ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
とりあえず、敵の強襲は凌ぎ切った。
私は一応周囲を警戒しながらも、地上で膝をついたままのテレサ機へと駆け寄った。
「大丈夫か?」
『ショウさん……すいません、ご迷惑を……』
「いや、この狭い空間じゃビームバリアを展開できないから仕方ないよ」
私は天井を見上げながら、しょんぼりしたテレサを宥めにかかった。
テンペストゥスはやはり、環境を選びすぎるのが欠点だ。閉鎖空間ではその特性を生かしきれない。わかっていた事ではある。
『いえ。それでも短時間は展開可能です。ちゃんとバリアを張っていれば、強酸なんかでダメージを受けなかったものを……』
「フローターシステムは駄目そう?」
『はい……ここからは歩いて移動する事になりそうです』
私はちょっと考えて、テレサに少し厳しい指示を出す事にした。
「しょうがない。まだ動けるうちにホームに戻って」
『で、でも、しかし……!』
「今のテンペストゥスはただの足手まといだ。生きた壁にするにも、その機体はそもそも機体強度が低い。私の資産を無駄に削るつもりかい?」
生半可な言い分ではテレサの罪悪感を刺激するだけに終わるのはわかっているので、あえてことさら厳しく突き放す。
実際、テンペストゥスはビームアローこそ使えるが、機動力も防御力もない、上半身だけ軽量パーツの重量二脚みたいな欠陥状態だ。いつ襲撃を受けるかわからないこの洞窟内では、とてもじゃないが戦力に計上できない。そんでもって構造が複雑だったりヒートシンク素材のせいで、耐久力に対して修理コストが重い。
ぶっちゃけ、運用すればするだけマイナスなのである。
そのあたりを指摘された事で、AIである彼女はしぶしぶ、私の言い分を受け入れてくれたようだ。
『……わ、わかりました……。ショウさんの言い分に従います……』
「おっけ。まあ、そう気にしないで」
オフラインプレイはそもそも一人でやるもんだからね。
しょんぼりしたテレサ機からサプレッサーガンを受け取り、道を引き返すその背中を見送る。
心無しかしょんぼりと肩を落とした機体が、脚を引きずるように離れていく。改めて見るとずいぶんとボロボロだ。道中の敵は大体駆除してきたし、ビームアローもあるので大丈夫だとは思うが……。ちょいと心配。
「しかし、あそこまでボロボロになっても動くもんだなあ」
流石はテレサの設計である、冗長性が高いというか。コクピットをぶち抜かれたら終わりだが、逆に言えばコクピットさえ無事ならしぶとく動きつづけるのはこれまででも助けられてきた。
決勝トーナメントでも腕切り落とされたりしたけど、それが原因で動かなくなったりはしなかったからね。
アニメとかだと手足の先っちょをビームで切られただけで爆発四散するなんて事もあるけど、ああならなくてほんと助かる。
「さってと。頑張りますか」
サプレッサーガンを手に構えて、マガジンをリロード。足元をちゃぱちゃぱしているドローンを引き連れて、洞窟の奥に向かう。
なあに、最初の頃に戻るだけだ。寂しくなんかないぞ。
「お前たちもいるもんな。頼むぞー?」
『ピキキィ!』
「ははは、元気いっぱいだな、頼もしい」
ドローン達とそんな感じでわいわいしながら、洞窟の奥へと、赤い光の零れる向こうへと進んでいく。
と、しばらく進むと足元の具合が変わってきた。
染み出した水に赤錆が溶け出したぐちゃぐちゃのそれから、少しずつ水分が抜けていって赤土の泥土のようになっていく。やがては黒い岩が露出するようになってきて、腐った肉を積み上げていたような陰鬱な光景は少しずつ、神秘的とすら言える洞窟の景色へと変わっていった。
金属結晶のようなものが岩から露出しており、それが光を受けてキラキラと輝いている。
私は一度脚を停めて、周囲の様子を慎重に伺った。……なんか、空気が変わった気配がする。この先に無防備に進むのは危険だと、ゲーマーの感が訴えている。
ドローン達と歩調を合わせようと彼らを見下ろすと、ちょうど泥沼地帯から脱出した彼らは身を震わせて溶けた赤錆を振り落としている所だった。
『ピルルルッ』
「犬かお前は」
想定外の動きに思わず突っ込んでしまったものの、可愛らしいといえば可愛らしい。
この辺はプログラミングしたテレサの影響だろうか。
「そういえば、このステルス機にはTLS搭載してないんだよな。搭載してくるべきだったか」
今更ながら、せっかくの対話型インターフェイスを活用していない事に気が付く。言い訳するならあのOS、自作という事もあって機体を一通り汲み上げた後別途ダウンロードする必要があってだな……思いつきを形にしてる段階だとまどろっこしいんだよね。
それでも、こうして一人で探索する事になるならダウンロードしておくべきだったか。公開先に立たずとはこのことだな。
「まあいいか、お前たちがいるしな。あ、こらこら、そこらへんの岩に汚れをなすりつけるんじゃない、傷つく」
『ピキィ』
しつこい汚れをこすりつけて落とそうとしているドローンを両手で抱え上げて指先で払ってやる。が、しぶとい汚れはその程度では落ちないようだ。
どこかに水場があればいいのだが……。
「まあいいか、仕方ない。先に進もう」
周囲を警戒しながら、洞窟の奥へと進んでいく。
天井からのひび割れが遠ざかり、日の光は陰っていくがその分、闇の奥から零れる赤い光が勢いを増したように感じる。
その割には、空間は赤というより青っぽく感じる。そこかしこに突き出した結晶化金属が青いせいだろうか。キラキラと輝くそれらに混じって、赤錆に覆われた歪な金属塊がそこかしこに転がっても居て、まるで海の底を歩いているような気分になる。
一体ここは何なのだろうか。
ただの地底空間というには、妙に金属資源にあふれかえっているが……。
試しに近づいて、袖でコンコン、と叩いてみるも金属結晶はびくともしない。それどころか、木製の装甲が凹んでべこべコになってしまった。これは無理にもぎ取ろうとしない方がよさそうだ。
サプレッサーガンで打ち砕くのも考えたが、それは最後の手段にしよう。弾が勿体ない。
「ピッケル的なものでも持ってくればよかったな……。あの金属結晶持ち帰ったら何かに使えるかもしれないし……」
まあ、こんだけゴロゴロしてるのでさして貴重なものではないだろうけど。
未練を抱えつつも先に進む私の目に、ふと青い光がきらりと瞬くのが見えた。
「ん?」
なんだろう。好奇心に導かれて道を急ぐ。
洞窟の中を進んでいくと、急に視界が開ける。大きな空洞の中に出たようだ。そしてその空間の大半を、揺らめく水面が埋めている。
地底湖だ。いつぞやの、鉱山の地下を思わせる巨大な湖。その中を、まるで橋のように曲がりくねった道が続いている。その中央には、まあいかにも、といった感じの広場がある。
どう見てもここでボス戦がありますよ、といった感じの間取りだが、望むところだ。そろそろボス相手にビームチェーンソーや幻影分裂を試してみたかったところである。
『ピキィー』
「あ、こらこら。おぼれるなよ」
と、そこで水場を見て取ったドローン達が、いそいそと湖に向かっていく。錆汚れを落とすのにちょうどいいといえばちょうどいいか。
我さきに湖に飛び込んでいく彼らを微笑ましく見守る。じゃぶじゃぶ、と水に体を浸す彼らの体から、赤黒い汚れが溶け出していき、しゅわしゅわと煙が上がった。
……しゅわしゅわ?
「ま、待て! お前ら湖から上がれ、それは水じゃない、酸だ!!」
『ピギィー!?』
悲鳴のような声を上げて慌てて湖から上がるドローン達。逃げ遅れた一機を、湖に左手を突っ込んで引き上げる。
「だ、大丈夫か!?」
『ピキキ……』
僅か数秒の遅れ。だがそれが致命的なダメージとなった。そのドローンは四つの脚の内、うしろ二つが溶け落ちてしまっていた。同じように、湖に突っ込んだ左のマニュピレーターにも異常を感じる。見ている前で、指の関節からぽろぽろと分解していき、あっというまに左手は指の第一関節を残すだけの半端な状態になってしまった。
とんでもない強酸だ。
そして理解する。おそらく、道中のメタルインセクトの残骸を腐食させていたのは、この湖からの酸がしみ出し、地下水や雨水と混ざり合わって薄まったものによる仕業だ。そしてこのあたりがキレイなのは、この強酸性の湖が溶かせるものを皆溶かしてしまったからだろう。ここまでの強酸性だと、ただこの空間にいるだけでも機体がダメージを受ける恐れがある。コクピットに迂闊に外気を吸い込んだらパイロットも即死だったかもしれない。
「ろくでもない場所だなあ……」
脚が溶けてしまったドローンを、バックパックのラックに戻してやる。ほかのドローンはすぐに逃げ出したおかげか、装甲表面が溶けているものの身動きに支障はないようだ。これまでの道中でついた汚れが身代わりになってくれたようだ。まあ、それらの汚れがなければこの湖にダイブする事はなかったのだが……。
「やれやれ。こちらも一度引き返すか。この状態じゃボス戦は流石に無理だ」
酸の湖に囲まれた離島でデスマッチとか、流石にこの試験機で挑むには難易度が高い。私はこれ以上の探索をあきらめて引き返す事にした。
その時だ。
私が来た道の奥から、身の毛のよだつような遠吠えが聞こえてきたのは。
『ウルゥオオオオオーー……』
「え? おいおい、まさか……」
嫌な予感にかられて、背後に視線を向ける。
真っ暗な闇の奥。ぼぅ、と青い鬼火のような光が二つ灯ったのが、確かに見えた。
『グルルル……』
ゆっくりと、湖の放つ青い光の中に闇奥から姿を現す巨大なシルエット。
地面を踏み締める六本脚のシルエット。大きく裂けた口に、ずらりと並ぶ牙。毛皮の無い、腐食したボロボロの外部装甲。
まるで狼と昆虫、その両方の特性を持ったような大型メタルインセクトが、逃げ道を絶つように私達の来た道から姿を現したのだった。
『グルゥアアア……!』
「うえー。マジかよ……」
鳴り響くロックが、戦いの狼煙を告げた。
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