ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
ミリタリー勢との勢力戦まで、あと5分。
試合が開始するまで、連携や戦い方についてテミスさん達と会話していた私だったが、しかし、あとわずか、という所で不意に変な茶々が入る事になった。
「……私だけポジション変更?」
『そうだ、野生のレイドボス』
通信先の声は、なんだか陰険な感じの若い男の声。なんだか眼鏡とオールバックっぽい雰囲気がする慇懃無礼な声の主は、今回のギルド連合のとりまとめの一人らしい。最上位、あるいは企業ギルドの重役ってとこか。
『トラブルで、参加ギルドの枠に穴が開いた。貴様にはそれを埋めてもらいたい』
『ちょっとまってください、ショウさんはうちのギルドが雇った傭兵ですよ。うちを通さずに勝手な事を言わないでください!』
横紙破りの指示に声を荒げるのはテミスさんだ。彼女は苛立たしい、といった様子を隠しもせずに、通信先に捲し立てる。
『大体いくらショウさんでもいきなりホイと一区画任されて守れるものですか! 嫌がらせのつもりですか、そんな事をやってる場合ではないでしょうに!』
『嫌がらせではない。野生のレイドボスならそれが可能だと判断した。あくまで勝利の為に、合理的に判断したまでだ。こちらとて、今回の一件における影響は理解している』
感情的に声を荒げるテミスさんと、至って冷淡に応えるメガネマン(推測)。テミスさんて声はすずやかな儚げ系だけど意外と熱血な感じだよね。ギャップが可愛い。
『なあに。そこの化け物は、幾度となく上位ギルドの大部隊を返り討ちにしている。この度も同じ事をやってくれればいいだけの事だ』
『だからといって……』
「まあまあ、喧嘩しててもここは始まらないでしょ。どっちにしろ人手が足りないなら、しょーがないでしょ」
話し合いは平行線とみて仲介に入る。見れば試合開始まであと数分。ここでくっちゃべってる場合ではない。
『でも……』
「デモも体験版もないってば。で、どこに行けばいい? あんまり遠いと間に合わなくなるけど」
『ここだ。今お前達の居る区画の隣だ。主戦場からは離れているが、だからこそある程度の戦力が迂回してくる可能性が高い』
ぱっぱぱっとマップが拡大表示されて納得。確かに、伏兵が回り込んでくるとしたらこのあたりになる。かといって、大多数が送り込まれてくる感じでもない。
多少戦力として当てになる奴を、押さえに単体で置いておきたい、というのもわからなくはないエリアだ。
「りょーりょー。とりあえず任せておいてくれたまえ」
『頼むぞ』
『ショウさん……その、こちらが片付いたら救援を必ずよこしますので、どうかご武運を……』
最後まで納得していないらしいテミスさんの心配そうな声に送り出されて、私は急ぎ担当エリアに向かった。ふひー、こいつの足だとギリギリ間に合うかな?
急げ急げー。
という訳で、砂漠をつっきって担当エリアに到着っと。
『目的地に到着しました。周辺地形のサーチを開始します』
「ほいほいっとな。TLS、カウントダウンは?」
『あと3秒です。2、1……試合開始』
プァー、とブザーがエリアに鳴り響き、視界に表示されていたウィンドウが点滅する。
楽しい楽しい勢力戦の始まり、って訳だ。
私はとりあえず適当な砂丘に身を隠しつつ、まずは早速偵察に入った。
「ドローン出して―」
『了解しました。ステルス偵察ドローン、展開します』
『ピキキィ』
機体の尾部の付け根から、砂地に向けて小型ドローンが排出される。円形のディスクに足が生えたような形状のそれは、毎度おなじみ自律ドローン君である。ステルス素材で作られたそれが、ちょこちょこ、列をなして砂丘を昇っていく。
『ピッキ、ピッキ、ピッキ、ピィ』
彼らの御仕事は戦場視察と座標伝達だ。あくまで観測ドローンで戦闘力は度外視しているので、脆いステルス素材でも問題はない。
私は有用なアイディアは延々と使いまわすタイプなのである。
「うし。んでこっちはサソリ沸かせないように、ちょこちょこ移動しつつ待機、と」
『候補地をいくつかマッピングしました。あまり隠れるのに適している場所は敵の間接砲撃の対象になると判断し、候補から排除してあります』
「ごくろー。いやあ、お利口さんだね」
飼い主に似ずに気が利くAIである。設計者に似たのかな。
今回の相手はミリタリーチーム、視界が通っていない場所への砲撃は得意とする所だろう。彼らのホームとは勝手が違うとはいえ、そのあたりは押さえているに違いない。
「って、お。早速か」
宙を見上げると、夜空を横切る光の線。ひゅるるる、という風切り音と共に、候補地から排除されたポイントが砲撃される。自走砲による阻止砲撃かな。
『今現在の砲撃から、敵支援砲撃部隊の現在地を把握しました。攻撃を仕掛けますか?』
「いんや、どうせ今頃撤収に入ってるから攻撃するだけ無駄だよ」
『本機の武装ならば撤収中の部隊を壊滅させられると思いますが』
淡々と攻撃を推奨してくるTLS。意外と殺意が高いね。
「それでもだーめ。支援砲撃部隊は無視できないけど、先にこっちに進出してる敵攻撃部隊を殲滅してからだ。情報を敵に与えるような事は極力したくない」
『了解しました。では、ギルド連合本隊に座標情報を送信します』
「よろしくー」
座標送信して数秒で、今度は逆向きに火線が宙を奔った。地平線の向こうで、真っ赤な花火が弾けている。夜だから爆発がよく見えて綺麗だね。
「対応が早い。やっぱギルドもおふざけではないか」
『だとしてもマスター一機にここを任せるのは非効率です。嫌がらせの類だと思われますが……失敬。会話の途中で失礼します、敵部隊の存在を確認しました』
「お、どれどれ?」
モニターに、やたらと解像度の低い暗視映像が表示される。かなり拡大しているらしいその映像には、砂漠にゴミのような小さな黒い影が点々とおちているらしい事だけが読み取れる。なんだこれ、全然わからん。
が、それは人間から見た話であって、TLSにはそれで必要十分な情報らしかった。
『敵侵攻部隊と思われる、主力戦車6、ロケット自走砲3を確認しました』
「りょーかい。んじゃここで私達がこれを全滅させれば、キルレシオは1:9って事か。上等」
恐らく敵はまだこちらの偵察ドローンに気が付いていない。今のうちにさっさと仕留めてしまおう。
「過剰冷却装置、コキュートス最大運転。システム、“コールド・アビス”起動」
『了解しました。敵座標情報入力。冷却装置最大運転、量子転送装置作動開始』
ごんごんごん、とコクピットの下から動作音が響いてくる。
今回、このスネークゴーストにはプラズマ炉心ではなく、ビーム砲などに使われている冷却装置を大型化したものが搭載されている。ビームの熱で真っ赤に灼けた砲身を瞬く間に冷却してしまうこの装置を、ただものを冷やす為だけにフル稼働すればその冷却能力はマイナス200度を軽く超える。もし人間なんか放り込んだら、凍り付くを通り越して粉々だ。
とはいえ、どれだけ冷やしたところで、それをただ投げつけたりするだけでは効果は薄い。なんせ熱を上げる方には制限はないけど、冷やす方はマイナス270度までという制限がある。熱量の法則として高い所から低い所に流れる以上、敵に到達する頃には大分温度が上がってしまっていて即時冷却とはいかないし、何よりマイナス200度を叩きつけたからとて瞬時に相手がそれぐらい冷たくなる訳でもない。
空想の世界ならともかく、現実には冷気は熱気に勝てないものなのである。
が、それを解決する非現実的な超テクノロジーがこの世界には存在する。
量子転送装置である。微量の質量を距離を越えて送り込めるこの装置を使えば、冷却装置の中のキンキンに冷えている冷媒を直接相手にお届けする事が可能である。そして、バチバチするプラズマ粒子とかと違って、低温の冷媒は非常に目立たない。多少のタイムラグがあっても、敵が周囲の異常に気が付いた時には手遅れ、直接凍結させる事はできなくても、機体のあちこちが急激な温度変化で異常を起こして行動不能になる、という訳である
「論より証拠。まずはやってみせましょう、みせませう。コールド・アビス……照射!」
『了解。コールド・アビス照射します』
キィイイイ、とスネークゴーストの腹部が冷たく青い光を放ち、肋骨部分に仕込まれた転送装置が怪しげに明滅する。
この時、私やテレサの想定外の事象が起きた。
冷却装置内部において、冷媒が一番冷えるのは質量あたりの体積が一番増える時である。大抵の冷却装置では霧状に変化させる事で体積を増加させる訳である。
話は変わるが、量子転送装置は一回の転送ではほんの僅か、ごく微量の、それこそ粒子のような質量しか飛ばせないという限界がある。
その転送した微粒子状態の体積比が、その冷却装置の内部で実現できるそれを遥かに上回っていたとしたら?
さらにそんな状態の粒子を、複数の量子転送装置を搭載し連続稼働で大量に送り込んだらどうなるか?
その答えが、ドローン達の視界を通して示されていた。
「うっわ……ナニコレ」
『……想定をはるかに上回る冷却能力ですね』
カッチンコッチンである。
一瞬雪原と見まがうほどに、白く染まった砂漠の一角。そこを行進していた装甲車輛の軍団は、完全に凍り付き氷像と化していた。どう見ても芯までカッチンコッチン、パイロットは間違いなく即死である。
『動力反応等完全に停止を確認。動力炉の奥まで凍り付いているようです。仮にバッテリーなどがあっても、あの過冷却状態では活動を停止しているでしょう。敵機、撃破です』
「おっかしいなあ、ここまでやるつもりはなかったんだけど……」
『こちらも想定をはるかに上回る結果に困惑です』
珍しくTLSが感想を口にする。私としては、あくまでデバフぐらいのつもりだったんだけど……まさかほぼ即死攻撃と化すとは。
『ビーム兵器の冷却装置を転用した事でスキルが何か影響を与えた可能性もあります』
「ああー。そういえば、最近戦術に影響を与えるようなスキルは貰えてないけど、レベルアップでスキルそのものは増えてるしね」
アップデート調整の結果か、使い勝手が極端に変わるほどの変化はないものの、冷却効率アップとかそういう補助スキルはちょこちょこ貰っている。なるほど、確かにそれらが影響して想定以上の結果が出たというのは考えられるか。なんせたくさん取ってるしね。
「まあいいや、想定以下ではなくて想定以上なんだし。良い方向に考えよう。とりあえず、ここの敵は全滅させたし、テミスさん達に合流しよう」
『了解しました。……警告、再び敵の砲撃を感知しました』
「おっ」
移動しながら頭上を見上げると、無数の砲撃が尾を引いて飛んでいくのが見えた。……思えばこれもゲーム的表現、って奴なのかな。リアルだと多分見えないんだろうし。
何はともあれ、これで敵の支援砲撃部隊の座標が確認できた。
『敵支援砲撃部隊の座標を特定しました。攻撃しますか?』
「勿論。やっちゃって」
『了解しました。コールド・アビス、照射します』
再び、スネークゴーストの腹部が怪しく輝く。
それ以降、敵の砲撃が飛来してくる事は、二度となかった。
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