ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

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第百六十一話 一寸の虫にも

 

 ボスの巨大な口が、脚からバリバリと機体を噛み砕いていく。

 

 いやまあ、あちらの人型にはコクピットないので別にピンチっていう訳ではないのだが、もし普通の機体に乗っていたらと思うと割と地獄だよね!

 

 フレームを通して響く金属の砕ける音がとてもおっかないのである。

 

『ショ、ショウさん、このままだとやられちゃいますよ!?』

 

「うーん、そうだねえ」

 

『そんな呑気な!? コクピットシェルだけになったら戦う手段なんてありませんよ!』

 

 一方テレサはそれなりに焦っている。まあ確かに、いくら頑丈でもコクピットだけでは戦えないからね。

 

 とはいえ腕ごと武器を食いちぎられてるし、脚もとっくにボスのお腹の中だ。そもそも抵抗しようがないのである。

 

 バリバリ、と噛み砕くボスの牙が、とうとう胴体に達した。大顎の中に機体の胴体が消えていく。

 

 ……やっとか。

 

「ところで。コクピットも動力部もない胴体に、じゃあ代わりに何が入っていると思う?」

 

 トリガーに指をかける。そう、レッドスカラベの人型胴体部は、本来納まっているべき物がない事でスカスカだ。じゃあそこに何を詰めているのか?

 

 答えは武器だ。

 

 いわゆるクレイモアと呼ばれるタイプの武装。爆薬の力で無数のベアリング弾を発射する、短距離面制圧武装。もっぱらその制圧力を生かしてトラップとして使われるが、中にはそれを機体に武装として組み込む、という事も割とよくある。武器としてみた場合、リロード大変だし重量も重たいしでものすごく取り回しが悪いが、破壊力だけは一級品だ。

 

 それを、機体の胴体に切札として仕込んである。

 

 さて。

 

 いくらボスといえども、そんなものがお口の中で弾けたらどうなるかな?

 

 実験の時間と行こう。

 

「……食らえっ!!」

 

 機体が噛み砕かれる直前にトリガーを引く。発射信号が、胴体を後ろから支えているアームを通して機体に送り込まれ、胴体全面のハッチが吹き飛び、ずらりと並んだベアリング弾が露わになった。

 

 爆発音。

 

 大量の火薬によって、数百ものベアリング弾が発射される衝撃。ほとんど爆発に等しいそれに、接続アームが根本からちぎれてコクピットシェルが後ろに吹き飛ぶ。

 

 丸い形状は踏ん張りが効かない。背後には酸の湖。落ちないよう、履帯を全力で回転させつつ、コーンスラスターを最大出力で噴射する。

 

『きゃああ!?』

 

「あ、くそっ」

 

 だが、到底停止は間に合わない。

 

「だったら……っ!」

 

 一瞬のひらめきで全てを逆にする。履帯の回転を逆に、スラスターを前に向かって噴射。勢いに抗うのではなく、勢いに乗る。

 

 バックに向けて全力で加速したコクピットが、そのまま岸辺からぽーんと飛び出した。勢いにのって酸の泉の上を水切りのように跳ねて、向かうは外周の壁。

 

 分厚いコクピットシェルが、思い切り壁にぶち当たって反動で跳ね返る。ボールのようにバウンドしたコクピットは、そのままゆるやかに回転しながら浮島の中央に落下した。

 

「うぉおう!?」

 

 エアバッグが作動するほどの衝撃と共に、合金の塊が地面にめり込む。

 

 それを最後に、ようやく停止するコクピット。私は一息ついて、機体のステータスを確認した。

 

「えーと……どれどれ。なんとかまだ動きそうだな。テレサさんは大丈夫?」

 

『な、なんとか……』

 

 さっきから腕にしがみついてジェットコースターさながら悲鳴を上げていたテレサも、顔色はよろしくないけど大丈夫そうである。いやしかし、いくら頑丈でも球形だと衝撃を受け流せないな……やっぱ単純な形状ならいいってものじゃないね。

 

 んでもって、ボスはどうなったかな?

 

 回復してきたモニターに目を向ける。爆煙が薄れて、その中から赤黒いボスの姿が露になる。

 

 流石に、口の中で大量のクレイモア弾頭が炸裂しただけあって、なかなか酷い事になっている。口腔部は丸ごと弾け飛び、上あごは吹き飛んでどこかに行っている。残された下顎もズタズタに引き裂かれており、手脚に至るまでベアリング弾で穴だらけ。これだけボコボコにされれば修復も自己再生もないだろう。

 

 見ている前で、ハラハラ、とその手足が端から朽ちて消滅していく。外殻が消え去ると、骨のように黄ばんだフレームらしきものが一瞬だけ露になるが、それもすぐに砕けて散る。そうやってボスの巨体が消え去ると、後には小さな虫のようなシルエットが残された。

 

 ビクビク痙攣しているそれの上には、残り数ミリほどのHPバー。

 

 ……ボス戦のBGMは、微かにまだ響いている。あれがボスの本体、という事か?

 

「なぁーるほど。スクラップの中からまだ使えそうな部品を集めて形成したのが、あの凶悪そうなツラのボスの姿だった訳ね」

 

『奇しくもこちらと似たようなコンセプトだった訳ですか……』

 

 テレサがしみじみと呟く。まあ、こちらがあくまでコクピットと動力炉の保全を行う事で人型を限界まで使い倒すのが目的なのに対し、あちらは貧弱な本体とそれを補う強力な外殻、という違いはあるけども、どちらも本体が別、というのは確かに一緒か。

 

「ま、似たコンセプトだったとしても、今回はこちらが勝利のようだね」

 

 操縦桿を触ると、ぎこちないながらもまだコクピットシェルは自律行動が出来るようだ。キャタピラをキュラキュラ回してボスの本体に接近し、地面を這って逃げようとするそれを、プチッ。

 

 

 

《イモータルバイト を 撃破しました!》

 

 

 

 シュイーンと消えるHPバー、そしてシステムから届く撃破メッセージ。

 

 最後の一撃は、せつない。

 

 まあ、何はともあれ、腐食洞窟のボス、撃破だー!

 

「やったね、ボス撃破だ」

 

『やりましたね、ショウさん!』

 

 コクピットでテレサとハイタッチ。いえい。

 

 さて。この洞窟が結局何なのかわからないが、道はまだ先に進んでる。ボスを倒したからには、最低限未発見のホームがあるはずだが。

 

 私は履帯をキュラキュラ言わせて、先の道へと進んでいった。

 

『あ、ショウさんそっちは違いますよ。先に続く道はあっちです』

 

「んなぬ」

 

 指摘されて赤面。い、いやあ、こういう見た目で違いが分からない広場って、戦ってるうちにどっちから来たか分からなくなるもんだからさあ! え、マップを見ればわかるって?

 

 はい……その通りです、すいません。

 

 自己弁護にセルフつっこみを入れつつ、私はしょんぼりしながら道の先に進んだ。

 

 先に続く洞窟は、真っ黒な岩盤がむき出しの光景が続いている。どうやらあの酸の泉より向こうは、メタルインセクトはやってこないようだ。もしかすると先ほど倒したボス、イモータルバイトとかいうのはプレイヤーだけでなく他のメタルインセクトも餌食にしていたのかもしれない。

 

 流石にボス戦の後だから敵はいないと思うが、一応注意しながら先に進んでいく。

 

『なんか段差が増えてきましたね』

 

「だね。スラスターが生きてるからなんとか進めるけど、キャタピラには辛いね」

 

 がっ、ごっ、と天然の障害を乗り越えながら先に進む。分厚い装甲のおかげでダメージはないけど、表面はすっかり塗装が剥げて傷だらけだ。

 

 正直ここで戦闘になったら、人型部分が健在でも上手く戦える気がしない、球状コクピットシェルが動く上で邪魔すぎる。

 

 現実では色々言われる二足歩行だが、こういった起伏に富む地形の踏破能力、という点で見ればやはり兵器然としたキャタピラやタイヤより優れていると言わざるを得ない。広いマップを移動し、一体どんな地形を探索するかわからない、という状態では、多少の運用の問題を無視しても人型というのは優れているのだな、と改めて実感。

 

 要は何を重視するか、だな。前提あってこその形状という訳である。

 

「次作る機体はコクピット防御重視しつつ普通にしよう……ああいや、でももっと割り切っちまうという手も……」

 

『またおかしな事考えてません?』

 

「いやいや、なんでもないよー」

 

 胡乱な目で見つめてくるテレサに誤魔化し笑いしつつ、操縦に専念する。

 

 しかし、本当にやたらとゴツゴツしているっていうか……なんか違和感。洞窟の内部の岩が、こんなゴリゴリしてるもんか? まるで、爆発で破壊されたコンクリートの残骸みたいな……。

 

 疑問を抱きながら先に進むも、その先で私は足を止めてた。

 

 道の先が途切れている。目の前には、つるりとした質感の大きな壁。

 

 行き止まりだ。

 

「ここが終点? なんだ、何もないじゃんか」

 

『……! まってください、センサーに妙な反応が……大きい! 何か目の前にあります!』

 

「は? 目の前?」

 

 テレサの報告に首を傾げる。

 

 大きいって……壁しかないけど。壁の向こう側に何かあるとか?

 

 首を傾げながらも、ライトをつけて周囲を確認する。見た所、目の前は全部、曲面を帯びた壁でふさがれていて、何もないようだけど。

 

「……?」

 

 そこでふと、私は目の前の壁が、ゆるやかに湾曲している事に気が付いた。後ろに下がって、ライトを天井に向ける。

 

「おいおい……これは……」

 

 さらに後ろにさがって、ライトで頭上を照らす。

 

 そこには、途方もなく巨大な……あり得ない程大きな、何か乗り物の機首らしき物体が、洞窟の天井にめり込みながら一体化していた。その表面はつるつるとした黒色で、表面には細かい傷が入っている。そしてところどころに見える、パネルラインらしきディティール。

 

 もしかして、これって……。

 

「…………宇宙船?」

 

 

 

 

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