ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
この洞窟について、ネットで情報収集をしていて一つ分かった事がある。
オンラインプレイヤーの間で、やはりこの洞窟の事は周知されていない。
そんな事がありえるのか、という話なら……どうだろう。確かにこの狩場はあまり人気がないし、薄暗いし、見落とすという事もありそうだが、世の中のゲーマー全部がそこまでうっかりさんとも考えづらい。
アサルトコアの新作だって、どうやって見つけたんだよこれみたいな隠しメッセージも発売一週間ぐらいで発見されてる訳だしね。
だからその事から推察するに、恐らくこの洞窟はオフラインじゃないと出現しない、そういう隠しダンジョンの一つだと考えられる。
べつにおかしな話じゃない。某人気だった狩りゲーでも、オフライン専用のボスとかマップとか、ちょこちょこ昔はあったものだ。
つまり、ここを調査して最奥に何かあるか知れば……それは私だけのものという事である。オンラインゲーにあるまじき、自分だけの秘密の場所、という訳だ。
ワクワクするね!
あるいは、プレイヤーごとにこういう隠しマップが出現する仕組みがあるのかもしれない。ギルドクエストとか秘密基地とかそういう感じで……どっちにしろ、ゲーマー心をくすぐるよい仕組みだ。
勿論、意気揚々と情報を公開したら皆知ってた、なんて事もあり得るかもしれないが、それはそれ。これはこれ。
そんな訳で、私は赤錆でぬかるんだ洞窟の内部に再び脚を踏み入れた。
『うっ。流石にこの中ではフローターでは飛べませんね。歩いていくしかないですね……機体が汚れちゃう』
「ははは。まあ、奥の方まで行けば天井の高さもあったし、そこまでの我慢さ」
言いつつ、私はコンテナを開くと、内部にあったサプレッサーガンと予備マガジンをテレサ機に差し出した。
『えっ、これは』
「速射性に乏しいビームアローでは、ワーム型のメタルインセクトに強襲されたら対応できないだろう? こっちにはビームチェーンソーがあるし、使うといい。広い所ではドローン達も戦えるしね」
『でもそれは……』
最初はためらっていたものの、私のいう事にも一理あると納得したのか。しぶしぶテレサはサプレッサーガンを受け取ると、マガジンを機体のリアスカートに収納した。
これでよし。
「さ、奥に進もう」
『うぅ……不安ですぅ……』
二人して鍾乳洞の奥へと進んでいく。
と、ここで思わぬトラブルが起きた。
私の機体はステルス性を重視して凹凸が少ないシルエットをしているのだが、テレサ機はそうではない。どっちかというとフローターシステムやらなにやらでゴテゴテしており……まあ早い話が、天井や床から生えている石柱にちょこちょこひっかかってしまうのである。
ものすごく邪魔そう。
『う、うぅ……』
「ほ、ほら、元気出して? ここを越えれば石柱は減るから……」
『だけどそしたら今度は腐ったスクラップでドログチャじゃないですか、えぅぅ……』
ううーん。
そういえば意外とテレサって、キモいものが苦手だったな……。
複座の時は私が気にせずに操縦してたから問題なかったけど、自分で機体を動かすとなるとその辺が問題になるのかあ。
やっぱりあくまでサポーターなんだなあ。
「そうだな。どうする、ここで待ってる? 先の調査は私一人でやれない事もないし」
『そ、それはヤですぅー……。うぅ……が、頑張ります……』
「本当にやれる? 無理はしないでねー」
心配の方が勝るけど、本人にやる気があるならまあ見守る事にしよう。過保護なだけじゃダメだからね。
それでも一応先頭に立って、先へと進んでいく。いつ奇襲を受けてもいいように、ビームチェーンソーを構えたまま、赤錆のヘドロ沼を進む。
そうしてその先に、前回来た広間へとたどり着いた。前回奇襲を受けた事もあって警戒する。
「っと、さっそくおでましか」
レーダーに反応あり。同時に、赤錆の沼を進んでくる敵影を認識して戦闘準備に入る。
『牽制します!』
背後からサプレッサーガンでテレサが先制射撃。が、音も何もしないせいで、後ろから撃たれる側としてはむっちゃ怖い。
一応その攻撃で一匹にダメージが入ったが、精神衛生上とてもよろしくない。
いや別にこっちだって銃声に反応して回避とかできる訳じゃないんだけど、「撃ってる」って実感のない支援射撃はなんかこうすごくおっかない!
「まって、こっちで射撃タイミングとか把握できないから合図するまで引き金は控えて!」
『えっ、あ、はいっ!』
素直にテレサが支援を中止してくれたのを確認し、ビームチェーンソーを起動して前に出る。身を隠しながら接近してくるワーム目掛けて、光輪の刃を振り下ろす。
「まずは一匹!」
泥沼ごと一匹を四散させた所で、横合いから別のワームがとびかかってくる。そちらに向けて、横なぎにチェーンソーを振りぬく。直撃を食らった相手は、空中で真っ二つどころか荷電粒子の熱と圧力に木っ端みじんに砕け散った。
「今だ、残りの一匹を射撃で仕留めて!」
『了解!!』
銃声はない。耳を澄ませばスカスカ、というサイレンサーの音が聞こえてくるばかりだが、それと反比例するように銃撃は苛烈だ。
赤錆の沼の一角が激しく泡立ち、遅れてぷかあ、と機能停止したワームの亡骸が浮かび上がってくる。パリ―ンと砕け散るそれを見送って、私はテレサと合流した。
「お疲れ様」
『はい、お疲れ様です。しかし、サイレンサーは便利なもの、という思い込みがありましたが、射撃タイミングなどを共有できないのは意外と困ったものですね』
「だねえ。撃ってる事を把握できなかったらうっかり射線上に飛び込んでしまうかもしれないしねえ……」
現実の軍隊でもサイレンサーあまり多様しないのは同じ理由なのかな、よく知らんけど。
ともかく、ここで安堵してもいられない。ここまでは前回来たところだ、ここより先に踏み込まないと意味がない。
「さて、先に進もうか」
『了解しました。これぐらい広いなら、私も上をカバーします』
「よろしく頼むよ」
フワワワ、とテレサ機が空に飛び上がっていく。右手にはビームアローを展開し、敵を発見し次第先制攻撃する構えだ。
それを頼もしく思いながら、私はずっこけないように注意しながら、どろりとした赤黒い錆の沼を進んでいく。
「それにしても……なんだろうな。金属を腐食する性質の温泉が噴き出してる、というだけにはどうにも違和感があるというか……」
『確かに。金属反応が多すぎますね。奥に鉱脈でもあるのでしょうか?』
「どうだろうなあ。メタルインセクトの死骸がそれだけ長年かけて積み重なったとか?」
そんな感じで無駄話をかわしていると、レーダーに再びの反応。
敵だ。
それもワームとは反応が違う……このあたりの本命エネミーのおでましか?
『敵機確認、先制攻撃をしかけます!』
ビームアローに光が満ちて、洞窟内を明るく照らす。数秒のチャージの後、流星のように迸った一撃が洞窟の奥へと突き刺さり、爆発のような輝きを放った。
衝撃波によってスクラップの山が崩れ、赤錆のヘドロが波打つ。その中を、黒い影が姿勢を低くしたままま素早く駆け抜けている。
……トカゲ? いや、これは……。
「シデムシか!」
『ギシャアア!』
襲い掛かってくるのは、フナムシに似た体型の、しかし六本脚で移動するメタルインセクト。流線形の体でスクラップや粘つく沼を駆け抜けとびかかってくるその牙を、すんでの所で回避する。が、かすめた一撃が、バキバキと肩の装甲を引き裂いていった。まあ硬いとはいえ木材だからなあ。
「こいつらにはステルスはあまり通じてないのか……!」
『ギシャア!』
ビームチェーンソーを展開し、真正面からとびかかってくる敵に叩き込む。漆黒の装甲と荷電粒子の刃が交錯し、激しい火花を散らす。
抵抗は強かったものの、ぐっ、とチェーンソーを押し込むと粒子の刃が甲殻に食い込み、そのまま両断する。左右に分かれて地に落ちていく残骸を見送り、私は次の敵を求めて視線を彷徨わせた。
「気をつけて、テレサさん! こいつら、意外と硬い!」
『え、ええい!』
警告が聞こえてるのかいないのか、へっぴり腰な掛け声と共にビームアローが放たれる。それは高速移動するメタルインセクトを確かに捉えるが、黒光りする流線形の装甲はそれを見事に受け流した。外れたアローが、近くのスクラップの山に直撃して飛沫を散らす。
『うそ!? でも、この高度ならとびかかってこれないはず……』
「それフラグゥ!」
『え? きゃ、きゃあ!?』
どうにもAIには迂闊な事を口走る癖でもあるようだ。困惑しながらも余裕ぶっこいていたテレサ機に、地上からメタルインセクトが何かを吹き付けた。水鉄砲のようにお尻から吹き上がるそれは、明らかに酸性の液体である事を伺わせる赤褐色のソレ。無防備に浴びたテレサ機の白い装甲が一瞬で沸騰し、赤黒く変色する。フローターシステムにも異常が発生したのか、カタカタ、と音を立てて高度を落とす。
「危ない!」
ふらふらと落下してくるテレサ機に飛びつこうとしたメタルインセクトを、空中で一閃する。そのまま彼女を庇うようにして立ちはだかった私は、ためらうことなくドローン達を解放した。
びちゃびちゃと沼に落ちて脚をバタバタさせるドローン達。四苦八苦して身を起こす彼らに、私は短く命令した。
「防衛陣形! テレサさんを守れ!」
『ピピピ!』
「よし、いい子だ!」
守りをドローン達に任せ、私は前に出る。この状況では幻影をだしても意味はないか……いや、何もしないよりはマシか!
とりあえずいくつかの幻影を出させ、私は率先してビームチェーンソーで敵に切りかかる。
「どうだ!」
『ギュイイ!』
ビームアローの一撃を受け流した強固な装甲。だが、流石に荷電粒子の渦を前にしては耐えられるほどではないようだ。やはり強い抵抗は感じるものの、押し込んだ刃が敵の装甲に深く切り込む。
「一つ、二つ!! みっつ!!」
刃を振り回し、高速でとびかかってくる敵を次々と切り捨てる。
と、ある程度数を減らした所で敵の動きに変化があった。
『ギシュシュ……』
『ギギィ……』
高速で動き回っていたメタルインセクトが動きを鈍くする。彼らは低く呻きながら、じわ、と後ろ向きに後ずさり……一瞬で踵を返すと、洞窟の奥に走り去っていく。
あまりにも鮮やかな引き際。
気が付けば、戦場には私とテレサ機だけが残されていた。
「……なんとか、なった? のか?」
私は訝しみながら、手元のオーバーヒートしたビームチェーンソーに視線を落とした。
◆◆