ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
まあなんていうか、今更ながら子供っぽかったとは思う。
これまで遊んでいたゲームがサ終する事になって、移住先を求める所までは自然な流れだった。問題はその移住先の先住民と、一部の元プレイヤーが諍いをおこした事である。
一口にミリタリー嗜好と言っても色んなのがいる。中には同じ趣味の人間から見ても迷惑な奴もいる訳で、こういう流れになるのはある意味必然だったのかもしれない。
もとより、現実に存在したものを根拠とするミリタリーと、空想に思いを馳せるロボ好きは、似ているようで全く違うものなのかもしれない。
そんな感じであれよあれよとお互いがヒートアップし、ついには戦ってケリをつけよう、という流れになったのは良かったのか悪かったのか。まあ、あのまま延々と互いの悪口を言い合っているよりは建設的だとは思うけれども。
それにまあ。
一度、ロボットと派手に戦争して見たかった、と思わなかったと言えば、嘘になる。
そんなこんなで、元々別ゲーで存在していたコミュニティをそのまま持ち込み、新規勢にして大勢力となった我らが“雷鳴電撃隊”は、ビルドロボオンラインのギルド連合との総力戦に望んでいた。
「少将。現状はこちらが有利なようですな」
「うむ」
司令部中枢が置かれた装甲列車の内部で、私はチームメンバーと共に戦況を確認していた。ちなみに少将だの大佐だのはあちらでの呼び名だ。こっちのゲームに階級システムはないのだが、我々はこちらの方が慣れているのでそのまま呼び合っている。
100VS100の大規模勢力戦。プレイ時間だけを見ればこちらが圧倒的に不利だが、こういった大規模戦はかつてのライトニングサンダーウォーでは日常だった。組織的な戦闘経験でいえばこちらのほうが大幅に有利。
また、ビルドロボオンラインで流行していた対人戦テンプレートが、こちらに対して効果が薄いのも幸いした。基本的に高機動とWライフルによる安定性を重視したアセンは、耐弾性を重視した戦闘車両と相性が悪い。さらにこちらは隊列を組んでの編隊戦闘を基本としており、個で突出してくるテンプレ機は恰好の鴨であった。
これに関してはリアルロボが弱いというよりも、噛み合わせの話ではあるのだが……。気勢を上げる大半の我が軍プレイヤーは、ロボ勢恐れるに足らず、と口汚く罵っているようだ。
「しかし正直、拍子抜けですな。もう少し手ごわいかと思ったのですが」
「環境が硬直している時のテンプレートはまあこういうものだ。変な角度で殴られると一気に瓦解する。私達もそうだったろう?」
「まあそうなんですが……」
大佐を諭しながらも、まあ正直私も同じことを考えないでもない。
このゲームのトップ層が集うギルドの連合というから、もうちょっとこう、強敵だと思っていたのだが……。
「少将、お耳に入れたい事が」
「ん、なんだね?」
と、そこで司令部のオペレーターから連絡があった。まあ司令部といっても、私と大佐、そして彼しかいない小さな司令部なのだが。100人は機甲部隊を編成するには少なすぎる。
「エリアEを侵攻していた部隊が全滅した模様です」
「ふむ? ……敵の情報は?」
エリアEは戦闘エリアの最西端だ。主戦場には遠く重要なエリアではないが、だからこそ陽動として必要最低限の、しかし敵として無視できない規模の戦力を伏兵として送り込んでいた。敵がそちらに過剰に戦力を割り振ればよし、放置するならそのまま回り込んで背撃を行う。そういうつもりで部隊を送り込んだのだが……。
「突然通信が途切れたので、情報は全く……」
「ふむ。敵が過剰戦力を投入したという事か。であるならば正面の脆さも納得だ。どうやら敵司令官は戦術眼に乏しいようだ」
「ですな。このまま正面から押し切ってしまおう」
犠牲前提の戦術など現実では到底褒められたものではないが、ゲームであれば問題ない。生贄にひっかかった相手の司令官の無様を笑い、その下で戦う羽目になった兵士に同情する。
ともかく戦いは戦いだ。このまま押し切らせてもらおう。
「?! しょ、少将……!」
「どうした、なんだ? 生き残りから連絡があったか?」
「ち、違います……後方の支援部隊Cの反応が、突然……。こちらからの呼びかけにも応答がなく、壊滅、いや全滅したものと思われます……」
オペレーターの報告に、大佐と顔を見合わせる。
支援砲撃部隊は、装甲化されていない自走砲が中心の部隊だ。敵の反撃に耐えられないからこそ、最後方に配置し、砲撃完了後は速やかに配置転換を行って反撃に備えている。
それが全滅した?
「敵部隊に回り込まれたか? それとも退避が間に合わなかったのか?」
「わ、わかりません……」
「わからない?」
要領を得ない言葉に首を傾げる。
「配置転換の状況について連絡をしていたのですが、突然通話が途切れて……やや遅れて、機体の反応も全て途絶しました。他の部隊にも注意を促していますが、敵の奇襲部隊を発見した、という報告は来ていません」
「……普通に考えれば、退避が間に合わずに砲撃を受けた、といったところだろうが……そんなミスをするような連中か?」
「さっきから妙な報告が続くな……全部隊に一応注意を呼びかけろ」
装甲列車の窓から戦場を見る。現在の主戦場である中央エリアでは、苛烈な火力の投射が互いに行われている。残念ながら攻撃ヘリ部隊は壊滅したものの、敵はこちらの多連装対地ロケット自走砲の弾幕に頭を押さえられており、たまにじれたのか突出してきた機体は対空砲が適切に対処する。地上では重戦車を中心とした機甲部隊が、反撃を試みた敵に対して苛烈な火力を浴びせる事でその出先を挫いている。今もドゥン、と暗闇に放火の光が輝くのを見て、私は小さく頷いた。
結局の所、人型ロボットというのは浪漫であって、戦争に使えるものではない。その技術を応用して作り出した戦車や自走砲の方が強いのは自明の理なのだ。現実の戦争では無尽蔵に押し寄せるドローンによって機甲戦力は厳しい戦いを強いられてはいるが、それはあくまで一側面に過ぎず、このような正面からの交戦においてドローン程度が出来る事は大して多くはない。
結局戦争を左右するのは、火薬の投射量なのである。ドローンはあくまでこれまで存在しなかったニッチに適合したのであって、それ一つで戦争の形そのものが変わるという事はない。従来通りの機甲戦力もまた、疎かにしてはならないのだ。
なんて、考えたりもするが。
まあ、生き死にのかかっていないゲームの世界の話だ。そこまでシビアという訳でもない。
結局、ビルドロボオンラインプレイヤーはガラパゴス化した環境に適合しすぎて、我々に対応できなかった、というべきだろうな。
「それにしても、なかなか派手だな。怪獣映画を見ているようだ」
「ははは。ある意味言い得て妙ですな。……ん?」
「……妙だな。前衛部隊が妙に静かだ」
見れば、最前面で敵の進出を押さえている筈の部隊の動きが妙に鈍い。おかげでレーダーには、少しずつ展開してくる敵部隊の影が近づいてきている。すぐさま阻止砲撃が行われるが、これ以上接近されると友軍を巻き込む可能性が出てくる。
私はすぐさまインカムを手に取り、部隊に通信を繋いだ。
「どうした、トラブルか? 動きが悪いぞ」
『……る……すべ……凍……(ブッ』
「おい? どうした、何があった?」
しかし通信が繋がったのは一瞬で、意味不明な譫言のような言葉を残して通信は切れてしまう。それから何度かけても通信は繋がらない。
傍らのオペレーターが、ぼそりと通達した。
「ぜ……前衛部隊の反応を消失……」
「何だ、何が起きている?」
こういった状況ではレーダーは当てにならない。窓から戦場を見渡して、自分の目で状況を確認する。
……いつの間にか、戦場は静まり帰っていた。
唸りを上げてロケット砲弾を連射していた自走砲が、今はぴくりとも動かない。対空砲は空をにらんだまま沈黙し、常に回転している筈の滞空レーダーは停止している。
デザートイエローに彩られた機甲戦力の半分近くが、まるで眠ってしまったかのように動かない。そればかりか、一つ、また一つと反応が消えていく。見た目には何の変化もないまま、動力炉が停止、あるいはパイロットが絶命していっているのだ。
「これは……一体……」
「少将! 戦場に、何か白い靄のようなものが……」
「なんだと……」
言われて気が付く。確かに地面に、うっすらと白い霧のようなものが立ち込めている。夜の砂漠、薄暗い上に常に砂埃が舞い上がっているような環境だから気が付かなかったが、あれは、もしかして冷気……?
そこまで思い当たって、私はようやく、機能停止した装甲車輛が悉く凍り付いているのだという事に気が付いた。
即座に通信機に怒鳴りつける。
「総員退避! このエリアを放棄し、後退しろ! ここは危険だ!」
『いいえ、貴方達はここでおしまいです』
スピーカーで、女の声が響いた。
立ち込める靄の中から、ゆっくりと何かが起き上がる。
いつの間にか自陣営の真ん中に入り込んでいたそれは、蛇の骨を思わせる真っ黒な機体だった。頭部と思しき場所から吐息のように冷気を吹き出しながら、カメラアイがぎらりと光る。
こいつがこの状況を生み出したのか?
指示を出すまでもなく、まだ生き残っている部隊が砲撃を加える。だが……。
「効いていない!?」
重戦車の主砲であるレールガンが唸りを上げるが、敵の姿に変化はない。副砲、機銃、あらゆる攻撃が叩き込まれてたちまちのうちに爆発に包まれる敵の姿だが、煙が晴れるとそこにはまったく無傷の敵の姿があった。
「……立体映像だ! 砲撃やめろ、撃つだけ無駄だ!」
「し、しかし、でしたら敵の本体はどこに……ああっ!?」
敵の姿が増える。
一つ、また一つと立体映像が増殖し、私達をせせら笑う。
恐慌にかられたように命令を無視して発砲したその砲撃が、味方部隊に命中。あちこちで同士討ちが勃発する。そればかりか、未知の冷気は収まる様子を見せず、次々に生き残った部隊が犠牲になっていく。
夜闇に木霊する笑い声。
いくつもの立体映像が重なり、大きくなっていく。巨大化した蛇の化け物が、私達の乗る装甲列車を真上から見下ろしていた。
「う、うわああああ、撃て、撃て!!」
大佐の指示で装甲列車が砲撃を開始するが、その全ての攻撃は敵を通り抜けていく。巨大な敵が嘲笑うように顔を近づけ、フゥ、と白い息を装甲列車に吐きかけた。
「無駄だ、相手はただの映像だ、落ち着け!」
「……ち、違います! 敵のブレス攻撃により外気温が急激に低下っ。主動力炉の出力減少、機関各部に異常発生!」
「ば、馬鹿な……っ!? ただの映像ではないのか……?!」
見上げる先、装甲列車の窓やモニターが凍り付いていく。気が付けば、自分達のアバターも床から足まで凍り付き、もはや逃げる事もかなわない。辛うじて生き残ってるステータスモニタには、主動力炉の出力が急速に低下し、断線によって車輛各部が制御不能になっていく様がありありと表示されていた。
凍り付き、ひび割れ、白く曇る窓の向こうで、巨大な影の赤い瞳だけが爛々と輝いている。
「な、なんだ、なんなんだこの化け物は……」
そこで私はふと、風の噂に聞いた話を思い出した。
ビルドロボオンラインには、常軌を逸した化け物が出ると。それはプレイヤーどころか運営にすら牙をむいて自由気ままに暴れ回る、このゲーム全てにとっての脅威なのだと。
そいつの名前は、確か……。
「野生の……レイドボス……」
やがて首元までが氷に覆われ、アバターのHPが全損する。
暗転。
《スネークゴースト に 撃破されました》
《指揮官機撃墜により 勢力戦は ギルド連合の勝利になります》
《お疲れ様でした》
《GAME OVER》