ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
とりあえず、居住区に潜む悪魔はこれにて討伐と相成った。
まあ最後にかっとんできたドローンに首をもがれるというトラブルはあったものの、うん、たかがメインカメラが持っていかれただけである。
『ピギィ……』
『ピキキ……』
「ああいや、気にするなって。お前らが無事でよかったよ」
足元に寄り添って、ごめんなさい、とでも言いたげに鳴くドローン達だがとんでもない。あれだけの爆発から無事に生き残っているだけでも御の字だ。想定以上の爆発だったが、ちゃんと安全距離に退避していたおかげで助かったようだ。賢いドローン達で何よりだ。
『ショウさん、無事ですか!?』
「ああ、テレサさん。まあなんとか」
と、そこに駆け寄ってくるのはテレサ機である。入口で消極的に戦いつつ状況を見守っていただけの彼女は全然無傷であり、手にはもげた私の機体の頭部が抱えられている。
ふむ。デュラハン。
『何か頭もげてますけど……』
「まあとりあえずのっけて、のっけて。ドローン君、修理できる?」
『ピキィ!』
胴体の上にコトン、と置かれた生首に、体をよじ登ってきたドローン達が取り付いて修理を始める。つけといてよかった修理装置。まあ、オマケみたいなものだから多少配線を繋ぎ直したり、装甲の罅割れを埋めるぐらいしかできないんだけどね。
とりあえずSPを半分ぐらい使って修理したところで、ザザッとノイズ交じりの映像が正面モニターに戻ってきた。メインカメラ復旧、かな。
と、突然その映像が横倒しになる。あちゃー。首が座ってないな……。
『ショウさん、頭が横倒しになってますけど……』
「うーん、しょうがない。このままいくよ」
ドローン達を肩に戻して、ガシャガシャ、とその場で旋回する。その度に首がぐわんぐわん揺れて、モニターの映像が激しくブレる。
こりゃもうサブカメラだけにしておいた方が精神衛生上いいな、酔う。
コンソールをぽちぽち弄って映像を切り替える。サブカメラのみの映像は解像度が低いが、ブレないだけマシだ。
「んでもって、居住区の調査を始めたい所だが……」
『大分環境が悪くなってしまいましたね……』
テレサの仰る通り。
爆発で部屋三つぐらい吹き飛んでるし、今も黒々と燃える炎のせいで部屋には黒い煙が充満している。完全に火事現場そのもので、人間であったならばたちまち酸欠で命を落としてしまうだろう。
幸い、ビルドロボの機体はちゃんと設計すれば真空中でも生きられる完全密閉。テレサの影響でそれなりにいいコクピットを採用しているから、機密や循環もしっかりしている。この悪環境でもそれなりに活動が可能だ。少なくとも、決勝戦ステージを死の街にした汚染ビームよりはよっぽどマシな環境である。
「とりあえず、順番に手分けして見れる部屋から見ていこう。まだメタルインセクトが生き残っているかもしれないから、注意してね」
『了解しました。そちらもお気をつけて』
「うんむ」
二手に分かれて調査を開始する。
私は右手から、テレサは左手から。
最初に入った部屋の印象は、一言でいうと監獄の独房、あるいは格安ホテルの一室といった所か。
得体のしれない謎物質が盛り上がって机やベッドらしきものになっているのを見ると、どうやら本当にこの宇宙船に暮らしていたのは巨人のようだ。
「ううーん。今更の話ではあるが、本当にこの宇宙船、人間のものか?」
正直、デカルチャーな感じの巨人が作った異星宇宙船、と言われた方がしっくりくるが、しかしテレサの話だと言語は地球由来のものらしいしな……。
もしかして、私達が小さい、とか? 限られた資源でやりくりする為に、小人のようなサイズの体をクローニングしたとか……。
「いや、それこそあり得ないか」
流石にそれだけ小さいと脳みその機能に影響が出る。それに、特撮の話ではあるが“火と水は誤魔化せない”というものがある。どれだけ正確に縮小スケールのモデルを作っても、風呂桶に起こした波は海の波にはならないし、マッチの炎を大火事の炎に見せかける事はできない。だからこそ、水の撮影には巨大プールを作るし、炎上シーンではそれこそ本物と同じ建物を作って燃やしたりしたのだ。
その点でいえば、ビルドロボオンラインにおいて演出される波や炎は現実と同じようなサイズ比のものに見える。プレイヤーが小さくなっているとは考えにくい。
「うーん。もしかして、常に巨大ロボットに乗って生活してたとか……いやそれだったらこんな横になるベッドはいらんし……ああいや案外横になるタイプのハンガーだったりするのか? あるいは居住区ってのは思い込みで、ここってちょっと変わった構造の格納庫だったりするのか? ううん……」
どうにも認識の祖語がぬぐえずに首を傾げる。
とりあえず考察は後だ。今は情報が足りない、とにかくなんかないかな。
きょろきょろしながら調べるが、この部屋には特にアクセスできる端末もないようだ。諦めて隣の部屋に向かう。
こっちの部屋はさっきの部屋より損傷が激しい。めくれかえったような床に、崩落した瓦礫でベッドの上が埋まっている。代わりに、机の上に何かキラキラ光るアイコンがあった。
「お、アイテム発見」
ウキウキしながらアクセスすると、どうやら情報端末のようだ。早速データの読み込みが始まる。
DL中のデータの一部がモニターに表示されるが……なんじゃこりゃ? 大半が文字化けしていてよめやしない。
テレサに頼めば解析できるんだろうか。……ウィルスとか入ってないよね?
「TLS、今更だけどウィルスとか大丈夫?」
『問題ありません。こちらでフィルタリングしておりますので、感染の心配はありません』
「ならいいんだけど……」
何か貴重な情報があればいいのだけど。ま、空振りもまたゲームの喜怒哀楽か。
そんなこんなでデータのダウンロードを待っていた私だが、ふとベッドの瓦礫が動いた気がして、なんとはなしにそちらに振り向いた。
「ん……?」
『ギギギイ!』
「おわあー!?」
突如、ベッドの上の瓦礫を吹き飛ばして襲い掛かってくるG型メタルインセクト。
しまった、このアイテム、プレイヤーを陥れる罠の類だったか! かゆうま!
慌てて、大ナタを飛び掛かってくるメタルインセクトに振り下ろす。お前も真っ二つになれえ!
バギィ!
「…………はい?」
『トランスポートブレード、損傷しました。損壊率60%、強度大幅に低下。期待する攻撃力を発揮できません』
メタルインセクトに叩きつけた途端、砂糖菓子のように砕け散るブレード。でっかい刃物は、いつのまにかボロボロに朽ちたように劣化しており、もはや峰のふちに氷柱みたいに破片がくっついているような有様である。一方で相手はちょっとはダメージを受けた様子はあるが、まだ全然HPバーが残っている。
なんで!? なんぞ!?
『ギギギィ!』
「うおぉわあああ?! こっち来んな!?」
砕けたブレードに目を取られている隙をつき、飛び掛かってくるメタルインセクト。その勢いに押し倒されてひっくりかえるこちらの機体。モニターには、ドアップになった敵の口元で、ペンチみたいな顎が開閉しているのがよく見える。
「ええい、きしょいわ!」
ぐ、と機体を思い切り前傾姿勢へ。とはいえ、床に上半身を押し込まれてる状態なので体は起き上がらず、下半身が逆に天井に向かって折りたたまれる。その状態で、三本の足を思い切り閉じる!
『グギギィ!?』
狙い通り、閉じた三本足は巨大なクローの如く、こちらにのしかかるメタルインセクトの体を握りつぶした。ぐちゃあー、と黒いオイルを噴き出して動きを止めた体が砕け散り、自由を取り戻した私は機体を立ち上がらせた。
ひぃー。機体は撃破したらポリゴンになって砕け散るのに、なんで噴き出したオイルは残るんだよ。嫌がらせか?
えっちらおっちら身を起こしていると、こちらの異常を察したらしいテレサからの通信が入った。
『ショウさん、どうしました!?』
「ああ、テレサさん。いや、メタルインセクトの生き残りに襲撃を受けて……応戦中に、その、なんだ。ブレードが砕けた」
『えっ』
驚愕の声と共に数秒の沈黙が訪れる。
私は苦笑しながら、彼女に合流の指示を出した。
「とりあえず、一旦合流しよう。部屋の中央に」
『りょ、了解しました』
通信を閉じて、手元の大ナタに目を向ける。
分厚い特殊合金で作られた筈のブレード、その残骸はなんだかスポンジみたいにスカスカになっていて、とても大量のメタルインセクトを切り刻んだ武器だとは思えない。無数のメタルインセクトを切ったせいで疲労して粉砕した、というには壊れ方が妙だ。内部から量子転送装置の発生装置が覗いているのを見ながら、私はやれやれ、と首を傾げた。
「実験では行けそうだったんだがな。こういうパターンもあるのか」
まあ何はともあれ、試行錯誤がゲームの楽しみである。これもまた、良き良き。
私はそう自分を宥めながら、テレサと合流するべく部屋の中央に引き返した。