ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

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第百五十五話 多足獣

 

 腐食洞窟の奥、酸の湖を前にして退路を塞がれた私達。

 

 とにかく、ボスと戦うにしろ逃げるにしろ、通路のど真ん中に突っ立ってる訳にはいかない。そうなると自然、酸の湖に浮かぶ浮島に退避しなければならなくなる。

 

「浮島にはいい思い出が無いんだけどな……」

 

 溶岩地帯で、浮島がどんぶらこと流れ出した事を思い返してゲンナリする。まあ、この酸の湖は透明度が高く、あの足場が容易く崩壊して流れ出す、という事はないのが見て取れるからまだいいが。

 

 浮島と行っても、山の上を削ったようなしっかりした足場だ。上に渡った途端、酸で溶けだして足場が減っていく……という事もまあないだろう。

 

「よっし、お前達、こっちにこい!」

 

『ピキィ!』

 

 ドローン達を引き連れて、急ぎ浮島の上に移動する。一方、ボスとおぼしき六本肢の獣は、余裕綽々、ゆっくりと歩きながらこちらを追いかけてきている。

 

 あれぐらいの速度なら、このまま振り切ってしまえそうだが……。

 

「ううーーん。追い立てられて未知のエリアに突っ込む、というのも死亡フラグの予感はする……」

 

 とはいえ、現状の装備でボスと戦うのはちょっと勘弁して頂きたい。何よりこうして補足された状態では、ステルス性能の意味がない。

 

 とにかく戦闘状態から脱しようと、私達は全力で浮島を渡り、反対側を目指した。酸の湖の向こう側にも道は続いており、その向こうに真っ暗な洞窟が続いている。

 

 暗闇の中に青い結晶が光り輝き、最奥で赤い光が渦巻いている様はまるで宇宙のようだ。恒星の輝きに照らされる惑星系、的な。

 

 ともかく、あっちに逃げ込めばステルスで逃げ切れるはず。そう思ったが……。

 

『グラウゥル』

 

「げっ」

 

 シュッ、と頭上に差し掛かる影。思わず足を止めた眼前、行く手を塞ぐように細い道の上にボスがすたりと着地して唸り声を上げた。

 

 まだ背後、距離があったはずなのに一瞬で追い抜かれてしまった。見た目通り、機動力は図抜けたものがある。

 

「くっそ、嫌でも戦えって事か……!」

 

 こうなっては駄目元でも戦うしかない。

 

 私はドローン達に指示を下し、ビームチェーンソーを構えた。

 

「立体映像展開!」

 

『ピキィ!』

 

 フィーン、とドローン達が立体映像を展開する。一瞬で数が増えたように見える幻影に、ボスが目をパチパチさせながら首を巡らせた。

 

 この後に及んで姿を隠す効果は期待できないが、多少の攪乱にはなるだろう。奴は高機動タイプ、動き回ってるうちにこちらを見落としてくれたら……いいなあ!

 

「うおおお!」

 

 右のマニュピレーターで片手持ちしたビームチェーンソーを振りかぶり、真正面からボスに突撃する。見た所、ボスの攻撃方法は爪と牙っぽい、だがいくら大型メタルインセクトといえど荷電粒子の過流と真っ向勝負すればただでは済まない。さらに言えば、このチェーンソーは超硬度セラミックスで補強されている、鍔迫り合いはこちらが有利!

 

「くたばれぃ!」

 

『グルルル……』

 

 馬鹿正直につっこんでくるこちらを見据えたボスの視線が、輝きを放つビームチェーンソーをちらりと見る。

 

 ボスの六足、そのうち真ん中と前の足が、踏みしめるように開脚。前脚で体を支えつつ、中の腕を前に伸ばして、ジャキンと折りたたんでいた爪を展開する。

 

 なるほど、六本脚で高速移動しつつ、格闘攻撃時はああやってがっつり構える事で強力な打撃を与える、というコンセプトなのか。

 

 確かに通常であればかなり強力そうだが、果たしてビームチェーンソーとかちあえるほど、その爪は頑丈かな!

 

 こちらのビームチェーンソーと、ボスの爪が激突する。

 

 正面モニターが激しい閃光に包まれ……直後、私は胸を締め付けるバンドの感触にぐぇえ、と呻いた。

 

 激しい振動と共にモニターの映像が二転三転する。

 

 どうやら激突の衝撃で背後に吹っ飛ばされたらしい。そして触感再現型VRツールがシートベルトが締め付ける感触まで再現してくれたようだ。そんなに締め付けそのものは強くないが、映像とあいまってこう、ものすごくフッ飛ばされた感じがする。

 

「うひぃ……」

 

 なんとか機体の制御を取り戻し立ち上がらせると、酸の湖ギリギリまで転がされていたようだ。あわてて距離を取ると、こちらを庇うようにドローン達が足元に集結してくる。威嚇するようにピキピキ鳴く彼らの視線の先を追うと、がっつり脚を大きく開いて仁王立ちするボスの姿が見えた。

 

 その視線は、私ではなく自分の右手に向けられている。チェーンソーと交錯したボスの爪、大型のククリナイフのようだったその爪はごっそりと欠け、無残な姿をさらしている。対して、私のビームチェーンソーには大きなダメージは見当たらない。本体を護る超硬度セラミックスのカバーに多少傷っぽいものは入っているが、それだけだ。交錯は一瞬で、フッ飛ばされた時にトリガーから指が離れたせいかオーバーヒートもしていない。

 

 ちょっとだけ心に余裕が戻ってきた。

 

 再びビームチェーンソーを展開してボスに向かって構える。

 

「ふふふ……どうやら、電鋸は爪より強し、という事らしいな」

 

『グルルル……』

 

 ボスは首を少し引いて、こちらの刃の輝きを見ている。

 

 とはいえこれではどうしようもあるまい。この勝負、貰った!

 

「うぉおおー!」

 

 再びビームチェーンソーを構えて突撃する。そのそっ首、刎ねてくれるわ!

 

 それに対し、ボスは六本肢を地につけるようにして身を低く構える。

 

 どうするつもりだ、と訝しんだ直後。

 

 ボスの姿が、消えた。

 

「ほえ?」

 

 FCSのロックオンすら振り切るほどの超高速移動。レーダーでその行方を追うよりも早く、機体に衝撃が走った。

 

 飛び散る繊維。遅れて、ボスの一撃が機体の右肩を引き裂いたのだと理解した。

 

「んなっ!?」

 

 たたらを踏んでその場に膝をつく。

 

 左のモニターに、ふわりと着地するボスの姿が見えた。すれ違いざまに持っていかれたのか、その顎には噛み砕かれた木片のようなものが。それをぺっと酸の湖に吐き捨てて、ドタドタと正面からボスが突撃してくる。

 

「ちっ!」

 

 ドローン達がサプレッサーガンで牽制してくれるが、ボスは怯みもしない。幸い機体の腕はまだ動く、横なぎにビームチェーンソーを振るって迎撃するが、それが直撃する寸前でボスは素早くバックステップ。

 

 空を切り、右腕が伸びきる。

 

 そこに、ボスの顎ががぶり、と噛みついた。

 

「うわお!?」

 

 噛みつかれた右肘の関節部が激しく火花を散らす。モニター内にレッドアラートが鳴り響き、ダメージを伝えてくる。慌てて、指を失った左腕でボスの顔を何度も殴打すると、ぱっと牙を離してボスが後退する。

 

『ピキキィ!』

 

「ちっ、くそっ!」

 

 ダランと垂れ下がる右腕に舌打ちをしつつ、こちらも後退。

 

 動かない、という程ではないが、それなりに深刻なダメージ。思ったよりも頑丈な関節部に少しだけ安堵が過ぎるが、どのみち高重量・高反動のビームチェーンソーの取り回しには悪影響だ。

 

 今みたいに大振りで振り回していたらそのうち肘から腕がもげてしまう。いやまあ、どっちにしろ今のでオーバーヒートしてしまったのでしばらく冷やす必要はあるのだが。

 

「ええい、くそっ。それならこれでどうだ!」

 

 チェーンソーをその場に突き立てると、背部コンテナからサプレッサーガンを展開する。

 

 ドローン達と一緒に、ボス目掛けて発砲。

 

 集中砲火にHPを削られたボスが、うっとおしそうに肩を竦める。

 

『グルルゥ……ガァッ!』

 

 そして、サイドステップ。ジグザグに動きながら前肢を振りかぶるボス……狙いはこっちじゃない!?

 

『ピッ……ギッ!?』

 

「ああっ!?」

 

 巨大な前足が、ドローンを呆気なく踏みつぶす。そのままボスはドタバタと暴れ狂い、逃げまどうドローン達を踏みつぶし、あるいは薙ぎ払った。ぺしゃんこにされて、あるいは地面にたたきつけられて煙を吹くドローン達。支援用でしかないドローン達はボスの大暴れによって、ほんの数秒の間に全滅させられてしまった。

 

 茫然とする私の前で、ボスは悠々と向き直ると、コホォオ……と口から吐息のように蒸気を吐き出した。

 

 その左前肢が大きく振りかぶられる。あくまで移動用なのかその爪は鋭くはないが、太くスパイクのようなそれがグワッと開かれるのが見えた。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に左腕を盾にして防御する。バギィ、と嫌な音と共に、左腕が肘と手首の間で砕けて千切れ飛ぶのが見えた。

 

 反撃にサプレッサーガンの引き金を引く……が、弾が出ない。弾切れか!

 

 とっさにそれを、ボスの顔目掛けて投げつける。ヤケクソのその場凌ぎを、ボスは悠々と大口を開いて受け止めて、バリバリと噛み砕いた。

 

 だがその間に、私には床のビームチェーンソーを拾い上げる余裕があった。オーバーヒートから復旧している事を確認し、腰だめに構えて突撃する。

 

「おぅりゃあああ! タマ取ったらぁ!!」

 

 ドスみたいに構えて体全体でぶち当たれば、さっきみたいに腕をもいで無効化は出来ないだろう!

 

 そう思っての最後の特攻だったが……ボスの六脚獣は、フンス、と鼻を鳴らすと後ろ足だけで大きく立ち上がった。

 

 ガッ、という衝撃。

 

 見れば、奴の巨大な前足が、こちらの両肩にがっつり食い込みこちらの突撃を完全に受け止めていた。それに対し、こちらのビームチェーンソーの切っ先は奴には届いていない。

 

 そして奴には5本目、6本目の腕がある。こちらに見せつけるように真ん中の足が、ギラリと爪を輝かせる。

 

「あらら……」

 

 一矢報いるべく、チェーンソーを突き出したものの、それを握る右腕の肘を奴の無事な左手の爪が切り裂いた。だらん、と力を失った腕からチェーンソーが零れ落ち、回転する刃の反動でカンカンと跳ねながら転がり、ぽちゃんと酸の湖に落ちる。

 

 ジュッ。

 

 全ての抵抗手段を失った私の機体。その頭をがぷり、とボスの牙が咥え込むと、バキバキと音を立てて噛み砕いた。

 

 あとはもう、一方的である。

 

 木製の割には長持ちしたと、場違いな感想を抱きながら私はコクピットを突き破る爪をぽけーと見つめていた。

 

 

 

 

 

 プレイヤー:ショウ、DEAD。

 

 死因:ブツ切り。

 

 

 

 

 

 

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