ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
宇宙船。
思わず口をついて出た単語だったが、しかし考えてみればそれはなかなか的を得ているような気がした。
あまりにも巨大な上に洞窟の壁にめり込んでいるので全容は見えないが、曲面を帯びた外壁は航空力学か何かを意識した構造に見える。
そう、例えば巨大な宇宙船が岩山に不時着し、落下の衝撃で壊れずにめり込めば、ちょうどこんな感じになるのではないか?
『宇宙船、ですか……』
「そ、そう。いやなんとなくだけど。そういう風に見えなくない?」
『それは……確かに。見えなくもないですけど、でも……』
流石に宇宙船というのは飛躍しすぎか。
いやでも、なんかこうシチュエーションに他はありえなくない? 得体のしれない洞窟の奥で、地面に埋まっているものっていったら、超古代文明の遺産! みたいな。
んでもって前から疑問だったけど、ビルドロボオンラインの世界って人類が入植に失敗しましたー、って感じの世界観の割に、その人類を運んできた移民船みたいなのが出てこないんだよね。例のクソデカ対空砲で撃墜されたとしても、そもそもそのクソデカ対空砲を作った連中を運んできた船が必ずどこかにあるはずで。
もしかしたらこれがそれかもしれないじゃないの。
「とりあえず調べてみようよー。ホームもどっかにあるかもしれないし」
『ま、まあ、それはそうかもしれません。現状他に出来る事もありませんしね』
「でしょでしょ?」
テレサも納得した所で、キュラキュラ音をたてながら巨大宇宙船の元に向かう。
しかしでっかいなー。もし見えてるこの部分が艦首部分だとしたら、全長で数十キロはあるんじゃないか? あ、いや、でも宇宙船って色んな形状あるしなー。魚の骨みてーな形状してたら思ったより肩透かしだし……。でも逆に空飛ぶ移民都市(文字通りの意味で)とかだったら浪漫ありまくりだよねー。
頭の中は楽しい妄想でいっぱいだ。取らぬ狸の皮算用、なんていうけどこういう瞬間が一番楽しいんだよ。宝くじだって実際に当たるかどうかは置いといて、当たったらどうしようー何に使おうかなーって妄想して楽しむものさ。そう、喜びはプライスレス! ちょっと違うか。
「さてさて。どっかに入れる所はないかな……おっと。ちょうど何か入れそうな損傷部分が」
『大丈夫ですかねえ……不法侵入扱いで警備ドローンとかが襲って来たりしません?』
「わからんけどその時はその時だよ」
都合がいい事に、機首の下にちょうど機体が出入りできそうな穴が開いている。瓦礫が積み重なってスロープのように坂が出来ているおまけつきだ。あきらかにここから出入りしてください、と言わんばかりの破損個所から、機体を中に乗り入れる。
んでもってちょいと内部を覗き込む。
「……ん?」
そして、明らかな違和感に私は眉をひそませた。
「え……なにこれ」
宇宙船の内部に広がっている光景は異様な物だった。ロボットサイズの通路はまあいい。ロボットゲームなのだから、基本インフラがそれに合わせてあるのはゲームの都合上仕方ない事だ。だが問題なのは、明らかに人工物であるはずの内部構造が、まるで生物の内臓のように、繋ぎ目のないつるりとした凹凸で構成されていたという事である。
落下の衝撃によるものか多少損壊はしているものの、分かりやすくケーブルやらダクトやらが垂れ下がっている訳ではない。へし曲がって破損した天板からは、千切れた血管のようなものが垣間見え、そこかしこにオイルが固まった瘡蓋のようなものが張り付いている。
「……もしかして宇宙船じゃなくて宇宙怪獣の死体だったりする、これ?」
『そんなバカな。解析してみましたけど明らかに人工物ですよこれ』
「いやでもさあ……」
おっかなびっくり内部に乗り込んでみるが、どう見ても私の知る人類の構造物と異なるようにしか見えない。それでもよくよく見ると、廊下に扉っぽいものが並んでいたり照明っぽいものがあったりと、船の内部に見えない事もない。そのいずれも、ぎゅっとしぼまる形のシャッターだったり、壁から血管のように這う配線から突き出したライトが光っていたりと、妙なデザインではあった。
「何この悪趣味なデザイン。設計者はギー●ーのファンなの?」
『? 別におかしな事はないと思いますけど。見た所、一貫した設計思想の元に構築されているとおもいますが』
しかしながら、テレサの方はこのデザインに違和感も不快感も全く覚えていないようだった。AIからすれば合理的に見えるのだろうか。
「どういう事?」
『恐らくこれは、最初からある程度のメンテナンス性を度外視して、徹底的に耐久力を重視した一体成型構造なのでしょう。人類の設計するユニットは一般的にメンテナンスや仕様変更を考慮してユニット化されていますが、ここまでの巨大構造物、さらには惑星間の移民船という事実上の使い捨て装備であるならば、むしろユニット化は余計なコストを上昇させるだけとも言えます。ノーメンテで長期間の運用を保証するために、生物の構造のそれを模倣するのはおかしな話ではありません』
テレサの解説を聞いて、再び通路に視線を戻す。
確かに、そう言われれば納得できない事もない。自己再生、自己修復を行うとはいえ、生物の体というのは外部からのメンテナンスを受けないまま何十年、ものによっては何百年も運用される。場合によっては極低温の深海で100年以上生きる珍しいサメの話を聞いた事がある。
この宇宙船はそういう設計概念なのだろう。最初から部品交換をあてにせず、一体成型により一つ一つの部品の耐久性を限界まで引き上げた、代謝を行わない疑似生物。このサイズの船を収めるドックなんて限られるし、そもそも一度宇宙の旅に出発したら補修の当ても当然ない。壊れた所で修理する事も、最悪部品調達だってままならないのなら、最初から考えないというのも一つの手だ。
なるほど。ちょっとびっくりしたが、これはこれで効率的な考えなのかもしれない。少なくとも現代社会にはそぐわない思想ではあるが。
「なるほどね……」
『もっとも、完全に修理、修復が必要ないという訳ではないでしょう。細やかな補修を行うドローンの存在が前提で、そういったものが徘徊している可能性はあります。ご注意を』
「オッケイ」
遠回しに油断するなよ、と釘を刺されて、私はちょっとどきりとしながら操縦桿を握った。しかし、これどっちに進めばいいんだ?
とりあえず適当に、右に向かってみるか。時折、パヂパヂと照明らしきものが点滅する廊下を進んでいく。
一応、まだ動力は生きているらしい。となると多分、扉も開くのだろうけど……やったらめったら開けて回るのは危険だろうな。
きょろきょろしながら進むと、何やら壁に図形や文字らしきものを見つけてキャタピラを止める。
「船内部の案内図かな。どれどれ」
ライトを向けて照らしてみるが……。
「よ、読めない……」
残念ながらそういう事である。しかも劣化だったり解像度が悪いというのではなく、そもそも書いてある文字が私の知るそれではない。日本語は勿論、英語ですらない。最近町中でやたらと目にする中国語でも韓国語でもないし、一体なんだコレ?
「テレサさんは読める?」
『うーん。確証はありませんが……ロシア語じゃないですかね、これ』
「そっちの言語かあ……」
道理で馴染みがない訳だ。というかそうなるとこの船、はっきりいってしまうと共産圏の船って事か?
普段利用しているホームの設備は、地味にそこかしこに英語で注意書きがあったりするので、恐らく日米系。そもそも違う経済圏の船って事か。
まあ、経済圏が違っても同じ人類、敵対してるって事は……いや、どうだろうなあ。下手したら宇宙にでても飽きもせずドンパチしてた可能性もある。
ああいや、決めつけは厳禁だ。そもそもこれはゲーム、現実の関係をそのまま持ち込んでいるとも限らない。一旦この事は忘れよう。
「テレサさん、ある程度は読める?」
『うーん。私の知っているそれとかなり違うので断言できませんが、どうやらこの先に格納庫がある、と思しき記述があります。一旦そちらに向かわれてはどうでしょうか』
「本当? その情報が一番欲しかったんだ、助かる」
格納庫って事はホームって事だろう、とにかくそこまでたどり着けば一安心だ。意気揚々と奥へと向かう私を、横からテレサが道案内してくれる。
『そこです、そこの角を左に。それで左側の、二番目の扉に入ってください』
「はいよー」
壁にごつんとぶつかりながら方向転換。言われた通りに、コクピットを左に。
頭の中のマップを組み合わせると、多分宇宙船の機首部分の中央部、普通の航空機であれば操縦席があるあたりの後ろぐらいに格納庫があるらしい。レイアウト的には降下艇とか船外作業機が収容されているのかな。
だとしたら割と広いはず。ワクワクしながらシャッターの前に立つと、放射線状に切り込みが入った円形の扉がうにゅるん、とスライドして開いていく。
中は真っ暗だ。おっかなびっくり進んでいくと、背後ですぼまるように扉が閉じ、段階的に格納庫に照明が灯った。
「おおぅ。アナーキー……」
『なかなか独創的なデザインですね』
そこに広がっていたのは、有機物な凹凸によって構成された不気味な格納庫だ。ガントリークレーンやハンガーラッチ、キャットウォークといった基本構造は同じなのだが、そのいずれもがまるで高熱で炙られて溶けたように、複雑な凹凸を帯びて一体化している。床の滑り止めさえも、干上がった川底のような有機的なうねりを帯びていた。
今にも影から地球外生命体が姿を現しそうなグロテスクともいえる景色に、おっかなびっくりしながら先に進む。
《新しいホームを認識しました》
「……色々思う所はあるけれど、ホームとして使えるのは間違いないみたいだね」
『ですね。一旦機体をハンガーに預けて降りましょう』
テレサの言葉に、私はごくり、と唾を飲んでハンガーを見た。
……大丈夫だよね? 預けている間に勝手に有機物っぽく改造されたりしないよね?
信じていいんだろうな??
「え、ええい、ままよ……」
しかしながらいつまでも突っ立ってる訳にはいかない。覚悟を決めて、私は機体をハンガーに収容させた。