ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
『バオオオ!』
『ブルルル……』
嘶きを上げてなだれ込んでくる無数のゾウ型メタルインセクト。それなりに広い空間を瞬く間に埋め尽くす毛むくじゃらの巨体は、なんていうか圧がものすごい。
私は限界まで機体を壁に張り付かせながら、ごくりとモニター映像に息を飲んだ。
「テレサさん、静かに……」
『は、はひ……』
二人そろって息をひそめる。まあ装甲越しのコクピット、ちょっと喋ったりしたぐらいではわからないとは思うが、万が一という事もある。静かであれば静かであるほどちょっとした音が気になってしまうのだ。
『ブルル……?』
『パオゥ……』
なだれ込んできたメタルインセクト達は、しかしデータを共有した敵の姿が無い事に戸惑っているようだ。もぞもぞと周囲を見渡しながら、長い鼻をしきりに振り回して周囲を探っている。
鼻の先端が、触れるか触れないか、という装甲スレスレを通り過ぎていく様に、思わず背筋が伸びてしまう。
と、その動きに変化があった。
『バオゥ!』
申し合わせたように一斉に動き出すメタルインセクト。
一瞬、潜伏がバレたのかとひやりとするが、どうやらそれは違う様子。敵はこちらではなく、ちょっとずれた場所に向かっている。
その先には、闇の中でもはっきりとわかるほど赤熱した光を放つ、オーバーヒートした機械の姿。パージしたビームチェーンソー。
『バオオオ!』
それに向けて、一斉にメタルインセクトが鼻を振り下ろした。両手で抱えるぐらいの大きさの武器に、容赦なく太くて長い鼻が何度も何度も叩きつけられ、徹底的に対象を破壊する。
やがてメタルインセクト達が満足して鼻を戻した時には、超高度セラミックスで出来たガードバーぐらいしかもはや原型をとどめてなかった。
逆にあれで破壊出来てないセラミックスがちょっと怖い。
『ブルル……』
一しきりそれらしき熱源を破壊出来て満足したのか、道を引き返していくメタルインセクト。その最後の一匹の後ろ姿が完全に見えなくなったのを確認して、私はこそこそと機体を歩ませた。
「ふぅ。なんとかなったか……」
『ひやひやものでしたね……』
テレサと二人でほっと一息。
これだからスニーキングミッションは苦手なんだ。
『それにしても、いくらステルス能力が高いといっても、あの距離で悟られずに済むとは……』
「このあたりに生えてる木材を構造材にしたのが良かったのかもな。アイツラからすると見慣れた反応だから、対して違和感を感じなかったのかも」
『ああ、それは確かに納得です』
こういうのも地産地消というのだろうか。いや、違うか。
まあとにかく、ゾウ型メタルインセクトの群れはやり過せた。しかしあらためて思うが、あの強さで群れを成してるとか本当になんなんだろうな連中。もっと後半の武装なら楽に狩れるって訳でもないのはいつぞやの有人が証明しているし。
そういやアイツともずいぶん遊んでないなあ。
「って、いかんいかん、考えがぶれまくってる。緊張したせいかなあ」
『お疲れですか?』
「ん。まあ、いや。もうちょっと頑張ろう」
テレサの気遣いに答えつつ、地面に落ちているパーツを拾ってコンテナにおさめる。しかしあれだけボコボコにされてひん曲がりもしていない。これでフレームとか作れたら最強だろうな。現状だと入手量が限られているが、そのうちやってみたいものだ。
「さて。未知のエリアに挨拶しにいこうか」
洞窟の入口にたって覗き込むと、奥の方から赤い光のようなものが溢れているのが見て取れた。溶岩だろうか? 念のためコンソールに外気温を表示するようにして、中に足を踏み入れる。
「っ、これはなんていうか、思ったより歩きにくいな……」
『デコボコしていますね……』
天然の洞窟だから当たり前なのだが、洞窟内は床も天井もボコボコと岩らしきものが張り出していて足元が安定しない。それに奥から赤い光が漏れているのはいいのだが、そのせいで逆に足元の暗闇が濃くなっている気がする。灯台下暗し、みたいな感じか? 半端な明かりだと逆に回りが見えなくて逆に危険みたいな。
「にしたって、いくら、なんでも……おわっ!?」
ズルリ、と機体の足裏が滑り、転倒しそうになる。すんでの所で壁に手をついて堪えたが、急に過負荷をかけたせいで右手関節がイエローアラートを表示している。
全く。何を踏んづけたんだ?
イライラしつつ、私はレーダーに敵の反応がないのを確認して、頭部のライトを点灯させた。黒いフードに覆われた頭部、四つのサーチライトが闇の中で蜘蛛の目のように光る。
輝度の高いライトで照らし出される、洞窟の床面。
そこで私は初めて、さっきから踏んづけていたものが鍾乳洞の石柱なんかではない事を理解した。
見えてきたのは、まるで生き物の腐った臓腑のような、赤黒い塊。そこにネジやフレームの残骸が飛び出していなければ、本当に腐肉だと勘違いするようなそれは、赤く錆び、体積して朽ちた無数の工作機械の残骸だった。
「う、うわああ?!」
『こ、これは……まさか、メタルインセクトの……?!』
周囲をライトで照らすと、辺り一面、赤錆びた残骸が山のように体積しているばかりだ。よくみれば、残骸は殆ど同一の機体のもの……恐らくゾウ型メタルインセクトのものと思われた。特徴的な牙や、毛皮の残骸がそこかしこに見受けられるからだ。
「なるほど……象の墓場ってわけか」
昔、あんな大きい生き物の死体がサバンナに転がってない事から先人が提唱した、野生動物の墓場。実際には、飢えた肉食動物が徘徊するサバンナでは、例え象といえど短期間のうちに土に返ってしまう、というのが真相だったが、なるほど。
確かに、自然に土に返る事のないメタルインセクト達は話が違うか。
「それにしても気持ち悪い光景だな……足元がぬるぬるするの、赤錆によるものか……」
『調べてみた所、電解性のある温水が洞窟内に染み出しているようです。それによって劣化が急速にすすんだものかと。外に出ないよう気をつけてください、有毒ガスに比べ、残骸のバッテリーが放電しきっていない可能性もあります』
「頼まれたって出ないよこんなところ」
無機物ではあるが、気分的には腐肉の積み上げられた生態洞に突入してしまった気分だ。いつからこのゲームは90年代のシューティングになったんだと愚痴りつつ、私は帰還したら念入りに機体を洗浄する事を決意した。
それはともかく、ライトで足元を照らしてみると、どろどろとした赤錆の川が先に向かって流れているのが確認できる。どうやらこの先は緩やかな傾斜になっているようで、その先、まだ見通せない洞窟の向こうが、赤黒い光をぼんやりと放っている。
……どうする?
なんだか、このエリアは私が苦手な要素が詰まっていそうだが……。
『あの……ショウさん? こういうのが苦手なら、一度引き返したほうが……』
「い、いんや、大丈夫! いけるとも、うんうん! 怖くなんかないぞー!」
だ、だいたい、こちらはロボットに乗っているのだ。外がどれだけグロい有様になっていても、触れなければOK! もし機体が撃破して生身で脱出する事になったら、速やかに頭を拳銃で撃ちぬけばいい。
私はうんうん、と自分を納得させると、背中のコンテナからサプレッサーガンを取り出し、腰だめに構えた。
「い、いくぞ……。鬼でも蛇でも、でてきんらっしゃーい……」
『ショウさん、ホントに大丈夫ですか?』
「だ、だいじょうぶでーい」
返事をどもらせながらも先に進む。奥に行けば行くほど、赤い光は強くなり、足元や壁が温泉のぬかるみじみた赤黒いネバネバに覆われ始める。
閉鎖されたコクピットの中にさえ、悪臭を感じ取る事ができそうだ。
極力、口で息をするようにしながら先に進んだ先……曲がりくねった道の角を曲がった所で、急に視界が開けた。
その先に広がっていた光景は……。