ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
これまで作ってきた決戦兵器と比べると、原始的ともいえる大ナタぶん回し機。
しかしながら、シンプルであるというのは弱いという事ではない。むしろ、私の平々凡々な腕前だと、多分これぐらいがちょうどいいのだ。
そういう訳で、私は出会ったメタルインセクトを片っ端からぶった切ってご機嫌であった。
「ふんふんふーん、蟲にあっては蟲を切り、プレイヤーにあってはプレイヤーを切り。ふんふんふーん」
『何物騒な鼻歌を歌っていらっしゃるのですか……』
「いやあなんとなく」
カッシャカシャカシャ、リズムよく歩く後ろをついてくるテレサ機。彼女のマシンガンがまだ一度も火を噴いていない所を見ても、今回の機体が割とアタリと判断してもいいのではないか?
「いやあしかし、近接戦特化機も案外いけるんじゃないかー」
『まあ、このエリアの敵には確かに向いてるかもしれませんね。数は多いですが、射撃武器はもっていませんし』
テレサの言う通り、このあたりのエリアに出現するメタルインセクトはスピードが速く、出現する数が多いのが特徴だ。普通に戦うと俊敏さや地形に翻弄されたあげく、無数の敵にたかられて頭からガジガジ齧られてしまう……という末路になるのだろう。だからこそ、敵の接近に対してカウンターを取る形の重近接戦闘型が有効、という事か。
他のマップでは火山以降、遠距離攻撃を仕掛けてくるメタルインセクトがしばしば出現する。火山のヤドカリだとか、鉱山のオオヤドカリとか、雪山の猿とか。確かにそういう相手には射撃の方が楽なんだろうな。
どちらかというと、雪山からさらに進むと射撃メタの敵が増えていく、という感じなのかも。友人も、射撃戦がメインで格闘は趣味みたいな事はいってたし……いやでもあれは勢力戦の話か。
でもどっちにしろ、数キロ空けても攻撃できる射撃と、目の前数メートルまで接近しないと真価を発揮できない格闘では本来同じ土俵にも上がらないのが普通なんだよなぁ。
色々考えて上の空になっていると、咎めるようなテレサの注意が飛んだ。
『ほら、ショウさん。考え事も結構ですが、敵が出ましたよ』
「おっと御免」
鈴の音のような声ではたと現実に立ち止まり、迫りくるメタルインセクトに相対する。今回の相手は三匹がかりだったが、何という事はない。向こうから突っ込んでくるのを待って大ナタを振り回せばいいだけである。ぎゅいんぎゅいん上半身を回転させれば、たちまち蟲のブツ切りの出来上がり。
コツはギリギリまで引き付ける事である。メタルインセクトのAIもお馬鹿ではない、目の前であからさまに刃をぶんぶん回転させたら距離を置いたまま張り付きモードに移行してめんどくさい事になる。
そうなるとどうも、こちらの注意を引いて味方に襲撃させる行動ルーチンになるようでつかず離れず、こっちから近づいたら逃げて引いたら追いかけてくる、ととてもうっとおしい。
そうならないように、タイミングは遅めに刃を振り回すのがポイントだ。
「うげ、モニターが真っ黒」
が、今回はまとめて三匹ぶった切ったせいで、メインモニターが返りオイルで真っ黒だ。上半身をぶんぶん振り回してオイルを振り払うが、何度も被った油汚れはその程度では落ちてはくれない。
一応、各部のカメラにはウォッシング機能があるが、流石にここまで汚れるとどうにもならない。ワッシャーと洗剤を噴霧する機能が必要そうだ。
「むむむ。思わぬ所で想定外……」
『ま、まあ、そういう所を洗い出していくのも試験戦闘の目的ですし……』
「ま、それもそうか」
そういえば決勝トーナメントとかで戦った侍君はこういうのどうしてんだろう。いや、あっちは高機動からの一撃離脱戦法だから、こんな感じでオイルを被る事はないかな。そもそも、ライフルとか普通に携帯してたし、メタルインセクト狩りではそっち使ってそうだなあ……。
なんか見た所、人間相手に鎬を削るのに悦びを覚えるタイプで、その手段として刃物振り回してるっぽいし。求道者タイプだよね、多分。あるいは芸術家か?
彼から見たら私の大ナタブンブン丸はさぞダサい機体に見えるんだろうなあ。いやこっちだってそれが出来るならスタイリッシュに戦ってみたいわい。
でもここでかっこよく戦いたいと思うからダメなんだろうなあ。彼らはかっこよく戦おうとしてるんじゃなくて真面目にガチってたらかっこよくなるだけだし……。
これが……偽物と本物の差……。
「ぐぬぬぬ……む、そろそろ居住区か」
私が勝手に嫉妬心をバーニンさせていると、レーダーに見覚えのある広い区画が見えてきた。
もう三度目になる居住区の攻略である。今度こそいい加減に突破したいぞ。
一応確認するが、部屋にガスボンベの爆発の痕跡はなく、綺麗に修復されてしまっている。巻き込まれる形で私が死亡したせいか、未クリア扱いになっているようだ。これまで何度かボス戦を差し違える形で倒した時や、マップを爆発で破壊した時はその痕跡が残っていたりしたが、恐らく進行度に絡んでいるイベント扱いだからかここは特例扱いらしい。
いやまあそれが普通なんだが。思えば変な形で自爆しすぎだよね、私。
『どうしますか、ショウさん?』
どうするか、とは勿論、さくっと攻略しますか、という意味である。ガスボンベギミックが判明した以上、一番手っ取り早いのは私が敵の注意を引いてる間にテレサ機が突入し、ギミックを起動させて無限沸きを阻止する事である。
が、それではちょっと味気ない。ここは出来るだけ一人で頑張ってみよう。
「とりあえずは一人でやってみる。駄目そうだったらその時はお願い」
『了解しました。では私は、入口からの支援射撃に努めますね』
「よろしくー」
そういう感じで打ち合わせをして、居住区に踏み入る。
G型は、自分達のテリトリーに入ったからと一斉に襲い掛かってくる訳ではない。最初は様子見のように数匹ずつ襲ってきて、ある程度損害が拡大したら群れを成して襲撃してくる。生物としては非効率な挙動かもしれないが、相手をするプレイヤーとしては厄介極まりない。初見だと大体みんな一度はこの落差に対処を誤ってやられるんじゃないかな。いきはよいよい、帰りは恐い、とはこの事だ。
もちろん私はそんな事は百も承知だから油断せずに奥へ進む。散発的に襲い掛かってくるGをぶった切りながら、居住区の中央へ。ばっちい汁が降りかかるがこれはもうコラテラルダメージとして心を無にして耐えるほかない。
「よし。ドローン射出」
ここまで来ればいいだろう。両肩に埋め込まれて飾りのようになっているドローンを分離する。玉状のそれは射出されて地面に落ちる寸前、一瞬だけスラスターで減速すると、折りたたまれていた脚を開いて地面に着地した。軽い音と共に動きだす、テントウムシ型ドローン。その背中から、収納されていたマシンピストルが展開される。
「よし、お前達は予定通り物陰に退避。私が敵を引き付けている間に、ガスボンベを破壊しろ」
『ピキィ』
『ピキキ!』
お利口さんドローンは私の言葉を理解しているように頷き、チョコチョコ歩いて物陰に隠れる。
よし、と頷いたところで、居住区の空気がざわりと変わるのを感じた。
来るか……!
『ギギ……』
『ギギィ』
開け放たれたままの部屋から、一斉に姿を現すG型メタルインセクト。初速から最高速、わき目もふらずにこちらに向かって襲い掛かってくる。
物陰に潜んでいるドローンには目もくれない。とりあえず第一段階はクリア、か。
あとは私がどれだけ暴れられるかだ。
「よいしょー!」
真っ先に飛び掛かってきたメタルインセクトを大ナタでぶった切る。ぶしゃあ、と新鮮なオイルが機体に降りかかって……げえ。分かってはいたけどばっちい! 新鮮なコックローチオイルってなんだよ!
くたばれ!!
「うらばあー!」
ブンブン左右に大ナタを振り回してメタルインセクトを切り払っていく。足元に群がってきた奴は、爪先で踏みつけて、串刺し。まさに全身これ凶器。
とはいえ死角はいくらでもある。背後に飛びついたメタルインセクトにガリガリと装甲を削られ、私は上半身を最大速度でぶん回した。ベーゴマのように激しく回転しながら、群がってくるメタルインセクトとしがみついたメタルインセクトをぶつけあわせて火花を散らす。
衝撃に耐えられず、纏わりつくメタルインセクトが振り払われる。その隙を逃さず、私は大ナタを横に倒し、回転するギロチンとなって敵の群れに突っ込んだ。
「げはははははは!!」
もうモニターは返りオイルで真っ暗で何も見えない。レーダーの表示を頼りに、壁にぶつからないようによたよた歩き回りながら、とにかくナタを回転、回転。なんかばきっ、とか、ゴキッ、とか、嫌な音が聞こえてくるけど見えないので無視、無視。
と、そうしていると真っ黒なモニターに小さな拡大図が表示された。
ドローン達からの通信だ。どうやら、亀裂の空いている部屋に辿り着いたらしい。変わらずG型の這い出して来る亀裂の隣には、赤いボンベがちょこんと置かれている。
『ピキキ』
「よし、上出来だ。その赤いのを攻撃して爆破しろ!」
『ピキィ!』
私の指示に、モニター内で照準がボンベに合わせられる。
発砲。
カアン、と火花を散らしてガスボンベに穴が開き、そして……爆発。
「うおわああ!?」
あまりの衝撃に、機体がスタックする。爆風でG型メタルインセクトが次々と吹き飛ばされ、センサーを塗りつぶしていたオイルも弾け飛ぶ。
曇りつつも復旧した視界に映るのは、黒々とした炎を上げて燃える部屋の入口。どうやら、ギトギトのコックローチオイルに引火したらしい。ちっとやそっとでは消えない炎が延々と黒い煙を吐き出し、たちまち部屋に充満する。
「うへえ。生身だったら絶命待ったなしだ……うん?」
急に暗くなったモニターに何かが横切る。
直後。
高速回転する黒い物体が、スタックしているこちらの機体の頭部に激突し、付け根から頭をもぎ取っていった。
『ピギィッ!?』
「おまえかいっ」