ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
その後も探索は順調に進んだ。
このエリアのメタルインセクトはなかなか強敵だったが、全体的に動きが鈍いというか、攻撃体勢に入るとあまり激しく動かなくなる。おかげで、火炎・冷気攻撃のいい鴨だったのは幸いと言えた。
目の前に佇むウニみてーなメタルインセクトが冷気によって凍り付き、続けて灼熱のプラズマで炙られる。冷気と炎がぶつかれば炎が一方的に勝つのは自明の理であり、自らを戒める氷ごとプラズマ粒子でぐずぐずに焼き払われたメタルインセクトは木っ端みじんに砕け散って消滅する。
「いえーい、アイテムホックホク~」
「お、おぅ……」
ログ欄に連なるNEWの表示に上機嫌な私とは対照的に、どうにも友人はしっくりこないご様子。探索開始してから一発も射撃できてないのが不満なのだろうか。
「あ、悪い悪い。私ばっか楽しんでちゃ駄目だな」
「え、いや、別に。楽できる分には文句ないし」
「あら、そう?」
そうなのか。だとしたら何が不満なんだろ?
首を傾げつつ、霧の中を進んでいく。
「……ん?」
「なんだ?」
と、霧のなかにいくつもの影が浮かび上がる。すわ敵かと身構えるが、白い靄の向こうから走ってきたのは形も色も様々なシルエット……プレイヤーの機体だ。彼らはこちらに見向きもせずに、一目散に来た道を引き返していく。まるで何かに逃げているようだ、と思った直後、彼らの走ってきた霧の向こうからいくつにも重なった爆発音のようなものが聞こえてきた。
さらには立て続けに鳴り響く銃声。
「何か起きてる?」
「あー……これはあれだな。こっちこっち」
「?」
訝しむ私とは違い、友人は覚えがあるようだ。彼に手招きされて、横の小道から回り込むようにして先にすすむ。案内された崖の上は霧が薄れていて、周囲をある程度見通す事ができるようだ。
「あ、やってるやってる。ほら、あれ見てみ」
「あらぁー……」
友人の隣、崖の上から二人してちょこんと顔を出して当たりを伺う。
そこでは、統一されたカラーの複数の機体が、灰色の渓谷を舞台に激闘の真っ最中だった。
支援機と思わしき機体が背中のミサイルランチャーから多数の飛翔体を放ち、それが降り注いで無数の爆発を生み出す。そのギリギリをつっきって進んでくるのは、両手にライフルを持った前衛機。彼らはたくみに地形を駆け抜けて進撃すると、同じように前に出てきた敵の前衛機と撃ち合いを始める。踊る様に、螺旋を描くようにぐるぐるサテライト機動を描きながら撃ち合い、敗北した方が炎を上げて墜落していく。勝者は再び前に出るが……その頭を、一発の弾丸が射抜いた。墜落していく機体から目を向けると、高所に潜むスナイパー機の存在が確認できた。標的を仕留めたスナイパーはすぐに移動しようとするが、そこに支援機のミサイルが降り注ぎ……。
そんな感じで、殺し殺されの不毛な戦いが、霧に閉ざされたマップで絶賛開幕中である。
『敵機の信号を解析しました。ギルド“働き者の蜂”と“血十字”の機体と思われます』
「おぉー……これってもしかして勢力戦か?」
初めて統一、組織化された組織同士のぶつかり合いを見て、私は思わず声が弾むのを抑えられない。前に見たのはギルドと辻斬り連合を中立ギルドが襲撃するみたいな、お世辞にも組織的な戦闘とは言い難い乱戦だったしな。あるいは、それを襲撃する側だったし、私。
しかしこうしてみるとなかなか迫力がある。少数戦や個人戦とは違う趣があるというか。やっぱり戦いは数だよ。
「いや……どうだろ。ちゃんとした勢力戦はあらかじめ申し込みしてから行われるけど、それらしき予告はないし……これはあれだな。多分、ギルド同士の偶発的な抗争かな」
「偶発的?」
「そうそう。たまたまある程度の規模の部隊同士が、狩りの最中にもめ事になって戦闘になって……お互いに援軍を呼んで、どんどん規模が大きくなって……最終的に何で戦ってたのかも忘れてドンパチやり始める奴。終わってみてから得るものもない赤字になるから後で皆怒られるんだよね」
勝利者の居ない戦いすぎる。草。
ちょっと皆血の気が多すぎじゃなーい?
まあでもそれなら、一般プレイヤーが逃げてきたのも納得だ。誰だって他人の喧嘩に巻き込まれたくはないもんね。
「しかしそれだと困ったな。このエリアで遊べないじゃん」
「そうだなあー……。見た所戦力は五分と五分、すぐに決着はつきそうにないし。他のマップに移動するか」
「そうだね。残念だけどそうしよっか」
まだこのエリア、半分も探索してないんだけどな。しょうがないか。
「じゃあ、どこに行く? また雪山とか」
「えー、俺は雪山もう飽きたよ。それならまだ砂漠地帯のほうが……いや待て、ちょっといい事おもいついたぞ」
ふいに友人の機体が、首をぐるりと回転させてこっちを見た。
何か。
嫌な予感。
「な、なに?」
「そうだよ、ここにいるじゃないか。ギルドの部隊を敵に回しても纏めて叩き潰せる、野生のレイドボスが! ほれ、お前の出番だぞ、あそこで暴れてる迷惑な連中をとっちめちまえ!」
なんか無茶ぶり言い出したよこの人!?
「何言ってんのお前?!」
「何ってナイスアイディアだろ? 俺達はこのエリアで探索を再開できる、企業ギルドは無意味な争いを終わらせられる、一般プレイヤーは迷惑な喧嘩から解放される、いいことづくめじゃないか。皆が幸せになれる」
「そうじゃなくてあの数を私一人で倒す前提がおかしいっつってんの!!」
私別にスーパープレイヤーじゃないんだけど!?
渾身の反論に返って来たのは、しかしあきらかに白けた感じの返事だった。
「今さら何言ってんのお前。これまで何回大暴れしたっけ?」
「う」
「それに早くしないとどんどん被害が広がるぞ。ほれ、あれ見てみろ」
そういって友人が指さす先で、一機の機体がよたよたと戦場の端を歩いていた。
黄色と黒の重機みたいなカラーリングのその機体は、恐らく一般プレイヤーの機体だろう。両手はシャベルやドリル、背中に何か大きな金属結晶を詰め込んだカーゴを背負っているその機体は、恐らく非戦闘用の採掘機体。このエリアで取れる資源か何かを取りに来ていたのだろう。
その、あきらかに無害な一般市民の機体に、ギルド機達が銃口を向ける。次の瞬間、哀れな作業機は四方から銃弾によって蜂の巣にされてその場に倒れ伏した。
爆発と共にキノコ雲が上がり、私はそっと目を逸らす。
「むごい事を……」
「な。戦争やってる時の兵士なんて一般市民と敵兵の区別もつかねーんだから、ほうっておけばどんどん被害が増えるぜ。今こそ、野生のレイドボスの出番って訳だ」
「むむむ……わかった、わかったよ。だけど、流石にこの数を相手に確実に勝てるとは思わないでくれよ」
しょうがない、腹をくくるか。
全く。そもそも私自身、レイドボスやろうと思ってやってる訳じゃないんだけどな。たまたま、流れでそうなってるだけで……。
自分から組織集団に喧嘩売ったのは合成ビームの一件だけである。ああいや、あとはトーナメントの予選もそうだったか? まあいいや、あとはもうとにかくどうにでもなれ―、だ。
「なんとかなれー、ってね」
「……違う意味に聞こえるんだけどなあ、それ(ボソ」
まあとにかくやると決めたらガチだ。
まずは敵の布陣を確認。壁の上から見える範囲に比べ、ステルスドローンを展開して戦場を視察する。でっぷり太ったお腹の中から出撃するドローン達を、友人は興味深そうにまじまじと眺めている。
『ピキィ』
「挨拶された……ど、ども……」
ちゃんと挨拶も出来たね。偉い偉い。
とにかくそれらの協力で得られたデータを元に、攻撃座標をあらかじめ決めておく。
あとは仕掛けるタイミングだが……。
「お、霧がまた深くなってきたな」
「レーダー障害も強まってきたな、頃合いか」
見計らったように、視界が白く閉ざされる。レーダーもほとんど見えなくなって、戦場の方も射撃音が急激に減っていく。この状況で無駄な発砲は同士討ちがあるからね。
だがこちらからすれば好都合。事前にマップも敵の位置も数字化している以上、多少見えなくても問題はない。射線が通っている必要すらない。
この機に乗じて、一気に仕掛ける。
「仕掛ける。TLS、コールド・アビス照射」
『了解しました。敵部隊への攻撃を開始します』
霧に紛れて冷気を送り込む。ただでさえ紛らわしいのに、メタルインセクトのように敏感な反応が出来ないプレイヤー機はどうしても対応が遅れるはず。あとは、最後に確認した座標から彼らがどれだけ動いているかだ。それを踏まえて、今回狙ったのは支援機達。重装備で足が遅い彼らは、霧に閉ざされた事もあってその場を動いていないと考えたが、はてさて。
その結果は、ログに流れる撃破報告が教えてくれた。
「おっ、来た来た。TLS、撃破報告と確認していた敵機体数とを比較して撃破率を出してくれ」
『了解しました』
敵機撃破に伴うお金とアイテム、経験値の回収。ホクホク顔で、TLSに辻褄合わせを命令する。
『撃破率算出しました。およそ6割ほどが今の攻撃で撃破できたようです』
「んー、そんなもんか。勘のいい奴がいたのかな?」
ミリタリーチームの時はこれでほぼ全滅だったのだが。異変を察して離脱できた奴が結構いる、やはりロボは即応性が高い。