ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
ビルドロボオンライン、初めてのトーナメント形式の大規模大会。
最初から最後までトラブルに見舞われた大会の総決算ともいえるインタビューが、今まさに電脳空間で行われている。
舞台は、惑星の衛星軌道上に存在する宇宙ステーション。これまでもゲーム広報などが新情報の公開に使っていた為、一般的なプレイヤーにはなじみの深い場所だ。
もっともそうでもないプレイヤーも居るののだが、それがよりによって優勝者というのが、また変な話であった。
『それじゃあまず早速、優勝者に電撃質問! 優勝して、どんな気持ちですかー?』
『うーん。嬉しいと同時にちょっと実感がないかな。いや、ゲームは基本的に下手の横好きで、こうして優勝どころか本戦トーナメントに残れた事もなくって……。ほんとに? って感じでまだ戸惑いの方が正直強いです』
『ほほーう。チャンピオンは謙虚だねえ。でも謙虚も過ぎると煽りになっちゃうぞ?』
照れ笑いのように答える優勝者。
それに対する視聴者のコメントはというと。
《まあ、言いたい事は分かる。頭おかしいのは機体の方だったからな……》
《操縦技術なら赤い残像とかの方が上だったからなあ》
《いやあれはあれで人間にカウントしちゃいけないんじゃない?》
どうやら、単純な操縦技術で上位に残ったメンツが化け物ぞろいだったため、あまり反感を買っては居ない様子。
とはいえ、思う所もある人はいるようです。
《言うてほとんどの戦いが操縦技術以前の問題だったじゃん》
《バリア張りながらホーミングビーム撃ってくるとか操縦技術でどうにかなるもんじゃねーだろ》
《煽りか? 下手な私に負けたプレイヤーの皆さん、ねえ今どんな気持ちかって? くそが》
今の所、好悪半々といった所である。
しょっぱなから不穏な空気を漂わせつつも、インタビューは続く。
『しかし、テンペストゥス・サイレンでしたか。凄い機体でしたねー。あの曲がるビームとかビームバリアとかどうやって実現してんです? 秘密にするからちょっとだけ教えて欲しいにゃー?』
『ハハハハ、インタビューで秘密にするも何もないでしょう。まあいいか、特段隠すようなものでもないし。あれは量子転送装置っていうアビリティを使ったんですよ』
『ゲブハッ』
チャンピオンの発言に、事情を知っている司会が咳き込む。
一方、何の事か分からないコメント欄には困惑が溢れた。
《量子転送装置??》
《なんだそのアビリティ、知ってるか?》
《知らない。初めて聞いた》
そろって首を傾げるコメント欄のプレイヤー。
しかしそれも、次なる情報で驚愕と混乱に突き落とされた。
『え? え? それって……じゃ、じゃあまさか……』
『ええ。オフライン版のクラウド・センチピードを倒すと貰えるアビリティみたいですね。見た所、取得者は私しかいない感じなのかな?』
勿論、運営はプレイヤー:ショウがクラウド・センチピードを倒した事も、そのアビリティを獲得した事も把握している。ただ、ラプちゃんはあくまで司会として、一般的な表向きの情報しか与えられていない。新鮮な驚愕などのリアクションを見せて欲しいから……というのが運営の考えだったが、まあ、うん。ラプちゃんからすればドッキリにもほどがあった。
そしてそれはコメント欄も同じである。
《?!?!》
《??????》
《え、今、なんて言った?》
《前人未踏の攻略不能って言われたレイドボスを、オフライン版とはいえ撃破したって聞こえた気がしたんだが……ハハハハ俺の耳がおかしくなったかな》
《はははは冗談。一度挑んだ事があるけどガトリングガンの一弾倉を無敵バリアで弾かれたぞ、あれって所謂倒せない無敵ボスだろ?》
困惑を露にするコメント欄。現時点では、冗談、強がりとみる意見がほとんどだったが……。
『え、ええと、マジ……?』
『マジのマジ。えーと、そういえば確か倒した時にもらった称号が……あったあった、これかな』
ペポッ、とチャンピオンの名前の上に、称号が表示される。これまでは何も表示されていなかった枠に追加されるのは、金文字で彩られた『天を制する者』の称号。
間違いなく、レイドボスかそれに類するメタルインセクトを撃破した時に入手できる特殊称号であり、ビルドロボオンラインの廃プレイヤーでも知らない未知の称号であった。
《知らない称号が来たぞ????》
《え、じゃ、じゃあマジなのか、撃破不能レイドボスを倒したって》
《まてまてまて、大百足じゃなくて単に俺達も知らない謎のボスを撃破しただけかもしれんし……》
《どっちにしろ同じ事だろソレ!?》
忽ち混乱に満たされるコメント欄。勿論これは序の口である。
『……マジっぽいね。えと、その。どうやって倒したの……?』
『えーと。本戦トーナメントで使った合体機体がいるじゃないですか。合体形態は“アインXオフXソウル”って呼んでるんですけど、あれの強化改良型でメタりました。行動パターン掴んで麓に誘い込んで、対要塞用の超大型ミサイルぶちこんでもバリアをひっぺがして、こう。いやあー、強敵でした』
からからと笑ってその時の事を語るチャンピオンだが、その内容はちょっとさらっと流せるものではなかった。
《何が何で何て???》
《あの触手レイドボスの強化改良型ぁ!?》
《超大型ミサイルぶちこんで……バリアがはがれただけぇ!?》
《攻略不能のレイドボスVS野生のレイドボス、って事ぉ!?》
恐らくコメント欄に撃ち込んでいる全てのプレイヤーの脳裏に、絡み合う大百足と触手型ボスの姿が思い浮かんだ事だろう。ほとんどそれは怪獣大決戦の有様だった。
《それはそれとして……名前……》
《ネーミングセンスはないな》
それはそれとして冷静に駄目だしするプレイヤー達である。手厳しい。
『え、えーと……そ、そう、凄いですね! はははは……そういえば、ショウさんは毎度毎度面白い機体を製作してきてますけど、かなり高度なプログラミングで制御されてますよね。あれはご自身で? もしかして現実では超エリートプログラマー、とか?』
この話題は不味い、と判断したのか、露骨に話を逸らす司会のラプちゃん。とはいえ、それについては皆も気になっていたので、話題としては問題はなかったのだが……。
『ははは、まさか。私がアイディアを出して、AIサポーターのテレサに手伝ってもらってます。テンペストゥス・サイレンは制御OSも彼女が組んでくれましたね』
『ははあ、なるほど……え? AIサポーターが、プログラム? 制御OSも?』
『ええ。ほんとに優秀ですよね、彼女。最近は自由にさせてるんですが、色々独自に作ってるみたいです。まあ、彼女の力を借りたのは予選トーナメントで投入したギガントタイタンからで、それ以前は私一人でアイディアも設計もやってたんですが』
『……自由に、させてる? え?』
しれっととんでもない事を言うショウの発言に、ラプちゃん宇宙猫。
コメント欄もざわざわと騒めく。
《え? AIサポーターってそんな優秀か?》
《あ、やっぱ俺んとこだけじゃないんだ。うちのテレサも最近おしゃべりでさ。機体のカラーリングとか任せてる》
《え、うちの立ちんぼで話しかけないと何もしゃべらないけど》
《まってまって違うゲームの話してないかお前ら?》
テレサは優秀派といやそうでもないぞ派で真っ二つに分かれて混沌とし始めるコメント欄(この時の反応の違いがある種の分水嶺だったのだが、残念ながら気が付いた者はいなかった)。
司会は困惑しながらも、問題なさそうな範囲に話を切り替えた。
『な、なるほど。じゃああのビームアローとか曲がるビームとかビームバリアもサポーターのアイディアで……』
『いやそれは全部私が考えましたね。基本プログラムもこっちで。ブラッシュアップは頼みましたけど』
『あ、さいですか……』
梯子を外されて閉口するラプちゃんであった。
一方、コメント欄には深い納得の声が溢れる。
《やっぱ一番おかしいのはプレイヤーの方だったか》
《考えてみれば話が正しければビーム兵器がド産廃のころから偏愛してたんだろ? やっぱ頭のネジが二つか三つかまとめて飛んでるんだろうよ》
《でもさあ。俺達だって、あんなことできたらいいーなーとかちょっとは考えるじゃん?》
《考えるけどそれをオフラインで延々と続けるのは狂人だろ》
わいやわいや。賑やかなコメント欄を片手間に確認していたのか、ラプちゃんの目がキラリと光る。
『そ、そういえば、AIサポーターはオフライン専用ですし……つまり普段はずっとオフラインでプレイされているという事ですよね? それはなんでなんですか? 秘密兵器が正体バレしない為です?』
『え? ああいや、そうじゃなくて……。借りてる部屋の回線がPNGに問題があって、ネットサーフィンとか普通のRPGならともかく、ビルドロボオンラインは通信弱くて落ちちゃうんですよ。それでしかたなーく、オフラインで遊んでるんです。今も、ネットカフェからオンラインに繋いでますね』
『え、そ、そうなんですか……はあ……』
照れ笑いみたいに頭をかきながら答えるショウであったが、想定外の返事にラプちゃん、またしても宇宙猫に。
《おいおいおいおい、今時そんなクソ回線部屋あるのかよ》
《いや、無い事もない……のか?》
《えーとつまり、もし普通の回線だったら、あの機動要塞とか合体ロボが、普段からオンラインのフィールドを荒らして回っていた、って事……?》
《地獄の蓋は辛うじて閉ざされたって事か……》
くわばらくわばら、と安堵するコメント欄。それが見えてないのか、ショウはしれっと爆弾を投下した。
『あ、でも最近大家さんが回線の更新を試みていて、そのうちオンラインにも遊びに行けるようになるかもしれませんね! 最近はまた面白い機体も作っているので、ネットカフェを使ってオンラインにお邪魔するのもいーかなーって思ってます。ふふ、楽しみです!』
《やめろ》
《こっちくんな》
《世界はレイドボスの遊び場じゃねーんだぞ》
コメント欄に溢れかえる悲鳴。
なんせ、トーナメントでビームバリアとホーミングビームで暴れ散らかした姿は記憶に新しい。そんなもんを作るようなプレイヤーが言う「面白い機体」とか絶対にロクなものではないという確信が全てのプレイヤーにあった。
皆、心の底ではテンプレ化している今のビルドロボオンライン最前線事情に飽き飽きしていたが、これは、これ、それはそれである。カンフル剤にダイナマイトを投入する奴はいない。
『は、はは、はは……そ、それは、楽しみですねぇ! っとぉ、すいません。二位のテミスさんにもそろそろお話を伺う事にしましょぉー! テミスさんといえばあ、決勝戦とそれまでで機体を使い分けていたのが印象的ですねえ! あれはやはり、策略的な?』
『ええと、はい。オブシディアン・トレーサーは初見殺しでこそ真価を発揮する機体ですので、それまで温存していました。勿論、それまでも手を抜いていた訳ではありませんが……』
露骨な話題変換。
以後、インタビューの時間一杯までラプちゃんとテミスの話が続き、ショウに話題が再び振られる事は二度となかった。
なお、ショウがヤバイ事しか言ってない事が後々発覚し、このインタビューは定期的に炎上する伝説の動画になるのだが、それはまた別の話である。