ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

171 / 198
第百五十八話 バックしまーす

 

 という訳でレッドスカラベの初出撃である。

 

 コクピットは広い上に快適だ。シートは二人どころか三人ぐらい座れる、椅子というよりソファみたいなものになっているし、球状のコクピット内部、シートを保持するアームの下には、簡易ベッドとかも用意してある。

 

 戦闘兵器というより、長期にわたって未開の地を探索する調査隊のような設備である。まあサイズ的にも、ロボットというより大型トレーラーとかに採用するのを考えてたんだろうな、これ。

 

 VRグローブが伝えてくるふかふかのクッションの感触を楽しみながら、私はバチバチ、とシートベルトを装着する。隣でもテレサが、いつもの作業服の上からシートベルトを、かちゃり。

 

『……なんか車輛みたいなコクピットですね』

 

「まあ本体も転がる玉だし、実質車輛みたいなもんかも」

 

 元ネタのクーゲルパンツァーが果たして本当に実際に製造されたのかとか、どう動いていたのか、果たしてあれを車輛にカウントしていいのかとか、疑問は色々あるが。細かい事は抜きにしておこう。

 

「ほんじゃま、早速出撃しようか」

 

 上昇したリフトから、キュラキュラと雪山に降り立つ。球状コクピットの表面にはぐるりと一周する履帯が二列装備されており、これが主な移動手段になる。これだけではスタックしたら動けなくなってしまうが、左右に装備したスラスターコーンに加え、人型のボディもあるのでぬかるんだ荒地でも理論上は問題なく動けるはずである。

 

 少なくとも、雪山マップの薄く雪が降り積もった山道ぐらいなら屁でもない。スラスターで勢いをつけるまでもなく、山道をスムーズに移動する。多少揺れるが、そのあたりはリニアシートのアームが全て緩和してくれるので非常に快適だ。

 

「さて、いつもだったらまず猿型メタルインセクトで試し切りをするけど……」

 

 流石に連中の顔も見飽きてきた。それより、テストではあるけど同時に例の洞窟攻略も進めたい。無駄弾を消費せずに、さっさと谷底に降りていく。

 

 流石にここでは戦闘は避けられないだろう。できるだけ損害を抑えて立ち回りたい所だが……おや?

 

『どうしました?』

 

「ああ、いや。なんかレーダーに映る敵影がすくない気がして……」

 

 私の記憶ではこの谷底には、常にかなりの数のゾウ型メタルインセクトが徘徊していたはずだ。だが、今はレーダーを見る限り5体ぐらいしか存在が確認できない。

 

 どこかにでかけているとか? いや、メタルインセクトは住処に常駐するのが常だし……。まるで急に、沸く位置が変わったみたいな……。

 

「……あ」

 

 考えてみれば当たり前か。ここ最近、曲がるビームやらビームチェーンソーやらのテストで、ここのゾウ型を大量に狩ったりしていた訳で……それが恐らくシステムに稼ぎだと認識されたんだろう。

 

 そのせいで、ゾウ型の出現ポイントに調整が入ったか? 多分もっと奥か、別の場所がゾウ型密集地帯になっているんだろう。

 

 それならありがたい事だ。毎度毎度、洞窟への調査の為に大量のゾウ型をさばかなくて済む。

 

『ショウさん? どうしました?』

 

「いや、なんでも。まあ、敵が居ないならそれに越したことはない。先に進もう」

 

 速度を上げて、一気に谷底を駆け抜ける。

 

 そのまま一戦も交える事なく、私達は目的地である洞窟の前に辿り着く事ができた。

 

 赤錆でぬかるんだ内部に、意気揚々と機体を進ませる。幸いにして、このぐらいのぬかるみなら履帯は滑る事はないし、多少の凹凸は乗り越えるなり、勢いで粉砕して先に進める。洞窟の中だからと、動きにくい事はない。

 

「ただちょっと狭いな……」

 

 少し独特の操作感のせいで、細かい所でひっかかるというか。今もスラスターコーンが積み上げられた残骸に当たって崩してしまった所だ。やはりガチタンとまではいかないまでも履帯移動というのは、慣れないと小回りが利かない。

 

 まあ、その分頑丈だから多少崩れてきたくらいじゃびくともしないけど。

 

 そんな感じで、洞窟の奥に進んでい行くと、果たして待ちかねていたかのように敵の反応がレーダーに表示された。

 

 テレサが意気揚々と警告をしてくる。

 

『敵反応が接近中。データ称号……ショウさんがシデムシと呼んだメタルインセクトのようです』

 

「あいつか」

 

 正確にはシデムシの幼虫のように見えたが。まあ、メタルインセクトが普通の生き物みたいに脱皮して成長するわきゃがないので、一応あれで完成形、という事なのだろうか。

 

 この洞窟のメインエネミーはてっきりワームの方かと思ったが。まあバリエーションはあるだろう。

 

「よーし、引き付けて、引き付けて……撃つ!」

 

 ダパパパパ、と二つの銃声が重なって響く。それは積み重なった残骸の陰から忍び寄って来ていた敵の姿を捕らえて激しい火花を散らした。

 

 ……あんまり効いてないな。

 

 攻撃した事でHPバーも表示されるが、うん、やっぱりあんまり減ってない。銃の威力が低いから……違うな。相手はビームアローも弾いたぐらいだし、そもそも間接攻撃に強い耐性があるのか? 扁平な流線形にギラギラ黒光りする甲殻はいかにも弾をはじきそうだしな。

 

「だったらこれはどうだ!?」

 

 ぎゅうん、と左腕に装備したフレキシブルアームを振り回すと、先端に装備したビームチェーンソーが唸りを上げた。そのまま回転する光の鋸を、接近する敵目掛けて叩きつける。

 

『ギギィ!?』

 

 効果は抜群。一撃のもとに敵を両断した刃を、もう一匹に向ける。ギュイイン、と伸びていったアームが、スクラップの山へと突っ込むとその内部に隠れていた敵を引き裂き、仕留める。

 

「よし、次は……」

 

『ショウさん、回避を! 背後を取られています!』

 

「なぬ」

 

 レーダーを見ると、確かに背後に敵の反応。だが機体の構造上、即座に振り返る事はできない。コクピット内で後ろに振りかぶった私の目に、スクラップの陰から飛び出したメタルインセクトが、ぐわ、と脚を大きく広げてこっちに組み付いてくる姿が見えた。

 

「裏側キモッ!」

 

『言ってる場合ですか、ってキャア!?』

 

 コクピットに衝撃が走る。勢いのままに組み付いてきた敵は、六本の足でしがみつくと口元のドリルでガリガリと装甲を削り始めた。成程、ああやって残骸を解体している訳だな。しかし……。

 

「残念。その程度の掘削力だと穴が開くころには日が暮れているな」

 

 普通の機体ならいざ知らず、レッドスカラベのコクピットシェルの多層装甲が何mあると思ってるんだ。流石にムクの塊ではないが、第一装甲だけでも装甲圧は数十センチは越えている。その程度のドリルで容易く穴を開けられるほど柔らかくはない。

 

「全速後退!」

 

 ギャルルル、とキャタピラが最大速でバックする。道中の障害物に後ろから突っ込み、残骸が飛び散る。その中でもメタルインセクトは振り落とされるものかと脚を踏ん張っていたが、残念。こちらの目的はスクラップにぶつけて振り落とす事じゃない。

 

 ここがどこだか覚えている? そう、洞窟だな。んでもって洞窟には壁がある。

 

「衝撃にー、備えて!」

 

『きゃあ!』

 

 身を小さくしたテレサが、何を思ったのか私にしがみついてくる。柔らかい肌の感触にドキリとしたせいで操作を誤り、一気にアクセルがトップギアへ。急激に速度を上げたレッドスカラベは、そのまま洞窟の壁に激突した。

 

 ガゴォン、という衝撃。ちょっと速度を出しすぎたせいで、コクピットにアラートが響いている。第一装甲にちょっと歪み、かぁ……まあ許容範囲許容範囲。

 

 んで、コクピットシェルと洞窟の壁に挟まれたメタルインセクトはというと……。

 

「ありゃりゃ」

 

 原形もとどめないとはこの事である。激突の衝撃で木っ端みじんに砕け散ってしまったらしく、もはやその存在は第一装甲にへばりついたオイルだかなんだかしか残っていない。イカの墨みたいにモニターを汚していたそれが、やがて薄れて消失する。

 

 念のため戦闘ログと、レーダーの反応を確認して、私は一息ついた。

 

 しかしあっさり潰れたな。あんだけ銃弾を弾くから、もうちょっと耐えるかと思ったんだが。あ、いや、そうか。もしかしてそういう事なのか?

 

 次に遭遇したら試してみよう。

 

「戦闘しゅーりょー。先に進むよ」

 

『うう……コクピットを鈍器代わりにするなんて、なんか間違ってます……』

 

「なんかテレサさん、コクピットの扱いにこだわりがあるね……」

 

 パイロットを守らなければならない、というサポートAIの本能みたいなものがあるのだろうか?

 

 でもロボットの世界って、パイロットの安全を屁とも思ってないコクピットの仕様っていくらでもあるしなあ。酷い奴はライフルの銃床にコクピットがあったり、ぶんまわされるばかりか敵に叩きつけて使う尻尾の先にコクピット(しかもカバー無しの剥き出し露店席)があったりするんだぞ? あれを見たら失神しそうだね、テレサ。

 

「しかし、ふむ。コクピットが一番安全な分、背後を取られたりしてもどっしり構えて対応できるのは利点だけど、即座の対応が難しいのが難点だな。どっちかというとコンセプト的にはガチタンの親戚だと考えた方がいいな」

 

『まあ確かに、これだけ装甲厚があれば即死する事はまずないでしょうけど……』

 

「油断は禁物だけどね。即死地形とかには弱いし」

 

 駐車場の王でも河童には勝てないしね。そしてビルドロボオンラインは割とそういう地形は多い。いつぞやの溶岩地帯も足を踏み外したら即死だし、この先のボス戦でも酸の泉には要注意だ。雪山地帯も、一定以上の高さから転げ落ちたらアウトだし、砂漠でも流砂にはまったら抜け出せなさそう。

 

 重量級はなんていうか、対人戦に特化してるんだよね。想定されるシチュエーションを限定しているからこそ強いというか。何が起こるか分からない状況では、機動力があったほうが対応力が高いに決まっている。

 

 ま、そのあたりも含めて試験機って訳だ。

 

 好い所があれば悪い所もある、ぼちぼちやっていこう。

 

「うっし、検分が終わった所で奥に進もう」

 

『はーい』

 

 さてさて。ボスにリベンジは出来るかな?

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。