ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
敵機の両肩、胸部、そして膝部の赤い発光体から放たれる無数のレーザー。それらはビームバリアの粒子に相殺されながらもかなりの割合が防御を突破し、機体の装甲に直撃した。
衝撃はない。しかし赤熱する光に、正面モニターが真っ赤に染まる。
「くぅっ!?」
慌ててスラスターを吹かして急速退避。ビルの屋上に飛び上がり、自動砲台を盾にする。こちらをトレースするレーザーが、一瞬で砲台を赤熱化、溶解させるのを尻目に、ビルの陰に退避。
『!? これで堕ちない!?』
驚愕するテミスの声。
奇妙な噛み合わせだ、と思った。熱量と運動エネルギーで敵の攻撃を相殺する原理のビームバリアは、純粋な光の波長であるレーザーに対して相性が悪い。が、ビーム運用の為に冷却性能を追求し、防御力を捨てて装甲の大半をヒートシンク構造にしてある“テンペストゥス・サイレン”はレーザー攻撃に強い。
ただの重装甲であるならば、相手の言う通りあの奇襲で撃墜されていた。不可思議な巡り合わせで、私の首は皮一枚で繋がっている。
とはいえ、無傷という訳ではない。
淡々と、TLSが感情を排した声で機体の状態を伝えてくる。
『装甲の20%が損傷。また、急激な機体温度の上昇により冷却機能の不備が発生、ビーム砲の冷却に支障が生じています。また装甲の破損により、冷却経路が一部寸断、バイパスしていますが基本的な冷却能力も低下しています』
「まあ、そりゃそうなるよな! くっそ、装甲に耐レーザーコーティングしておけばよかったか! まあ重たくなるし冷却性能も下がるからやめたんだけどな、畜生!」
なんせ耐レーザーコーティングは普通の塗料と違ってめちゃめちゃ厚塗りするからね!
自分の呟きに自分で突っ込みを入れながら、ビルの間を飛翔する。ビームバリアがべりべり剥がれていくが、この際構わない。再展開した所で意味は薄い。むしろ光って目立って狙いやすいほうが問題だ。
遅れて、背後のビルを飛び越えて闇に赤く煌めく追跡者が姿を見せた。
『逃がさない……!』
スラスターの光を曳いて追ってくる追跡者。その両肩が再び赤く光り、幾筋ものレーザーが放たれる。放射状に拡散するレーザーの隙間を潜りぬけるようにして、時に看板や建物を盾にして攻撃をやり過ごす。
質量を持たないレーザーの欠点だ。普通の銃弾やビームであれば、薄っぺらい看板やスカスカのビルなんて壁にもならないが、レーザーは光の波長、質量を持たない為触れた物質を焼く事しか出来ない。極端な事をいえば、絶対に炭化しない紙があったらそれ一枚で防げてしまうのだ。光速で着弾するレーザーが主流にならなかった理由もこれが大きい。
しかし、それでもこの威力のレーザーを無造作に放出してくるのがかなり規格外だ。シューティングゲームのラスボスと戦ってる気分になる。
『ええい、ちょこまかと!』
避け損ねたレーザーの一本が、頭部のアンテナをぱちゅん、と切断する。流石に全部は避けきれないか!
「というかどうなってんだよあの機体! レーザーずっと垂れ流しじゃないか、動力はどうなってんだ動力は!」
『敵機の解析結果について追加情報。敵機のジェネレーターの異常発熱を確認、半ば暴走状態にあるものと見なされます。過剰なエネルギー、熱量を、光学兵器の動力に転換して放出していると思われます』
「ええ、何それ!?」
何、もしかして何かしらのデメリット持ちのジェネレーターなの? 高性能だけど一定時間経過すると暴走を始めるみたいな……んでもって最後にはドカン! と。もしかしてその欠点を、大量の光学兵器を搭載する事でメリットに転換してる? 確か現実でも、エネルギーを光に変換して放出する素材とか開発されてたしな……。
なにそれ浪漫じゃん。デメリットを創意工夫でメリットに変えてるとかロボ好き全員好きな奴じゃん。素敵だ……。
モータルブラスターの上位装備を引っ提げてた事といい、なかなかの浪漫主義者と見た! これが決勝戦でなければ諸手を上げてお友達になりたい所。
しかし現実は非情。私と彼女は相いれないライバルなのだ。
「いい加減反撃するぞ、TLS!」
『了解しました。お任せください』
レーザーを回避しながら、前をむいたままトリガーを引く。
正面に向かって放たれるビーム。普通であれば全く意味のない攻撃だが、“テンペストゥス・サイレン”にとっては射角など関係ない。
転送された粒子によって曲がるビームが、カクカク、と折れ曲がりながら背後の追跡者を狙う。
相手も流石に、先ほどまでのようなロケットブースターによる法外な機動力は失われている。今度はこっちが翻弄する番だ。
『甘い!』
それに対し、敵は両肩に加え胸部、膝部からも一斉にレーザーを放つ事で応えた。大きく広がるように放たれたレーザーが、夜の街を片っ端から薙ぎ払う。その投網のように広がるレーザーに接触した偏向力場が焼き払われ、誘導を失ったビームは明後日の方に飛んでいく。
「ええええ?!」
『高エネルギーレーザーで磁場に干渉した模様。この相手には、偏向ビームの効果が薄いと思われます』
そんな冷静に絶望宣言しないでくださいます!?
だったら、背後から攻める! もう一発を、今度は大回りして敵の背後から狙わせるが……。
『同じこと!』
驚くべき事に、敵の背中側……肩の後ろと、リアスカートからもレーザーが放たれる。総勢50は越える高エネルギーレーザーが全方位に広がり、空間内の物質存在をビルも偏向力場も問わず焼き尽くす。
なんぞあれ!? 全方位ミ〇イル!? それともサ〇フラッシュ!? 法外なエネルギー量にも程があるだろ、あんなの生きてる爆発が追いかけまわしてくるようなものじゃないか!?
『しぶといですね、ですがここまで!』
「っ、しまったっ!!」
『右腕部フローターシステム、破損。滞空能力40%に低下、姿勢維持できません』
攻撃に集中して回避が疎かになっていたとは思いたくないが、放射線状に拡散していたレーザーがキュッとすぼまり、一閃が右肩を薙いだ。遅れて装甲表面が沸騰し、回転していたプロペラがカタカタと音を立てて停止する。ガクリ、と傾く姿勢をスラスターで維持しようとするも、速度が出ていたせいで間に合わず、そのまま正面、曲がり角のビルに機体が落下していく。
「くそっ!」
咄嗟に機体を捻り、背後からビルに衝突する。倒れ込む機体へ向けて、空中から敵機が腕を振りかざして突っ込んでくるのが見えた。
五指をそろえた右の抜き手、その爪の部分が赤く発光している。文字通りのレーザー手刀か。
『これでトドメです、レーザーブレード!!』
「く……っ!」
咄嗟に、腰の武装パーツに手を伸ばす。サイドアーマーから取り外した刃状の部品を、しかし突貫してきた敵の輝く爪が押さえ込む。ジジ、とパーツが熱で溶ける音がした。
『その切り札は知っています、使わせない!』
「そうかい……!」
なるほど、トドメにレーザーを収束するのではなく、近接戦で倒そうとしてきたのはそのせいか。こっちの機体はレーザーには強いから撃ち合いでは不利、さっきから使っていないプラズマビームを動力にして大目牙大弓を撃たれたら、と考えた訳だな。
それは正しい。
だが、私がいつまでもタネのバレた切り札を後生大事に隠し持っていると思ったら……。
大間違いだ。
私はコンソールを操作し、パージを指示する。がしゅん、とブレード状のパーツが排出され、その根元から青い光が噴き出した。
そう。これは、大目牙大弓ではない。
これぞ必殺……。
『……ッ!?』
「ビーム……ソード!!」
一閃。
闇を切り裂く光の刃が黒い機体を薙ぎ、その右腕を斬り飛ばした。