ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
…………。
…………。
ピカピカ、カチカチ。
カチッ……ピカピカ。
…………。
…………。
残念ながら、一晩休んだ程度では体調不良は癒えなかった。
むしろ、翌日からが本番だったともいえる。
「38度7分……」
順調に温度が上がっている体温計を確認し、私はゴホッ、と咳をつきながらベッドに戻った。
時刻はすでにお昼。朝から続く倦怠感は、ますますもって酷くなるばかりだ。
思えば朝のうちに病院に行けばよかったのだが、後の祭り。この体調では車の運転もままならない。かといって歩いていくには少し遠い、なんとか症状が落ち着くまで耐えるしかない。
幸い風邪薬はまだ残っている。
だが食料が少々心もとない。おかゆはさっきの昼食で食べきってしまった、流石にこの体調でカップラーメンは辛い。何よりポ●リスエットが欲しい。
「ゲホッ、ゴホッ。水で事たりると思ったのが甘かったな……ゴホッ、ゲホッ」
こういう時独り暮らしは切ない。
一応会社には連絡したが、反応はたんぱくなものだった。業務的な「オダイジニ」が耳に残っている。
職場の人間は基本的に冷血人間だからな……。頼んでも誰も助けてはくれないだろう。まあこっちも関わりを持とうとしなかったから当たり前なんだが……いかん、こんな事を考えてもしょうがない。
「ゲホッ、ゴホッ」
そうだ、こんな時の文明の利器である。
インターネットから置き配で配達して貰えば……そう思ってパソコンに向かうが、ぐらりと視界が傾いて机に手をついてしまう。
やばい、思った以上に体調がわるい。
一応、食事と水分、薬は摂取したし、ちょっと寝てから申し込もう。
「う、うぅ……独り暮らしは辛いなあ……ゲホ、ゴホ」
私はちょっと寂しさに涙ぐみながら、もそもそとベッドの布団に潜り込んだ。
「……ゲームの中のほうが、マシかもなあ、ゲホッ。テレサ、心配してくれる、だろうし……ゴホッ」
◆◆
ピンポーン、というチャイムの音で、私は目が覚めた。
「なん……ゲホッ、ゴホッ」
口を開いた途端、猛烈な喉の痛みに引き攣るように咳き込む。ますます体調は悪くなるばかりだ。
「なんだ……?」
正直心当たりはない。訝しみながらも、壁伝いに玄関に向かう。
「はいはい……ただいま……ゲホ、ゴホ」
咳き込みながら鍵を開けて、外を見る。
「……?」
だが、アパートの廊下には誰も居ない。代わりに、玄関先に荷物が置いてあった。
置き配。
「?」
心当たりがマジでないので、あて先を確認するが、私で間違いないようだ。
中身は……え、ポカ●スエット?
なんで?
「???」
困惑しながらも部屋に戻る。理由はわからないが……今は有難い。
あ、もしかして意識が朦朧としている間に、意識せずにやっていたのか? いかにもありそうな話だが……。
「なんにせよ、助かる……」
コップに常温のそれを注いで、一息であおる。
罅割れた喉に、身体に、水分が染みわたるような気がした。やっぱりただの水とは全然違うね、生き返るような感じが心地よい。
「あ゙ー……きもちいい……」
そのままあっというまに2Lペットボトルを一つ空にしてしまうが、まだ5本もある。それらを冷蔵庫にしまい込み、私は若干回復した体調で再びベッドに戻った。
「配達員の人、ありがとうございます……!」
思えば、独り暮らしでもこうしてどこかの誰かに支えられているのだ。孤独だなんてとんでもない。私達の生活は、常に誰かの思いやりで出来ている。
見えない誰かに感謝しつつ、私は段ボール箱を畳んで部屋の隅へ。
今度はよく眠れそうだ。
私は若干軽い気持ちで、布団の中に潜った。
不足していたのは水分なのか、のどの引っかかりや頭痛もあまり感じる事なく、目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきて、抵抗する事なく私はそれに身を任せた。
その眠りの中、私は夢を見た。
台所で、金髪の女性がトントントン、とまな板の上で包丁でネギを刻んでいる。
その隣には、こぽこぽ沸騰する鍋。包丁を置くと、女性は手際よくうどんを茹でて器に盛り、出汁を注いでネギを散らした。
『はい、マスター。風邪をひいた時はおうどんがいいと聞きました。どうぞ』
暖かい器を受け取ると、並々と満たされた黄金色のスープに、そこに沈む太いうどんと散らされた青ネギ、添えられた甘い油揚げ。
私は彼女に感謝しつつ、端を手に取り、うどんをひとくち……。
と、いうところで目が覚めた。
「…………」
ベッドから身を起こしたまま、しばらくぼっとする。
やがてベッドから降りた私は、台所を覗いてみる。当然、そこには誰も居ない。
外を見れば、すっかり日が落ちて昏くなっている。時計を見るともう8時ぐらいになっていた。結構な時間、爆睡していたらしい。
暗闇の中、道路を一台のタクシーが走り去っていくのが見えた。
「…………。コンビニで、鍋焼きうどん買ってくるか……」
体調はすっかりよくなっている。少し出歩くぐらいなら問題はなさそうだ。
財布と鍵、マスクを手に取って、私はいそいそと玄関に向かう。
「それにしてもあんな夢みるなんてなあ……はは、何考えてるんだろうなあ私。テレサに肉体がある訳ないのに。ああでも彼女が看病してくれたら、病気なんてあっという間に治りそう、なんてね」
しかしながらあまりに都合のいい夢に苦笑する。現実にテレサがいたとして、あんな美人さんが私に気を使ってくれるなんてある筈がないではないか。
きっと、病床の身で一人寂しく横になっている虚しさが、あんな夢を見させたのだろう。今度から、ぬいぐるみでも枕元に置くか? 少しは気がまぎれるだろう。
「やれやれ、いい大人がぬいぐるみねえ……」
苦笑しつつも、それなりによい思い付きのような気がした。
「……なんかいないかな。金髪赤目のキャラクターのぬいぐるみって」
今度の休みに、そういうショップを訪れてみよう。当日覚えているかも怪しい予定を決めて、私は玄関のドアノブに手をかけた。
バタン。
ドアが閉ざされる。
主の居なくなった暗い部屋の中、ゲーム機のランプだけが緑に瞬いている。
チカチカ。
チカ。
チカチカチカ。