ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
「とまあ、そういう感じで、襲撃した先にたまたま指揮官が居たみたいでね。ゲームエンドと相成った訳さ」
『…………そ、そうか』
その日の夜。私は友人に、オンラインでの出来事についてお喋りしていた。
テミスさんに誘われて参加した勢力戦。相手はミリタリー勢という事もあって、戦車や戦闘ヘリが中心の部隊編成というのがこれまたなかなか興味深い。
まさに異種格闘戦といった有様であった。
全体的に見れば、ビルドロボ側が大分押されていたように思う。まあ、日々勢力戦に明け暮れているといっても、装甲と火力で的確に制圧してくる装甲兵器の相手は勝手が違うだろう。さらにいえば、そういった集団での作戦行動においては相手の方が明らかに優れている感じはあった。
サービス開始してから一年程度のゲームプレイヤーと、少なくとも五年以上運営していたゲームのガチ勢では、ゲームシステムが違うとしてもやっぱり実力差が顕著という事だな。
ついでに言えば、ビルドロボオンラインのシステムだと実の所戦車とか凄い簡単に作れるからねえ。始めたばかりのプレイヤーでも戦力をそろえやすい。実際の所、汎用性や継戦能力に問題があるからそれだけじゃ上手くいかないのだが、あくまでPVPに限定するなら関係ないしね。
いやあ面白いもんを見せてもらった。
『……それでその後、どうなったんだ?』
「ん? まあ、ゲーム終わって普通に解散したよ。意外と空気も悪くなかった、今後は彼らもおとなしく一プレイヤーとしてゲームに馴染んでいくんじゃない?」
いやまあ正直意外だったと言えば意外だったのだが。
いくら鉛玉コミュニケーションとはいえ、もともと売り言葉に買い言葉で今回のような事態に発展したのもあって、戦いで決着がついても揉めるとは思ったのだが。
試合後、代表者同士での閉めの挨拶ではギルド側もミリタリー側もいたって穏やかに意思疎通していたように見える。仲がいい事はよい事だ。
『……お互い理不尽の犠牲者って事で通じるもんがあったんだろうな……』
「ん? なんて?」
『いや何でもない。んでその新型機体のお披露目、周りの反応はどうだったんだ?』
「あー、それな。聞いてくれよぅ」
新型機体、つまりコールド・アビスを搭載したスネークゴースト。個人的にはかなりの会心の出来だったのだが、どうにもこうにも、周りの反応はイマイチだった。
「冷凍ビーム的なものをせっかく再現できたのにさー。周りの反応なんか小さくて……冷凍ビームだぞ? そりゃまあ、昔のSFとか見たいにビビビビー、って光線浴びせたらパキパキ凍り付いていく感じじゃないけど、冷凍兵器だってそりゃ浪漫じゃない? なのになんかこう、リアクション薄くてさー」
『お、おぅ……』
「それ! なんか皆そんな感じの反応だったんだよ。盛り上がってくれた人は一人もいやしない。テミスさんもちょっと口数少なかったしさー……浪漫の分からん連中だ……」
『……ま、まあ、うん。それは違うんじゃないかな? びっくりして理解が追いつかなかっただけだと思うぞ、うん』
そうかなー。そうだろうかー。
『実質単機で勢力戦を終わらせちゃった訳だしさー。皆お前の新型機にビビってたんだってば。流石チャンピオン様だ』
「そ……そう? えへへへ……照れるからやめろよう」
友人に素直に褒められるなんて珍しい、ちょっと嬉しい。
しかし、うふふ、そうだな。
私ってばチャンピオンなんだよな……今回だってそれを宛てに増援に呼ばれた訳だし、えへへ。期待には応えられたという事なのかな?
それならまあ、いいか。
『……ところで。その機体を今後も勢力戦にぶちこんでいく予定は……?』
「いやあ、実際の所まだまだ改良は必要かなー。今回は即応性の低い装甲車輛部隊が相手だったのと、夜の砂漠っていうもともと寒冷な場所だったから効果覿面だっただけで、やっぱり状況を選ぶ武器だとは思う。実際に使ってみたら思ったより強力だったとはいえ、想定していた弱点はそのままだったし」
残念ながら、やはり人間相手に使うにはまだまだ問題が多い。
一つは、冷却に時間がかかるという事だ。今回は初見殺しだったので相手が対応できなかったが、冷気デバフがかかるまで何十秒かどうしても時間がかかってしまう。こうしてお披露目した以上、相手も今後は外部センサーを気にするだろうし、気温が急激に下がり始めたら上空に逃げる、とやられたら効果は殆どなくなってしまう。装甲車輛は飛べないが、今回だって戦場から離脱されそうになっていたしね。
二つ目は、今回は相手が総質量の小さい装甲車輛だったから凍らせられた、という点。ロボット兵器は現代兵器から比べると無駄が多いが、その分総質量が凄く大きい。それに移動手段としてスラスターを備えているのがほとんどで、これが熱を発する訳だから、極端な話足とか凍らせられてもスラスターで逃げ出しつつ解凍できてしまう。
勿論、これらの問題を踏まえた上で、それでも相手の性能を落としたり行動パターンを制限できるデバフ兵器として採用したのだからそれでいいのだが。元々は、テミスさん達の支援のつもりで持ち込んだわけだし、単独行動強いられて思惑と違う結果になったけど。
そんな訳で、少なくとも今回のような大金星は今後は無理だろう。
「いやあ、浪漫を形にするのは大変だよー。ま、今回はゴキブリみてーなメタルインセクトを殺虫するのが主目的だったから、早速オフラインでかちこんでみるけど」
『そ、そうか……。ところで、冷凍兵器は微妙でもその原型になった火炎放射は死ぬほど強そうに見えるんだけど……』
「そうだねー。思い付きで終わらせるのは勿体ないし、また何か考えてみるよ」
『……余計な事いったか?』
ん、またなんかブツブツいってるな、マイフレンド。最近、私の知り合いはやたらと独り言が多い気がする。そういう季節か?
「ま、私もいつまでもそっちの足手まといになるつもりはないから、次に遊ぶ時までにいい感じの機体を仕上げておくよー。次はいつ頃遊べそう?」
『色々いいたい事はあるが……まあ土日の夜ならいつでも。でも毎度ネットカフェだと高くつくだろ。大丈夫か? そのあたり』
「それはそう、だいじょばない。部屋の回線がどうにかなればいいんだけどねえ……」
大家さんにも相談したがまあなかなか上手くいっていないようだ。
ま、それはそれでテレサと遊ぶからいいんだけどね。
「ほんじゃ、そろそろこのあたりで。まったねー」
『まったなー』
電話を終えて、時計を確認する。
結構長話をしてしまった、今日はさっさと風呂入って寝よう。
んでもって、次の日も一日労働に励んで、その夜。戻ってきましたオフライン。
昨日、外に持ち出した記録媒体をゲームにセットして、と。
「テレサさーん、ただいまー」
ひょっこりと、オンラインで最後に利用した工業地帯のホームに顔を出す。ここもすっかり懐かしの感じだ。
他と比べても段違いに広いホームを見渡しながら、きょろきょろと歩いて回る。
いつもだったらこのあたりでテレサがひょっこり顔を出すのだが……。
「?」
おかしい。いつまでたっても彼女の姿が見えない。
展示してあるメガフレームの影に隠れてる……訳でもないな。
どうしたんだろ。
「もしかして宇宙船のホームにいるのかな」
考えてみればオンラインでの私の履歴がオフラインで反映されている筈もないか。
私は端末を操作して、宇宙船のホームへと移動した。まあこれ肉体は移動してないらしいけどね、まあ遊んでいる私からしたら同じことか。
という訳で、ちょっとしたローディング時間を挟んで宇宙船へGO。
相変わらずのデコボコした気味の悪いホームを見渡して、私は見慣れた金髪の後ろ姿を見かけてちょっとほっとした。
「あ、いたいた。テレサさん、おーい」
『…………』
「? テレサさん?」
呼びかけても反応がない。というか、なんで地面に座ってるんだろ。
首を傾げつつ、私は彼女に近づいてもう一度声をかけた。
「テレサさん、どうしたの。無視しないでよー。ねえ(回り込む」
『…………(ぷいっと顔を背ける)』
何やら体育座りをしているテレサさんに呼びかけるも返事はない。正面に回り込んだら顔を背けたあたり、こちらの事を認識していない訳ではないようだが。
なおも呼びかけても返事はない。
可愛らしく頬を膨れさせて、彼女はどうやら徹底抗戦の構えの様子。
これは……もしかして……。
「……拗ねてる?」
『!』
私の呟きに反応して、ようやく彼女がこっちを見てくれた。膨らませたままの頬を赤くして、じろり、とルビーのような視線が批判的な色を帯びる。
えーとこれは……。
「……もしかして、昨日これないのに何も言わなかったからヘソ曲げてる、とか……?」
『(ぷすー)』
どうやら図星らしい。
いやしかし、これまで急な用事が出来てゲームにログインしなかったとか、そもそも毎日必ずログインしなければいけないみたいなマイルールがあった訳ではないし……まあ言ってなかったのは悪かったけど。
だいたい初めての事じゃないぞ? そんなに不貞腐れる事か。
困惑していると、再びそっぽを向いたテレサが、口を尖らせたままようやく言葉を発してくれた。
『……随分楽しかったようですね』
「え?」
『その声色を聞けばわかります。この間のトーナメントとやらで知り合った方々と、たのしーくやってきたみたいじゃないですか。よっぽど楽しみにしてたんですね、私に連絡をするのを忘れるぐらい。えーわかってますよ、私一人と遊ぶより、大人数で遊んだ方が楽しいに決まってますもんね。今日もお友達の方々と遊びにいってきたらどうですか? 私はここで一人寂しく膝を抱えてますから、お気になさらず』
うへえ。
口調とは裏腹に滅茶滅茶恨めしそうな視線でこっちを見てきている。AIの表現力もここまで来たか。
じゃなくて。
「ご、誤解だってば。いや誤解でもないんだが……昨日はたまたま言い忘れただけで。そんなに怒る事ないじゃないか、これまでだって別に、毎日一緒に冒険する約束って訳でもなかったし」
『怒ってなんかいません。私にショウさんの行動を制限する権限なんてありませんから。ふーん』
「怒ってるじゃないか……」
なんだかとてもめんどくさいこじれ方をしている模様。まあでも、なんか珍しいな。基本的にこっちに従順なテレサがこういう行動に出るなんて。
ロクに関係も深めてない相手にこういう行動をとられたらめんどくさいだけだが、相手はテレサだ。普段の彼女を思うと愛らしくもある。これはこれで、こっちに甘えている、という事なのだろうか。
私は苦笑しつつ、ぽんぽん、と気が付けば彼女の頭を撫でていた。
「悪かった、悪かった。今後は気をつけるよ」
『べ、別に私は……だいたいこんな頭を撫でたくらいで……』
「そうか? じゃあ、これならどうだー。うりゃりゃー」
両手を某暗殺拳法のように構えて、一刺し指でテレサをちょっと強めにツンツンする。コントローラーではなくて触感グローブをつけているからこそできるコミュニケーションである。指先に返ってくるぷにぷにした感触を感じながら、ひたすらテレサの肩とか腕とか脚とかつっつきまわす。
『ちょ、ショウさん、あは、あはははは! ちょ、やめてください、くすぐったい!! んもー!』
「わはははははは」
じゃれあっている内に、ふてくされてるポーズも忘れてカラカラ笑いだすテレサ。うむ、彼女はやっぱり笑ってるほうが似合うね。
『もう。そうやってすーぐ私を丸め込みにかかるんですから』
「ふははははは。悪い友人を持った君が悪い」
『はいはい。私が悪うございました。負けです、負け。全くもう。デモソンナトコロガスキ……』
そしてまた何かボソリと言っているが気にしない気にしない。聞き逃しても問題ないって事はどうせ大した事いってないんだろうし。
何はともあれ、テレサが機嫌を治してくれたようでよかった、よかった。
『それにしても、なんです今の? はっ、まさかショウさんは一子相伝の暗殺拳の使い手だったとか?』
「え? いや猫カフェとかマイクロブタカフェとかでね、こうやってつっつくと喜ぶ子がけっこういてさ」
『……そうですか。私はつまり、猫とかブタさんみたいなものだと。へえ』
あれ。
またちょっとご機嫌斜め? なんで?
再びじっとりし始めたテレサに、私は小首をかしげるのであった。