ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

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第三十九話 龍蟲

 

 迸る青白い閃光。

 

 超高熱のプラズマビームが、マンモスの毛深い防弾皮を直撃する。

 

 途端、燃え上がる茶色い毛皮。

 

『ブモォオオオ!』

 

 防弾繊維という事である程度の耐熱性はあったのだろうが、流石にプラズマビームの熱量となると話が違ったらしい。なんせ、砲身冷却の余剰熱ですら前長10m近いロボットを飛行させる熱量になりうるのだ。金属すらも溶解させる超高熱の前では、多少の耐熱性がある程度の繊維など藁のようなものである。たぶん。

 

 火だるまになったマンモスのHPバーが、熱ダメージで減っていく。

 

 これだけでは足りないが……。

 

「今だ、撃て!」

 

「おっしゃあ!!」

 

 二人で弾丸を浴びせかける。防弾繊維を失い、炎によって熱せられた装甲に次々と弾丸が突き刺さり、マンモスのHPを削っていく。

 

 そしてついに力尽きたマンモスが膝をつき、ボゥン、と黒い炎を吹き上げて停止した。

 

 なおも燃え盛る炎でぱちぱちと燃えながら、黒い煙が柱のように天に伸びていく。

 

 その様子と、メッセージが伝えてくる撃破報告に私達はようやく臨戦態勢を解除した。

 

「ふぅ……なんとか撃破したか」

 

「おつかれー」

 

 互いの健闘を称えあいつつ、眼前のモンスターをあらためて見やる。

 

「こいつなんだったの、ボス?」

 

「違う違う、ちょっとHPの多い雑魚。さっき言ったろ、崖下にはこういうのがたくさんうろついてる」

 

「地獄じゃん」

 

 私はまだまだ初心者プレイヤーだが、使ってる武器は渡してもらった上位モデルだ。それであれだけ苦戦するんだから、強いのは間違いない。

 

 それがたくさんかあ。ひしめいてるっていうぐらいいるのね……。

 

「まあ、そんな訳で普段この辺にいないんだけどな。オンライン版だけど、プライベート設定でなんか動きが変わったのかね」

 

「うちの回線が原因じゃないだろうな……ちょっとラグとかあるみたいだからさ」

 

「否定はできんなー」

 

 和気あいあいと話し合いつつ、武装のチェックをする。

 

 サブマシンガンの弾丸は残り僅か。プラズマジェットエンジンは大破、ロケットブースターのみ。これではとてもじゃないが戦闘の続行は不可能だ。

 

 残念だが、今日の狩りはここまでのようだ。

 

「わるい、せっかくだがここまでみたいだ」

 

「だな。ま、ゾウムシ仕留めて収支は黒字だし、いいんじゃない?」

 

 確かに、強敵だったが撃破報酬はおいしかった。

 

 色々素材も手に入ったし、ホームに戻ってカタログを見るのが楽しみだ。先の事を考えて、私はニコニコと空を見上げた。

 

 相変わらずの曇天。雲の向こうではバリバリと雷が唸り声をあげている。気のせいか、さっきより雲が低くなっているような……。

 

 ビシャーン、ゴロロ……。

 

 黒い雲の中で雷がスパークし、その裏側に一瞬、何か巨大な存在のシルエットを写し出した。

 

「……な。なあ。雲がなんか近づいてきてないか? あと、なんかいるような……」

 

「え?」

 

 私の指摘に友人も足を止めて空を見上げて、数秒固まる。

 

 ややあって漏れた言葉は戦慄に震えていた。

 

「マジかよ……こいつまでここに降りてきてんのかよ」

 

 再び鳴る雷。やはり見間違いではない。一瞬だけ光る雲の向こうに、巨大な影がとぐろを巻いている。それは空を渡る巨大な橋のようだった。

 

 雲から、鋭い突起物が顔を出す。部分部分では全体像を想像できないような巨大構造物が、黒い霞の向こうからゆっくりと降りてくるにつれて、その姿が見通せるようになってきた。

 

 それは、一言でいえば巨大な機械のムカデだった。

 

 胴体は、大きなタービン状の部品を持ったブロックで構成されており、そこから巨大なクレーンを思わせる足がいくつも伸びている。周囲にはバリバリと高圧電流が飛び交い、それはタービンに吸い込まれたり、あるいは逆に放出されているようにも見えた。周囲は無数のドローンが飛び交っており、そのドローンを足場にして、その巨体を浮かせているようだ。

 

 頭部は、巨大な複眼に鋭い牙、長い触手。特に触手は非常に長く大きく、全長の三分の二ほどあるように見える。

 

 ガチン、と巨大な顎が嚙み鳴らされると、私達の立つ地上にいくつもの雷鳴が落ち、たちまち周囲が燃え上がった。

 

「こいつが……誰も倒せないっていう超難易度レイドボス……?!」

 

「ああ……! クラウド・センチピード……! 冗談じゃない、ここまでうまくいってデスペナなんか受けてたまるか、逃げるぞ!」

 

「あ、ああ!」

 

 一足先に、スラスターが生きている友人が離脱を図る。私も地面を走って、その後を追い……それゆえに、はっきりと見えた。

 

 空を雷鳴のように駆け抜ける巨体。一瞬で友人の機体に追いついたセンチピードは、その牙で一瞬にして友人の愛機を粉砕・破砕・原子分解。残されたわずかな部品が、ぱらぱらと雪の上に落ちるのが見えた。

 

「あ……」

 

 あまりにも一瞬の出来事。おそらく友人は自分が撃破された事にすら気が付かなかっただろう。これが攻略不能と言われている超難易度レイドボスの力。

 

 それよりも私は、今の一瞬でセンチピードが見せた動きが目に焼き付いていた。

 

「すごい」

 

 単純にジェット噴射とか、ゲーム的な補正による超高速移動ではない。今の動きは、理にかなったものだった。

 

 いつのまにか、私達を取り囲むように広範囲に対空しているドローン。あれを足場に、センチピードは一瞬で高速移動していた。そしてあの足。あの長く細い足は、空中でドローンを確実に捉え、巨体を運ぶために特化したものだ。現実のムカデと比べても極端に長い脚は、そのストロークで距離を稼ぐため。ムカデの形状をしているのは、できるだけ過重を多くに分散させるためだろう。ボディ部分のタービンは恐らく発電装置か電力増幅装置、あそこで生み出したエネルギーを周囲のドローンに無線供給、それによって自分自身の行動範囲を確保していると見た。

 

 巨大なボスが動きが鈍い、という前提を覆す超高機動。いや、おそらく空中であの高速移動を可能とするために、このボスはこのサイズをしているのだ。

 

 スラスターとかジェットエンジンは、どうしても静止エネルギーを相殺して初めて動き出すために初速が遅い。だが、歩くという行動はそうではない。人間は転びながら歩いている、と言われるように、位置エネルギーを通してすばやく運動エネルギーに変える重心移動は、初速に優れている。そのために特化した構造……ある種の機能美すら感じる造形と動きに、私はすっかり魅入られていた。

 

 そして同時に、対策も理解した。

 

 このボス相手に、迂闊に飛んでは駄目だ。ドローンを足場にするという行動パターン上、空中戦は圧倒的にあちらの方が有利。

 

 戦うならば地上だ。

 

「っ、来た!」

 

 周囲にふわり、とドローンが高度を下げてくるのが見える。その隊列に、駆け寄ってくるボスの軌道を幻視して、私はマシンガンの引き金を引いた。

 

 残りの弾数は少ない、タップ撃ちで節約を心がけながら、ドローンの足場を破壊する。瞬間、コマ落としのように駆け寄ってきたボスの動きがそこで停止した。

 

「よし!」

 

 左手に抱えるプラズマビームのヒートを一瞬確認。雪山という環境のせいか、いつもより少し早く冷却の完了したそれの引き金を引く。

 

 迸る青白い閃光。超高熱のプラズマビームが、動きを止めたボスに一直線に向かっていく、が……。

 

 空間に走る雷光。

 

 気が付いた時には、まるで空間が質量を得たように、直進するプラズマビームとせめぎあっているかのような光景が眼前で繰り広げられていた。

 

「これは……電磁障壁?! なんて出力!?」

 

 せめぎあう、黄金と蒼白の閃光。ややあってそのつばぜり合いは、黄金の障壁に趨勢が傾いた。

 

 撥水コーティングに触れた水のように、飛沫となって四散するプラズマビーム。

 

 美しい輝きが消え行く向こうで、ギラリ、とボスの複眼が輝き……次の瞬間、私の視界は黒一色に満たされた。

 

 

 

《“クラウド・センチピード”に撃破されました》

 

 

 

《付近に使用可能なホームが存在しないため、初期エリアに戻されます》

 

 

 

「やられた、かあ」

 

 ソファに身を預けながら、最後の攻防を思い返す。もしあれが、推進用に出力を調整していない、出力100%のプラズマビームであったら、果たして撃ち勝てたのだろうか?

 

「次は負けないぞ」

 

 私にとって大事なのは、その一点のみだった。

 

 視界にはまだ、超高エネルギー粒子のせめぎあいが目に焼き付いている。

 

 

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