ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
担当地域の敵勢力を壊滅させ、ついでに支援砲撃部隊にもちょっかいを出した私は、一路テミスさん達の担当区域へと応援に向かっていた。
サラサラとした砂の海を、フレームをくねくね、泳ぐように移動していく。その向かう先では、夜の闇がぼんやりと燃え上がる地平線によって照らし出されていた。
『こちらはなかなか派手にやっているようです』
「そうだねえー……」
見ている今も、砂丘を飛び越えるようにして多連装ロケット弾が火を噴いている。それが降り注いだ自陣営側でいくつもの爆発……それに紛れるように、青いスラスターの光が宙に舞い上がった。反撃と言わんばかりにライフル弾の火線が対岸を掃射、夜闇に爆発の華が咲く。
かと思ったら青白い閃光のようなものが一瞬で夜を駆け抜け、光速飛翔物体がぐらりと傾いで地面に墜落。動力炉の誘爆らしき光と共に、一際大きな爆発が広がる。
派手派手な戦争の様子を遠巻きにしながら、私はひえー、と口を半開きにした。
「ドンパチやってるなあ」
『反応を見るに自陣営側が劣勢のようです。敵戦力を解析、重戦車2、主力戦車5の健在を確認。重戦車は極めて分厚い複合装甲を持ち、一般的に流通しているライフル系の武装で致命傷を与えるのは困難かと思われます。武装は主砲のレールガンに加え副砲を二つ装備。火力・装甲共に非常に優れています』
「いわゆる、人型ロボットの技術で作った戦車って訳かあ」
とりあえず、まずは危険を排除するとこから始めるか。ま、一応、その前に連絡入れておくけど。
「テミスさーん。今から敵部隊を殲滅するんで、ちょっち離れててね」
『……ザッ……ョウさ……もう……戻って……?』
「ほいほい。聞こえてるなら距離を取ってね」
一応安全地帯にいるという前提で、再びコールド・アビスを照射。一瞬にして戦場が沈まりかえる。
だが……。
『主力戦車の反応消失。しかし、重戦車2は今だ動いています。動力停止までは至らなかった様子』
「ちょっと大きいし装甲も分厚いからなあー」
それに複合装甲って、色んな素材を詰め込んでいるし。中には熱伝導率が低い素材もあるだろうしな。まあ、即死しなかったというだけで大分動きは鈍くなっているようだし、あとは本来の予定通り、直接攻撃で仕留めるとするか。
砂丘を盾に、するすると敵機に近づく。辛うじて動いているらしい敵の副砲がこちらを狙って砲撃してくるが、FCSが誤動作しているのかその狙いはあまり正確ではない。これならこのまま回り込んで接近できそうだ。
間近で見る敵重戦車は、なるほど確かに強そうな威容を誇っていた。前高そのものは一般的な機体より低い8m前後だが、箱型のそれはとんでもなく装甲が分厚い。ステルス性も考慮したのか角ばったフラットな装甲の砲塔には、真正面を捕らえた大口径のレールガンに加え、上部装甲の左右にそれぞれ中口径のキャノン砲が搭載されていた。多砲塔戦車なんてミリタリーを謳う連中が装備していいのかなー、とはちらっと思ったが、このサイズだと人間が顔を出すようなキューポラはないし、まあリモコン機銃がサイズ相応に巨大化したようなもんだと思えばいいか。現実だって最近は砲塔にミサイルランチャー装備してるのも有り触れているらしいし。
しかしながら、そのご立派な砲塔は今やバキバキに凍り付いて動きそうにない。辛うじて副砲が旋回してこっちを追いかけているようだが、その動きもぎこちない。即死せずとも、本来の狙い通りデバフとして冷気が機能しているようだ。
「なかなか分厚い装甲のようだが……果たしてこの一撃に耐えられるかな?」
ある程度接近した所で、スラスターをちょいと噴射して急接近し、機体を大きく前後反転させるように入れ替えて、長い尾を振り回す。その先端には、闇を切り裂くビームチェーンソー!
弧を描いて振り回された一撃が、まず一台の重戦車を捕らえる。デザートカラーに塗装されたその装甲を、唸りを上げる荷電粒子の刃がバリバリと切り裂いていく。ゾウ型相手でもオーバーキル気味だった一撃の前では、分厚い複合装甲も耐えられないようだ。
「まずは一台!」
動力炉まで深く切り裂かれ、炎を噴き出して炎上する重戦車。その炎に紛れるようにして、スルスルと二台目に接近し……ズンバラリ!
チェーンソーがオーバーヒートして使用不能になる前に、生き残っていた敵重戦車を全滅させる。
凍り付いた平原に燃え上がる重戦車。冷気と灼熱が吹きすさぶ砂原で、私は機体の鎌首をもたげて生き残りを索敵した。
「敵は?」
『このエリアにおける全ての敵反応の掃討を確認。念のため、ドローン達に残敵確認を行わせます』
「よろよろー」
見れば早速、テチテチ歩くドローン達が周囲の索敵を行っているようだ。あとは彼らに任せていいだろう。
「あとはよろしく頼む、こっちは部隊に合流する」
『ピキィ』
かしこまりましたー、とでも言いたげに片足を上げて挨拶するドローンの仕草にちょっと笑みをうかべつつ、向こう側で集結してるであろうテミスさん達に合流する。
見れば、生き残っている機体はわずかに4機。その中にテミスさん本人が入っているあたり、流石というかなんというか。
とはいえなかなか激闘だったのは間違いないようだ。バラックレイドの分厚い正面装甲に、いくつも弾着の黒い痕が残り、歪に装甲が凹んでいる。
『ショウさん、助かりました。敵機は?』
「全滅させた。生き残りがいないか一応ドローンにチェックさせてる」
『おいおいおい、マジっすか……』
どうやらライザー君も生き残っているらしいが、無事とは言い難い。左腕を根本からフッ飛ばされた機体が、人間くさい仕草でこんこん、と額を叩いている。
『わかっていたつもりっしたが……あの大部隊を一瞬で? 何やったんすか一体』
「そこはまあ秘密兵器が火を噴いたというか。そっちもなかなかやるじゃんか」
少なくとも、ロボットは一般的に戦車に比べれば全面投影面積も装甲厚も戦車には遠く及ばない。あっちはとにかく投影面積の最小化と装甲厚の集中に特化した兵器だから、正面から撃ち合ったら絶対に不利だ。一応全高を生かして先に相手を見つけるとかトップアタックで比較的装甲が薄い上部を狙うとかはあるけども、部隊同士の総力戦になるとそういう小技は働きづらい。
ましてや相手は別のゲームとはいえ実戦で慣らしたミリタリーガチ勢だ。決して弱敵ではない。
『いやまあ頑張ったつもりではあるっすけど……ショウさんに言われても嫌味かなって……』
「え、ええー」
『わかってるんすよ? そういうつもりはないって。でもねえー』
あれぇー。ライザー君とは仲良くなれたつもりだったのに、なんかこう、急速に心の距離が離れていく気がする……なじぇ……。
『まあまあ、ライザー。流石は野生のレイドボス、ってところですね』
「別にレイドボスやってるつもりはないんだけどなあ……それより、この辺りの敵は仕留めたけど、本隊の方はどうなの?」
『……苦戦しているようです。報告によれば、かなりの数の重戦車が投入されており、戦闘ヘリも多いようです。こちらの強みを殺された上で、装甲と火力勝負に持ち込まれればきついかと……』
ふぅんむ。
まあこの展開も不思議ではない。ロボットゲームだっていつだってロボット最強ではないからね。個人の才覚に依存した特殊兵器よりも、圧倒的多数の凡人によって運用される通常兵器が戦場を支配している設定のゲームだって珍しくはない。
某機動戦士シリーズで私が最強の量産機だと思っているおとめ座のあれだって、極論言うと人型の戦車だしなあ。
ま、いいや。そんな事は最初から分かっていた上で、私達はロボゲーが好きなのである。それを理解する気のない不躾な輩に、ビルドロボオンラインを荒らされてたまるかっていうの。
「よし。そんじゃ私は本隊の救援に向かうよ。テミスさん達は落ち着いたら合流してね」
『申し訳ありません、あとはよろしくお願いします』
『……俺っち達が合流する意味、あるかなー?』
テミスさんの声援を受けて、私は本隊の戦闘エリアに向かった。そちらは目に見えて激闘の真っ最中。あの修羅場に紛れて行って、果たして私がどこまで仕事ができるかなー。
「うーん、なかなか大変そう。頼りにしてるよ、TLS」
『お任せください、この戦場の支配者は誰であるか、万人の目にもわかるように見せつけてみましょう』
「……ライザー君になんか変な影響受けた? あんまり気張らなくていいからね」
妙な事を言い出した対話型OSに苦笑しつつ、私は砂丘の影を縫うようにして戦地に向かった。
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