ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
んでもって、まあ。
予想通りの展開になった。
「とはいえいくらなんでも数が多いって!!」
荒野を砂埃を上げて疾走する愛機。その背後カメラには、津波のように押し寄せる巨大な砂塵。一見すると砂嵐のように見えるそれは、無数のメタルインセクトが巻き上げる砂煙だ。
あの後、台地から降りた私は、再びサソリ型に攻撃を受けた。一度踏んだフラグはリセットされないようで、やむを得なく交戦を避けてその場を離脱したのだが……逃げているうちにその数はどんどん増えて、今やご覧の有様である。
普通に考えてどうにかできる数ではないので、多分オフラインだからなんかおかしくなっている。オンラインでこの増えようだったら誰もこの荒野を歩いて突破できないというかトレインとかで地獄絵図になる。
「くっそ、こんなんばっかりだー!」
背後から時折飛んでくるライフル弾がチュインチュイン、と装甲の上で音を立てる。幸いなのは移動中は相手の射撃の命中率が著しく落ちる事か。とはいえそれでも装甲を掠めて飛んでいく黄色い軌跡はひやりとするものがある。
それでも、ここまで逃げてしまえばこっちのものだ。
「よし、見えてきた」
向かう先の地平線に、灰色の線が浮かび上がってきた。近づくにつれてそれはどんどん厚みを増し、ついには聳え立つ壁となって私の前に立ちふさがった。
工業地帯を取り囲む防壁。
今となってはこの荒地のメタルインセクトを防ぐためのものだったのだと理解できる。因果関係が気になるが、ゲームの設定を考えるのはまたあとだ。
今はとにかく工業地帯の内部に退避しなくては。いくらしつこいサソリ型でも、この中にまでは追ってこれまい。
「とにかく、穴が開いてるところ、と」
マップに残っている移動の軌跡を頼りに、ビームで空いた大穴を探す。
だが……。
「あ、あれ? 無い?」
マップログを見る限り、場所は間違いないはずだ。
だが目の前に佇むのは傷一つない鋼鉄の壁。ビームでぶち抜かれた跡はどこにもない。
もしや……。
「オブジェクト復元入ってふさがったぁ!?」
時間経過かあるいはオブジェクトの描画数が関係しているのか、どうやらビームで開けた大穴はすっかりふさがってしまったらしい。これでは工業地帯に戻れない。
背後からは押し寄せてくるメタルインセクトの群れ。このままでは袋の鼠だ。
「い、いや、まだ手はある! 正規の出入口は……多分こっち!」
マップの表示やデザインを頼りに、本来の出入口を探す。たぶん、左側にむかって壁沿いに走れば……あった!
代わり映えのしない防壁に、大きく張り出した構造物。柱のようなものに囲まれたシャッター……あれが出入り口に違いない。
「間に合えー!」
背後から押し寄せるメタルインセクトを振り切って、ゲートに飛び込む。大急ぎで開閉装置にアクセスして解放を……。
《ビビッ シャッターは内側からロックされています》
「……はい?」
教訓。
グリッチじみた進行をすると、後々に詰む恐れがあります。
まあ、うん。多分、ロックがかかっているのを内側から開けて進むのが正規ルートだから本来は問題ないんだけど、ビームで隔壁を破壊して外に出る、という想定外のことをやったから、フラグが立っていないんだな。
つまり、私はこれで立派に袋の鼠という事で……。
「ぬわー!」
そして、背後から押し寄せる砂嵐の如きメタルインセクトの群れに2号機はすっぽり飲み込まれるのだった。
一応、可能な限りの健闘はした。
なんか覚えあるな、無限の物量を相手に敗北の決まってる抵抗戦って……。
プレイヤー:ショウ、DEAD。
死因:サイコロステーキ。
『……えと、その、お帰りなさい?』
「ああ、うん……ただいま……」
そして、工業地帯のホームにデスルーラ。
バラバラに解体された2号機だったスクラップの山と一緒に戻ってきた私を、テレサはちょっと気まずそうに出迎えてくれた。
『ええと、一体何が? ちょっと様子を見てくるというお話でしたけど、2号機が凄い事になってますが……』
「まあ、うん。色々あったんだよ。話すと長くなるんだけどね」
遠回しに説明を断って、私はカスタマイズ画面に向き直った。
「悪いけど今日は、機体のカスタマイズしたらもう落ちる事にするよ。疲れた……」
『そ、その……お疲れ様です……?』
ほんとにね……。
まあいいや。とりあえず、さっきの反省でビーム砲のマウント形式を変えて、あと2号機のコクピットを分離独立出来るようにして、んでもってそれから……。
「……意外とやる事あんな」
結局、作業を終えて私がゲームを終了したのは1時間ぐらい後の事だった。
途中から手伝ってくれたテレサが妙に楽しそうだったのが記憶に残っている。
◆◆
そして数日後。
友人達が、企業ギルドと辻斬りギルドの抗争に介入する日がやって来た。
気にしないでいい、とは言われたが、やはり気になる。
という事で、私は完成した合体ロボで、ちょっと野次馬しにいく事にした。
「んじゃま、行ってくるよ」
『気を付けていってくださいー』
手を振るテレサに頷き返して、オンラインモードに切り替える。
途端、彼女の姿が緑色に変色して、ノイズと共に消滅する。テレサはオフライン専用のサポーターなので、オンラインモードにはついてこれないのだ。
ちょっと寂しいが、しょうがない側面もあるだろう。
課金要素に過ぎない彼女らは、オンラインで使えてしまうと他のプレイヤーも使っていたら複数同時に存在してしまう事になる。AIの自己認識がどうなっているかは分からないが、自分が複数いる、という状況は、なんていうか知性的にとてもよろしくない気がする。
こっちとしても、同じ顔が複数並んでいるのは落ち着かないので、正直この仕様で助かった。
「さて、と」
テレサがいないので、2機の機体を運び出すのは自分ひとりでやらないといけない。
上手くいくといいなあ、そう思いながら私は2号機のコクピットに乗り込んだ。
「よし、出撃だー」
森林のホームから2号機で出現する。
リフトからガッチャンコ、と降りると、周囲は前に見た時と同じように切り開かれた森の中。依然と変わらず、無数のプレイヤーが行列を成して狩りに言っているのが見えた。
ただ、聞こえてくる言葉は世情を反映して、いささか雰囲気が異なっていたが。
『APPLE:はあ、企業ノルマめんどい……今週中にあとネジを10個納品か……』
『Mogege:なんか皆でこの辺狩ってるから調整はいったのか、ポップ率悪いんだよね』
『GRR:くっそう、せっかくいい感じだったのに敵対企業の部隊に殺されたー畜生ー』
全体チャットで聞こえてくるのは、なんだか世知辛い感じの愚痴だ。
どうやら企業ギルドの陰謀による一般プレイヤーへの影響は想像以上のものがあるらしい。いや、この場合は辻斬りギルドの影響力か? 彼らによる襲撃を恐れたプレイヤーの多くが企業ギルドに所属する事になったようだが、それはつまり、社会人になるという事である。
そして社会人は働かねばならない。
企業から与えられたノルマを達成する為に、どうも彼らも苦労しているようだ。
『BSAA:なんで仕事を忘れるために遊んでるゲームの中で仕事しなきゃならねーんだよ畜生』
『GRR:まあ、しばらくの辛抱さ。企業ギルドの精鋭が、今辻斬りギルドの本部を攻撃してるらしいし。まあ結局、解約金は発生するんだけど……』
『PLR:早いとこ終わらせてほしいぜ……』
残念、それ談合試合なんだ。君達の思ってる通りにはならないと思うよ。
しかしなんていうかこれ、思った以上に悪辣な事してない? 運営は把握しているんだろうか、それとも把握して我関せずか?
PVPを推奨しているから、いっそ逆に「争え……もっと争え……」という感じなのかもしれないが。うーん、わからん。
「まあいいや、さっさとこっちはこっちの話を進めよう」
肩を落として続く社畜の群れから目を逸らし、私は森の奥に2号機を進めた。
敵との交戦を避けて、んでもって後の事を考えて邪魔な根っこなどを破壊しながら先に進む。事前に目星をつけておいた、比較的開けた地点までたどり着くと、私は周囲を観察した。
この先は山でふさがれているのもあるし、周辺にプレイヤーの姿は無い。よし、問題はない、予定通りだ。
あとは時間との勝負。
あまり人気の無いエリアとはいえ、チンタラしていても危険だ。すぐに1号機を持って来なければ。
私は2号機のコクピットを分離させるスイッチを押し込む。
ぼふん、と吐き出されるように分離したコクピットブロック。その下部からボン、と音を立ててタイヤが膨らみ、音を立てて疾走する。
「脱出装置のバリエーションが多くて助かったよ」
操縦桿で車を操作するのは変な感じだが、まあすぐに慣れるだろう。
下草の間を潜り抜けて、大急ぎでホームに戻る。キャタピラ型とか車輛型の機体では根っこにひっかかったりして進みづらい森も、コクピットブロック単体の状態では問題ない。それらはあくまで巨大ロボットをひっかけるサイズなので、普通の車よりちょっと大きいぐらいの今の状態なら何の障害にもならない、張り出した根っこの下をかいくぐってショートカットし、5分ほどで私はホームに戻る事が出来た。
そして1号機に乗り換えてすぐに出撃。
珍しいキャタピラ機体、それもメガフレーム採用機に、行列を作っているプレイヤー達が関心を持つ気配があるが、無視だ無視。
誰だあれ? といった感じの全体チャットを無視して、2号機の元を目指す。
キャタピラでは森の中は移動しづらいが、事前に邪魔なものをどけておいたのが功を奏した。数分とかからず2号機に辿り着いた私は、周辺にメタルインセクトやプレイヤーの姿が無い事を確認して合体モーションに入った。
「レッツ、ドッキング!」