ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
その日、俺達は複数ギルドと共同でレイドボスを狩りに来ていた。
周辺に他のプレイヤーの姿は無い。当然だ、レイドボス戦の参加権利は、ギルド間での勢力戦で決められる。野良の連中がおこぼれに与ろうとしても、見かけ次第全員で撃破し、ネコババを許さない紳士協定がギルド間には引かれている。事情を知らないプレイヤーでも、複数のプレイヤーから追い立てられれば、危険を感じてこのエリアには近づいてこない。
まあ、こういうギルド同士の協定をよく思わないプレイヤーも多いだろうが、少なくとも運営は今の所何も言ってこない。黙認されている限りはルール違反ではない。
そもそもMMOには本当の意味でのルール違反はない。チートやバグを利用するのならともかく、そうでないならそれは遊びの範疇である。
そういう訳で、全員本来の愛機から稼ぎ専用のコスパ特化マシンに乗り換えてレイドボスの出現を待ち望んでいた時の事だ。
突然、ボス戦エリアであるマグマの湖に、上から何かが降ってきた。
「なんだ?」
「飛行プレイヤーが熱で墜落したのか?」
なんだなんだとマグマ湖を覗き込むメンバーたち。
そんな俺達の前に、そいつは姿を現した。
溶けた金属の真っ赤な波しぶきをかき分けて、灼熱の湖面に浮上してくる奇妙な機体。
下半身は大型のフロートユニットで構成されていて、そこにいくつもの大型武器をマウントしている。それに反して上半身は妙に貧弱で……一言でいうと、小型の戦艦ロボ、といった感じの奇妙な機体だ。
もっとも奇妙だったのは、その機体は溶岩の上にまるでホバリングのように浮いていたという事だ。
その事に気が付いたメンバーがギルドチャットでざわつく。
「なんだあれ、浮いてる?」
「マグマの上にホバリング……? 斥力場装甲かな」
「馬鹿いえ、出来なくもないけどあんなの数秒も持たないぞ。サブエネルギーが無限かっつうの」
彼らの言う通りだ、確かにこの火山地帯に出現するエネミーのレアドロップから作れる斥力場装甲発生装置は、水やマグマといった流体の上に乗る事ができる。が、移動に使えるかというとそんな事はない。あまりにエネルギーの消費が激しすぎるからだ。
上にいけばいくほど、サブエネルギーの効率的な運用が重要になってくるこのゲームにおいては、いくら防御力が高いといってもサブエネルギーを馬鹿食いする斥力場装甲は基本的に見向きもされない。ましてや、マグマの上に浮かぼうだなんて一発ネタでもやらない愚行だ。
だが、見た限り件の機体は、既に10秒近くその一発ネタを続けている。
どう考えてもプレイヤー仕様の機体ではなかった。運営の魔改造機か……?
いや、もしかして。
『DOoro:こいつ噂の隠しレイドボスか?』
『pala:マグマの上に浮いてるぞ、どう考えてもNPCだろ』
『Ganz:なんか変な武器つけてるな、レア武器かも』
どうやら他にも思い至った奴らが居たらしい。ワールドチャットの発言をきっかけに、ピリリとした緊張感が走る。
噂事態は随分前からあった。森林地帯での、正体不明の狙撃手の動画は、上位ギルドの間でも有名だ。その後幾度となく探索隊が出たものの今現在までそれらしきボスは発見されていない事から、何かのバグか何かだと思われていたが……まさか、同類と思しき機体とここで遭遇する事になるとは。
先手必勝、早い者勝ち。それがオンラインの世界の鉄則。
申し合わせたように居合わせたメンバーが、一斉に引き金を引いた。無数の弾丸が、無防備に佇む所属不明機に降り注ぐ。だが……。
「駄目だ、当たらねえ!」
「ふわふわ揺れて……FCSが誤作動してる!」
無数の弾丸は、しかし数発しか命中しなかった。マグマの湖面に揺れる敵の機体の動きは不規則で、FCSが誤作動したのだ。自ら外れているかのような弾丸の嵐をかいくぐって、敵機が回頭する。その胴体部に装備された、いかにもな感じのビーム砲が青白い光を伴ってチャージを開始した。
そして放たれる、真っ青なビーム。今まで見た事のない色の粒子砲が、よそのギルドの部隊を飲み込んだ。
「なんだ、ビーム!?」
「……見た所、威力はさほど高くないようだが……いや……」
高濃度粒子に巻き込まれた機体の多くは武装を破壊されてしまったようだが、まあビーム兵器を食らった時にはよくある事だ。むしろレイドボスにしては威力が控えめ。大抵の場合、ボスの使うビームはプレイヤーが使える武器の数十倍から数百倍の威力がある運営仕様なのだが、まあたまにはそういう事もあるだろう。
そしてそういう場合、大抵直接攻撃力以外のオマケが付いている。
すぐにギルドメンバーは異常に気が付いた。
「お、おい、なんか機体のHPが勝手に減っていってるぞ……?!」
「いや、機体だけじゃない、アバターのHPがもっと早く減ってる……どうなってんだ!?」
ワールドチャットでも同様の報告。
直撃を受けた機体だけではない、安全地帯にいた筈の機体までダメージを受け始めている。どういう事だ? コクピットに表示されているハザード警報と関係があるのか?
しかも混乱はそれだけに終わらない。
気が付けば、周辺のレーダーマップが敵を示す赤で埋まり始めていた。いつの間にか、周辺の敵が全部アクティブ状態になって、この湖に集まり始めている。
あまりにも数が多すぎる。
『PVE:うわあ、アイツ雑魚を呼び寄せやがった!?』
『ASYRA:武器を破壊されて反撃できない、助けてくれ』
「くそっ、なんなんだアイツは!?」
正体不明の全体攻撃に加え、周辺の雑魚を呼び寄せる。どれも聞いた事がないような能力だ。そればかりか、今度は沖合の安全地帯からピンク色のビームを放ってプレイヤーへの攻撃を始めた。それはやはり威力はないが、薙ぎ払うように放たれるビームは複数の機体を纏めて飲み込む。それによってHPが削れたところに、雑魚が襲い掛かってトドメを刺す。それだけなら、腐っても上位ギルドのメンバーだ。コスパ重視の機体でもそう簡単にはやられないのだが……無慈悲にパイロットのHPを削られるのはどうにもできない。抵抗虚しく、先にアバターのHPが尽きたのか棒立ちする機体が現れ始める。
無抵抗の機体を、雑魚や本体からのビームが蹂躙し、スクラップに変えていく。
レイドボスを取り囲み殲滅するはずのギルドの包囲網は、いつのまにか逆に敵に包囲、殲滅される地獄絵図となっていた。
「そんな、馬鹿な……」
乱戦の中で、脚部を破壊された機体が倒れ込む。それでも最後まで抵抗しようとした俺が目にしたのは、モニターの画面を埋め尽くすピンク色の閃光だった。
《“バーニングスフィンクス”に撃破されました》
その後。最初に撃墜された連中が高速修理チケットを使って前線に戻った頃には、肝心の正体不明のレイドボス“バーニングスフィンクス”の姿はなく、代わりに予定通り、バーンフォッシルが悠々とマグマの湖を泳いでいたという。その後バーンフォッシルは無事に撃破されたが、再出撃したメンバーはバーニングスフィンクスを倒すためにコスパ度外視のフル装備で出ていた為、最終的な損益でいえばあまり儲かったとは言い難い結果に終わった。
しかし、それでがっかりするような半端なゲーマーは俺達のギルドにはいない。
「燃えてきたぜ……!」
「ああ。まだまだビルドロボオンラインには強敵が犇めいている……!」
破れてなお、意気軒昂のギルドメンバー達。
俺達の心は一つ。
謎のレイドボス。次に会った時は、必ず倒す!
『速報! 謎のレイドボス、ギルドの連合部隊を壊滅させる!!』
◆◆