ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
残骸を踏みつぶして奥に進む。
分かっていた事だが、奥に進めば進む程、赤錆やら何やらでぐちゃぐちゃっとしてくる。壁や床を這いまわる赤黒い湯の花みたいな物質は、自己増殖する菌類か何かの用だ。
つくづく、コクピットシェルを玉のように転がすのではなくキャタピラ移動にして正解だったとおもう。ダメージはなくてもなんか汚いのはちょっとね。
いやまあ、それでもやっぱり全く汚れずに、とはいかない。
うっすらなんかピンクがかってるような気がするモニターを眺めていると、傍らで同じように景色をみていたテレサがぼそりと呟いた。ちなみにその腕はずっとがっちり私の右腕をホールドしている。そろそろ離して欲しい。
『このあたりは、私が引き返したあたりですかね……』
「あー。そういや、この辺だったか」
テンペストゥスはこの地形と敵に相性悪すぎたんで引き返させたんだったよね。となると、そろそろこのあたりで第二陣が出てくるか?
そう思ったが早いが、早速レーダーに反応。この移動速度からして、間違いない。シデムシ型メタルインセクトだ。数は二匹……うん。試してみるには手ごろな数だ。
「ちょうどいい、試してみたい事があったんだよね」
リロードを終えてマガジン満タンのダブルマシンピストルを敵に向ける。ロックオンした敵に引き金を引こうとすると、テレサが静止するように声をあげた。
『ショウさん、彼らには弾丸は効きませんよ? ひきつけてからビームチェーンソーで攻撃したほうが……』
「まあまあ、見てなって」
心配そうなテレサを宥めて引き金を引く。
嵐のように撃ちだされる拳銃弾の連射。それを浴びた敵は、しかしもろともせずに向かってくる。扁平な上に流線形の強固な外殻、弾丸の効き目はやはり悪い。
しかしそれでも撃ち続けると、敵に変化があった。
『ギュイッ!?』
突如、悲鳴のような声を上げてひっくり返るメタルインセクト。裏返ってジタバタしているところに、続けて弾丸を叩き込む。
一瞬で消滅するHPバー。さっきまではどれだけ撃ち込んでも僅かにしか削れなかったHPが、僅か数発の直撃で消し飛んだ。
『え?』
「じゃあもういっちょ」
砕け散って消滅するシルエットをよそに、もう一体に狙いを定める。残弾は十分に残っている。再び連射を叩き込むと、ある程度の所で敵はまたしても突如ひっくり返った。裏返って足をジタバタさせている所にバースト射撃を叩き込めば、またしてもメタルインセクトは即死した。
「よしよし」
『え、ちょ、まってください!? 何ですか今の!?』
「何って……弱点だけど」
そもそもの話、これはゲームである。ゲームであるからには人を楽しませる必要があり、ただ理不尽に硬くしぶとい“だけ”の敵というのは基本的に歓迎されない(例外はあるが)。それを考えれば、高威力であるはずのビームアローを正面から弾き返し、マシンピストルの掃射をびくともしない雑魚敵というのは理不尽にも程がある。であるならば、そこには何かしらのギミックがあるはずだ。
そこで先ほどの、バックで押しつぶしたメタルインセクトが出てくる。いくら大質量のプレス攻撃といえど、ビームアローの一撃より強いはずがない。にも関わらず、壁との間に挟まれたメタルインセクトは一撃で即死した。
それは何故か?
恐らく、奴らの弱点が腹だったからだ。壁に激突した背中側は大したダメージではなかったが、押し付けるレッドスカラベ側の体当たりのダメージ判定が腹に入り、それで即死したのだろう。
強固な外殻と、それに半比例して異様に柔らかい腹部の防御。それを考えれば、もうひっくり返してくれ、と言っているようなものである。
そしてこの手のシチュエーションでは、連続で攻撃を叩き込めばそのうち耐えきれなくなってひっくり返る、というのがお約束。そしてその手の約束を、ビルドロボオンラインの開発・運営は外さない。
狙った通りだ。
「ま、あれだ。いくら効かないといっても何発も銃弾を撃ち込まれたらその衝撃にそのうち耐えきれなくなるみたいなあれだよ」
『は、はあ。た、確かに、言われてみればそれもそう……なんでしょうか? 機体制御システムもあまり連続で衝撃を受けると姿勢を維持できなくなりますし……』
「そうそう。まあ連中は通常時はスーパーガードはいってるけど、それを削られ切るとダウンを取られる、みたいな感じで捕らえとけばいいよ」
ビームチェーンソーは、威力が高すぎて表側からでも倒せる、というだけの話だ。何にせよ、オーバーヒート等の事を考えると濫用は避けたい。マシンピストルで倒せるならそれに尽きる。
『な、なるほど……。とりあえず、OSにその手のゲージを追加してみますか……。普段意識してなかったですが、他のメタルインセクトにも似たような概念はあるでしょうし……』
ブツクサいいながら、ホロキーボードを叩き始めるテレサ。仕事熱心で助かる。
しかし……ふむ。言われてみればそれもそうだ。普段は普通に攻撃すればHP削れるから気にした事がないが、他のメタルインセクト、なんならプレイヤー機にもこの手のダウン値は設定されているのかもしれん。大体の場合はこれが一杯になるより先にHPが尽きるんだろうけど、高防御の機体とか相手にする場合にはこれを意識すると戦いやすくなるかもしれんな。
アサルトコアにも、シリーズによってはダメージよりも衝撃で相手を嵌め殺す系の武器があったりするしね。
……あ、いや、もしかするとフレキシブルアームを振り回すときに機体の重心が安定してないと機体がひっぱられたりするのもこれ関係か? 思えば、地形とかに激突した衝撃でOSがフリーズするとかもちょこちょこあったし……あれらの現象もスタンゲージで説明できるかもしれん。
おお、新発見! 確か出入りしている掲示板でも言及されてない概念だぞこれ!
なんか、嬉しい!!
「ふんふふふん、楽しくなってきたぞー」
『あのその、あんまり期待しないでくださいね? 基本的に、データとってなんぼの話ですので……』
「それは勿論」
これまでだって意識しなくてもやってこれたし、さほど重要な情報ではないんだろうけど。ただ、戦い方のバリエーションが増える、というのは有難いのさ。
突き詰めて行ったら、古のデビガンを復活する事が出来るかも……ってそりゃ無理か。ビルドロボオンラインには慣性があるし、何よりそんなもんを乗りこなす技量が私には無い。
でも夢は広がるよー。
「ふーっふっふっふ、そうと決まれば、敵、出てこないかなー。データよこせ、データをー」
『ショウさん……手段が目的にすり替わってますよ……』
「いいのさいいのさ、いつもの事!」
だいたい楽しく遊ぶのが目的だしね! っと、そこでレーダーに新たな反応。敵だ!
スクラップの山に銃を向けると、もこもこと地面から這い出して来るあのシルエットは……。
「……ワーム型か。ちっ」
『露骨にがっかりしましたね……』
なおこの程度の相手なら、スタン取るまでもなくマシンピストルで瞬殺でした。
戦いがいの無い敵にげんなりしつつ先に進むと、やがて気持ち悪い赤ピンクに覆われた景色が、少しずつ黒っぽくなっていく。同時に金属の結晶がキラキラ煌めいて……そう。
ボス戦の手前あたりに差し掛かったという事だ。
前回はここに来るまでに引き返したテレサが、興味深そうにその景色を眺めている。
『これが、お話に聞いた……確かに、幻想的な光景ですね』
「でしょでしょ? あの、腐肉を積み上げたようなドログチャから一転、って感じでなおさら印象に残るよね。まあ実体は大分エゲツナイみたいなんだけど……」
『……ですね。解析してみましたが、壁とかから染み出してるの、かなり強力な腐食液のようです。錆も何もかも、これで溶かされてしまうので一見綺麗なんですね……となると析出している金属結晶は……電気か何かによる影響なのでしょうか?』
賢いAIにはなかなかこの地形は刺激的な題材の様子。ゲームだしと割り切った私と違って、テレサは色々考える事が多いようだ。
『不思議な地形ですね。自然にこんな場所が出来るものなのでしょうか』
「そう? 液体金属が流れる溶岩地帯よりはよっぽどありそうな気がするけど」
『それはそうですが……あちらは工業地帯の金属資源加工のサイクルに組み込まれていたようですし。この惑星は地球とはくらべものにならない程金属資源が豊富ですが、それが関係しているのでしょうか?』
きょろきょろしながら、時折観測結果か何かをホロキーボードを叩いて記録しているテレサ。ドログチャじゃないのもあって、結構楽し気な様子。やっぱりAIとはいえ女の子だから、汚いのよりも小奇麗な景色の方がテンションあがるんだね。
とはいえ、いつまでも観光気分ではいられない。
マップはこの先行った所で途切れている。そこまでしか記録できなかったという事……すなわち、酸の泉が近い。
「テレサさん、そろそろボス戦だよ。警戒して」
『え、あ、はい! その、勿論分かっていますよ! 解析に夢中になってた訳じゃないです、はい!』
「ほんとかな~~?」
慌てた様子のテレサを揶揄いながら、私は仕切りにレーダーに目を向けた。初めて来たときは、いつのまにか背後を取られて無理やり泉のバトルステージに押し込まれたが、今回はどうかな?
いつ来てもいいように警戒するが、その気配はない。
そうこうする内に、とうとう酸の泉、その岸辺に辿り着く。
周囲に敵影はなく、青く光る泉の水面は、風もないのに静かに揺れている。時折、固定からごぽごぽ、と泡が浮き上がってくるのが見えた。
『ごくり……これは確かに、落ちたらそれでおしまいですね』
「だろう? それはともかく、ボスの姿が見えないな。どうしようか」
まあ、何かの条件を踏んだら出現するんだろう、どうせ。
ここで悩んでいてもしょうがない、と私は泉に浮かびあがる道に機体を進ませた。きゅらきゅらきゅら、と中央の広場に向かって機体を進ませる。
「……む?」
と。右手の泉に、ちゃぽん、と石が落ちてジュワワ、と音を立てた。自然にそちらに目が向いて、壁を見上げる。
そこに、六本の腕で岩肌にしがみついている、獣のようなメタルインセクトの姿があった。
「で、出たっ!」
『あ、あれが……!?』
『ガルルゥ!!』
とっさにマシンピストルを向けて引き金を引くが、それより敵が動き出す方が一瞬早かった。高速連射を後に置いて、壁を疾走するメタルインセクト。
その巨体が軽々と宙に飛び上がると、行く手を塞ぐように浮島に着地する。ずずんという振動に、私は咄嗟に機体を後ろに下がらせた。
「おいでなすったかあ……!」
『グルルゥ……』
それぞれ、浮島の反対側に佇むボスと私達。
条件は悪くない。試験機であれど、ボスと戦うつもりで来たこちらの準備も万端だ。
さあ、リベンジマッチと行こうじゃないか。