ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

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外伝1 中堅ギルドの視点

 

 その日、俺達は素材集めの為に初期エリアに存在する“鳥泣き森”で狩りをしていた。

 

 狙いはこのエリアに低確率で出現する“ワイヤード・スパイダー”。鋼鉄のワイヤーを無限に精製する事の出来る能力を持ち、高所から襲ってくるこのモンスターがドロップするマテリアル3Dプリンターが、ギルドの設備拡張に必要だったからだ。

 

 しかし、レアモンスターというだけあって遭遇するのは難しく、俺達は数度の空振りを経て次の出現予想ポイントに向かった。

 

「次のポイントについた。ここで5分まって出現しなければ次に行く」

 

「あいあいさー」

 

 レアエネミーの出現サイクルはおよそ5分。場所があっていれば、プレイヤーの存在に反応して湧いてくるはずである。

 

 三機ごとの小隊三つに分かれて、分散待機する。俺達の装備を考えればこの辺りのエネミー相手ならソロでもやられる心配はない。

 

 待っていると暇を持て余したのか、ギルメンからさっそく不満が上がってくる。

 

「なー。暇だよー。もっと効率いい方法ないの?」

 

「説明しただろ。俺達のギルドのレベルだと、ワイヤード・スパイダーを狙うのが一番効率がいい。他の連中は今の俺達じゃそうそう勝てない」

 

 マテリアル3Dプリンターが手に入れば、より強力な武器やパーツの製造が可能になる。そうなれば俺達のギルドはもっと上に行ける筈だ。

 

「強い敵を倒す為に強い武器が必要でー、その強い武器を手に入れるためには強い敵を倒す必要があるー。まあ、よくある無限地獄だねえ」

 

「だからここに来たんだ。ワイヤード・スパイダーはレアなだけでそう強くない。弱点の爆発系の武器でかかればすぐに倒せる、楽勝だ」

 

 そういう訳で、今の俺達は全員、ロケットやミサイルのランチャーで爆装している。重量で機動力が低下したり、流れ弾で破損するとでかい重しになる事から対人戦では人気が無い装備だが、このあたりのモンスターはごく一部を除いて火器を使用してこないのでその心配はない。

 

 そもそも、鋼鉄の機械樹が生い茂るこの“鳥泣き森”では、通常の火器は遮られてまともに使えない。

 

 おしゃべりに興じながら時計を確認する。

 

 あと2分。

 

 長い時間ではないが、何もする事が無いと持て余す。

 

「はあ。しょうがねーとはいえ、作業ってのはつまら(ザッ)」

 

「? おい?」

 

 不意にメンバーの声がノイズと共に途絶える。不審に思ったのも束の間、梢の向こうで巻き起こる爆発に、俺は何が起きたのか遅れて理解し、そして困惑した。

 

 攻撃……いや、撃墜された?

 

 今の一瞬で、何が?

 

「な、なんだ!?」

 

「敵対ギルドの襲撃か?!」

 

「落ち着け! 迂闊に動き回るな、周囲を警戒しろ! このフィールドでは遠距離射撃は出来ない、至近距離に潜んでいるはずだ!」

 

 待機状態の機体を起き上がらせ、周囲を索敵する。エネルギーサーチャーで識別するが、周囲に居るのはこのフィールド特有の待ち伏せ型エネミーの姿ばかり。

 

 近接武器を装備した敵機体の姿は見当たらない。

 

 しかし、不意をついたとはいえ、俺達の機体を一撃で仕留めるとはどういう武器だ?

 

「そんなもの、あるのか……? この森の中で……?」

 

「おい、一応周囲を警戒したけど、蜘蛛の姿しか見えないぞ」

 

「何かのヘマか通信ラグじゃねえの? 大体この森の中で襲撃なんて割にあわな(ザッ)」

 

 再び通信が途切れる音。味方の反応が一つ消え……さらに続けてもう一機も消える。

 

 一つの小隊が全滅した。

 

 俺は茫然とその事実を受け入れるしかない。

 

「う、うわあああ!?」

 

「何だ?! 何が起きてる!?」

 

「お、落ち着け! もう一度周囲を確認するんだ、何かが間違いなく居る! 索敵範囲を広げろ!」

 

 頭部センサーの倍率を上げて遠方まで確認する。

 

 もしかすると俺達の知らないレアエネミーかもしれない。遠距離に点在する、大きな大木の枝に至るまでを捜査する。いくつかシルエットがひっかかるが……特に特徴的なものは見当たらない。

 

「も、もしかして……」

 

「どうした、何か心当たりが?」

 

「いや、噂レベルなんだけどさ。最近、運営からのお知らせに無いレイドボスがちょくちょく追加されてるらしいんだ。サイレントアップデートっていうのかな」

 

 その話は確かに俺も聞いたことがある。だが、証拠はなかったはず。掲示板などで口にした奴も、証拠の動画やスクリーンショットが無いせいでフェイクだとされたはずだ。

 

「あれは単なる嘘八百だろう? 証拠がな(ブッ)」

 

「ほ、ほらあ! だから言ったじゃんか!!」

 

 また一機、不意に爆発四散する。オレンジ色の爆炎が天を突いて昇るのを見ながら、俺は途方に暮れた。

 

 なんだ。

 

 何から攻撃されている!?

 

 せめて、それだけでもわからないと対抗のしようがない!

 

「見えない、見えない! くそぉおお!」

 

「密林で見えない敵に襲われるとか、昔のSFじゃねーんだぞ、出てこい!!」

 

「あ、でもそれ、今度新作が(ブツッ)」

 

 立て続けに二機の反応が消える。

 

 これで残っているのは、俺とあと二人、一小隊だけ。

 

 このまま何もできずにやられるのか、そう思った時、仲間が確信の籠った声を上げた。

 

「……居たぞ。向こうの高い木の枝だ! 変にそこだけ熱量が馬鹿高い!」

 

 言われて熱源感知にセンサーを切り替えて、指し示された方角を見る。

 

 確かにそこには、他のエネミーや機械樹と比べても一際以上高い、数百度以上の高熱源体が示されていた。このあたりの蜘蛛は火器を使わない、間違いなくあれが火元だ。

 

 だが、一体何だ?

 

「居場所さえわかればこっちのもんだ、撃て、撃て!」

 

「あ……」

 

「こなくそ、消し炭にしてやる!」

 

 仲間二人が、両手のマシンガンに加えミサイルを次々に発射する。

 

 飛翔した弾頭は天蓋のように覆いかぶさる梢に激突し、爆発の炎を咲かせた。それによって葉が燃え上がり、機械樹の偽装表皮が灰になる。

 

 だが、その後に残るのは網のように張り巡らされた鋼鉄の枝だ。ミサイルの直撃で多少吹き飛んではいるが、青空の光を遮るほどの密度の枝葉は到底吹き飛ばせない。無駄弾だ。

 

 ワイヤード・スパイダーは攻撃する際、地表近くまで降りてくるからこそ爆撃が有効なのだ。梢の向こう、高い木の枝に潜んでいる謎の敵には到底届かない。

 

「撃っても無駄だ、ここがどこか忘れたのか?!」

 

「だ、だけどさ、それだったら、アイツの攻撃はなんでこっちに届くんだよ!?」

 

「そもそもこの距離で百発百中って、一体どういう腕ま(ブツッ)」

 

 攻撃に夢中になり、棒立ちになっていた仲間の通信が途絶える。

 

 その瞬間、俺は確かに見た。ミサイルを吐きだそうとハッチを開いた彼の機体のランチャー、それが突然赤熱し、内側から膨らむようにして爆発するのを。

 

 まるで至近距離からレーザーか何かで無理やり爆薬を引火させられたみたいな光景だった。

 

 違うのか?

 

 あの遠距離から撃っているように見えた敵の姿は勘違いで、やはり敵はすぐ近くに潜んでいて、俺達の事を狙っているのか?!

 

 どっちだ、何が正しいんだ?!

 

「い、今の見たか? まさか光学兵器?!」

 

「だけどレーザーがこの森の中で使える訳が無い、乱反射してまともに照射なんて……ビームか!?」

 

「そっちの方があり得ない、ヒット数バグのせいでただの産廃だろアレ! どっちにしろこんな障害物の多い所で使える武器じゃねーよ! 一度触って諦めたじゃん俺らだって!」

 

 そうだ。ビーム兵器はゲームの仕様から来るバグで、ヒット数のカウントストップが起きてしまい威力が全くでない。同重量、同負荷の武器と比べるとその実火力は十分の一以下で、懐中電灯の方が道を照らせるだけマシとか言われてる代物だ。公式は認めていないが、検証班の話では根本的なシステム問題なので修正は難しいという話である。

 

 だが、もし本当に今攻撃を受けているのが、プレイヤーには使えない、ボス仕様の威力数十倍のビームだとしたら辻褄があう。

 

「やっぱ、隠しレイドボスってのは本当なのか……?! ボス仕様の超超高出力ビームなら、この梢を貫いて俺達を一撃で仕留める事だって……!」

 

「嘘だろ、マジで俺達、そんなのに襲われてるのか?! え、ちょっとラッ(ブツッ)」

 

 嬉しそうな友人の通信が途絶える。

 

 残るは俺だけだ。

 

「くっそぉ!」

 

 こうなったら何としても相手の顔を拝んでやらねば死にきれない。スラスターを点火し、大ジャンプの構えに入る。

 

 この森の上空に出るには、梢の隙間を通るしかない。そのルートは固定されていて、恐らく飛び出した所を狙い撃ちされるだろう。

 

 だがそれさえわかっていれば防ぐ手もある。

 

 俺の機体にはシールドが装備されている。いくら基本威力を運営特権で数十倍にしていても、所詮ビームはビーム。シールドの上からこっちの機体を一撃で倒すなんてできないはず!

 

「いくぞ!」

 

 跳躍し、森の上空に出る。

 

 その瞬間、遥か彼方でキラリと閃光が放たれた。狙い通り放たれたビームを、シールドを構えて防御する。

 

「そのツラ、見せてもら……?!」

 

 これなら耐えられる。そう思った瞬間、ザッ、と不快なノイズが視界に走った。一瞬だけ、世界の進行が止まるような、通信ラグに似た空間の異変……そう思った時には、直撃したビームはシールドを貫き、俺の機体の半分を消し飛ばしていた。

 

 コクピットにも風穴が空き、俺のアバターも半身が消し飛んでいる。

 

「あ……」

 

 咄嗟にスクリーンショットを保存した次の瞬間、俺の視界は真っ黒に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 中堅プレイヤーを自称する俺達のギルドは、たった一機のエネミーに全滅させられた。

 

 俺が最後の突撃で確保したスクリーンショットは、しかし、有益な情報にはならなかった。画像に写されているのは、ノイズブロック塗れの、今にも分解される寸前のテクスチャといった不明瞭な画像だけ。

 

 恐らくは光学迷彩。最前線付近の、凶悪ボスが装備しているような特殊装備に加え、シールドを一撃で貫通するようなビームを使う……間違いない、こいつは公式も存在を認めていない、激レアの隠しレイドボスだ。

 

 恐らく、森の深部で狩りをするプレイヤーが多くない事と、光学迷彩のせいでこれまで誰も発見できなかったのである。

 

 唯一確かなのは、俺達のログに残されていた記録。

 

『“No Name”に撃墜された』

 

 No Name。機体をアセンブルした時名前を設定しなかったり、通信障害で相手プレイヤーがログアウトした時に使われる仮名称だが、光学迷彩と超威力ビーム兵器を使うこの機体がまさかプレイヤーのはずがない。

 

 名無しの亡霊。光学迷彩を使い、森に潜むスナイパーにはうってつけの名前だ。

 

 俺は一刻も早くこの特ダネ情報をSNSにアップするべく、携帯端末に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

『速報! 謎のレイドボス発見さる!!』

 

 

 

◆◆

 

 

《環境監視用AIから運営に報告》

 

《フォレストエリアにて通信不良が原因の、攻撃判定パケットの遅延による計算エラーを確認。粒子砲スキルの“設計威力”の発露を確認》

 

《通信状況の確認。対象は通信状態が不安定な状態にあったものの、恣意的なものと判断できず。暫定的に、プレイヤー『ショウ』にイエローフラグ添加。一定期間、行動を監視します》

 

 

◆◆

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