ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
死とは解放である。
ホームに帰還した私は、悪夢のような戦いから解き放たれた安堵を、思う存分胸に吸い込んだ。
「ふぅううーーーー…………び…………っくりしたあ……」
まだ瞼の裏に蠢く黒いシルエットがこびりついている気がする。額に手をあてつつ目をパチパチさせて、ようやく恐怖の残像が薄れていく。
人心地ついてから、ハンガーに目を向ける。
当然と言えば当然だが、機体は尻尾の先だけのこして完全に消滅してしまっていた。まああの出力の炉心暴走だからな……宇宙船が吹っ飛んでなければいいんだけど。
「いやそれにしてもG型の敵とは……運営も人が悪い……」
ログを改めて確認すると、あの敵は“スクラップサバイバー”というメタルインセクトのようだ。サバイバーというには数が多すぎませんでしたか?
いやしかし、うーん。
蟻とか蜘蛛とかムカデとか、メタルインセクトというだけに蟲型が多いこのゲームのエネミー。いつかはああいうのも出てくると考えておくべきだった。
いやでもなあ。
某地球防衛ゲームでも、クモとかミイデラゴミムシとかダンゴムシは出しても最後まで黒い悪魔は出さなかったろ、確か。ちょっとは絵面を考えろっていうんだ。
それともあれか? 某完全生物の通称が宇宙ゴキブリなのでGの方を出しましたー、ってか? 担当者出てこい、ビームぶち込んでやる。
「んぎぎぎ……お?」
そんな釈然としない気持ちを噛みしめていると、ホームのエレベーターに動きがあった。
2番ハンガーに戻ってくるのはテレサの機体だ。見た所大きな損傷もないその機体がハンガーに固定されると、コクピットから金髪の少女が降りてくる。
「あ、おかえり……」
『ショウさーん!!』
全速力でキャットウォークを駆けおりた彼女が、文字通り私の腕の中に飛び込んでくる。ぼふっ、と軽い衝撃を受けて、私は目を白黒させた。
「わ、っと、びっくりした」
『ご、ごめんなさい。でも心配で……もぉ! 自爆するなんて何を考えてるんですか! ぷんぷん!!』
「ごめんね。でもそのなんていうか、尊厳を守るためにはああせざるを得なかったというか……」
生きたままGにバラされるとか勘弁なのである。よってあれは自殺ではなく、人としての尊厳を守るための死……所謂尊厳死なのであって。言うなれば切腹とかハラキリとかそういう類である。多分。
あと私が生きてる限りテレサが無茶しそうだったしなあ。あそこでサクッと死んで撤退を促した方がいいとも思ったのだ。
そして見る限りそれは正解だったようである。よかった。
「いやあしかしほんとにびっくりしたねえ。まさかGとは……」
『私はショウさんがあそこまで取り乱したのにびっくりしましたけど……』
「それはね。ほんとね。ごめんね」
本当に申し訳ないというしかない。自分でもあそこまで取り乱すとは思いもしなかった、びっくりだね。
「この埋め合わせは後程必ず……」
『んもう、いいんですよそんな事は。それより参りましたねえ。あのメタルインセクト、なかなか厄介です。数も多いですが、思ったよりタフでした』
「そういやそうだね……」
確かに。言われてみれば、炎の直撃を食らっても即死せずに、そのままこっちにしがみついてくるぐらいの耐久性があった。扁平で薄っぺらくて、一見すると脆そうなのに意外としぶといというのは元ネタ譲りか。
『ショウさんの機体の火炎攻撃、強力ですがあれらを相手にするときは自爆の危険が大きくなって使えませんね。炎の壁で一時的に動きを止める事はできるかもしれませんが……』
「あの数だとビームアローも手数が足りないね。残念だけど、普通のライフルやマシンガンを持ち込むしかないかあ」
『それでなんとかなるとも限りませんよ。何せあの数です、ストッピングパワーが不足したらそのまま押しつぶされてしまうかも』
うーん、と二人そろって頭を捻る。
ええい、流石G。敵に回すと厄介この上ない。
大体なんであの部屋にたくさんいるんだ? 部屋主の残した塵とかを食べて増殖してるとかじゃないだろうな。元ネタは髪の毛でもなんでもエサにするっていうけど……まさか本当に宇宙船に潜んでいたGが長年かけて進化したとかいうテラフォーマノイド案件じゃないだろうな。
流石にそれはないだろうけど、うーん。
「殺虫剤プシューでくたばればいいんだけど……ん?」
流石にメタルインセクトには効かないだろうとは思うけど、そこでふと私は最近のCMのうたい文句を思い出した。
そういえばそもそも、現実のGは長きに渡る人間との闘争で薬剤耐性を身に着けつつあるから、最近は毒で殺すっていうより物理的に殺す、っていう感じの効果にシフトしつつあったはず。その原理が確か、凍結……つまり冷却だ。生き物である以上、体温が一定以下になれば耐性関係なく死ぬ、という原理だが……これを応用できないかな??
「ねね。炎、つまり熱に強いようならさ。冷やすのはどうかな?」
『冷やす?』
「そうそう、こうぐあーっと超冷凍、みたいな……どうかね?」
私の思い付きに、しかしテレサはちょっと渋い顔をした。
『そんな事言われても……どうやって冷やすんです? まさか液体窒素を持ち歩いて、それをぶちまけるんですか? そりゃあ、まあ、あんまり極端に冷やせばメタルインセクトだって壊れるでしょうけど……基本的に物質は温度を上げるのは簡単でも冷やすのは大変ですよ?』
「それはそうだけど……冷凍ビームとか、そういうの無いの?」
頭の上で昭和の傑作怪獣映画最終章を思い浮かべながら問いかけると、今度こそテレサははっきりと渋い顔をする。
『……冷凍ビームって。いやその、一応聞きますけどそれってどういう原理なんです?』
「えっと、その。メーザー砲のシステム切り替えみたいな」
『なんでマイクロ波放射装置が物を冷やすんです???』
はっきりと訝し気に、もっと包み隠さずに言えば馬鹿を見るような視線を浴びて、私はしょぼしょぼと口を紡いだ。
そっか、そうだよねー。
流石に冷凍ビームなんて、無いかー。
『いやまあ、強力な冷凍装置そのものはありますよ。液体窒素を運搬できるような。でもあれは中に入れた物を冷やすのであって……まさかメタルインセクトを閉じ込める訳にもいかないでしょう。凍る前に装置を壊されちゃいます』
「ううーん、そっかあ……ちなみに、こう、スプレーで冷凍ガスみたいなのは……」
『それもお勧めできませんねえ。射程を考えるとまだ銃や火炎放射を素直に使った方がよさそうですし、それだけの高圧ガス、万が一被弾したらエライ事になりますよ? ショウさんのプラズマ投射システムの一番優れてるときは、危険な可燃物を大量に運搬しなくていいという所です。懐に抱えているプラズマ炉心だって強固な外殻に守られていますし、意図的に暴走させなければ破損と同時にセーフティーが働いて機能停止します。従来の火炎放射器は燃料が被弾によって引火するのが特大の欠点で、それを克服したのにわざわざその弱点を再び抱える事はないと思いますが』
まさにメタメタのメタ。
徹底的に思い付きをテレサに諭されて、私はしょんぼりと肩を落とした。
「そうかー、駄目かー。そっかー……」
『そんなに落ち込まなくても……べ、別に冷却装置が駄目なアイディア、って訳じゃないですよ? ビーム砲とかにはですね、凄い冷却装置が使われていて。場合によっては数千度にも達する砲身が一分ぐらいで冷却できるのはこのおかげでですね……』
よっぽど私がしょんぼりしているように見えるのか、わたわたと慰めになってない事を口にするテレサ。まあそういう所、嫌いじゃないよ。
でもあんまし言われると余計に凹むし……ん?
「……(ピコーン)。……一応、確認するんだけど。その冷却装置って、その気になったらどれぐらい冷やせる? 絶対零度とかいける?」
『え? ま、まあ、絶対零度は無理ですが-200度くらいは楽勝で……』
「ちょっと冷媒について聞いてもいい?」
急に食いついてきた私に困惑しながらもコクコクと頷いて説明してくれるテレサ。
はふーん。発振器に使われている触媒のみならず、冷却に使われている冷媒もSF物質が使われてるのね。まあ、そうじゃないとあんなスラスターでひゅんひゅんで飛び回れたりしないか。現実のロケットがいかに推進機関の冷却に気を揉んでるかはちょっと齧った事があるし、あんな都市部の下水道を数メートルに圧縮したような超複雑な機関をプレイヤーに弄れるわけないもんな。簡略化の為にその辺はあえてリアリティを下げてる訳か。
いやでも、これで活路が見えたぞ。
「ふふふふ……よぉし、行ける、行けるぞ! これならなんとかできそうだ!」
『え? え?』
「くくく、見ているがいい、Gどもめ。貴様ら全員、氷河期にぶち込んで絶滅させてくれるわー!!」
はーーっはっはっはっは!
この私を怒らせたのが運の尽きだと思いたまえよぉー! げーげっげっげっげ!!
「さあ、そうと決まったらカスタマイズカスタマイズ! テレサさんも協力してくれたまえよー!」
『……なんだかよくわかりませんがショウさんが元気になったなら嬉しいです! はい、是非ご協力させてください!』
「ふふふ。まあとはいっても、基本構造は変わらないんだけどね。ここをこうして、こうして……ふふふ!」
お腹のプラズマ炉心を外して、新しく冷却装置を搭載する。んでもって色々細かい調整をして、と。
いいねいいね、思い付きだけど形になってきた!
「よぉし、あとは建造ボタンを……ポチッとな!」
決定ボタンを押すと同時に、作業アームが機体の復元と改修を始める。この調子なら、明日の朝には仕上がっているだろう。
「さて。今日はこの辺りにして、私はもうそろそろ落ちますわ。お休みなさーい」
『はい、おやすみなさい!!』
テレサさんにバイバイして、ゲームをログアウトする。
いやあ、なんかヤバイ目にはあったけど、結果的に新しい地平を切り開けそうだ。
上機嫌で後片付けをする私は、ふと、何かを忘れているような気がして首を傾げた。
はて、なんだったっけ。いやまあ、忘れてるぐらいだから大した事じゃないんだけど……なんだったかな?
その忘れているのが何かを思い出したのは、翌日の車の中での事だった。
「あっちゃあ。テレサに今日は来れない、って言うの忘れてたなあ……」
ネットカフェの駐車場に車を止めた私は、ぽりぽりこめかみをかきながら、記録媒体を手の中でにぎにぎした。
……ま、いっか!
事後承諾でも許してくれるでしょ、多分!!
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