ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
光の刃が、夜を具現化したような漆黒の機体を斜め下から切り上げる。
青い光は敵の胴体、そして突き出していた右腕を切り裂き、振り切ったところでパァンと弾けた。見れば、柄の部分から砕けて機能停止している。……強度不足か、まだまだ改良が必要だな。
致命傷を受けた相手が、勢いを殺せず抱き着くようにしてぶつかってくる。それを正面から受け止めながら、私はふぅ、とコクピットで溜息をついた。
「ふぅ。なんとかなったな」
『そんな……その武器は……!』
ビームソードは、あのソードレイヴンの武器だったはず、そういいたいのだろうか。
だが悪いけど、そもそもこっちだってビームソードを作ろうと試行錯誤はしていたんだ。だけども、そのマスターピース……耐粒子超硬度セラミックが無かったせいで、計画は凍結されていた。それが、ここに来てお手本を見せてもらったんだ。だったら試すしかないだろう?
「ビーム偏愛してる私が、やっと仕組みが分かった武器を試さない訳ないだろう?」
『だ、だからって……決勝戦ですよ!? 後がない戦いに、試作品も同然のものを持ち込むなんて……!』
「浪漫に生きているんだ。悪いな」
決勝戦で手札を変えてきた、という意味だけならあちらも同じだが、恐らくあっちは数十時間は完熟訓練を行った万全の切り札だったはず。それがまさか、ほとんど思い付きみたいな感じで持ち込まれた武器に敗れ去るなんて、まあ理不尽もいい所ではある。
だが勝負とはそういうものだ。
勝てば正義である。
まあそうはいっても、上手く発動せずにびっくりさせて終わり、という可能性の方が高かったのだが。最後の最後で、ビームの女神様は私に微笑んでくれたようだ。
『ま、まだです……! まだ勝負はついていない……!』
火花を散らしながら、半壊した“オブシディアン・トレーサー”が動く。密着したこちらの機体の首を、無事な左腕が鷲掴みにする。
『まだ機体は動く……! このまま、ゼロ距離で引き金を引けば……!』
「……悪いけど。多分、それは無理だよ」
『いいえ! これで私の……え? どうして……どうして動かないのオブシディアン?』
相手の困惑する声。こちらに組み付いた敵機は、それきりピクリとも動かない。各部の発光体は今も漲るエネルギーに赤く煌めいているが、ただそれだけだ。
『違う……動かないのは、私の指? アバターに異常……汚染警報? ……あっ』
そう。
彼女の使ったモータル・ブラスターによって引き起こされた、重度の放射線。パイロットスーツでも到底防げないほどの汚染から生き延びるには、耐汚染性能のあるコクピットに引きこもるしかない。
だが、彼女の機体は先の一撃で、胴体部分を引き裂かれている。焼き切られた部品の奥に、引き裂かれたコクピットシェルらしきものが覗いていた。
あれでは、どれだけ高い汚染耐性があっても、耐えられない。
『そん、な……』
相手パイロットの声が途絶える。それと同時に、“オブシディアン・トレーサー”の赤い発光も消え、力を失った敵機がぐったりと倒れ掛かってくる。それを優しく押しのけ、私は愛機を道路に立たせた。
「私の勝ちだ」
《YOU WIN!》
勝利を告げるメッセージが届き、私はほぅ、と息を吐いて座席に寄りかかった。
達成感よりも疲労感を強く感じる。まさに激闘だった。
決勝戦トーナメントに入ってから、実力的には格上との相手との連戦。ここまで勝ち残れたのは、ほとんどテレサの作ってくれた対話型インターフェイスと機体の性能の御蔭である。
「ありがとう。君の助けで優勝できた」
『マスターのお役に立てて光栄です』
「ふふ、ありがとう」
口元を緩めながら、傍らに崩れ落ちた敵の機体を見下ろす。彼女もまた、友だった。
そういえば、試合が終わっても機体が消失しない……まあ、決勝戦ともなればあとは消化する肯定は表彰式ぐらいなものだから、そそくさとログアウトさせる事もないか。敗者とはいえ、準優勝者でもあるのだから。勝者と同じく、祝福を受けるべき立場でもある。
私はそっと倒れた機体を横抱きに抱え上げた。そのまま、スタジアムに向かって凱旋する。
ふふふ、この手の大会で優勝した事なんて初めて。ぞくぞくそわそわする。あれかな、優勝者に一言! とか求められちゃったりするのかな。えへへ、一体何をお話しようかなあ。困ったぞ、負けるつもりはなかったけど優勝までいけるとは思ってなかったから文面考えてなかった、てへへ。
「どうしよっかなー、勝利の秘訣は? とか聞かれたら、そりゃあ優秀なAIのサポートのおかげです、って言うしかないよねー…………?」
浮かれ気分でスタジアムに近づいた私は、そこでようやく妙な事に気が付いた。
なんだか、変に静かだ。
というか今更気が付いたが、試合が終わったんだから司会が勝者の名前をぶち上げるとかしてもいいんじゃない? そうでなくても派手に花火打ち上げるとかさ。
せめてあれだけ観客がつめてたんだし、歓声の一つぐらい……ま、まさか、野生のレイドボスと悪名高いらしい私が勝利した事に観客が不満を覚えた……?
いやでも、それだったらブーイングの一つぐらい上がってるよね?
なんだか胸騒ぎを覚えて、私はそっと物言わぬライバルの亡骸を道に横たえ、スラスターで飛び上がるとドームの中に舞い降りた。
そこに広がっていた光景は……。
「うげげ」
死屍累々。
観客席一杯に居たプレイヤー達。それが、今や一人残らず突っ伏し、床に転がってぴくりともしない。みれば中央ステージで視界をしていたマスコットのラプちゃんも、あおむけにひっくり返ったまま、虚ろな視界で空中を見つめたままの無惨な姿をさらしている。
一目見て、全てのプレイヤーというかアバターが絶命しているのは一目瞭然だった。
「こ、これは一体……何が……?!」
すわ未知の敵の襲撃か? いやゲームで未知の敵ってなんだよ?!
状況を詳しく確認しようとコクピットの開閉ボタンに指を伸ばした私を、鋭い電子音声が静止した。
『いけません、マスター。外はまだ重度汚染状態です、パイロットスーツの耐汚染性能では即死します、外に出ないでください』
「あ、やべ、そうだったな。……ん?」
え、つまりそういう事?
対戦相手がぶちかましたモータルブラスターの上位武器みたいなやつの影響で……現場で観戦してたプレイヤーの皆さん、全滅したの!? 司会も含めて?! しかも汚染が継続してるからログインした端から即死してるみたいな!?
「え、ええええ…………」
困惑に言葉を失っていると、ぴこりん、と運営からのメッセージが届く。
《プレイヤー:ショウ、優勝おめでとうございます。申し訳ありませんが、想定外のトラブルにつき、後日、優勝を称える機会を設けさせていただきたいと思います》
「あ、ああ……うん……はい……」
《本当に、お疲れ様でした!》
パッパラパー、とコクピットにファンファーレが鳴り響き、正面モニターに愛機がドアップで写しだされる。金色の飾り文字で『優勝おめでとう!』と表示されるその背景は、折り重なって倒れる無数の人々の亡骸。
「シュールだ……」
なんとも締まらない終わり方である。……まあ、これもまた、私らしいと思うべきか。
何にせよ、優勝したには変わりない。
……そういえば、優勝賞品、なんだったっけ??
こうして。
最初っから最後までとにかくトラブルに見舞われた、“魔の第一回ビルドロボオンライントーナメント”は、どうにかこうにか全行程を終了する事ができたのであった。
このあまりにもぐだぐだな展開と、一部プレイヤーの暴れっぷり。
そして死屍累々の中に君臨する“野生のレイドボス”の姿は、長らくプレイヤーの間で語り草となったのである。
どっとはらい。
●第一回 ビルドロボオンライントーナメント
●リザルト
●優勝
プレイヤー:ショウ
機体名:テンペストゥス・サイレン
●準優勝
プレイヤー:テミス
機体名:オブシディアン・トレーサー
●3位
プレイヤー:ムラマサ
機体名:ソードレイヴン
●4位
プレイヤー:花丸眼鏡
機体名:クローズフェイス
参加者の皆さま、お疲れ様でした。
トーナメント参加者全員に参加証として特別な称号をプレゼント!
そこから決勝トーナメントに残られた方全員に、特別な機体カラーエフェクト。
さらにベストフォー入りされた方には、追加でレアコピーマテリアルを10t。
さらにさらに、準優勝のプレイヤー:テミスには専用称号とエンブレム、未実装武器の先行利用権。
そして……優勝されたプレイヤー:ショウにはそれらに加えて、全てのAIアバターで使える黄金ビキニスキンと優勝トロフィーをプレゼントします!!
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