ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

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第三十三話 炎を背負って飛べ

 

 

 その日、休憩時間に私は外のベンチで青空を見上げていた。

 

 同僚の姿は見当たらない。まだ寒い季節故、皆暖かい休憩室に籠っているようだ。

 

 今の私には、この肌寒いくらいの風が心地よい。

 

「どうしたもんかなあー……」

 

 思い返されるのはビルドロボオンラインの事。あのゲームがなんだかんだで楽しいのは間違いない。だが、ここにきてそのプレイ方針をどうするかが悩みどころであった。

 

 ビーム兵器が気に入って、それを使おうと決めた。それそのものは、きっと間違っていない。ゲームは楽しんでなんぼだ。

 

 だが同時に、それがどれだけ効率が悪いのかも改めて思い知らされてしまった。普通の機体、普通の装備で戦うあのゲームは明らかに別物であり、そしてそれもまた、楽しかったのだ。

 

 悪戦苦闘しながら、独自性を求めてビームでチンタラと遊ぶのか。

 

 他の多くの下位互換になる事を承知で、量産アセンで爽快に遊ぶのか。

 

 私はどっちの道を進むべきなのか、測りかねていた。

 

「ビームにもっとこう、汎用的な使い方があればいいんだけどなあー……」

 

 そう。威力は確かに無いが、ビームにはそれにしかない特性がある。森林地帯でのフォトンビームの貫通能力を生かした遠距離射撃、火山地帯での高熱環境を生かした熱エネルギー再転換スキルを加速させるプラズマビーム砲の運用といった具合に、特殊な地形に特化して適応するキャパシティはあるのだ。

 

 しかしこれらはあまりにもその地形に特化しすぎていて、一歩でもそのエリアを出ると使えない。もっと汎用的な応用ができれば、ビーム兵器を捨てる事なく運用できるとは思うのだが……。

 

「どっちにしろ、積載量がカッツカツなのは変わらないけど……」

 

 はあ、と改めて溜息をつく。

 

 とにもかくにも積載量と消費エネルギー、そこから来る機動力の低下が大きな問題だ。せめて、それだけでもなんかカバーできたらいいのだが……。

 

 ベンチにぐったりと身を預けていると、青空に一筋、白い飛行機雲を引いて飛ぶ旅客機の姿が見えた。どこからか遠く、ヒィイイン……というジェットエンジンの音が聞こえてくる。

 

 あーあ。あんな風に空を飛べたら、重かったり消費ENが多くてもなんとかなるんだけどな……。

 

「……うん?」

 

 待てよ。

 

 ジェットエンジンの原理って、確か……。

 

「ちょっとまてよ」

 

 私はガバッと身を起こし、携帯端末で百科事典サイトを開いた。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 ジェットエンジンの仕組みは、構造はともかく原理そのものはわりと単純である。

 

 外気圧をファンによって吸入し、それを圧縮。高温・高圧のそれと燃料を混合し着火、燃焼によって発生した熱エネルギーによって爆発的に体積を増した空気を推進剤として後部に排出、その反作用によって得られた運動エネルギーを用いて飛行機を飛ばすというものである。

 

 ここで大事なのが、燃料はあくまで熱エネルギーを生み出す為の触媒であり、逆にいえば熱エネルギーを発生させられるなら必ずしも必要ではないという事である。実際、冷戦期には原子炉の熱を用いた原子炉ジェットエンジンという代物が考案された事もあるという。

 

 勿論、それは放射能汚染をはじめとする環境・倫理的な問題、放射能遮断素材の重量問題など、様々な理由で頓挫したが、原理的には不可能ではなかった、というのがポイントである。

 

 そう。

 

 現実にはなくとも、このビルドロボオンラインの世界においては、プラズマビーム砲、すなわち小型化された解放型の核融合炉なんていうものが存在するのだ。

 

 これを利用しない手はない。

 

「という訳で、早速テストだー」

 

 久しぶりに出撃するのは、初期スタート地点の花園の丘。そこに踏み出す私の愛機は、先日乗り回した中量級をさらに軽量化したものだ。両腕を軽量級のアームに変更し、主武装も軽量化型マシンガンに。マガジン数も威力も減ったし反動も大きいが、一方でその取り回しのしやすさからトップギルドでも愛用されている一品だそうだ。

 

 そうやって軽量化した分を台無しにして積載量を一杯にしているのが、背中に背負ったプラズマビーム砲である。ただし、その砲身は前ではなく後ろを向いており、さらに基部には左右に大型ファンが追加されている。砲身そのものもカバーによって一回り以上大きくなっており、動かないようにがっちりと固定されている。

 

 そう、これは攻撃用の武器ではない。

 

 私を大空に運んでくれる翼なのだ。

 

「よし。まずはロケットブースターで高度をとって、と」

 

 胴体の前後左右に装備したロケットブースターを点火する。シュボアアア、と黄色い火柱が噴き出して、私の機体がたちまち上昇していく。重量二脚ではなく、中量二脚にギリギリ収まるぐらいの総重量であるせいか、上昇速度はそれなりに早い。瞬く間に周囲が一望できる高さまで上昇した所で、ロケットブースターの燃焼が終了した。

 

 あとはこのまま落ちていくだけだが……。

 

「プラズマジェットエンジン……起動!」

 

 がちり、とトリガーを引くと同時に、機体の背中が青白く輝くのが分かった。同時に、空気吸入ファンが回転を始める音が響き、サブエネルギーが少しずつ減少していく。

 

 原理は単純だ。吸入ファンによって周囲の空気を吸い込み圧縮、それをプラズマビーム砲の砲身に送り込む。そしてそれに、超高熱のプラズマを叩き込んで膨張させる。

 

 原理は単純だが、ジェットエンジンとは熱量が違う。なんせゲーム的には大した威力が出ていないだけで、プラズマ粒子は物理的には金属をも蒸発させうる超高温である。液体燃料をちょっと燃やしたのとはわけが違う。

 

 原理的には間違っていないはずだ。あとは、どれだけの推力が得られるかだが……。

 

 出力およそ20%でビームの照射が始まる。途端に、ガクンと機体が大きく傾いた。

 

「お…………お、おぉ!?」

 

 一瞬、衝撃に失敗を覚悟したが、その時はいつまでもやってこない。そして視界に広がるのは、相変わらずの高度からの絶景であり……高度計の示す高度は、少しずつ目減りしながらも大きくは変わらない。それでいて、速度計は200キロ近い速度が出ている事を示している。

 

 成功だ。

 

 プラズマジェットエンジンは機能している。

 

「おぉおー……」

 

 感嘆に語彙を失いながら、花畑の遥か上空を飛翔する。プラズマ熱によって発生した膨大な推進力により、空力の力を借りなくとも飛翔する機体。原理的にはぶん投げられた石ころと同じなのでこんなに安定して飛行できる訳がないのだが、まあそこはゲーム的な補正が働いているのだろう。

 

 しばしの空中散歩を楽しむ私。

 

 やがて数秒も立てばビームの照射が終了する。ビーム砲が放熱に入り、サブエネルギーが回復を始める。あとは、このまま落下するだけなのだが……。

 

「あら?」

 

 しかし、覚悟していたように急滑落する事はなかった。確かに高度も速度も落ちてきているが、機体は依然として横殴りの推進力で飛翔を続けている。これは一体……あ、もしかして。

 

「吸入ファンは回ってる……もしかして、砲身の余熱だけで推進力が得られている?」

 

 オーバーヒートすれば機体そのものを巻き込んで大爆発するような代物だ。通常冷却でも砲身が真っ赤に灼けるような熱を発する訳で、それだけの熱量があればある程度の推進力が生まれるのかもしれない。比率は明らかに1を下回っているが、ゆっくりと高度が落ちるぐらいの運動エネルギーが得られているなら大助かりだ。

 

 徐々に近づいてくる地面。高度計の数値を頼りにタイミングを見計らい、機体を引き起こす。

 

 途端、ガクン、と急激に減速した機体がドッスンと地面に落下した。慣性で花畑を刻みながら滑走し、勢いを殺す。

 

「あばばばば」

 

 めちゃめちゃ揺れるコクピットに思わず声が出る。実際には揺れてないんだけどね。

 

 ともかく、無事に着陸できた私はステータスを確認する。脚部の関節が一時的に許容量を超えてイエローになっているが、これぐらいなら時間経過で回復する。他に大きな目立った損傷はなし。

 

 ゆっくりと、機体を立ち上がらせる。

 

 目の前をノンアクティブ状態の蟻がテクテク通り過ぎていくのを見送りながら、私は地面から足を引っこ抜かせて立ち上がった。

 

「よ……っ、しゃーーー!!」

 

 そしてガッツポーズ。

 

 やったぞ。

 

 まだビーム砲には、私の知らない可能性があった!

 

 あとはこれを出来るだけ煮詰めて、友人との約束の日までに仕上げなければ!

 

 とりあえず飛行するに十分な推力は得られたから、翼をつけて揚力を得て、んでもってどれぐらいのサイズなら戦闘の邪魔にならないとか、バランサーとか、武器の選定とか……。

 

 やる事はたくさんあるぞ!

 

「うぉーし、テンション上がって来たぞー」

 

 私は喜び勇んで、ホームへの道を直走るのだった。

 

 ふはははは、楽しくなってきたぞ!!

 

 

 

◆◆

 

 

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