ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
荒野。
それは機械にとってはかなり厳しい環境である。
照りつける灼熱の太陽、日中の極端な寒暖差。
そして何より、部品の隙間に容赦なく忍び込んでくる細かい砂。
ギアやシリンダーはもちろん、構造的に冷却が必要な電子部品にそれらの砂礫は致命的だ。
現実でも、過酷なダートラリーは脱落者が続出する事を見ても、命無き荒野はそもそも生きていない者にも冷酷なのである。
ましてや、ロボットとくれば。
「うぉっとと」
一歩、赤茶けた砂原に足を踏み出した途端、機体がバランスを崩しかけて私は慌てて操縦桿を倒した。
埋まった足を引っこ抜いて、できるだけ硬そうな場所に降ろす。ふぅー、と息を吐くも、これは難儀しそうだ。
「二足歩行ロボは設置圧が大きすぎるのが難点、って言われてるけど、ここでそれを実感するとはな」
それもこの機体はメガフレームだ。一般的な機体よりも重い訳で。
いやでも、サイズ的には足の裏は通常の機体の数倍あるしな。設置圧という意味では普通の機体よりマシか?
「ううん、どっちだろ」
まあいい、考えていてもしょうがない。現実の物理法則云々よりもゲームの世界に合わせよう。
まあつまりは当たって砕けろだ。
できるだけ砂に覆われていない、硬そうな地盤を選んで機体を走らせる。
さすがにそろそろこの独特な操作感にも慣れてきたので、大きな歩幅で大地を疾走する。速度計を見ると、軽く時速100キロは出ているらしいが、あまり実感しないのはやはり視座が高いせいなのだろう。
なんとなくダチョウになった気分で走りながら、敵の姿を探して視線を彷徨わせる。
「しかし、なんていうか……方向感覚がおかしくなりそうな景色だな」
とにかく、赤錆色の大地がひたすら広がるばかり。一応、テーブル状の、エアーズロックを思わせる山だか高台だかがあるが、それがなかったら右も左もわからなくなりそうだ。地平線の上には、ゆらゆらと揺れる蜃気楼。そこに無秩序にこれまでめぐってきた森や工業地帯のような景色が浮かび上がってるのを見て、ぐえっとなる。
足を止めて、マップを開く。
「そういえば、辻斬りギルドの本部があるのって、この先だったよな」
地図を高倍率に縮小。記憶を頼りに、マップとにらめっこする。が……。
「近くといってもまだだいぶん先か……」
少なくともこの荒野地帯とその向こう、また別種のマップを越えないと問題の場所にはいけそうにないか。
……ん?
いや、まてよ。これよく見たら……。
「物理的な距離は、森の方が近い……?」
そうだ。地形に沿ってあるくとCの字に回り込む形になるが、直線距離では目的地は森からの方が近い。
ただその間には山のような地形が挟まって事実上通れないようになっている。
なんていうか、あれだ。世界的なRPGの最終ステージが、スタート地点から見えるけど侵入不可能な山マップで阻まれて直接行く事はできないみたいな。
だけど……。
「地形か……」
合成ビームによって破壊されつくした工業地帯の惨状を思い返す。
もしかして、それでどうにかならないかな? 昔アニメで、山をビームでぶち抜いてトンネルを作る事でショートカットしてきた大ボスがいたはずだ。
あれと同じ事が出来れば……。
「むふふふ……ん?」
合成ビームを使う必要性が出てきた事に内心ワクワク、ムフフとしていると、不意に地形に違和感を覚えて私は意識を引き戻した。
周辺の、砂まみれの大地。そこに不自然な砂の流れができている。
流砂?
いや、どっちかというこれは……。
「地面の下に敵が潜んでる!?」
とっさに機体を下がらせた直後、荒地のあちこちで爆発のような砂柱が吹き上がった。
『ギシシシ!』
『ギィイ!』
そしてその砂煙の中から、姿を現す無数のシルエット。
大地を駆ける複数の多客、骸骨のように細く薄汚れたフレーム。体の上に高く掲げられたアーム、その先にマウントされた銃器。
サソリ型のメタルインセクトのご登場だ。
さっそく私はマシンガンを構えて引き金を引いた。
「なるほどな、地形の下に潜伏してるって形で、足を止めると出現するのか」
マシンガンの弾丸を撃ちこみながら後退、引き撃ちの形に持ち込む。
「砂漠といえばサソリ型だよな!! わかってるじゃん!」
なんだか懐かしい気分に浸りながら、群がってくる敵を撃破する。こいつら、一匹一匹は弱いんだが、数が多い! 攻撃も散発的にライフルを撃ってくるだけだけど、この数で撃たれたらちょっとシャレにならない。
何よりもかなり足が速い。骸骨みたいな細いフレームに、設置圧を分散する多脚。砂地に足を取られずに、颯爽と駆け寄ってくるその機体前方には、異音を奏でるハサミ状のカッターが装備されている。あくまでライフルはおまけ、本命は俊足からのカッター攻撃と見た。
幸いにして、メガフレーム二脚は砂地に足をとられなければ足が速い。包囲されないように動き回りつつ迎撃するが、倒しても倒しても次が沸いてくる。
「キリがない、こういうのはまともに戦うんじゃなくて、どこかに退避するもんだ」
マシンガンのリロードの間に、素早く目を配って周辺の地形を確認する。
……テーブル状の盛り上がった大地。さっきまでは単なる地形のオブジェクトだと思っていたけど、もしかして……。
「ええい、ままよ! ほかに手もない」
一瞬の隙をついて至近距離に近づいてきていた敵を踏み潰して駆け出す。
進路上に出現する敵をマシンガンで撃退しつつ、砂原を駆ける。多少足を取られても勢いで誤魔化し、盛り上がった台地へと向かう。
その急斜面を、勢いをつけて駆け上がる。
「の、ぼ、れーーーー!!」
あまりの急斜面に、急激に勢いが衰えていく。一瞬、完全に加速を失ってひやりとするものの、後ろに転がり落ちるよりも先に足先がてっぺんを踏みしめた。なんとか機体は台地の上へと這いあがった私は、その場で振り返って下を見下ろした。
「やっぱりだ」
サソリ型のメタルインセクト達。彼らは急斜面を登る事が出来ずに、台地の下でうごめいている。何匹かが斜面の上に這い上ろうとするものの、簡単にひっくりかえって転がり落ちる。おそらく軽量化しすぎて、機体を上に持ち上げるパワーがないんだろう。地下に潜るのも、そこから浮上するのも粒子状の砂地という地形あってのものだ。
見ている前で、メタルインセクト達は追撃をあきらめたのか砂の中に潜っていく。そりゃそうだよな、でないとここから鴨撃ちだ。そこまで楽な話は流石にないだろう。
「なるほど。このエリアはこの台地を経由する事で安全を確保できるわけか」
となると、このエリアは足を止めずに一息に駆け抜けるか、あるいは飛行能力を持って台地から台地へ渡るか。
足を止める地形がありそうだから、飛行型機体が言い訳だな。
そろそろこのあたりで、スラスターで空を飛んでね、という運営からのお達しかな。
「プラズマジェットエンジンの出番になりそうだな。しかし、それはともかく……」
……ここから帰るときは大変そうだぞ。
私はふぅ、とため息をついて、勢いをつけて傾斜を駆け下りた。
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