ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

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第百五十六話 コロンブスの卵

 

 

「ううーん、残念……」

 

 ホームに戻ってきた私は、顎を撫でさすりながら先ほどの戦いを反省していた。

 

「ステルスはこっちから一方的に殴り掛かるときに最大の効果を発揮する……ショウ覚えた……」

 

 ガレージを見ると、そこにはめっちゃくちゃに破壊された愛機の姿が。木製の装甲がズタズタに引き裂かれて繊維が爆裂している様は、古びた藁人形のようである。

 

 その傍らに転がっているのは、ありゃチェーンソーのガードパーツか。他の部品が全部酸で溶けちゃったのにあれだけ無傷で残ってるっていうのはなんか異様な光景ではある。何にせよ貴重な材料なので戻ってきてよかった。

 

「いやあ、しかし。意外と原形留めてないな……」

 

 ここまで破壊されてもコクピットの私本人をなます切りにされるまでは抵抗できていたし、思ったよりもロボットってしぶといんだな。

 

 考えて見れば、人間じゃないんだしちょっと手足もがれたり腹割かれたりした程度では問題はないのか。よく、人型は効率が悪い、とは言われるが、その効率が悪いというのはアクチュエーターなどの精密部品が多い上に分散しており、常にロス部分がある事を示している訳だが、逆に言えば常にどこかしらに余裕がある訳である。なんだったらメインカメラがふっとんでもたかがとか言っちゃうパイロットもいたしな。いやあれは特例だと思うが……。

 

 移動方法にも歩行とスラスターがあるし、なんならその両方をぶち壊されても腕で這いずっていくという手もある。どこぞの名作アニメでも、手足をパージして軽量化した後、スラスターだけで敵に突っ込んでいった機体もあるし。

 

 それこそコクピットか動力炉をぶち抜かれでもしない限り、人型ロボットというのはしぶとく耐えるのかもしれない。

 

「ふむぅ……?」

 

 腕を組んで考えを纏める。うむ、なんかピンと来たぞ。

 

「なるほどなるほど。次はこれで行こ『ショウさーん!!』……おや!?」

 

 名前を呼ばれて振り返ると、小柄な人影が私の胸元に飛び込んできた。おっとっと、と受け止めると、それは勿論、テレサであった。

 

「ああよかった、テレサも無事に戻ってたか」

 

『無事じゃないですよぉー!!』

 

 なぬ?

 

 慌ててハンガーに目を向けるが、彼女の乗っていたテンペストゥスは修理中だった。一瞬ひやっとするが、修理状況を見るに完全大破からのそれではない。あくまで、探索行で受けたダメージの修復中、といった感じだ。

 

 つまり、テレサはデスルーラしていない。ちょっとほっとして私はぽんぽんと彼女の頭に手を置いた。うむ、綺麗な頭蓋骨の形だね。

 

「吃驚させないでよ、撃破されずに戻れたんでしょ?」

 

『そうじゃなくて! 私が先に戻ったせいで、ショウさんが……!』

 

「あー、その事? まあ気にしない気にしない」

 

 私からすればいつもの事である。

 

 あ、いや。考えてみればボス戦でやられて戻ってきたのは初めての事か? いつもなんだかんだでどうにかなってたからなあ。

 

 流石にエリアも進んで、敵も手ごわくなってきたという事か。

 

 まあ今回はシチュエーションと機体の相性があまりにも悪かったともいえるが。

 

「しゃーない、しゃーない。ステルス機がボスと顔合わせてやりあったら勝てる訳ないし」

 

 件のF-117だってドッグファイトしたらF-4にすら負けるだろうしね。もっとステルス性を高めた上で通常戦闘力も考慮しないと、とてもじゃないとボス戦なんてできやしない。 

 

「ま、今回はテレサさんが無事に帰れただけでもよしとしよう。な?」

 

『私は全然良しじゃないですよぅ……』

 

「いいからいいから、ほら離れて。収穫が無かった訳じゃないし」

 

 ぐいぐい肩を押して、柔らかな感触を遠ざける。割と簡単な造りの割にこの触感再現システム、結構臨場感があって落ち着かないんだよなあ。人間の感覚って案外単純だとしみじみ実感するね。

 

 押しのけられたテレサは顔を上げると、涙で滲んだ目元をぐしぐし、とグローブで拭うときょとんとした顔をした。

 

『収穫?』

 

「んむ。やはりというかなんというか、テレサの言う事にも一理あってね。ちょっとこう、一度究極に頑丈なコクピットを作ってみようかと思うんだよ」

 

『……わあ! やっとご理解いただけましたか!』

 

 猫耳尻尾があったらピン! と立っていそうなテレサの反応。彼女はほっこりした笑顔で、うんうん、と何度も頷く。

 

『そうです、そうです。ショウさんがご無事なのが何よりも優先される事なのですから、やはりコクピットは大事なのです!』

 

「うんむ。で、ちょいとね。こんなもん作ってみようかと思ってね……」

 

 カスタマイズ画面に向かって、カタカタ、と操作する。

 

 出来るだけ頑丈なコクピットシェルを用意してー。

 

 それを分厚いチタン合金の隔壁で包み込んでー。

 

 その後ろに動力炉を配置してー。

 

 それら全部をまた特殊合金の殻で覆ってー。

 

 それをまたさらに覆ってー。

 

「………………????」

 

 横で画面を覗き込んでいたテレサの視線が、段々困惑に満ちていくのが分かる。面白。

 

 そんなこんなで、プレビュー画面に表示されたのは、まん丸い鉄の塊。

 

 全長20ほどもある、超巨大コクピットシェルである。合計20層近くになる合金の外殻は、ちっとやそっとの攻撃では破壊されないはず。

 

 ちなみに、自力で動けるようにタイヤも組み込んである。なんだっけ、ほら、世界珍兵器にクーゲルパンツァーとかいう丸まったダンゴムシみたいな戦車らしきものがあるじゃん? あんな感じで。スラスターも仕込んであるからパンジャンドラムの親戚かもしれないけど。

 

「どうよこれ?」

 

『あ、え? いや……その、確かにこれならパイロットは安全かもしれませんけど……え?』

 

 おお、困ってる困ってる。まあ気持ちは分かる。

 

『その……もしかして、体当たりする、とか? あっ、武器を外付けするんですね? でもこの形状だと、反動で転がってしまうような……ええ? 作業とかどうするんです?? あれ?』

 

 目をぐるぐるさせて、自分の発言に突っ込みを入れながら頭を抱えるテレサ。あらら、合理性をモットーとするAIちゃんにはこの形状はいささか刺激が強かったか。

 

 まあ、これだけのサイズになると、球状である事の利点ってほとんどないもんね。確かに球状っていうのは圧力に強い形と言われているが、相手が気圧とか水圧とかならともかく、銃弾だのビームだの、そういった局所的な圧力には果たしてどうか、というのは大いに疑問が残る所である。最近の砲弾は、被弾傾斜が意味ないように、命中すると一定の確度で食い込むようになっているしね。

 

 それにこれだけ大きいと、どうしても装甲を分割しないといけないし、内部に配線だのなんだの入っているのもあって、単純な球状シェル殻ではないから売りである圧力の分散能力も怪しい所だ。結局は複数の、球状ではないパーツの寄せ集めだからね。

 

 まあ、なので球体である事にはさして意味がないのである。ただの趣味だ。

 

「はははは。ごめんごめん、ちょっと意地悪だったかな。いや、実はこれで完成じゃないんだよ」

 

『ほえ?』

 

「ほんとはさらにこうするんだよ」

 

 私は過去の設計図を漁ってくると、一番汎用的な構造をしているいつぞやのビームスナイパー機の設計を引っ張ってくる。その内部からコクピットと動力炉を外して、背中で球状巨大コクピットシェルと接続する。

 

『え、ええー?!』

 

「本体はあくまで背中の球体だけど、同時に人型ロボットでもあるっていうね」

 

 そう。つまりは、からくり人形形式という訳だ。

 

 意外と人型ロボがしぶといというのは分かったから、それを最大限に生かす為にパイロットと動力炉は分厚い装甲の殻に隠して、武器を扱ったり敵と直接やりあう人型を前に吊り下げる訳である。これなら撃ち合いは勿論、積極的に接近戦を行っても、不意の一撃でコクピットを潰されてやられる、という事は避けられるはずだ。

 

 そして球状の装甲殻は背後を護る盾でもある。高機動機に後ろを取られてタコ殴りにされても、この装甲厚なら耐えられる筈。基本的に人型は背後が弱点だから、それをカバーする効果も期待できる。

 

 まさに一石二鳥!

 

 我ながらナイスアイディアである!

 

「ふっふっふ。ロボットアニメの中には脱出装置がそれなりの戦闘力を持ってたりするパターンもあるけど、だったらいっそコクピットを本体にしてしまえばいいのさ。コクピットと動力を潰されない限り、人型ロボットは戦えるわけだし。逆転の発想という訳だね、うんうん」

 

『???????』

 

 実際、コクピットを含むバイタルエリアが背部に突き出してる形状のロボットはそれなりに見かけるものだしね、その亜種と考えればそうおかしなもんでもない。

 

 我ながら良いアイディアと腕を組んでプレビュー画面を堪能する。横のテレサは只管頭を抱えて首をひねっているが、なあに、彼女の事だ、すぐに納得してくれるだろう。

 

「んでもって、ふふふ。人型ロボットの方も武装を充実させるか! これなら機体の重心が安定するから、フレキシブルアームを取り付けられるぞー。せっかくだからその先端にビームチェーンソーつけちゃうか! ん、なんか積載量の表示がおかしいな……。システムがこの構造を許容できてないのか? んー、しゃあない。人型の装甲を削って軽量化……んでもって、そうだな。地に足つけてるのが問題っぽいから、普段は浮かすか。あ、よしよし、変な表示治った」

 

『???????』

 

「後は隠し武器も欲しいなー。あ、そうだ。胴体が空っぽだし、ここに武器を仕込もう。む、出力が足りない……しょーがない、実体武器で勘弁してやるか。細かい狙いが付けられないし……あ、あれがいいな。普段あんまり使ってないし。うふふふー。いいぞいいぞ、形になってきたぁ! どうよテレサさん、これ! いい感じでしょ!」

 

 設計が形になり、あとは建造ボタンを押すだけ、という所まで持ってきて、私は意気揚々と画面をテレサに見せた。

 

 当のテレサは、目をぐるぐるさせながら画面を覗き込んで……。

 

『ひ、人型兵器とは、一体……はうっ』

 

「て、テレサダイーン!?」

 

 ふらり、とその場に倒れてしまうのであった。

 

 ううむ。AIにもめまいとか卒倒とかあるんだな……ショウ覚えた。

 

 

 

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