ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
「んー……?」
会社の休憩時間。ぼーっとネットサーフィンしていた私は、ぶぶぶ、という振動と共に届いたメールの知らせに目を細めた。
確認してみると、どうやらそれはビルドロボオンライン運営からの通達のようだ。
どうやら、優勝者へのインタビューの日時やら行程やらが決まったらしい。近く、オンラインミーティングでお話をお伺いしたい、との事。
「ふむふむ」
思わぬ事で延期になっていたが、まあそれはそれでよし。ちなみに優勝者インタビューだけでなく、戦場になった未公開マップの実装も延期してるらしいがまあそこまでは知らぬ。
「そういや、あの子はどうしてるんだろうなあ」
テミスといったか。開発か運営の身内っぽかったが、自分の機体が残業に加担する事になってしまったのをどうとらえているのか……。
悲嘆にくれていなければいいのだが。
「ま、いっか。えらい恨まれてるようだったし、出くわさないようにオンラインは控えよう」
例のネットカフェを使えばオンラインプレイもできるが、現状はメリットよりデメリットの方が多い。これからも、私はこそこそオフラインでテレサと頑張っていく事にしよう。
「とりあえず、返事、と……」
メールを返信した所で、休憩の終わりを告げるチャイムが響く。
さて。残りの仕事も頑張りましょうかね。
そんでもって本日の御勤めも終え、家に帰れば……ゲームの時間だ!
るんるん気分でゲームにログインすると、待っていたテレサがぴょーんと飛んできた。
「ただいまー。着替えたんだ、それ、似合ってるね」
『お帰りなさい。えへへ、そうですか? だったらいいなあ』
テレサが今身に着けているのは、こないだ纏めてプレゼントしたサポーター用コスチュームの一つだ。避暑地の清楚なお嬢様、といった感じの白いワンピースで、麦わら帽子が良く似合う。金髪赤目の彼女の容姿もあって、まるで森の中から出てきた妖精のようだ。そう、北欧の氷の妖精! ……なんか違うな。
「しかし、あのバニーアリスも見納めかあ。もうちょっと見たかったんだけど……」
『……そ、その。あっちの衣装の方がよかったです……?』
「そういう訳じゃないけど。一応、ラインナップの中から一番かわいいと思ったからさ……」
なんかこー、あのエプロンドレス、肌の露出は皆無だし別に狙った萌え萌えって感じのデザインでもないんだけど、こう、妙にフェティッシュな感じがするんだよね。
見た目立派な成人女性であるテレサが、どことなく童女っぽい衣装を着ているギャップから生じるイマジネーションの増幅というか……。
まあ、あくまで私の好み、という話だ。恥ずかしがっているものを無理に着せる事はない。
『あ、あの、時々でよろしければ……着ます、よ?』
「え? いいの? やっほう、ありがとう!」
『い、いいえ……』
一しきり喜んだ所で、テレサの真っ赤な顔で我に返る。
ごほん、と一つ咳をついて誤魔化し笑い。
「ご、ごめん、今のはちょっとセクハラだったね……」
『お、お気になさらず……』
「あはは……」
互いに苦笑いして、気まずい空気を誤魔化すようにガレージに向かう。
「そ、それで。これが完成した機体かあ」
一番ガレージに鎮座しているのは、真っ黒に塗装された中量二脚型。装甲はマットな感じで、頭部はフード状のカバーに覆われていて、ぱっと見では素顔が見えない。全体的にずんぐりむっくりしていて、見た目では重量級に近いが、分類としては中量級で間違いない。
「なかなかいい感じじゃない?」
気まずさを誤魔化す為にちょっと声は大きかったが、本心でもある。
こいつは所謂ステルス機だ。装甲のマットな感じはステルス塗装で、機体各部もレーダーに映りにくい形状を意識している。
そう、機動力で接近戦に持ち込むのが難しいなら、身を隠して近づこうという訳である。いやまあ、別に私はステルスゲーが得意ではないどころかむしろ苦手な部類だが、スラスターを用いた高速移動とか使えるし、なんとかなるとは思う。多分。
勿論、武器はビームチェーンソーだけではない。サイレンサーをつけたサプレッサーガンも装備しているし、投げナイフの類もばっちり装備だ。サイレントキルだからって軽装備でなくちゃいけない理由はないもんね。
基本的にはステルス性能を生かしてサプレッサーガンで先制攻撃、敵の数を減らしてから接近戦に持ち込む、という事になる。
「ふふふ、どれぐらいのステルス性能が発揮できるか、楽しみだなー」
『はい、言われた通りに2号機、ソフXにレーダーなどの装備を施してテスト用に改修してあります。でも、その、ほんとに大丈夫なんですか?』
「え? 何が?」
そういえば、昨日の設計段階からずっとテレサ、何か言いたげだったけど。何がそんなに不満なんだろう?
『何がって、そりゃ、その、あれですよ』
「あれって?」
『だ、だって……この機体、あれつかってるじゃないですか!』
『木材! 木製の機動兵器なんて聞いた事ありません!』
ああ。
何がずっと不満なのかと疑問だったけど、その事かあ。
『他の材料ならいざ知らず! 木材ですよ木材! 強度的にも不安しかありません! どうして一体、ショウさんはそんな素材を採用したのか理解できません……』
「テレサ君。君もまだまだ甘いね。別に私も伊達や酔狂で木材を採用した訳じゃないんだよ。無駄に死ぬのは勘弁だしね。これはあくまで、合理的な考えによるものなんだよ」
そもそも、木材といっても現実のそれとはかなり違うものだ。雪山マップに映えている化け物みたいなサイズの針葉樹は、そのサイズに見合った強度を持った素材だ。ギチギチに詰まったその繊維の強度は、それこそ鉄にも匹敵する。
勿論、ビルドロボでは特殊合金が標準だから、それでは強度が不足するのも確か。だが代わりに圧倒的な軽量さと、何よりもレーダー波へのステルス性が獲得できる。
簡単な話、木材はレーダー波を透過して反射しないからレーダーに映らないのだ。あるいは映りにくい。嘘か真か、黎明期のステルス機として有名なF-117も、対レーダー性能を高めるために木材を構造材の一部に使用していた、なんて話もあるくらいである。F-117は比較的近年まで運用もされており、かつてとはくらべものにならない程レーダーの性能が向上した中で、古い古いコンピューター設計の本機が空を飛ぶ事が出来たのは慎重な運用やステルス塗装の性能向上の他に、この材料レベルでステルス性を考慮されていたのが大きいと考える事はできはしないだろうか?
「それに木材といっても使用しているのはごく一部。コクピット周りとかはむしろかなり強度を重視してるし、そのあたりはテレサも納得済みだろう?」
『うう。それはそうですが……』
「まあまあ。不満なのはわかるが、だからこそまずテストをするんじゃないか。その結果で、また構造を見直そう」
とりあえず、このままではらちが明かない。不安そうなテレサを宥めて、テストに向かわせる。
「それじゃ、始めようか。出撃だー!」
『は、はーい……』
という訳で、まずは私だけ先に地上に出る。この後、一分後にテレサの機体が出てくるから、それまでに身を隠しておこう、という訳だ。
このテスト機に期待していたほどのステルス性能が無ければ発見されて即オシマイ。
もし、レーダーから逃れられる程度のステルス性能があれば、そのまま潜伏能力のテストを行う段取りだ。
「こそこそ……こそこそ……」
ひっそーり、岩陰に身を隠す。勿論レーダーが通じればこの程度では見つかってしまう。性能を試すにはちょうどいい。
「さーて、どうなるかな……?」
わくわくしながら見守っていると、エレベーターが動き出し、中からガションガションと新しい機体が姿を現した。
大股で岩肌を踏みしめるのは、ソフXを改造したテスター機だ。テレサの操るその機体が、円形のレーダーをくるくる回転させながら、周囲をきょろきょろ見渡している。
さて。
ステルスが機能していなければ、そろそろこのあたりでテレサから通信があるはずだが……。
「……ない、な」
相変わらず、テレサの機体は周囲をきょろきょろ見渡している。どうやらこちらの姿は見えていないらしい。
まずはステルス性能は及第点、だ。
このまま次のテストに向かう。
「それでは、御開帳っと」
機体の背中に背負っている二つのコンテナ、うち一つを地面において中身を取り出す。中に入っているのは、先端にごついサイレンサーを取り付けたサプレッサーガンだ。機関部なども特注品であり、射撃音を極限まで抑えるようになっている。その分、威力はちょっと低いが……。
こそこそ、と岩陰を移動し、テレサ機に狙いを定める。射撃テストの為に、あの機体の頭には的が取り付けてある。それをじっくり狙って……。
「シュート!」
引き金を引く。
銃声はびっくりするほど小さい。それでも実弾の弾丸が打ち出され、的を射抜いた。
……が、テレサに動きはない。どうやら、自分が射撃された事に気が付いていないらしい。
「ふふふふ」
そのまま、射撃位置を移動してさらに一発。まだ彼女は気が付かない。
再び、次の射撃位置に移動する。
徒歩で雪山を移動する機体のフットワークはかなり軽い。3割ぐらいの構造物を、強化木材にしたおかげだ。
流石に、木材を使ってるのはごく一部。この機体の大半は、ステルス性があるという特殊合金で出来ている。
ところでこの金属、実はものすごく重いうえに強度も低い。修理代も高い。それだけで機体を作ったら、確かにステルス性は高いだろうがとても実戦に耐えられるような機体には仕上がらない。
なので、一般的に機体にステルス性を与えようというなら、武装も何もかも極限まで削り込むしかない。それでも軽量級程度の武装や装甲で重量は中量級ぐらいになってしまう。あるいは、装甲表面にステルス塗装を施すのもありだが、こちらは些細な事でステルス性が失われてしまう。
だがこの機体は骨格などの特に強度が必要なところにその特殊合金を使う一方で、さほど重要ではない部位に木材を多用する事で大幅に軽量化に成功している。見た目がふとましいのは、すこしでも耐久性を上げるために強化木材の部分を分厚くとったせいだ。
それにテレサに言った通りコクピットや動力炉といった重要部分にはちゃんと強度の高い金属を使っているし、実戦にもある程度耐えられるはず。たぶんね。
そして三度目の射撃を成功させた私は、含み笑いをこぼしながらテレサに通信を繋いだ。
「テーレサさん。もういいよ」
『え? ショウさん? まだ射撃試験が……』
「頭の上見てみ?」
私が指摘するとテレサは機体の頭部を確認し、あっ、と声を上げた。
『い、いつの間に……?!』
「ふふふ。これが戦場なら君は三回死んでいる、なんてね。ほれ、ステルス性は十分だったろう?」
『うう……そ、それは認めざるを得ませんが……ま、まだ本命の接近戦に耐えられるかは別の話です!』
おやおや。
ちょっと意固地になっておりますな、テレサさんは。
「ははは、オッケオッケ。じゃ、次は実戦でテストと行こうか」
私は物陰からテレサの前に機体の姿を晒すと、コクピットのハッチを開いた。
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