ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
翌日。
仕事帰りに、私は町の百貨店を訪れていた。
まあ、あれである。優勝者インタビューという事で、みっともない顔は晒せないというか……いや勿論、素顔バレは論外なので映像オフで受けるつもりだが、それでも気持ちだけでも、と言いますか。
まあ早い話が新しいネクタイを買いに来たのである。
何年もハンガーに吊るしてるネクタイはくたくたになっているし、色も地味だしね。せっかくなので、真っ赤なストライプの派手派手なのをびしっと首に巻いて、気持ちだけでもしゃきっと望みたい訳だ。最もネクタイの結びはいつまでたっても下手なままで、どうにもぴしっとならずに丸くなってしまうのだが……それはそれだ。
「いやあ。普段そうそう着ないからなあ、スーツなんて……」
ありがとうございましたー、の声を背に受けながらレジを離れる。思ったより高い買い物になってしまったが、私の人生においてはじめてでおそらく最後になるかもしれないインタビューの機会だ。
後年後悔しない為にもしゃきっと望みたい。
さて、買うものは買った。あとは帰るだけだけど……せっかくここまで来たんだし、どこかで食べていくか。駐車場に向かっていた脚の踵を返し、百貨店から通りに出る。
空は赤く染まりつつあるがまだ明るい。とはいえ、食事を終えた頃には真っ暗になっているだろうな、と久方ぶりに来る街の景色を眺めていると、百貨店の屋上から浮かぶバルーンが目に入った。
夕方の宙に浮かぶバルーンと、それからぶら下げられた土日のセールを告げる垂れ幕。垂れ幕の下からはロープが伸びて屋上に固定されている。
最近、この手のバルーンはめっきり見なくなった。世間ではヘリウムが不足しているだのなんだという話だが、それが関係しているのだろうか。
「……ん?」
ぼんやりバルーンを見上げていると、ふと、脳裏にアイディアが閃いた。
「……あ、ああー! これならいけるかも……!」
と、言う訳で、食事を終えて安全運転で帰宅した私は、すぐさまビルドロボオンラインにログイン。
閃いたアイディアの実現にさっそく取り組む私を、横からテレサが覗き込んでいる。
『何かまた面白い事を思いついたんですか?』
「まあね。やってみないと分からないけど……よし!」
今回設計したのは、早い話がバルーンである。その下にプロジェクターをぶら下げて、バルーン自体は機体から伸びる光ファイバーケーブルでつないである。原理的にはほぼドローンだが、ガスで浮遊するバルーンは動作音を生じない。空中に浮かしておいても、それなりの高さがあれば気にはされないはずだ。
『なるほど。本体に動力はないけど、通信用のケーブルを引っ張れば追従してくれる、と……でもこれ、不安定なバルーンからの映像投射、安定しなくないです?』
「そこはそれ。専門家にお任せするという事で……お願い! テレサ大明神さま!」
当然の問題を指摘してくるテレサに、手を合わせて拝み倒す。他力本願と笑わば笑え、困った時のテレサ頼りである。
「ここはテレサさんにお頼りするしか……!」
『むふふーん。いやあ、別に、嫌とはいってませんよ? ふふーん、そうですか、私だけが唯一の頼り、と……ふふふふふ! そこまで言われたらしょうがありませんねー、ちょっと頑張っちゃいます!』
「おおっ!」
こちらの無茶な要求に、上機嫌に返事一つで引き受けてくださるテレサ様!
さっすが! 頼りになるぅ!
よーし、これで唯一の懸念点も解決した。
テレサのプログラムが完成したら、早速実戦テストだぁ!
「よーし、出撃だー」
『出発しまーす』
エレベーターから降り立って、早速新機能をテストする。
グレーに塗り直された機体、そのバックパックからポシュンと撃ちだされるのは、六角柱のような形状をしたバルーン。その下部にはプロジェクターと光ファイバーがぶら下げられている。
それを三つ、頭上に浮かべる。するする、と高度を上げたバルーンは、地上から50mほどの高さを滞空している。
「それじゃあ早速始めてくれ」
『了解しました。映像投影開始します』
空中に浮かぶ三つのプロジェクターから、機体に向けて映像が投射される。機体のグレーが一瞬、七色に光ったかと思うと、ぼわ……とその輪郭がぼやけていくのがコクピットからの映像でもわかった。試しに機体の腕を掲げて確認してみるが、多少不鮮明ではあるけど雪の積もる岩山に融け込んでいるようにも見える。
「おおー。良い感じ、良い感じ」
『プロジェクターの映像はバッテリーで動いていますので、あまり長時間の運用はできません。ここぞ、という所でお願いします』
「あいあい、了解しましたー」
どの道、相手との距離を詰める最後の詰めに使う装備だ。そうそう普段から使うものではない。
シュルシュル、と光ファイバーを手繰り寄せてバルーンをバックパックに回収すると、雪山の奥へと進んでいく。
しばらく行くと、いつもの場所でいつもの面子に遭遇する。
猿型メタルインセクトの群れ。何度か全滅するまで狩られているが、稼ぎ判定にはなっていないのか今日も多くのエネミーが、のんびり岩山で寛いでいる。
こそこそ、とステルス機能を生かして回り込み、まずはサプレッサーガンで数を減らす。
ぱしゅんぱしゅん。
『……思うのですが。大抵の相手は、このステルス状態からの狙撃で片付いてしまうのではないでしょうか?』
「そう? でも上位陣は直感だけで回避してきそうだけど……」
『流石にそれはごくごく一部だと思いますよ?』
そうかなー。あの赤い超高速移動する機体の乗り手とか、見てから回避余裕でしたとかやってきそうで怖いんだけど。消音性能の為に炸薬押さえてくるから、びみょーに弾速遅いみたいだし、この武器。
まあその分マズルファイヤも押さえられてるし、火線も尾を引かないんだけどね。確かに、大抵のプレイヤーは物陰からこれ撃ってるだけで何が起きてるか分からないままやられるかもしれない。というか私ならそうなる。
やっぱりやられて嫌な事は先におさえておくべきだね。
そうこうしている内に群れはその数を減らし、残り数体になっていた。今回は寄り集まって全周警戒、という事はせず、バラバラのまま不安そうに周囲を見渡しているようだ。
好都合、好都合。
「そんじゃ、どれだけアイツらの目を誤魔化せる、かね?」
バルーンを打ち上げて、迷彩映像を展開する。そのまま、私は雪の残る山道へと機体を進ませた。
当然ながら、雪が分厚く積もっている所を通れば足跡でバレてしまう。気が付かれないように、できるだけ地肌がむき出しになっている部分を進む。
一方、メタルインセクトの皆さんは、空中にぷかぷか浮いている怪しげな物体を気にしてはいるものの、それを直接的な脅威とは見なしていないようだ。まあ、別に爆弾が括り付けられているでもないし、これ単体で見たら何の危険性もないもんね。
少なくともCPU程度は騙せるという事か。
私は一匹のメタルインセクトの背後ににじり寄ると、ビームチェーンソーを展開した。
そこでようやく、敵はこちらの存在に気が付いたらしい。だが、もう遅い!
「ずんばらり!」
大きく振りかぶったビームチェーンソーを敵に叩きつける。抵抗を感じたのは一瞬。迸る荷電粒子の渦が、一息で敵を頭頂部から足下まで切り裂いた。
「まだまだー!」
さらに、近くに居たもう一匹に切りかかる。刀身を延長したチェーンソーを横なぎに振り回して、ズババ!
「よし、二匹目!」
残りの敵を確認すると、ちょっと距離があるようだ。すでにこちらを認識し、氷礫を放ってくるその射線から、ゆるやかに退避。
そこで映像を投影し、姿を誤魔化す。目に見えて氷礫の狙いが悪くなるが、こちらを見失っている訳ではない様子。じりじりとこちらから距離を取るように動くエネミーに、私は一つ、ひっかけ問題をしかけてみる事にした。
「おーい、こっちこっち」
わざと大きく右に移動し、そこで迷彩を解除する。こちらの姿を認識した敵が氷礫を投げてくるのを避けてもう一度右に向かい、また解除。
そして起動し……今度は早足で、来た道を引き返して左側に回り込む。
「さーて、どうかな。お、ひっかかってるひっかかってる」
メタルインセクトは姿が見えない私にたいして、単純な予想で攻撃を続けているようだ。右にずっと回り込んでいたから、今も右に向かって移動していると仮定しているのだろう、こちらからは彼らのお尻が丸見えだ。
NPCの悲しさだねえ。人間であれば、空中にういてるバルーンが何かしらの繋がりがあると判断して対処できるが、彼らにはそこまでの思考能力というか、推察能力はない。
「後ろから失礼しまーす」
私は悠々とメタルインセクトの背後に近づくと、再びビームチェーンソーを起動した。
どるるん。
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