ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
ステルス性能のテストは終わったので、次は実地運用である。
ソフXを格納庫に戻し、テレサをコクピットに収納して雪山をえっちらおっちらと昇る。ちなみに今回はコクピットのスペースに余裕がないから、複座は前後だ。後ろの席のテレサは、ちょっと落ち着かなさそうにそわそわしている。
「さっきからどうしたのさ」
『だって……木造の機体なんて不安で……もし撃破されたらショウさんが……』
「大丈夫だってば、だからこそこんな狭いけど頑丈なコクピットにしたんだし」
今回のコクピットシェルは、深海の探査艇を思わせる分厚い複合チタン合金の殻を持っている。それだけでもライフルの攻撃に数発耐えるぐらいの強度があって、それをさらに強化合金でカバーし、その上をステルス合金で覆っている。本機が重量級と見まがうふとましボディになったのもこの構造が8割ぐらい原因だ。特別頑丈、という訳ではないが、通常の機体と同じぐらいの耐弾性はあるはずである。
まあでもこれはそういう理屈じゃないかあ。どれだけ保証されていても、例えるなら紙の船とか心配だもんね。
そのあたりは実戦でおいおい証明していきましょうか。
「っと、第一エネミーはっけーん」
身を隠しながら進むうちに、崖先に数体の猿型メタルインセクトを発見。最近すっかりおなじみになった顔に見つからないよう、遠回りに回り込む。
さて。ここで一つ、存在するであろう当然の疑問を解決しておこう。
メタルインセクトが果たして、レーダーなんてものでこちらを認識しているのか、という点である。
連中はあくまでゲームの雑魚MOB。普通のMMOであればフラグ管理とかでターゲット処理を行っている訳で、アクティブになればヘイトを買っている対象に一目散、距離とか隠蔽とか関係ないはずである。ゲームでステルス能力とかが無い訳ではないが、そういうのは大体ヘイト値に干渉する能力で、実際に敵から見えなくなっている訳ではない。
しかし、ビルドロボオンラインはそのあたり、けっこうゲーム的な都合よりも物理的な事象を優先する傾向がある。果たしてどうなるか。
私はわくわくしながら、サプレッサーガンの狙いを定めた。
プシュ。
『?!』
後頭部に一発食らったメタルインセクトのHPがガクッと減る。6割強のダメージを受けたメタルインセクトは、被弾箇所を庇うようにして、きょろきょろと周囲を警戒し始めた。その様子を見て、周囲の何匹かが警戒態勢に入るが、それらが一斉にこちらに殺到してくる様子はない。
これは……仮説が当たったかな。
「やっぱり。メタルインセクトもレーダーでこちらを識別してる。普段、隠れていればこっちに襲ってこないのは、エネルギーの節約か何かで切っているだけなんだな。被弾すれば、当然敵を探す為にレーダーを使用する。同じグループの仲間にはその情報を共有しているんだ」
『? そんな事、分かり切った事じゃないですか。どうして今更確認を?』
「念のため、念のため、ね」
まあ、この世界がゲームだと知らないテレサからすればそういう反応になるよね。
とにかく、メタルインセクト相手にもステルスは有効だという事が判明した。過去、見通しの悪い霧の中とかでも的確に襲ってくるメタルインセクトも居たからちょっと怪しかったけど、恐らくあれは個々の索敵情報を共有して補正していたんだろう。一つ一つのレーダーがしょぼくても、数が揃えばかなりの精度になるだろうからな。
あるいはステルス機能を持つ事自体が、ヘイト値を現象させるというゲーム的仕様があったりするのかもしれないが……まあその線は今回考えないでおこう。プレイヤーには内部数値の事なんてわからんし。
「とにかく、ふふふ。このまま数を減らしていこう」
姿を隠したまま、プシュプシュ。数発放ったら、射撃位置を特定されない為に移動する。
空気のぬけるような音とは裏腹に、サプレッサーガンの威力はそんなに低くはなかった。大体2発で猿型メタルインセクトを仕留められるので、みるみるうちに敵の数が減少していく。
襲われている方の猿型メタルインセクトはなかなか可哀そうではある。見えない敵に仲間を次々と倒されて、残った数匹の猿型は恐慌をきたしたような不安定な動きで、互いに寄り集まって周囲を警戒している。
これ以上長引かせるのも可愛そうだな。
私はサプレッサーガンを仕舞いこむと、もう一つのコンテナに手を付けた。
カポン、と開いたその中に納まっているのは……。
「じゃじゃーん。びーむちぇーんそぉ~」
『なんで濁声で読み上げるんです?』
「これもお約束なの」
某未来ロボットのポケット的な? まあ気分の問題だよ、気分の。
理解できないのか苦笑いを浮かべるテレサをよそに、私はビームチェーンソーを装備して、こそこそと群れとの距離を詰めた。
『!』
と。流石にここまで近づけばステルスにも限界があるのか、ビームチェーンソーがレーダーにひっかかったのか、あるいはいくら身を隠してもこの雪原でまっくろくろすけは目立ちすぎたのか、距離を詰め切る前にメタルインセクトがこちらに気が付いた。
ばばっ、と展開したエネミーが、『てめえの仕業かー!』と言わんばかりに氷の礫を投げつけてくる。
たかが氷、されど氷。それなりの質量がある礫をまともに受ければ、鋼鉄製の軌道兵器でもある程度の損傷は免れられないのはご存知の通りだ。
見た目以上に軽いフットワークを生かして回避するが、何発かは避けきれず機体に命中する。
しかしその損害は軽微なものだ。
『あ、あれ、意外と……?』
「なかなか頑丈なもんだろ、木材は!」
思っていたよりも低いダメージに、意気揚々とスラスターを噴射して距離を詰める。
「ビームチェーンソー、起動!」
手にした獲物から、ズババババ、と荷電粒子の奔流が迸る。花火のようにバチバチと溢れ出す光は、さながら光のノコギリのようである。私は猿型の繰り出す爪のひっかきを一度バックステップを挟んで回避すると、その肩口にチェーンソーを押し当てた。
ババババババ!
『?!』
「おおー、よく切れるというかなんというか」
手応えは一瞬。最初の一撃だけ、粒子放出周りのガードと敵の装甲がぶつかり合った硬い手応えがあたものの、次の瞬間にはチェーンソーが敵の体を真っ二つにして振りぬかれていた。引き裂かれた敵の切断面は、まるで古いスポンジのように穴だらけでズタズタになっている。赤熱化したその傷口は、切れ味の悪いノコギリで無理やり曳かれた屑肉のようだった。
ポリゴンの破片に砕け散って消失する残骸を他所に、さらなる獲物に襲い掛かる。今度は相手の反撃の上から、チェーンソーで叩き伏せた。交差した爪が原形を保っていたのは一瞬の事で、吹き荒れる荷電粒子の嵐に本体もろとも粉砕される。
たちまちのうちに二体をさらに切り伏せ、あと残るは一匹。
『ギ……』
「お、逃げちゃう? 逃げちゃう?」
と、そこで不利を悟ったか、まるで恐怖を覚えたように後退ったメタルインセクトは背を向けて一目散に逃亡を図った。こないだ曲がるビームで蹂躙した時もそうだが、意外とコイツら逃亡癖があるのね。
根性が足りんな、根性が。
そんな事を思いつつ、スラスターを噴射して一気にその背中との距離を詰める。
たちまちのうちに追いついた私は、逃げる敵の背中目掛けて大きくチェーンソーを振りかぶった。
「はい、これでお終い、と」
確認できる範囲のエネミーを全て排除し、私が雪原にチェーンソーを突き立てた。念のため、追加で沸いてきた奴がいないか、あるいは戦闘に引き付けられてきた新手がいないか、残心で確認する。
が、今回は幸いな事にそういった敵のおかわりはないようだ。
やはり、ステルスキルで数を減らしていったのが大きいのだろう。
「うむ。なかなか悪くない。けど課題は山盛りだな」
ステルス性能とサプレッサーガンの相性は想像以上だった。だが、肝心要のチェーンソーとの相性がよろしくない。本来距離を詰める為のステルス性能なのだが、実際の所メタルインセクトは基本的にやや開けた場所に陣取っているので、ある程度からはどうしても目視されてしまう。勿論、その距離まで悟られずに近づける、サプレッサーガンで数を減らせる、というのはとても大きいのだが、いかんせん当初のコンセプトからはずれてしまっている。
何か対策を考えねば。
そんでもって、肝心のビームチェーンソーだが、これも改良が必要だ。
たった数匹倒しただけ、実使用時間は数十秒程度だというのに、すでにチェーンソーはボロボロになっていた。耐粒子超硬度セラミックスのカバーはほとんど無傷でピンピンしているが、それ以外の部品は飛び散った荷電粒子の飛沫で穴だらけになっている。最後まで暴発せずに使えたのが幸運なほどだ。
持ち上げて確認すると、ぼきっ、と粒子加速コイルが半ばから割れて地面に落ちてしまう。
「こいつは大分改良が必要だな……」
『で、でも破壊力は凄かったですよ! 単純な威力なら、ショウさんが設計した試作ビームソードより上なんじゃないでしょうか』
「ま、それぐらいないと作る意味もないからな」
まあいい。解決するべき問題は多いが、何を解決すればいいのかははっきりしている。
やる事が多いというのはそれなりに楽しいものだ。
「よし、一旦ホームに帰還して改良するぞー」
『はーい!』
後ろから聞こえるテレサの声は明るい。
なんだかんだで、機体に対する不安は、今の戦闘で払拭されたようだ。何より何より。
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