちたサイバーパンクな感じの不法都市が広がっている。最後の人類生存圏、という触れ込みだが住んでいる人間は残念ながら平和主義ではなさそうだ。
その証拠と言わんばかりに、聳え立つビルの屋上に輝くのはネオンライトの光ではなく、鈍く光る鉄の砲身。まさかの市街地ど真ん中のビルの屋上に、対空砲だか要塞砲だかが立ち並んでいるという末法極まる光景には流石にドン引きである。
まじまじ眺めていると、それらの砲塔がごごごご……と動き出してこちらに砲口を向けてきたので、さらに吃驚である。
「……うえ!?」
『脅威を感知。危険領域を表示します』
驚愕しつつも射線から離脱する。しかしこちらが回避したにも関わらず砲台は射撃を開始し、夜の闇に花火のようにいくつもの爆炎と曳光弾が巻き上げられる。俄かに騒がしくなった下界を高度を上げながら見下ろし、私はドン引き極まった震え声で呟いた。
「こ、ここに住みたくねえ……」
『計測しましたが、口径の割に威力が低いようです。ビームバリアで十分防げますが、不意の被弾に注意してください』
「あいよー。んで、お相手さんはどこだ? そろそろ姿が見えてもいいころだが……」
アドバイスに従ってビームバリアを展開しながら、対戦相手の姿を探す。
と、遠くの方でこちらの動きとは関係なさそうな火線が打ちあがるのが見えた。あっちか。
見れば、闇夜の中を高速でまっすぐ突っ込んでくる漆黒の機影の姿が見える。各部がセンサーなのかライトなのか赤く光り、それが闇に光の尾を引いてカッコいい。
どうやら環境的に、お互い真っ向でぶつかり合うしかなさそうだ。
緊張にごくりと唾を呑む私に、TLSが妙な報告を告げてくる。
『マスター。対戦相手から、レーザー通信による秘匿通信の要請があります。受諾しますか?』
「対戦相手から? 珍しいな……いいよ、繋いでやって」
『了解しました』
ビルドロボオンラインやってて会話を求められるなんて初めての事だ。見れば敵もこちらから一定の距離の所で速度を落としてほぼ停止している。そのカメラアイが、何かの信号のようにチカチカと瞬くのが見えた。
直後、正面モニターに会話ウィンドウが開く。
映像越しに見る相手は、真っ黒なヘルメットをかぶった女性のアバターだった。まあ、プレイヤーが本当に女性かどうかなんてわかりゃしないが……。
『貴方がプレイヤー・ショウですね?』
「あ、ああ。そういうそっちはテミスだったな。まさか決勝で機体を乗り換えてくるなんて思わなかったよ。だがこれは真剣勝負だ、乗りなれてなかったから負けた、なんて言わないでくれよ」
『それは当然。ふふふ、お互い真剣勝負と行きましょう』
「おうとも」
なんか思ったよりフレンドリー……というか、礼儀正しい人だな。この手のオンラインゲームは鉛玉がご挨拶、って感じだが、こうしてわざわざ挨拶と宣戦布告をしてくるなんて。
それにこの耳に心地よい涼やかな声。ボイスチェンジャーとかでは出ない繊細な響き、リアルも女性か? それも若い……いや、詮索はやめておこう。
ここにおいてはお互いただのプレイヤー。勘繰りは無しだ。
「どっちが勝っても恨みっこなしだ」
『ふふ。話に聞いていたよりもまっすぐな方ですね。貴方と決勝戦という栄えある舞台で戦える事を光栄に思います。しかし……』
どうせロクな噂は流れてないんだろうな、そう思いつつ会話に応じていたが、不意に相手の様子が切り替わった事に眉を顰める。
先ほどまでの温和な態度が一転して、拒絶を漂わせる攻撃的な空気。
『これ以上、《貴女》に好き勝手させる訳にもいかないのです』
「え……?」
ぬ、私、何かした? いややらかしたといえばやらかしまくったが……。
しかし困惑への答えを得られる猶予はなかった。
『戦闘プログラム最大レベル。イレギュラーを……破壊する』
最後に感情を排した宣言を残し、通信が一方的に断ち切られる。
ウィンドウが消えた直後、対面の敵機が急激に加速する。尋常ではない加速度。
「く……っ!?」
困惑は後だ。私は牽制にビームを放ちながら、急遽背後へ後退する。
モニター映像の中で急接近する敵機への警報、それの放つ三連装ガトリングの弾幕、そして防衛設備の放つ砲火が入り混じり、無数の情報の処理にかっと目の前に血が上る感じがする。
こうして戸惑いを伴って、ビルドロボオンライン決勝トーナメント、その最後の戦いが始まったのであった。