ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

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第十九話 合い挽き肉おひとつ

 

 思わぬ所から、ビームの威力不足を解決する活路が見えてきた気がする。

 

 私は早速仮設を実証するべく、ちょうどいい感じの敵の姿を探し求めた。

 

「おっ、コイツよさそうだな」

 

 画面の中には、真っ白なカサカサした感じのシルエット。見ればこいつは背中に大きな点がデカデカと存在を主張している。他のシルエットと比べても一回り以上大きいし、多分蜘蛛特有の大きなお腹に高出力のジェネレーターを搭載しているとかそんな感じなんだろう。

 

 この森も奥にいけばそんなのがいる訳か。まだ遭遇していないが、普通の交戦距離で出会っていたら火力の乏しい私の機体はむしゃむしゃバリバリされていたかもしれない。

 

 が、今はただの的である。でかくて動きが鈍い分、狙いがつけやすい。

 

「今だっ!」

 

 ズキュウン、と放たれるビーム。

 

 それは確かに白い点を射抜き、直後画面が真っ白にホワイトアウトした。

 

 動力炉を射抜いての大爆発。森の一角に上がるキノコ雲を確認して、私はコクピットでガッツポーズを取った。

 

「おっし! いける! これならばビーム兵器でもガンガン雑魚を倒せる!」

 

 恐らく同じことは他の武器でもできて、なんならスナイパーライフルとかだったら弱点を射抜かなくても威力にものを言わせて雑魚を倒す事ができるのだろう。

 

 だが、狙いやすさではビーム兵器、というかフォトンビームの圧勝だ。環境の影響を受けないフォトン粒子は、狙った所にまっすぐ飛ぶ。

 

 さらにはこの森の環境。こんな所では通常の弾薬は狙った所まで届かない。まさにビーム兵器の為に誂えられたような戦場だ。

 

 開発はこれを想定して威力を低く設定したのか? いや、まさかな。多分他の事情だろうが、なんにせよ利用しない手はない。

 

「よぉし、じゃんじゃんいくぞぉ」

 

 ビームの冷却を待って、次の獲物を狙う。

 

 じっくり狙って……狙撃!

 

 再び森の向こうで巻き起こるキノコ雲。ジェネレーターの派手な誘爆に私もにっこり。

 

 いいねいいね。安全地帯から、こっちだけ一方的に攻撃してワンショットキル。やりたいのとはちょっと違うが、これはこれで楽しい。爆発も派手で賑やかだしね!

 

「はっはっはっは、怖いか、怖かろう! 反撃も出来ずに死んでいくがいい!!」

 

 調子にのって悪役みたいなセリフをつぶやきつつ、次の標的に狙いを定める。

 

 しっかり狙って引き金を引く……その瞬間、カササ、と標的が身動きした。姿勢が変わって、狙いがずれる。

 

「なんっ」

 

 結果、ビームは弱点に命中せず、ただHPを削っただけに終わる。

 

 なんだか悔しかったので、オーバーヒート覚悟で即座にもう一度射撃し、トドメ。

 

 パリーンと割れるようにして消滅するメタルインセクトのシルエットに、私はケッと毒づいた。

 

「へっ、雑魚が。手間取らせやがって」

 

『コンコン』

 

「なんだ、今取り込み中なんだ。またあとにしてくれ。…………?」

 

 装甲をノックする音にぞんざいに返事した私は、ふと我に返って首を傾げた。

 

 悪役ロールに浸りきっていたのでうっかり流してしまったが、なんだ、今の? ここは高さ100mくらいある大木の枝の上だぞ。

 

 画面の倍率を元に戻して振り返る。

 

 そこには、全長10mくらいのハエトリグモみたいなメタルインセクトが、前足をトトン、トトンと一定のリズムで動かしながら、つぶらなお目目でじっとこっちを見つめていた。

 

「…………」

 

『…………』

 

「や、やあ、本日はお日柄もよく……ぬわああ!?」

 

 挨拶で誤魔化そうとしたものの、そんなのが通じるはずもなく、飛び掛かってきたハエトリグモに押し倒される私の機体。画面の中で大きく振りかぶられるハエトリグモのキバの先、ギラリとドリルみたいなものが煌めいたのを見て私は竦み上がった。

 

「う、うわーー!!」

 

 セーフティウェポンのナイフを引き抜いて振り下ろされる牙を受け止める。必死に抵抗するもガガン、ガガンと牙が振り下ろされる度に、ヂュイイイン! とドリルでナイフが削られていく。ついにはその掘削に耐えかねて、ボキリとナイフがへし折れた。

 

「あっ」

 

 そして抵抗を文字通り粉砕したハエトリグモは、ドリル状の牙を今度こそ機体の胸に突き立てる。

 

 モニターの向こう側で、装甲が削られる身の毛のよだつような音が響く。数秒後、ぴしり、とモニターに罅が入ったかと思うと、そこから鋭く回転するドリルの切っ先が飛び出してきて……。

 

 VRの映像は、そこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 プレイヤー:ショウ、DEAD。

 

 死因:ミンチ。

 

 

 

 

 

「ミンチよりひでぇやって言うけど、ミンチも酷い死に方だよね……」

 

 戻ってきたホームで、私はげっそりと床に這いつくばる。

 

 中央エレベーターでは、ガラガラガラ、と愛機が運び込まれてきた。

 

 見た目にはほとんど損傷がないが、胴体に立派な風穴が開けられている。敵の急所を射抜いて遊んでいたら、自分が急所を貫かれて死ぬとか世話ないね。

 

 幸い、何体からそれなりの大物を仕留めたから収支決算では黒字ではあるが……。

 

「狙撃に夢中になりすぎた。ちゃんと周囲を警戒しないとああなる訳ね……」

 

 考えてみれば狙撃は二人一組で、スポッターが標的の支持とか周囲の警戒をする訳である。さらに言えば、狙撃手本人よりもスポッターの方が大事、と言われるが、その理由を身をもって思い知った感じだ。

 

 なんていうか、自分が安全地帯にいて一方的に攻撃できると認識すると、人間、アホになるんだな。狙撃に集中するから周囲の警戒もおろそかになるし。

 

「ヒートゲージの冷却中ぐらいは周囲に気を配らないといけないね……」

 

 意外とソロプレイで狙撃は向いていないのかもしれない。

 

 とりあえず時間を確認すると、もうそろそろ良い時間だ。修理にも時間がかかるし、今日はこのぐらいで終わりにしよう。

 

「んー。課金してハンガーを増やす事を考えてもいいかもなあ。いや、それだと加速度的に出費が増えるから、今の稼ぎだと難しいか」

 

 もっとビームでドドーンと敵を倒せたらいいのになあ。

 

 そんな事を妄想しながら、私はログアウト処理に入った。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 翌日。

 

 本日も業務を終えて帰宅すると、何やらアパートの一階に見慣れない人の姿。

 

 安全ヘルメットをかぶった作業員と、それを見守る管理人さん。

 

 ああ、そっか、そういえば今日だったか。

 

「こんばんわ、管理人さん」

 

「あ、こんばんわ、小鳥遊さん」

 

 肩にショールをかけて、長い黒髪をゆるくまとめた年若い管理人の女性。彼女は私に軽く頭を下げると、作業の様子に目を向けた。

 

 配電盤の前であつまって、何やらがちゃがちゃしている作業員の皆さん。これは、やはり。

 

「お知らせがあった、ネット回線の強化ですか?」

 

「ええ、まあ。この感じだと今日の9時ぐらいに作業が終わるんじゃないかしら。ただちょっと、色々難しいみたいで、少し様子を見るって話だから途絶えたりしたら御免なさいね」

 

「いえいえ」

 

 内心思う所はあるが社交辞令で謙虚に振舞う。いや、今時あのネット回線速度ってどうかと思うよ? ダイヤル時代じゃあるめーし。

 

 それはそうと、ほう。9時からか。

 

 なるほど。

 

 私は管理人に頭を下げてその場を後にする。ようし、時間までに風呂と食事と洗濯と、一通り終わらせておかないとな。

 

 

 

 

 

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