ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
翌日。熱い鍋焼きうどんを平らげて一晩眠った次の日には、体調はすっかり回復していた。
いつも通りに出社して、上司に誤り、同僚に嫌味を言われながらも、それでちょっとしたトラブルは終わり。いつものように仕事を終えて、家に帰ってくる。
「ただいまー」
後片付けをして、風呂を洗って、諸々の家事を片付けたら……ゲームにログインである。
思えばまる二日、ログインしていなかったのは初めての事だ。
テレサはどうしているのだろう、ちょっと気になる。
「ただいまー……」
恐る恐るホームに顔を出すと、シン、と静まり返った空間が私を出迎えた。
きょろきょろ見渡してみても、テレサの姿はない。
「あっれえ……」
もしかして愛想つかされて家出された? いやいやまさか……でも……。
慌ててオプションを確認するが、AIサポーターの欄はONになったままだ。いるにはいるらしい。だけどどこに……あ。
「外かぁ……」
ウィイイン、と動き出したハンガーのリフトに手を打って納得。そういえばテレサに好きにしてていいよ、と言ったのはほかならぬ私である。
見れば、2号機ハンガーが空になっている。どうやら彼女に与えた2号機で狩りにいっていたようだ。
待っていると、見覚えのあるシルエットがゆっくりとハンガーに戻ってきた、って。
「テンペストゥス・サイレン……?」
それは私が決勝戦で用いた、量子転送装置搭載機だった。一応確認するが、1号機はちゃんと、例のステルス機のままである。
どうやら設計図を元に、2号機を作り替えて乗り回していたようだ。まあ確かに、ソフXとオウルXは、合体しないと性能を引き出せない訳だし、ソロで稼ぎにいくなら現状最強機であるテンペストゥスを使うのは理に適っているか。
ぽけーとみていると、ハンガーに固定された機体のコクピットハッチが開き、中から見覚えのある金髪美女が姿を現した。
テレサである。
「やっほー、テレサさん」
『! ショウさん!』
やっほーい、と手を振ると、距離があってもはっきりとわかるほど顔に喜色を浮かべた彼女がキャットウォークを全力疾走してくる。
ものすごい勢いで走ってきたテレサが、キキキキー、とブレーキ音がしそうな感じで目の前で急停止し、両手を腰の後ろに回してテヘヘ笑顔を浮かべる。ちなみに、彼女の恰好はデフォルトの、露出が多い作業服である。いま改めてみるとだいぶん変な恰好だなあこれ。
「ごめんね、ちょっと色々あってこれなかった。元気してた?」
『はい! こちらは問題ありません。おかえりなさい!』
「うん、ただいま」
ゲームにただいまっていうのは何か変な気もするけど……まあ、いっか。テレサにとってはこれがリアルだもんね。
私はハンガーに視線を向けて、軽く彼女に尋ねた。
「テンペストゥスを動かしてたの? 稼ぎ?」
『はい! ちょっと改良を進めていました!』
改良? 言われてみると、確かにちょっと形が変わっている気がする。手にしているのは、未完成だったビームアローだろうか。それでもって、胴体にビームの放出口らしきものが見当たらない。これでは攻撃できないのではないか?
となると……。
「もしかしてビームアローが連射できるようになったの?」
『はい、そうです! 残っていたセラミックスを使って機関部を強化、ビームアローを連射できるように改良しました! それに伴い、胴体のビーム砲や量子転送装置は一時的に撤去し、機体を軽量化、安定させています!』
なるほどー。私は新しいアイディアに夢中になっていたけど、テレサはこれまでのアイディアを推し進める方向に行ったのね。それもまたヨシ。
『やはり、このアイディアは素晴らしいと思います! 弓という一見時代遅れの武器ですが、改良によって十分実戦級に到達したと私は考えています! ミサイルと違って推進機関を持たない事で、攻撃手段としてはより効率化していますし! 何よりビームバリアの内側から攻撃できるというのが大きいですね、質量が大きいし表面にコーティングも施せるので、銃弾などと違って相殺されてしまいませんし!』
「まあ、確かに、この機体も悪くないし、この方向で進めるのもいいとは思うけど……」
『ショウさんこそ、ステルス機も悪くないアイディアですが、やっぱりテンペストゥスは優れた機体ですよ。やっぱりこっちを改良しましょうよー』
むむむ。
ここにきて少しおかしな事になってきた。
しばらく時間を空けたせいだろうか。テレサと私の間に考えの違いが発生している。
サポートAIなのに、利用者の意見より自分の意見を重視してくるとは……ふふ! なかなか面白い事になったぞ。
まあ、確かに、強さだけで言えばテレサの言い分の方が正しいんだよな……しかしねえ。
「それはまあ間違ってないけどさ。こないだ雪山で見つけた洞窟の中ではこいつは使えないでしょ」
『う。それは、まあ……』
なんせビームバリアは一定以上の広さがないと使えないという欠点がある。高度を落とすだけで地上の障害物にぶつかっておじゃんだ。ビームアローも、連射できるようになったとはいえ、群がってくるメタルインセクトの群れを駆逐できるほどの連射性能を発揮できるとは思えない。
ここはやはり、ステルス機能で接敵を避けつつ、安定した攻撃力を持つステルス機の改良を進めるべきである。
適材適所、という奴だ。
テレサもそれはわかっているはず。にもかかわらず、執拗にテンペストゥスを推し進めるのは……。
「そんなに木製の機体に乗りたくない?」
『あぅっ』
「……もしかして。私が留守の間に乗ってみて、手ひどくやられた、とか?」
私がふと思いついて尋ねてみると、テレサは気まずそうに視線を逸らした。
図星か。
『だって……そりゃあ、鉄並みの強度があるといっても、メタルインセクトの牙の前ではそれこそバリムシャですよ? あんなおっかない機体に、ショウさんを乗せる訳には……』
「んー。まあ、確かに防御力は不安があるかもしれないが……軽量級の機体も似たようなもんだろ?」
『全然違いますよ! 軽量級の機体は機動力で相手を振り切る事が出来ますが、あの機体はそこまでの機動性はありません! ステルス特殊合金も鉛のように重く、強度も低いですし……直接戦闘にはとても不向きです! 集団戦で、ステルス性能を生かして敵陣の強行偵察をするとかなら使い道があるかもしれませんが、それだって片道切符の特攻みたいなものです! ショウさんがやるような事ではありません!』
ううーん。
あくまで、テレサはステルス機に乗るのは反対という事かあ。
現実と逆だね。
実際の航空機は、いかにステルス性能を付与するか、その運用コストをいかに落とすか、という事に終始しているのだけども。ま、これは現実じゃなくてゲームだ、そのあたりの違いはあるよね。
そもそも無数に押し寄せる敵機をかたっぱしから撃墜するなんて状況、現実ではそうそう発生するものでもないし。
だがしかし。
私とて無策ではないのだよテレサくぅん。
「ふむ。テレサさんの言いたい事もわかる」
『ではでは……』
「だが私も新しいアイディアを持ってきた。完全なステルスはもとより無理、それによって戦闘力が低下しているというなら、発想を変えてしまえばいいのだよ」
そう、もともとあのステルスは完璧ではない。そして完璧ではないステルスにあまり意味はない。
ではどうすればいいのか?
視点を変えればいいのだ。そもそも、ステルス性能を求めた理由のきっかけは、ビームチェーンソーを叩き込むために接近する方法が欲しかったからだ。早い話が、敵にこちらの正確な位置を掴まれなければ、接近するのもたやすいのでは、という考えである。
その点に着目するなら、他にやりようはある。
「つまりだな。見えちゃってもいいんだ。べつに」
『………………はい?』
困惑のあまりにテレサが鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔になってる。ぷぷぷ。
「まあまあ。とりあえず、ちょっと見ててよ」
私は笑いをこらえながら、カスタマイズ画面に向かう。さて。話に聞いた装置、カタログのどの辺にあるかなー?