ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
後退するこちらの機体を追って、猛烈な勢いで追撃してくる黒い追跡者。その腕から放たれる豪雨のような火線をのらりくらり、風にあおられる風船になった気持ちで回避する。
操縦に必死になってる所に、ある意味呑気なシステムからの通知が聞こえてくる。
『敵機の解析……妨害により実行不能。敵機体名“オブシディアン・トレーサー”。外見的特徴から、高出力ロケットエンジン、三連装ガトリングガン及び大型粒子砲の装備を確認。大火力にものを言わせた短期決戦仕様と推測されます。攻勢は控え、回避に徹してください』
「回避に徹しろっていってもなあ!?」
ドバババ、という表現が相応しい勢いで放たれる弾幕をなんとか回避しているが、それでもしばしば避けきれなかった奔流が掠める度に、凄い勢いでビームバリアが削れていく。攻撃そのものは相殺しているのだが、その密度が尋常ではないのだ。ちょっと掃射を浴びるだけで1万ぐらいAPが吹き飛びそう、強ガトの悪夢かな?
とはいえ、回避に徹しろという判断は間違っているとは思わない。これだけの連射、弾の方が持たないはずだ。例えば世界一有名な対地攻撃機の機銃を例に出すと、あれは自動車一台分ぐらいの弾丸を積む事が出来るが、それでも理論上の一分間の発射数に届かない。連射が早いというのはそれだけ弾丸を消費するのだ。
三連ガトリングとかいう馬鹿げた弾幕、いくらなんでも一機動兵器に積み込める量の弾丸ではすぐに底を突く。
だが、相手の武器はそれだけではない事も忘れてはいけない。
ガトリングの弾幕が止んだ瞬間、私はそれを察してスラスターを噴射した。
「上昇……と見せかけて下降!!」
上下移動は基本的に、自重を持ち上げる必要のある上方向の移動が遅い。スラスターの光でフェイントをかけて、私はすぐさま近くのビルの壁に手を突っ込んで急制動、突き放すようにして地面に向かって急降下した。
直後、機体の頭上を真っ青な閃光が通り過ぎていく。紙一重で回避に成功したその一撃は、遥か後方のビルの根元に斜めに直撃。倒壊したビルごと、屋上の自動砲台が荒れ果てた道路に落下していく。
なかなかの威力だが、それよりも。
今のプラズマビームをさらに青くしたような、不健康そうなエフェクトは、もしや。
『警告、警告! 致死量の放射線を検出! パイロットスーツの耐環境性能を上回っています、決してコクピットから出ないで下さい!』
「モータルブラスターかよ!?」
昔懐かしの装備をここでまた見る事になるとは思わなかった。
しかも私が知っているのよりも明らかに威力が高い。上位装備があったの、あれ!?
「ええいくそ!」
とにかく致命的な一撃は回避したんだ、再び高度を上げて……と思った所で、上を取ったテミスの機体に頭上を塞がれる。こちらの頭を押さえるような再びの弾幕に、機体を上昇させられない! そして高度を取れないせいで、ビームバリアに干渉が……道路に転がってる車や、ビルから突き出した看板にバリアが削られてしまう!
「くっそお、こうなりゃ多少の被弾は覚悟で高度を……」
『駄目です! 最高級コクピットでギリギリ防げるレベルの放射線です、実弾をコクピットブロックに受けて機密が破れたら、マスターが持ちません! このまま回避を!』
「無茶いうなあ!」
泣き言を言いつつも、必死こいて敵の掃射を回避する。幸い地表スレスレという事でフローターシステムの効率が上がっており、速度や運動性は向上している。
かといっていつまでも回避ばかりしていられない。
「だけど、まだやりようはある!」
速度は出ない代わりに、安定した飛翔が可能なフローターシステム。だがこれの利点はもう一つある。前後左右への移動に大きな差異がないという事だ。
再び弾幕が途切れた瞬間、ここぞとばかりに機体を反転。バック飛行しながら、正面モニターの中央、こちらに向けてヤバげな光を放つ砲身を向ける敵機に向けて、頭部バルカンを掃射。
大したダメージにはならなかったようだが、思わぬ反撃に敵の体勢が崩れる。
その隙を逃さず、急減速。こちらを追う敵機の下を潜り抜けるように背後に回る。またしても間一髪、放たれたビームの直撃を回避する。
道路に青白い爆発が大穴を開けるのを尻目に、今度こそ急上昇して高度を上げる。消えかけていたビームバリアを張り直す。
一方、敵機は無理に減速するのではなく推力を生かして大周り、再びこちらを追ってくる。
再び始まる追いかけっこ、その前に敵機から通信が入った。
『ちぃっ、躱しましたか。直撃ならば機体はともかくパイロットは確実に殺せたものを!』
「殺意高すぎではない!? 私、そんなに恨みを買うような事した!?」
『ショウさん、貴方には恨みはありません! ですが《貴女》のせいでお兄様は連日バランス調整やAIの調査の為に夜遅くまで残業、残業、また残業! このフラストレーション、逆恨みとわかっていても元凶にぶつけずにはいられません!』
やっぱり滅茶苦茶恨んでるじゃあん!?
ていうかお兄様って……もしかして、ビルドロボオンラインを運営してるソル・クリエイトの社員の家族? ええと、つまり? 私がトーナメントでやらかしたのが原因と思われるバランス調整やら何やらでデスマーチに終われてる家族の報復に、直接本人をぶん殴りに来た……?
「……困った。全部私が悪いじゃん」
『いいえ、ショウさんは悪くありません! どうせ聞こえてないでしょうけど、悪いのは全部《貴女》なんです! 《貴女》がゲームの限界に挑むようなサポートをするから……!!』
ひいいいい、やっぱり滅茶苦茶怒ってるじゃん! というかさっきから言ってる事が支離滅裂なんですけど、やっぱ怒髪天に来すぎて言動が可笑しくなってるという奴では!?
いやでもそれで操縦が雑になればちょっと助かる、みたいな考えが頭に過ぎりつつも、再びのガトガト掃射を回避する。
これだけの連射、いくら大容量マガジンを装備していても、そろそろいい加減に弾が尽きる筈……。
その予想の正しさを示すように、突然弾幕が途切れる。それと同時に、敵機の赤熱したガトリングの砲口が、徐々にその回転速度を落としていくのがモニターに拡大された。
勝機!
「反撃だ!」
即座に振り返って、プルートアタックの構え。放たれたフォトンビームが、闇夜にジグザグを描きながら敵機に向かって飛翔する。それを回避しようとする“オブシディアン・トレーサー”だが、その動きは鈍い。どうやら追撃戦で、ご自慢のロケットブースターも燃料が底をついた様だ。
『くっ!』
「ちっ、惜しい!」
それでも決勝まで残ってきた実力は本物。紙一重でビームの直撃を回避するが……こっちの攻撃は、一度避けたぐらいでは終わらない。回避されたビームが再び曲がりくねって戻ってくるのを見て、敵は咄嗟に左肩のビーム砲を盾にした。
一瞬の拮抗。
驚くべき事に、ビーム砲はこちらの攻撃に耐えた。恐らく、非常に危険で不安定な炉心の制御の為に、非常に頑強な外殻で構成されていたのだろう。だが、そのジョイントまでは衝撃に耐えられなかったようだ。青白く明滅する不吉な砲身が、肩口からもげて地上に落下していく。
バランスを崩した敵機も墜落するが、地上のビルに激突寸前で姿勢を回復する。スラスターで浮上しビルの屋上に降り立つ敵の前に、こちらもことさら見せつけるようにゆっくりと高度を落とす。
周囲からの対空砲がこちらにむかって集中するが、ビームバリアの前ではいかほどのものでもない。全て防ぎながら、相手の機体を斜め上から見下ろす。
「形勢逆転、だな」
『……ええ。そのようですね』
「さて。同じロボ好きと君を見るが、となると降伏勧告は無粋だな。ま、頑張ってみてくれ」
私が相手の立場なら、降伏を勧められるのは侮蔑と嘲笑に他ならない。そう思って、今度こそ相手を仕留めるべく攻撃の構えに入るが……会話モニターに映るのは余裕綽々、焦った様子も見せないテミスの態度。
まだ切り札があるのか?
『流石は“野生のレイドボス”と行っておきましょう。まさか追撃モードで大した損害も与えられないとは思いませんでしたが、倒しきれないのは想定済み。むしろここからが本番です。“オブシディアン・トレーサー”、メガドライブモード!』
漆黒の機体が、ガトリング砲を投げ捨てる。道路に落下してめり込むそれにはもはや一瞥もくれず、両足を開いて仁王立ちする敵機。
その全身に、まるで血管が浮かび上がるように赤い光が走り始める。全身を駆け巡った光はやがて、両肩や胸部、膝部、両手の指先などに収束し、夜闇の中で煌々と輝き始めた。
なんだこの……凄くカッコいいエフェクトは、一体……?!
『これは……敵機体、第二形態に移行。武装をパージして高機動型に……いえ、違います! ロケットエンジンの点火装置だった高熱源が、機体全体に……レーザー兵器!? 回避を!』
TLSが警告するも、そんな猶予は一瞬もなく。
真の姿を現した“オブシディアン・トレーサー”の全身から放たれたレーザーの掃射が、“テンペストゥス・サイレン”へと降り注いだ。