ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
『うーんうん……ううーん……』
「うなされとる……」
まんまるでっかいコクピットを背負った人型兵器、という物体を前に処理能力が限界を迎えてぶっ倒れたテレサ。私はしょうがないので彼女に膝枕してやりながら、カスタマイズの続きを進めていた。
本当ならテレサの意見を聞きながら進めたかったんだけどねー。ひっくり返っちゃったなら仕方ない。しかし、やたらと人間臭いモーションをするAIだなあ……。
「まあ、AIだからって困惑しないって訳ではないんだろうけど……全く大げさだなあ」
テレサはそういう仕組みじゃないらしいけど、生成AIなんかもイラストとかを読み込ませた際に訳わからん解釈する事もあるしな。ああいうのって指摘すればするほどハルシネーションを起こすというか、ドツボにはまって余計に訳わからないものになる傾向がある。基本的に生成AIは人工無能であり、間違いを認識する、という事が出来ないからだ。
その点でいうと、テレサは真正AIだから自分の勘違いなどを自力で修正できるのだろうけど、だからこそその処理に手間取ってる感じか。早い話がフリーズしている訳なのだろう。
「45度でチョップしたら戻らないかな……なんてね」
いくら仮想空間だからって、見た目女の子にそんな事はできない。ましてやテレサには私も愛着が出てきているし。
そんな訳で、意味があるのか分からないが彼女の頭を膝に乗せつつ、私はカタカタ、カスタマイズ画面を弄っていたのであった。
「んー。背後からの攻撃を考えると、スラスターは後ろじゃなくて左右につけるべきかな。可変式スラスター……だと機動力は出るけど、あからさまに脆弱そうだから攻撃で狙われそうだな。いっそ、三角コーンみたいなカバーつけるか。頑丈につくって体当たりで攻撃できるぐらいにしておこう。あとはんー、ロボと本体の接続箇所……まあできるだけ頑丈に作っておくか。場合によっては無線もありか? ああいや、ロボ本体への動力供給が出来ない、やっぱ接続はいるな」
あーでもないこーでもない、とブツブツいいながら仕様を固めていく。
しかし今思ったが、そういえば魔改造パラレル宇宙世紀アニメにこういう感じの機体がいない事もなかったな。素敵な思い付き、と思ったが既に元となるアイディアがあったか。ちょっと悔しい。
まあいい、何事もまずは模倣からだ。そこからオリジナリティを生かしていけばいい。
「しかし、ふふふふ。曲がるビームが全方位攻撃なら、こっちは全方位防御だな。真ん丸コクピットシェルは全方向に等しく頑丈だ! ……ま、まあ、効率とか戦闘力考えれば、意図的に装甲薄いところとか作って軽量化したりバランスを調整した方がいいんだろうけど……試作型だし、いいよね」
しかし、へんてこな所にコクピットがある機体といえば、最初のころに作った機体もそうだったなあ。あの時はビームの負荷をどうにかしようと試行錯誤してたっけ。ある意味、初心に帰って来た、ともいうのだろうか、こういう場合も。
と、膝の上で寝ていたテレサが、もぞもぞ身動ぎし始めた。そろそろ起きるかな。
『う、うぅ……あれ、私は……』
「おはよう、テレサさん。よく眠れた?」
『あれ、ショウさん? あれ……? 私、いつの間に寝て……?』
ぼんやりとした目つきのまま、身を起こして顔をごしごしするテレサ。寝起きの猫みたいな仕草にほっこりする。
『ショウさん……私、変な夢みたんです……変なの……』
「ほうほう。どんな夢?」
『でっかいコクピットシェルが、ロボットを吊り下げてひきずってたんです……。コクピットなんだから、機体の中にないとおかしいじゃないですか。しかもコクピットの方がロボットより大きいんですよ? ふふ、おかしな話です。合理的じゃありません。全く、自分で言うのもなんですが変な夢でした……』
「そ、そうかい……」
ぽやぽや笑いながら立ち上がるテレサ。過負荷からの再起動という事もあって実にすっきりした顔である。
と、その赤い瞳が私が開きっぱなしにしていたカスタム画面をとらえた。
『あ、何か新しい機体を開発中ですか? 見せてください~』
「え? あ、いや……」
『ふふふ、どんな機体……か……な……?』
ひょい、と立体ウィンドウを手元に寄せたテレサの表情が、びしり、と固まる。
私はあちゃー、と肩を竦めて首を振った。やれやれ。
『ゆ……夢じゃなかったぁーーーーー!?』
「うん。そういう訳だから、よし。目が覚めたなら手伝ってね」
『ひぃいいーーん(涙』
そんなこんなで、テレサの助けも借りつつ、私は新しい機体の設計図を完成させると建造ボタンを押し、ゲームを後にするのだった。
風邪が治ったばかりだし、夜更かし厳禁。早く寝よっと。
という訳で、翌日。
仕事から帰って来た私は、早速ゲームにログインして新しい機体の出来具合を確かめた。
「うんうん、良い感じいい感じ」
今回の機体は、なかなか厳めしい感じに仕上がった。
テレサを懊悩させた背中のコクピットシェルは、黒光りするブラックメタルカラー。左右に突き出したブースターコーンはぎらりと紫色に光っていて、ダンゴムシというより毒虫が丸まっているようにも見えなくもない。
その全面に吊り下げられている人型部分は、彩度の低い血のようなレッド。その左腕には長く伸びたフレキシブルアームを持ち、先端にはディスクソー型のビームチェーンソーを装備している。
「チェーンソーをぶち込むまで近づくのが大変なら手を伸ばしちゃえばいいのだよ、うんうん」
これが出来るのも、巨大コクピットシェルと人型で三点接地が出来て安定感があるからである。このフレキシブルクロー、半端な機体だと遠心力やら応力やらに振り回されて偉い事になるんだよね。なんやかんやで、某機動戦士シリーズの派生でも、この手の腕がのびーる装備を使いこなせるパイロットは凄腕であるという補足があるがさもありなん、である。
そんでもって、右腕には連装マシンピストルを装備。いつぞやの赤い残像も使っていた、軽量さが売りの初期型マシンピストル。あれを二つくっつけて、下部にめちゃめちゃデカイボックスマガジンを搭載したカスタムモデルだ。こんな仕様になったのは、片腕がフレキシブルビームチェーンソーでふさがっていて戦闘中のマガジン交換が現実的ではないからである。リロード無しで100発以上の弾丸をぶちまける事が出来るが、あんまし連射しすぎると熱で銃身が歪むのだけは注意だ。
カラーリングと武装もあいまって、やたらと悪役チックなのは御愛嬌。機体デザインはオーソドックスというか、素体状態だと割と平凡でディティールもそんなに細かくないんだけどねえ。ザ・量産型っていうか。
それがどぎついカラーリングに塗って、背中に得体のしれない玉を背負って、左手に触手みたいなアームをつけているだけで完全に悪の兵器である。組み合わせって大事ね。
「そういえば某量産機も背中に丸いの背負ってるカスタムモデルがあったな……強そうな肩書と見た目に反してものすごく微妙なやつ……」
やはり人類は人型に玉を背負わせたくなる性質があるのだろうか。
何はともあれ仕上がりは上々。試作機にしてはまずまずといった所だ。あとはこれを実際に動かしていい感じになれば幸いである。
「……他に何か改良点はあるかな。……いっそ前にくっつける機体を虫型にしてスカラベー、とかやってみちゃうか?」
『それはやめてください』
「あ、テレサ。やっほ」
ひょっこり顔を出してきたテレサに挨拶。彼女はぺこり、と頭を軽く下げると、苦々しい顔でテスト機を見上げた。
どうにも彼女、この機体に納得いってないらしい。合理的なのになあ。
『……ショウさん。発想が自由なのは大変結構な事ですが、少しは外聞を気にした方がよろしいかと思います。虫型の機体なんて乗り回してたら新種のメタルインセクトと間違われて同じ人間に撃たれますよ?』
「……は、はははは。そ、そうだね。気をつけるよー」
テレサの実に御尤もな苦言に、私は引き攣った笑顔を返す事しかできない。
……これで何度かメタルインセクトと間違われて攻撃されてます、っていったら彼女、どんな顔をするだろうか。うん。黙っておこう。
「じゃ、じゃあ、とりあえず早速テストに行こう。ほれ、テレサさんも一緒にどうぞ」
『……え? これ、私も乗るんですか?』
「うん。スペースにはむっちゃ余裕があるしね」
背中の球はほぼほぼコクピットが超巨大化したものだしね。最初はひたすら装甲殻を積み上げていたけど、流石にそれだと重たすぎて動けない、っていう計算結果が出たから中空みたいになってるし。ある意味では居住性能に特化しているともいえる。
やたらと一緒に乗りたがるテレサさんもこれで満足、だと思ったのだが。
『…………え、ええと。わ、わかりました……』
「あれ? あんまり嬉しくない?」
『嬉しくない訳では、ないのですが……』
ちらちら。テスト機を上目遣いで見上げるテレサさん。
うーん……。脚が10本以上あるものが苦手、というのは把握していたが、あんまり理不尽な物体も苦手という事か……。この場合人型してる方が本体ではない、というのが彼女的にどうしてもしっくりこないのかな。
「ふむ。嫌ならやめとく?」
『い、いえ! だ、大丈夫です、が、頑張ります!』
ふんす、と両手を可愛らしく握りしめて決意を示すテレサさん。微笑ましいんだがそこまで嫌がられると内心微妙な気分になっちゃうんだよなあ……。
私は苦笑しながら、機体のコクピットに続くタラップに足をかけた。
「おっと。その前に名前を決めてなかったな。そうだな……レッドスカラベ、という事にしておこう」
『ショウさん……まだ虫型にしているの諦めてないんです……?』
「わははははは、深い意味はないよ、気にしないで」