ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
霧に包まれた工業地帯を闊歩する、巨大な怪物。
ずしん、ずしんと歩く足の下で、踏みつけられた配管がへしゃげて蒸気を噴き出した。
それを気にも咎めず進軍する私……いやまあ、図体がデカすぎてどうにも気が回らないだけなんだけどね。
「お、第一エネミー発見」
霧の向こうにメタルインセクトの姿を確認し、私は早速マシンガンの照準を合わせた。
合体して肥大化した巨体からすると、2号機の腕はなんていうか、位置的にもサイズ的にも肉食恐竜のちんまいお手手みたいである。貧弱そうに見えるけど、装備しているのはちゃんとしたマシンガンだ。火力的には問題ない。
バタタタタ、と放たれる弾丸が、メタルインセクトを蜂の巣にする。ギリギリ1マガジン使い切るか、という所で撃破するが……それに反応して、複数の敵がこちらに向かってくる。
ここからが本番だ。
「ふんぬ!」
マシンガンのリロードが終わるよりも早く至近距離に近づいてきたメタルインセクト。それを、巨大な脚で蹴り飛ばす。
いつも通りといえばいつも通りの常套手段。が、規格外のサイズであるメガフレーム脚部は、その蹴りの威力も規格外だった。
せいぜい突き飛ばして距離を取るつもりでの一撃が、そのままメタルインセクトを壁にめり込ませてHPバーを文字通り吹っ飛ばす。砕け散る敵の姿を確認して、思わず歓待の声が零れた。
「ひゅー。デカイのは飾りじゃないのね」
『背後、別の敵が来ます!』
「おっと」
テレサの警告で後ろを取られていた事に気が付く。壁か何かを走ってきたので見落としたか?
後ろに振り返ろうとして、しかしガツン、という衝撃と共に機体がつっかえた。
これは……工業施設に頭と尻尾がひっかかって……。
「うげえ、動きづらい!」
『敵、攻撃体勢に入りました! 跳躍してきます!』
「ええい、これならどうだ!」
テレサの声に合わせて、機体を今度は逆方向に旋回。
大型化したバランサーである尻尾を、勢いをつけて振り回す。それは確かに、背後から飛び掛かってきたメタルインセクトを捕らえると。そのまま勢いのままに反対側の壁へと叩きつけた。
一撃とはいかなかったが、工場の壁にめり込んで動きを停めるメタルインセクト。
私は素早くコンソールを操作し、機体側面に搭載したアームを動かし、パイルバンカーを展開した。
「くたばれ!」
そして射出。
可動範囲の広いアームの先端に取り付けられたパイルバンカーが、今度こそメタルインセクトを串刺しにしてトドメを刺した。
周囲に敵がいない事を確認して、大急ぎでバックしてその場を抜ける。広い所まで後退して、私はほっと息を吐いた。
「思った以上に動かしづらいな。機体の状態は?」
『地形にぶつかったせいで機体各部にイエローシグナル。あとテールバランサーにレッドアラート、機能低下。バランサーはぶつけて使うもんじゃないですよ、もう』
「ごめんごめん。問題は山積みだな」
とりあえず、バランサーは強度をもっと確保しないと。あと、機体各部に地形と接触しない為にセンサー増設するかな、接近しすぎたらアラートならすとか。
というか、恐竜の形してるからって、ついついそのつもりで動かしてしまう。実際は繊細な部品の塊なんだから、もっと気を付けないと。
「まあ、そのあたりは次でどうにかしよう。んじゃ、機体が壊れる前に、ビーム発射実験に戻ろうか」
ノシノシ歩いて、スタート地点に戻ってくる。
その中央で、機体を低くしゃがませると、機体側面に備わった計四つのパイルバンカーを起動。アームで伸ばしたそれらで地面を貫き、機体をがっちりと固定させる。
『固定確認。いつでもいけます』
「了解。ビーム砲角度調整、合成ポイント、機体の全面60m。照射開始まで、3、2、1……0。発射!」
トリガーを引くと、ビームのチャージが始まる。光り輝く、青とピンクの閃光……そして、スピーカーから怪獣の雄たけびみたいな音声が響き渡る。
『ガゴォオオ!』
『なんで叫び声が?!』
「当然、かっこいいからだ!」
そして、発射!
正面に向けて放たれる、二種類のビーム。それは指定通りの距離で交じり合って、虹色に輝く光の球を作る。その向こうに伸びる、合成ビームの光の柱……。
「む?」
なんだろう。光の球が前回よりも小さく見える。それに、放射される合成ビームの軌道も安定しているようだ。前回は収束率が悪くてかなり広範囲に拡散していたんだが……。
しかしながら、それ以上の事はよくわからない。前がまぶしすぎて、ビームがぶち込まれた場所がどうなってんのかまるで見えない。サングラスもつけるべきだったか。
「……あと、やっぱり反動もきついな」
機体がメシメシと軋む音が聞こえる。モニターには、各部関節部がイエローアラートを表示しており、反動の強さを訴えている。特にビーム砲をマウントしたハンガーユニットの負担が大きい。やはり予想通り、想定以上の負荷にビーム砲の砲身が微振動を始めている。が、それを装甲カバーが拘束して押さえ込んでいるようだ。
ふふふ、私ってばかしこーい!
そうこうしている内に、数秒のビーム照射が終了した。ビームの光が途絶え、砲身がけばけばしい光を放って冷却を開始する。固定用のパイルバンカーを引っこ抜いて、機体を立ち上がらせる……あっ、一個取れた。
格闘戦に使った奴か……もっと強度ないと駄目だな。
「まあいいや、照射は上手くいった。で、威力の程は……おおっと」
突然、強い突風にあおられて機体がたたらを踏む。何とかこけずに済んだ私だったが、突如響いた警告音に目を白黒させる。
「え、何!?」
『機体温度が異常上昇中! ラジエーターをフル稼働させてますが止まりません!』
「なんで、って、あっ」
咄嗟に目を向けるのは、恐竜の顔を真似た装甲で結束されたビーム砲の銃身。あれだ、反動を抑えるために二つをくくりつけてたから、互いの熱量が干渉しあって爆熱になってるのか。んで、砲身は強力な冷却システムがあるけど、機体はそうじゃないから熱暴走しそうになってる……?!
慌てて装甲版を解除するけど、熱量の上昇が止まらない。
このままだと爆発しちゃう。
『すいません、介入します!』
テレサの声と共に2号機の懸架アームが伸びた。それはプラズマビーム砲をがっちりととらえると、ぺいっとハンガーユニットから引き離す。
それと同時に、警告音が停止する。九死に一生を得て、私はほうと息を吐いた。
「た、助かった、ありがとうテレサ」
『いえいえ』
「しかし、これだとビーム砲は発射する時だけ固定して、それ以外の時は距離を置くようにした方がいいなあ。可動レールとか、考えておくか……。とにかく、どうなった? 合成ビームの威力は……」
また一つ改善点が増えた。
キリがないなあ、と思いつつ、私は顔を上げてビームを撃ち込んだ地帯の様子を確認する。
そして、絶句。
「……は?」
発射前、私達が立っていたのは工業地帯の真ん中付近、大きな工場の資材搬入広場か何かだった。
平らにならされた地形の向こうには、道路のような道と、その周辺に広がる無数の配管や建物が、霧の向こうに広がってたはずだ。
しかし、今はもう何もない。
地平線の向こうまで続くかのような、一直線に続く灼けた道。それだけを残して、何もかもが倒壊し、溶解し、ドロドロに崩れたガラクタの山と化していた。
立ち込めていた霧も全て消し飛び、青空の下で遠くまでよく見える。
その向こうには、工業地帯を取り囲む壁が見えて……そのど真ん中に、大穴が開いていた。
「……え、ナニコレ?」
想像の10倍ぐらいの威力に、私は思わずドン引いた。