ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
そんでもって翌日。仕事から帰った私は、手早くシャワーを浴びて髪を整えると、小奇麗な衣服に袖を通し、買ってきたネクタイを首に巻いた。
まあインタビュー自体はゲームのアバターで行われるので、あくまで気分。でもその気分が大事だと思うのですよ。
「うーん、ネクタイが綺麗にまけない……」
何度やってもまるっこくなってしまうネクタイの結び目に悪戦苦闘しつつ、時間が近づいてきたので諦めて出発。いつものネットカフェに顔を出すと、ゲーム機を起動してヘルメットをかぶる。
テレサの姿がない、無人のホーム。
有機的な質感の内装にゲンナリしながら画面に触れると、ちょっと特殊な表示が出た。
「うん? このホームからはマップに出れないのか」
どうやら、ここから直接出撃する事は出来ないらしい。ホーム間の転送機能は使えるので、他の所から出撃してくれ、という事なのだろう。
以前抱いた、オフライン専用のマップなのではないか、という疑惑はこれでほぼ確定になった。あとで、攻略サイトの掲示板あたりに情報を流そう。
「まあいいや。それより、運営から伝えられたコードは、っと」
PCにメールで届いたコードを、ヘルメットを脱いで確認しながらうちこむ。このコードは今回インタビューが行われる特別エリアへの入室パスワードだ。入力すると、転送先に新しいエリアが追加される。
「トーナメント参加者特別ホーム、と……。よし、これで間違いないな。転送!」
視界が虹色の光に包まれる。
それが晴れた時には、私のアバターは見慣れた、しかし知らないホームへと転送されていた。
「ほへー……」
好奇心にかられてきょろきょろと周囲を見渡す。
というのも、ホームは基本的なレイアウトは共通だが、場所によって特色がある。森の地下にあったホームは内部が若干木の根っこに浸食されていたし、工業地帯のホームは真ん中にデカデカとメガフレームのサンプルが鎮座していた。そんな感じで、地上の雰囲気を若干反映しており、おかげで今、どこのホームにいるのか分からなくなる事はない。
今いるホームは、なんかこうやたらとサイバーな感じがするホームだ。部屋を構成するフレームの間に見えるのは岩とかコンクリではなく、何やら真っ黒な空間。その向こう側を、無数の数字やワイヤーフレームらしきものがウネウネ変化しながら飛び交っており、電脳空間、という雰囲気を演出している。
多分、ゲームでは実装されていない領域か、運営専用のホームなのだろう。なんかワクワクしてきた。
インタビューまではまだ時間がある。運営のホームならハンガーに未発表の機体が鎮座しているかもしれない、とふと思いついた私は、周囲を歩き回りながら検分する。
と、そこで、他にもプレイヤーがいる事に遅れて気が付いた。
すらりと背筋を伸ばして立つ、黒いヘルメットをかぶった女性のアバター。私はそのプレイヤーに心当たりがあった。今日のインタビューは優勝者と、そして準優勝者も呼ばれている筈だからだ。
「あ。こんばんわ」
「どうも、お久しぶりです」
とりあえず挨拶すると、あちらも丁寧にお辞儀を返してくる。
「テミスさん、でしたっけ。どうも、ショウです」
「覚えていてくださいましたか。はい、テミスです。ご機嫌よろしゅう」
彼女はテミス。
トーナメント決勝戦で戦った、オブシディアン・トレーサーのパイロットであり、同時に決勝ではゆるぎなき殺意を持って襲い掛かってきた相手である。
しかしながら、こうして話す限りでは穏やかないいとこのお嬢さんといった感じだ。少なくとも、今現在は私に思う所はない様子。ちょっと安心した。
しかしながら、そういった内心が態度に出ていたのか。小さく首を傾げるテミスさん。
「あの……何か?」
「ああいや。その……トーナメント決勝では、ほら。凄いやる気だったから、てっきりなにか憎まれてたのかな、と少しドキドキしていて……」
「あら」
正直に答えると、彼女はびっくりしたように手を口元にあてた。そういう仕草も、やはり上品なお嬢様らしい、と言ったら偏見だろうか、これは?
「まあまあまあ。そんな事はありませんよ? ショウさんとお会いしたのは、あの決勝の場が初めてですし……」
「そうなんですか? でもその割に、ものすごい恨み言を吐かれたと思ったんですが。貴方、貴方って」
人に真正面からあんな風に「死ねえええええ!!(意訳)」されたのは初めてだったので流石に忘れられそうにない。あれが勘違い、という事はないと思うのだが。
「……あっ。す、すいません、それはその、私の考えが及ばなかったというか……」
「はぁ」
「そ、その、貴方と、貴女をごっちゃにしていたといいますか……ショウさんには本当に何も恨みはないんです。本当ですよ?」
私の言葉に、わたわたわた、と弁解を始めるテミスさん。その様子からは、演技ではなく本気で焦っている感じが伝わってくるが……はて?
なんか話がおかしいぞ?
「じゃあ決勝戦のアレは……?」
「ええと、その。あれはですねえ……貴方は貴女でも、その、ショウさんが使っていたと思われるサポートAIに対する恨み言といいますか……」
「サポートAI……テレサの事?」
首を傾げながら問い返すと、テミスさんはコクコクと激しく首を縦に振った。
「その、予選での機動要塞とか、その次の本戦における合体ロボやそれに使われていた極小連結機構とか、サポートAIを駆使したと思われる運営の想定外の機体に、お兄様が連日連夜、遅くまで残業する事になって……。顔もみるみるまに痩せこけてしまって、それでその……わ、わかってはいるんですよ? あくまでショウさんはゲームの仕様内で遊んでいただけで、むしろ唐突なレギュレーション変更などで被害を被った被害者側だという事は。でもそれもそもそも、AIが過剰なパフォーマンスを発揮したと思えば、その……」
「はあ……。なんか、その。すいません。御迷惑おかけしたようで……」
「い、いえ……」
お互い、なんか気まずくなって黙りこくる。
そっかあ……そんな事になってたのかあ。いやそんな気はしてたけど、マジかあ……。確かに突然のアップデートやらレギュレーション変更はムカついたけどさあ……。
まあでも開発側からすれば、変なグリッジとか見つけてそれで遊んでやがるプレイヤーは絶許になるのもまあ分かる。一応開発側からすればこういう風に遊んでほしい、というのはあって、それに沿ってゲーム全体をデザインしてるもんね。それを逸脱されたらまあ困る。
デザインが行き過ぎて、逸脱したプレイヤーの遊び方を片っ端から排除するのも問題ではあるけどね。確かにその塩梅は難しいか。
「でも、そんなに? 確かに私はテレサに結構機体設計を手伝ってもらってるけど……」
しかし、うーむ。別にうちのテレサがそんなに突出しておかしい訳ではないと思うのだが……。
「い、いえ、絶対可笑しいですって。だって……」
《プレイヤー:ショウ様。お時間になりました。準備がよろしければ、YESを押してください》
「お、時間だ」
テミスさんと話している所に、運営からのメッセージ。どうやらインタビューの準備が整ったらしい。
「あ、もうそんな時間。あ、そうだ、よかったらこれを」
ピコリン。
システムメッセージとは別の着信音。聞きなれない音に若干戸惑ったが、これって……フレンドの申し込み!?
「えっ、いいの?!」
「はい、これも縁です、その、ショウさんさえよろしければですけど……」
「よろしいよろしい願ったりかなったり! ありがとう!! 落ち着いたらまたメッセ―ジ送るよ!!」
わーい、友人を除けばビルドロボオンラインで初めてのフレンドだ! やったね!!
私は一しきりパタパタ手を振ると、運営からのメッセージに返事をした。
浮き上がったメッセージウィンドウに手を振れると、視界が光に包まれ始める。
そして完全に白く染まった視界が再び開けた時には、私はどこか、広いホールで椅子に座っていた。
見渡すと、少し間隔を開けた所に同じようにテミスさんが座っているのが見える。彼女はインタビューに備えてか、しゃきんと背を伸ばし、どことなく触れ難いような硬い雰囲気を纏っている。切り替えが早いなあ。
そして反対側には、見覚えのあるバーチャルアイドルの姿が。
『どうもー、ショウさん、テミスさん、いらっしゃいませ! 今日の司会を担当させて頂く、ラプちゃんでーす。よろしくぅー!』
「どうも」
「よろしくお願いします」
二人そろって頭を下げると、かんらからからとラプちゃんは元気に笑った。
『二人ともおかたーい。もっとリラックスリラックス。それじゃあー、ビルドロボオンライントーナメント、優勝者インタビュー、はっじめっるよぉー!』
そうして、私の人生初の勝利者インタビューが始まったのであった。
んー、緊張する。
とりあえず炎上するような余計な事は言わないようにしよう。