ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
予想に反して、ハンガーのシステムは何の問題もなく機体を受け入れた。
コクピットを開くと、自動的に高さを合わせたキャットウォークへと乗り移る。振り返って機体を確認すると、まんまるな機体をアームがしっかり固定しているようだ。
やはり基本的な仕様はよく知るハンガーのそれと変わらないらしい。
『よっこいしょ、っと。ふう、やっと人心地つきました。……それでショウさんはなんで銃を持っているんです?』
「け、警戒だよ警戒。未知のエリアだしね」
コクピットから引っ張り出してきたアサルトライフルを構えながら、周囲を油断なく警戒する。
いやホントに、今にも物陰から黒光りする宇宙生物が大量に現れて襲い掛かってきそうなんだもの。まあ本当にそうなったら銃で抵抗するよりコクピットに逃げ込んでハッチを閉める一択なんだが、一応ね。
ああいやでもあのシリーズ、脱出船にのったら先回りされてるのがお約束だしな……。
「ブルブル」
『?? 何をそんなに警戒してるんです? 変なショウさん』
しかしながら、テレサは全くこの景色に違和感を覚えていないようだ。彼女からすれば、生理的嫌悪感を伴う黒光りする有機的な凹凸も、ちょっと変わったデザインにしか見えないのだろう。
たったかたー、とキャットウォークを小走りで降りていく彼女に続いて、私も下に降りる。
うねるように凸凹した、水平一辺倒ではなく穏やかに隆起する床を歩いて、部屋の中央に向かう。そこには見慣れたホームと同じく、カスタマイズ画面にアクセスするための端末が聳え立っている。それだってなんかこう不気味なデザインで、いかにも人類と相いれないタイプの宇宙人が使う端末って感じだ。黒くてでこぼこしていて、どことなく蟻塚に見えないこともない。
それでも機能はやはり一緒らしく、近づくと自動的に空間ディスプレイが投影される。
「うーん。まあ後は慣れか……」
『あっ、ショウさんショウさん、何か新しいアビリティが手に入ったみたいですよ?』
「なんだって?」
テレサの言葉に画面を覗き込むと、確かにディスプレイにはでかでかと優先表示でメッセージが刻まれていた。
《アビリティ:オプションブースターを入手しました》
「おぉ……」
『ふむふむ。どうやら、私達のホームとは規格そのものは一緒ですが、使われている技術には差異があるようですね。こちらには存在しないテクノロジーが、共有される形で追加されたようです』
「なるほど。アサルトコアの企業別パーツみたいなもんか」
まあさっき想像した通り、基盤となる経済圏が違えば特異な技術も違うだろうしな。労せず、新しいテクノロジーが手に入った事そのものは有難い。
それにしてもオプションブースターかあ。
「名前からしてもう面白そうだ。どんな効果なんだ?」
『まあ文字通り、オプション装備の性能強化のようです。レーダーやセンサーの出力が上がったり、とか。幅広く対応していますね』
「それはいい、夢が広がる。あ、でもそれだったら、こっちにあってそっちにはない独自技術って何なんだ?」
『スペシャルゲージの最大値を増やすタンクとか軽減装置とか、そのあたりみたいですね』
なるほど、なるほど。
つまりこちらはゲージそのものを増やして補助装備の割合辺りの効率化を目指したのに対し、あちらさんはエネルギー消費は同じでも性能を強化して結果を向上させたと。
やりたい事は一緒なのにアプローチが違うのは面白い。
つまり両方採用すればウハウハという事だ、やったね。
それにしても、性能強化か。どのぐらい増幅されるのかな。
カタログをパラパラ流しながら、ステータスを確認してみる。
「ふむ……ふむ……へえ、なるほど。……あっ」
『……どうかしました? また何か思いつきました?』
「えっへへへ、まあそんな所」
ふとピコーンと閃いたのは、いつぞやチャレンジして失敗した事。そう、ビーム攻撃の空間転移である。
量子転送装置を手に入れた時思いついて試したものの、転送装置の出力不足で実際にはうぉっ眩しっぐらいで終わってしまったものだが、このオプションブースターとやらを使えば実現可能なのではないか?
『ビームの転送ですか……いや流石に無理ですよ。いくら強化するといっても何倍にもなる訳じゃなくて、1割か2割強化といったところでしょうし』
「いやいやいや、私だってそこまで夢を見ちゃあいない。いや実はね、ホネホネばっかりのエリアを歩いていたせいか、ちょっとこんな構造を思いついてね??」
言って、私はカスタマイズ画面でカタカタ。
ふふふふ、レッドスカラベを動かしていて色々私も新しい知見があったのだよ。確かに、人型は汎用性が高く、未知のエリアを探索する際の適正に優れている。正確には、パイロットが人間である以上、人型が一番応用が利くといったほうが正しいのかもしれないが、ともかく、人間からすれば非人間型というのは特化型、という事になるのだ。
しかし特化も極めれば汎用になる。弘法筆を選ばず、極限まで突き抜けた特化性能はあらゆる状況をぶちぬく槍になるのである!
多分。
そう思って設計した機体を見せてみるが、テレサの反応はいま一つだった。
『え……えぇ……?』
「あら、不満?」
『不満っていうか……ええ……?』
画面を覗き込みながら何度も首をひねるテレサ。レッドスカラベの草案を見せつけられた時みたいに卒倒する事こそないが、やたらとしっくり来てない様子。
「駄目かなあ」
『いやあ……別にそういう訳ではないんですが。……メタルインセクトヲカイハツシタヒトモマスターミタイナシュミシコウダッタノデショウカ……』
「なんて?」
『何でもありませんよ?』
なんかちょっと早口でボソボソいっていたがよく聞こえなかった。
まあ、テレサに限って私の悪口とか言ってる訳がないし、まあ気にしないでおこうか。
『それじゃあ、早速開発にとりかかります?』
「そうだね……でも今日大分遅いしなあ」
見れば、時計の針は結構遅い時間を刺している。いつもより大分時間オーバーだ。
それに、別の事情もある。
「やっぱりやめておくよ。無理して作っても、明日は乗れそうにないしね」
『? ……あっ、そういえば、そろそろでした』
私の言葉に、テレサもそうだった、と手を打って相槌を打つ。
「うん。トーナメント優勝のインタビューが、明日あるんだ」
そうなのである。
ビルドロボオンライン初のトーナメント、その優勝者へのインタビュー。それは当然オンライン上で行われるので、残念ながら部屋から、という訳にはいかない。いつものようにネットカフェに出かける必要があって、時間帯も考えると明日はちょっと普通のプレイはできそうにないのだ。
「残念だけど、次の機体はまた時間がある時にゆっくり設計する事にするよ」
『わかりました。それでは、今日はこのままお休みに?』
「うん。お疲れ様、おやすみなさい、テレサさん」
ぱたぱた、と手を振りつつログアウト処理を実行する。
笑顔で手を振るテレサの姿がブラックアウトしたのを確認して、VRヘルメットを頭から外す。
途端に、現実の景色が目に飛び込んでくる。
「ふぅー……」
寂しい独り暮らしの部屋の光景。微妙に片付いていないそれに目を向けて、ぼそり、と私は呟いた。
「……ファンシーショップ、覗いてみるかあ」
美味い具合に金髪赤目のマスコット縫い包みでもあるといいんだけど。
視線を向けると、テレビの横で終了処理中のゲーム機がピコピコ点滅していた。
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