ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
そして、翌日。
仕事から帰ってきた私は家事もそこそこに、早速ビルドロボオンラインを起動した。
傾いたホームに赴くと、昨晩組み立てを始めた機体はすでに完成しており、その威風堂々たる巨躯をハンガーに収めていた。
「よしよし」
満足感に浸りながら、機体の全体像をチェックする。
今回の機体は、火山地帯、特に溶岩地帯の行動に特化している。その為に二本足ではなく、前後左右に大型のフロートを備えている。上から見るとHの字に配備されたそれらのユニットの底面には斥力場発生装置が取り付けられており、それによって安定した浮力が得られるという計算だ。
ただし浮かぶだけでは移動できない。背中には三つのロケットブースターを装備しており、これを順々に使う事で移動できるようになっている。
そしてこの方式は、積載量増加にも一役買っている。四脚タイプの脚部をベースに、足の付け根を利用してフロートを取り付けているという構造のこの脚部は、早い話が箱なのである。可動部が極端に少ない分、支えられる重量も多い。それを利用して、極端な重武装化も行っている。
主砲は、早速作ったモータル・ブラスター。機体前面に、所謂胸ビームとか腹ビームみたいな感じで搭載したこれは固定砲故に射角が狭いが、特殊効果の有害放射線照射でカバーできるはず。
それに加え、前後左右のフロート上部に副砲としてフォトンビーム砲を装備している。
ビームがいくら威力が低くても合計5つもの砲身を装備すれば、火力でごり押し出来る筈。そしてそれを運用する為の高出力ジェネレーターを三つに、稼働時間を伸ばす為の強力な冷却装置。
残念ながらここらで予算と消費エネルギーが尽きてしまったので、機体の上半身はヒョロガリである。一応胴体は汚染防止型のコクピットだが(防御力低いくせにやたらと重くて高かった)腕は作業用のオマケだし、頭部も装甲を度外視してセンサー機能に特化したアンテナ頭である。正直頼りないが、巨大で頑強な下半身とのギャップがこれはこれで味がある。それに軽装甲は熱がこもりにくいというのは火山地帯の敵が自らの身で実証してくれている事だ、これはこれで合理的なはず。
これこそ、私の新たなる愛機“バーニングスフィンクス”!
さて。
理論上は完璧なはずだが、果たしてどこまで実戦で通用するかな。
「よぉし、出撃だー!」
傾いたエレベーターシャフトから出撃する。
機体が外に放出された瞬間、私は内部に納まるために折りたたんでいた脚部を広げながらロケットブースターを点火した。勢いよく射出したのに加え液体燃料の推力を得て、通常の機体の数倍はある巨体が宙を舞う。
その向かう先は、延々と流れる灼熱の大河。
普通の機体であれば、あれに落ちれば一環の終わりだが……。
「斥力場展開!」
ヴォ、とフロートの下に取り付けられた斥力場発生装置が唸りを上げる。大きく足を広げて水面に着地すると、一瞬沈み込むような跳ね返るような、なんとも言い難い不可思議な振動が返って来た。
「どうだ……?」
どきどきしながら経過を見守るが、どうやら機体は安定しているようだ。前に盾で溶岩の上をサーフィンした時はいささか不安定で、ともすればひっくり返りそうな危険を感じたが、今回は広く面積を取ったおかげか安定して湖面を慣性で移動しながら浮いている。
あとはサブエネルギーの消費具合だが……。
「うん。問題ないな」
ステータス画面の中で徐々に減っていくサブエネルギー。消費が供給を上回ってこそいるが、これにビーム砲の運用による発熱が加わればプラス方向に持っていける筈。あとは機体そのもののオーバーヒートだが、強力な冷却装置を搭載してガンガン冷やしているおかげでそちらの上昇も緩やかだ。
目算では10分以上は活動できるはず。
「よぉし、さっそく狩りにいくぞ」
そうと決まればぼさぼさしている余裕はない。なんせコイツの建造にほとんど有り金使い切ってしまったのだ、稼がないと修理もできない。
フロートを傾けて方向転換し、川べりに向かう。まだ残っているブースターの慣性に乗って、すいーっと、すいーっと。
こうしてみると、岸部でたむろしているメタルインセクト達は実にのどかで無防備だ。運営開発からしても、溶岩の大河の中から攻撃してくる事は想定していないんだろうか。
ま、それはそれで楽で助かる。
私は早速、本日の第二のメインイベントの起動を行った。
機体全面に搭載された巨大なビーム砲……モータル・ブラスターの発射スイッチを押し込む。
「発射!」
トリガーから発射まで、エネルギーチャージが行われてワンテンポ遅れるのは他の武装と同じ。ただ、チャージにともなって放たれる砲身からの青白い光が、これまで見た事がないほど強く大きい。周囲の景色が青く染まるほどのその光は、見ていると臨界反応、という言葉が自然と頭に浮かぶ。
同時に、敵側にも大きな影響があった。見えてる範囲の敵にHPバーが一斉に浮かび上がり、それらがちょっとずつ減っていく。
そして放たれる真っ青なビーム。こっちは普通にプラズマビームと同様の挙動であり、薙ぎ払うようにして岸辺のメタルインセクト達を攻撃する。ゴリっと減った敵のHPが、さらに熱ダメージの追撃で減少を始める。
……いや、それだけじゃないな。減りが妙に早い、冷却中も漏れ出した有害な放射線によるスリップダメ―ジは続いているようだ。そうこうするうちにHPがゼロになった敵がぼん、ぼぼん、と爆発四散する。
強いっちゃ、強いが……。
ビーム砲発射の反動で大きく後ろに流されながら、私はちょっと不安になってプレイヤー自身のHPを確認した。
「……なんか怖い武器だなあ。大丈夫だよな?」
見た所、対汚染を謳うだけあってコクピットの私に被害は及んでいないようだ。
とりあえず自滅する心配はなさそうで安心する……なんて暇はなかった。耳をつんざく羽音に顔を上げると、いつの間にか私は空飛ぶ火炎放射器の群れに囲まれていた。
「おわあ!?」
二つ目のロケットブースターを噴射してその場から離脱する。
一体いつの間にタゲられていたのか。狙いをつけていた敵の群れは全滅させたはずなのに、見落としがいたのか?
その答えはすぐに分かった。
「ん……? あれ……?」
逃げている最中、別の岸辺に居る敵の姿が目に入る。それがアクティブ状態ではないのを確認するのも次の瞬間、突如としてダメージを与えた印であるHPバーが敵の上に浮かび上がる。そうすると、攻撃を受けた事で敵は自動的に反撃モードに入り、周囲を探しだす訳で……。
そして、マグマの河にぷかぷか浮いている私の機体は、どこからもよく見える訳で……。
私はとっさに、青白く光を放つ主砲に目を落として愕然とした。
「お前のせいかあ!?」
汚染範囲が広すぎる!! とりあえず近くにいる敵に全自動で喧嘩を売る装備じゃねえかこれ!!
え、しかも冷却まだ全然終わらないじゃん!! どうすんのこれ!?
「と、とにかく、一端ホームに戻ってこれを取り外さないと……!」
慌ててUターンしてホームに戻ろうとするが、振り返った視界に入るのは、四方八方から押し寄せてくる敵のHPバー。
どうやら、この近隣にいる雑魚敵全部がこちらに集まってきているらしい。今も致命的放射線による汚染は続いているのでそれらのHPは2割ほど削れているが、だとしてもコントロールできない攻撃とか有難迷惑!!
脳裏に、このまま撃破された場合の修理費用が過ぎる。
駄目だ。破産してしまう。
「う、うおおおおお! やられてたまるかぁーー!」
こうなったらヤケである。私は四つのフォトンビーム砲を起動し、群がってくる敵の駆逐を開始した。
「酷い目にあった……」
なんとかボロボロになりながらも撃墜は免れてホームに戻ってきた私。大破ではないにしろそれなりにかかる修理費は、あれだけの雑魚を駆逐してもギリギリ足りないといった所である。これで本当に撃墜されていたら、とか考えたくもない。
「とりあえずあのアホみてーな武装は外して通常のプラズマビーム砲に交換しよう……」
いくら強力でもあんな武装積んでたら命がいくつあっても足りない。
修理ついでにアセンを変更するならお金はかからないはずだ。そう思って画面を操作した私は、何故かビビーと鳴り響くエラー音に首を傾げた。
「???」
おかしい。なんど決定ボタンを押しても換装が許可されない。えーと、ログにこういう時はメッセージがあるはずだが……。
《所持金が不足しているので実行できません》
「なんでええ!?」
どうして!? パーツ換装だけならお金がかかる訳ないでしょ!? そう思って画面をよく確認すると……。
《イレギュラーウェポンの取り外しには一定額の支払いが必要です。なお、一度装備したイレギュラーウェポンは取り外し後自動的にスクラップに返還されます。それでも換装しますか? ▶YES 所持金が不足しているので実行できません》
「…………は?」
の。
呪いの装備かよぉ……。
脱力のあまり、私は仮想現実の床にへたり込んだ。
教訓。説明書きはちゃんと読みましょう。
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