ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
さて。
テスト運用の結果、改善すべき点ははっきりした。
レーダーに対するステルスは問題なかった。後は、敵の視界をいかにかいくぐって接近するか、という問題。そしてチェーンソーの性能強化である。
この場合、重要な問題は前者だ。
私が、トーナメントの決勝戦で戦った最上位プレイヤーほどのプレイスキルを持っていれば、巧みに視界をかいくぐる為の敵視野解析装置とかつける事になるんだろうけど、残念ながらそんなスキルは持ち合わせていない。
なのでこの場合、そもそもドヘタでも敵に気が付かれずに接近するにはどうしたらいいのか、という話になる。まあそれが出来たら最強なんだが、その最強を目指す訳だし問題はない。
幸い、私には強い味方がいるのだ!
しばらくオンラインにも出ない予定だし、オフラインでわちゃわちゃする分には問題ないだろう。きっと決勝戦で戦った妹さんもそれならお目こぼししてくれるはずである。
「という訳で、敵の目をかいくぐるにはどうすればいいのか考えていこうと思う」
『無理では?』
おおぅ。開口一番テレサからの辛辣な突っ込みが入った。
『いやだってそんな事が出来れば最初からやってますよ? 透明にでもなれっていうんですか』
「うーん、光学迷彩とか、ないの?」
『ある訳ないじゃないですかそんなもの』
おおう、断言。いやでもまあ、そりゃそうだよね。
「一応、光学迷彩使ってくるメタルインセクトと交戦した事はあるんだけど……」
『メタルインセクトの技術力、といっていいのかは分かりませんが、テクノロジーがこっちより上だから出来る事です。光学迷彩と一口にいっても、周囲の映像を映すだけじゃないんですよ? それを18m級のロボットサイズでやるなんて不可能です、非効率です』
「ううむ。では、ちょっと妥協してこんなのはどうだろう?」
カチャカチャッとカスタマイズ画面でくみ上げたのは、いつぞや米軍が研究してた小型ディスプレイをびっしり並べたデジタルギリースーツ。現実のそれは色々あってポシャったみたいに聞くけど、ゲームの世界でなら問題あるまい。これならどうよ。
『……それだと肝心のステルス性能が消し飛びません?』
「あっ」
そうだった。歩兵の世界にはレーダーなんて概念はなかった……。
「じゃ、じゃあこれはどうよ。オーソドックスに迷彩塗装」
『悪くはないですが……その……流石にこれで騙されてくれるほどメタルインセクトもお馬鹿ではないと思います。射撃戦ならともかく、迷彩模様の相手が近接武器抱えて突っ込んできても……』
「……そ、そうだよね」
これも駄目かあー。
んーと、じゃあ……あ、そうだ。これは?
「プロジェクターをアームの先につけて……じゃじゃーん! 周囲の映像を自分に投影! そりゃ光学迷彩みたく全方位に対して有効、っていう訳じゃないけど、ターゲットにした相手からの視線ぐらいは誤魔化せるんじゃない? どう?」
『……あの。これだとアームとプロジェクターが何もない空中に浮いてるみたいになって、余計に目立つのでは……』
「……おぅ」
こ、これも駄目かあ。悪くない考えだと思ったんだけどなあ……。
いや、考えは悪くない。要は隠れ身の術から手や足がはみ出してるのであって……そのはみ出した部分を何とか出来れば……。
ドローンはどうだ? プロジェクターを搭載したドローンを周囲に飛ばして、映像を自機に重ねさせる……いや、ドローンは案外喧しい。普段ドンパチしている時は気にならないが、足音も気にするようなスニークミッションでは普通に邪魔になる。それにドローンにメタルインセクトが反応してアクティブになったら、結局意味がない。
何かないかな。空中に、無音で、メタルインセクトを刺激しない形で浮遊できて……機体に追従してくるような、都合のいいアイディア……。
「ううーん。そう簡単には閃きは沸いてこないか……」
『あのー。アイディアが浮かばないなら、一旦もとに戻りません? テンペストゥス・サイレンの改良を進めた方が……』
「いやいやいや、今はこっちをある程度形にしたい。思いついちゃったものを後回しにするのは、どうにも収まりが悪い」
それに正直、テンペストゥス・サイレンはトーナメントで暴れまわってあまりにも悪目立ちしたからな。今だにクラウド・センチピードを倒したって話は聞かないから、しばらく量子転送装置アビリティの詳細は広まらないだろうけど時間の問題である。そうなれば、皆が曲がるビームを使い始めるに違いない。で、あるならば、いつまでもその路線で進む訳にはいかない。
私のようなへっぽこプレイヤーが生き残るには、常に初見殺しの精神を持つしかないのである。
そして個人的に、ステルスからの闇討ちチェーンソーは充分その可能性を持っている。あとはなんかいいアイディアがあれば……。
「うーん、駄目だあ。ステルスについてはこれ以上思いつかない。ビームチェーンソーの改良を進めよう」
幸い、こっちについては改造アイディアがはっきりしている。
まずは耐久性の強化だ。とはいっても、構造を強くするとかではなく、荷電粒子の吹き返しを出来るだけ押さえたい。そのためには……。
「いっそ、物理的なレール部分をもっと減らすか。いくら荷電粒子とはいっても、実体のない偏向力場を壊す事はできないし。あとは持ち手に、単純に防盾をつけるのもいいね」
『でもそれだと、間合いが短くなりませんか?』
「短くなれば伸ばせばいいのさ、と」
カスタマイズしていくうちに、カタツムリみたいな形状でチェーンソーというよりディスクソーみたいな形状だった本体は、物理レールを減らすとともに大幅に延長。うなぎパイみたいな細長い形状になった事で、見た目のチェーンソーらしさも増した気がする。持ち手はとりあえず、出来るだけ強固な金属でガードしてある。これで、吹き返しで本体を自損する可能性は大幅に減ったはずだ。
カスタマイズ画面でデモを起動してみると、コイルから噴き出した荷電粒子が偏向力場によって抑えられ、光の線になって光速で回転しているように見える。ただ結構無理やりなせいか、かなりの粒子が軌道から外れて飛んで行ってしまっているようだが、幸いにも向き的には自損する方向ではない。
「どう思う、テレサさん」
『悪くないんじゃないですかね。刃の部分でかなりの割合のエネルギーが失われていますが、おかげで逆にコイルを自損する危険性が減っています。加速レールで延々と荷電粒子を加速させるとオーバーヒートが発生しますが、エネルギーが減っていくおかげでオーバーヒートまでの時間も延長されているかと。ただ、長時間の連続運用は単純に荷電粒子が減少しすぎて動かなくなるかと思われます』
「ふむ。まあ、どの道ずっとぶん回す武器じゃないしね。それぐらいなら許容範囲かな」
とりあえず悪くはなさそうだ。
今日は一旦、このカスタマイズで終わりにするか。
「よし。少しでも成果は出せた事だし、今日はこの辺で寝る事にするよ。おやすみー」
『はい、おやすみなさい、ショウさん』
テレサの笑顔を最後に、VR機器を取り外す。
感触再現ウェアは着るのも脱ぐのも面倒だが、やっぱあると没入感が半端ないんだよなあ。
そういえばこれだけ凄い物なのにあまりネットじゃ話を聞かないな。まだ全然出回ってないという事だろうか。
『ピロリロ、ピロリロ。お風呂が沸きました』
「おっ、ナイスタイミング。……あれ?」
湯舟にお湯が溜まったのを伝えるアナウンスに、しかし首を傾げる。
スイッチ、いれたっけ? 風呂洗いして、それから栓はしたけどまだ湯は沸かさずにゲーム始めたんだったような気がしたが……。
「まあ、いっか。流れでスイッチ入れたんだろう」
時計を見ると、思ったより長くプレイしていたようだ。さっさとお風呂入って、明日に備えよう。