ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

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第三十一話 パイロット殺し

 

「おわああ!?」

 

 突如として四方八方から浴びせかけられる銃弾の嵐。

 

 それを回避できたのは完全に偶然だった。波打つマグマの水面の揺れが、たまたまFCSの予測からずれた動きをした事で蜂の巣になるのを免れる。

 

 慌ててロケットブースターを点火、沖合に距離を取る。なおも執拗に浴びせかけられる銃弾が、機体の肩を掠めてチュインと音を立てた。

 

「なんでなんでなんで?!」

 

 いくらPVPが推奨されているゲームっていったって、いきなり集中砲火はないだろう!? 少なくとも私はこれが二度目のオンラインだ、顔も名前も知れてない相手を問答無用で銃撃するなんてそんな野蛮な……あ。

 

「そういえば、このゲームって……」

 

 そうだ。このゲームは一般的なオンラインゲームと違って、対象をカーソルしたりロックオンしてもプレイヤー名とか表示されないんだよな。

 

 んでもって、レイドボスの出現予定場所に、空から突然降ってわいた見慣れない機体。

 

 もしかして……レアエネミーか何かだと勘違いされてる?

 

「あ、在りうる……! ビーム兵器は産廃扱いされていて知名度ないし……!」

 

 さらに言えば、マグマの上にぷかぷか浮いている、というのもいかにも非プレイヤー機らしく見えたのかもしれない。

 

 弾丸の回避に専念する傍ら、ちらりとワールドチャットに目を向けると案の定、そのようなやり取りがなされている。

 

『DOoro:こいつ噂の隠しレイドボスか?』

 

『pala:マグマの上に浮いてるぞ、どう考えてもNPCだろ』

 

『Ganz:なんか変な武器つけてるな、レア武器かも』

 

 やっぱり勘違いされてる!!

 

「と、とにかく誤解をとかないと……! え、ええと、メッセージってどうやるんだっけ……っ!」

 

 回避する傍らでコントローラーをカチカチしてメッセージの送信画面を開く。って、駄目だ、ソフトキーボードの打ち込みと回避操作は両立できない! こうなったらスタンプで……ええと、確かこのボタンを押しながらこうするとショートカットが開けて、そこから、こうして……。

 

「……あ゛っ」

 

 弁解させてほしい。

 

 普段、ソロ活動の私がメッセージやスタンプを使う事ってない訳でさ。

 

 んでもってショートカットっていろんなもんが登録できてさ、デフォルトだと大体何が登録されているかっていうと、そりゃあメインウェポンな訳で。

 

 うん。

 

 やっちゃいました。

 

 ヴォオオオ、と禍々しい輝きを放ってチャージを始める呪いの武器。一度トリガーを引いたそれを途中で止める事はできず、かくして青ざめた血の如き閃光が岸辺にならぶプレイヤーの群れ目掛けて放たれたのであった。

 

 青い奔流に飲み込まれるプレイヤー機。流石にその一撃で爆散する事はなかったが、大口径のエネルギーの奔流に飲み込まれた事で手にしていたマシンガンの弾薬に誘爆したのか、次々と両腕を砕かれて沈黙する。

 

 そしてモータル・ブラスターをぶっ放したという事は、コイツの放出する致命的放射線が周囲を汚染するという事で……。

 

「うわあ」

 

 視界に入る限りのプレイヤー機に浮かぶ、HPバーの表示。これにて目出度く、私はこの場にいる全員に喧嘩を売った頭のおかしいプレイヤーという事に決定である。

 

 今更講和の申し入れを行った所で手遅れだ。オンラインにおいては、殴って殴り返せばPVPが成立するというのは古からの伝統である。

 

「はははは……」

 

 苦笑いしながら、私は残りの武装を立ち上げた。

 

 どうしてこうなってしまったのか。私は呪いの武器を取り外して、機体を組みなおす為の資金が欲しかっただけなのに。

 

 横着して楽に稼ごうとか考えたのがいけなかったのか。そもそも得体のしれない武器を軽率に搭載したのがよくなかったのか。

 

 多分全部だな。

 

「もういいや、どうにでもなーれ、あはははは」

 

 こうなったらもう、出来るだけ派手に暴れて笑い話の一つにでもするしかない。底をつく資金とガレージにスクラップ状態で横たわる愛機の未来を想像しながら、私はビーム砲の引き金を引いた。

 

 とはいえ、戦うと決めたならガチだ。

 

 マグマの湖の上に滞在する限り、交戦距離はこちらが一方的に調整できる。ビーム砲を連射できない以上、勝機があるとしたら一撃離脱しかない。高速接近し、ビーム砲で敵プレイヤーをまとめて薙ぎ払い、離脱する。

 

 右前方のフロートに搭載されたフォトンビーム砲がウィイン、と狙いを定め、岸部をピンクの閃光で薙ぎ払う。ダメージそのものはそこまで大きくはないが、対人戦でビームを食らった事がないであろうプレイヤー達が混乱している様子がワールドチャットを通して聞こえてきた。

 

『ExE:なんだ、この攻撃、ビーム!? こんな小型のボスが使うのか?!』

 

『ASYURA:マシンガンが破壊された』

 

『Pola:勝手にHPが減っていくんだけど』

 

 意外な事に、速攻で蜂の巣にされるかと思った我が愛機は健闘していた。

 

 理由はいくつかある。一つは、ビーム兵器が対人戦では想定外の効果を発揮していた事だ。すなわち、武器破壊である。武器をピンポイントで狙っている訳ではないから、ウィークショット判定による誘爆こそ起きていないものの、非装甲部位であるマシンガンはビームの粒子に対する被爆に耐えられず、損壊して動作不良を起こしているらしい。ビームで薙ぎ払った後は、あきらかに攻撃の勢いが衰えている。

 

 それに加え、マグマの上に浮いて滑走しているというバーニングスフィンクスの挙動。自然現象に左右される不安定な動きはFCSからすると予測しづらいらしく、マシンガンの大半は明後日の方向に飛んで行っている。

 

 そして……もう一つ。

 

 雑魚の存在だ。このゲームはMMOである。レイドボス戦だろうと、都合よく雑魚敵が湧かなくなる訳ではない。勿論、事前に狩場は掃除されているし、新たにポップした敵は即座に処理されてボス戦の邪魔にならないように配慮されているだろうけど……周辺エリアの敵は掃除していない。

 

 その雑魚たちが、モータル・ブラスターの放射線汚染を受けてアクティブ状態になり、このマグマ湖に向けて集まってきているのだ。そしてそんな彼らの目に入るのは、岸部に犇めいている無数のプレイヤー機である。

 

 早い話が、ある種のトレインである。プレイヤー達は私からの反撃だけではなく、背後からのメタルインセクトの襲撃にも対応しなければならない。

 

 ……うん、悪質。

 

『PVE:うわあ、アイツ雑魚を呼び寄せやがった!?』

 

『ASYRA:武器を破壊されて反撃できない、助けてくれ』

 

 たちまち乱戦に陥るプレイヤー達。そこ目掛けて、敵味方関係なくビームをぶちこんで削る私。

 

 現状はなんとか善戦しているように見えるが……まあ、駄目だろうな、と私の冷静な部分が諦めを告げている。

 

 現状は情報ゼロの初見殺しだから混乱を招いているが、落ち着けばこっちの攻撃の威力が低い事に気が付くだろう。そうなったらピカピカ眩しいエフェクトに惑わされずにじっくり狙いをつけて撃てば、こっちは貧弱な装甲しか持ち合わせてないハリボテ機体だ。一瞬で撃破されておしまいである。

 

 そうなる前に、どうせならできるだけプレイヤー機を撃破して少しでも稼いでおきたいー、という卑しい性根で攻撃を繰り返していた私だが、ふとおかしなことに気が付いた。

 

 なんか。

 

 プレイヤー機の様子がおかしい。

 

 今も、見ている前で襲い掛かってきているメタルインセクト相手に応戦しているプレイヤー機、その動きが急に鈍くなり、ついには棒立ちしてしまう。動かなくなった機体を、メタルインセクトが小突いたりするが反応はなく、ついには無抵抗のまま撃破されてしまうプレイヤー機。

 

 それと同じことが、視界の中でいくつも起きている。

 

 まるで魂が抜けてしまったように棒立ちのまま動かなくなるいくつもの機体。通信が切れた……とかじゃないよな。うちみたいな駄目回線で遊んでる人ばっかりじゃないだろうし。

 

 でも、じゃあなんでだ?

 

 まるで、中に乗っているパイロットが突然息絶えたみたいな…………あ゙っ。

 

「……致命的な放射線……?」

 

 今もおどろおどろしい青い光を放って砲身冷却中の呪いの武器。

 

 私は説明書きを見てコクピットを対汚染仕様にしているが、これって高くて重い上に脆くて、コスパは最悪の代物だった。到底、普通の機体は勿論稼ぎに特化したコスパ重視機体が採用しているはずもないコクピットであり……そんな機体がこの放射線にさらされたらどうなる?

 

 金属の塊であるメタルインセクトすらも汚染してダメージを与えるような放射線である。柔らかいタンパク質の塊である人間がそんなものに晒されたら、どう考えてもただでは済まない。

 

 つまり……。

 

「機体はそのまま……パイロットだけ先に焼き殺してるぅ!?」

 

 ひぃい、と私は竦み上がった。厄ネタだと思っていたがまだ認識が甘かった。

 

 いや強いには強いと思うよ、対人戦ならば。でも流石に悪辣すぎない!? というか使ったら最後、他のプレイヤーから害悪認定されて一生追いかけまわされるタイプの武装じゃないか、運営は何を考えてこんなもん実装したの!?

 

 気が付けば、すでに生き残ったプレイヤーの数は僅かになっていた。私の機体の攻撃で武装を破壊され、雑魚に群がられ、パイロットを直接殺され……レイドボスを数に物を言わせて囲んで叩く想定であったコスパ重視機体はこのイレギュラーな事態に対応できない。よって、歴戦のプレイヤー達はその実力を発揮する事もできず、マグマの湖の沿岸に累々と屍を晒すばかりである。

 

 ログには、私がプレイヤー機を次々と撃破した報告が入ってきており、同時に資金もじゃらじゃらと流れ込んでいたが、到底喜ぶ気にはなれない。

 

 そしてついに最後の一機が崩れ落ちる。ヤドカリに群がられて解体されているその機体を見やり、私は安堵するべきなのか嘆くべきなのかわからなかった。

 

「……どうしよ……」

 

 とりあえず、プレイヤー達がリスポーンしてくる前にこの場を離れるべきだろう。彼らは私の事を新手のレイドボスかNPC機体だと勘違いしているようだったが、もしただの一プレイヤーだとバレたら絶対に面倒な事になる。

 

 とりあえず、一端岸辺に……そう考えた時、不意に機体が大きく傾いた。何かに持ち上げられるように、機体がバランスを崩してひっくり返る。

 

「あっ」

 

 一度転倒してしまうと、あとはもうリカバリの仕様がない。ゴボゴボとマグマの中に沈んでいく最中、マグマの中から浮上してくる巨大な影が最後にモニターに映し出された。

 

 レイドボス・バーンフォッシル。金属製の巨大な怪魚は、まるで「ん? 何か当たった?」みたいな感じで顔を巡らせると、再びマグマの海にダイブする。それによって生じたマグマの大津波に飲み込まれて、私の機体は一息でマグマの中に沈んでいく。

 

 モニターには、各種ビーム砲や動力炉がオーバーヒートしている警告が鳴り響いている。浸水してきたマグマがコクピットを満たすよりも先に、装甲を貫くほどの青白い光が視界一杯にひろがって……それきり、私の視界は真っ黒に染まった。

 

 

 

 

 

 プレイヤー:ショウ、DEAD。

 

 死因:原子崩壊。

 

 

 

 

 

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