ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

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第七十一話 鉄骨渡り

 

 あらためて自分がどれだけ高い所にいるのか確認して肝がひやっとする。

 

 いや、以前にプラズマジェットエンジンで飛行してた時はこれより遥かに高い場所にいたし、何ならそこから墜落もしたりしたけど、それとこれとは話が違うっていうか。

 

 あれはなんていうか、非常識な高さだった。こっちはなんていうか、現実でもあり得そうな高さで、想像がしやすいというか。

 

 高所恐怖症というのは、落ちた時どうなるかが想像できるから怖いのであって、雲の上をそれなりの速度でかっ飛ばしているとか、非現実的な体験中はさほど強く感じないのである。

 

 などと言い訳しつつ、私は首を引っ込めて深呼吸。

 

「うーん……」

 

 目の前には、ここを渡ってねと言わんばかりの移動要塞の足。幅は愛機が4機ぐらい横になって通れるぐらいで、そんなに狭い訳ではない。

 

 だが向こうに見える本体には、無数の対空機銃らしき装備があるのが確認できる訳で……多分、ちんたらわたってたら容赦なく撃ってくるよね、これ。となると、ホバー機構で一気に渡らないといけないんだろうけど……。

 

「不安定なホバー機動だと、一歩間違ったら真っ逆さまだな……」

 

 そういう訳である。しかも今は、メイン推力であるプロペラは絶賛故障中である。となると、奥の手であるロケットブースターを使うしかないのだが、あれもあれでかなり制御が効かない。

 

 そもそも高い所にあるだけで、なんか人間ってバランスとるのが下手になるよね。地面においてある鉄骨の上を渡るのは簡単なのに、それが地上20mぐらいの所にあるだけで難易度が急上昇する。不思議な話ではある。

 

「ええい、ぐちぐち言ってもしょうがない」

 

 男は度胸。とにかく突撃して玉砕あるのみ、いや玉砕しちゃ駄目だけど。

 

 プラズマビーム砲の照準を、向こう岸に定める。

 

 こいつはガイドだ。この高さなら、地面からの上昇気流などの影響でビームが曲がるなどの影響は大分抑えられている筈。発射したビームが向こう岸にあたって、その射線を追うようにすればおのずと向こう岸に辿り着けるはずだ。少なくとも、何の目印もなしに渡ろうとするよりはよっぽどいいはず。

 

 じっくり狙って……。

 

「……発射!」

 

 迸る青白い閃光。超高熱の奔流は狙い通り脚部の上をまっすぐ駆け抜け、対岸の壁面を赤く焼き焦がした。

 

 その軌跡が目に焼き付いているうちに、ロケットブースターを起動。背面、ホバーユニットに取り付けられたブースターが炎を吐き出し、浮かび上がった機体を殴りつけるような勢いで前に進ませる。ガクン、と反動で体が操縦席に押し付けられ、パイロットのHPがちょっと減った。

 

「うぉおおお……」

 

 これまでにない加速。上昇したり地面を滑走する際はどうしても運動エネルギーの一部が損なわれるが、ホバー状態で何の抵抗もなく、まっすぐ横殴りという事もあって、ロケットブースターはいつになく勢いよく燃え盛っているようだ。

 

 視界の端がうにょーんと引き延ばされる、高速移動特有の不可思議な感覚を味わいながら、なんとか操縦桿をまっすぐに維持する。下手に機体を動かしたらコースが変わって、そのまま真っ逆さまである。

 

 踏ん張りが効かないのもあって難易度は氷のハイウェイ気分だ。

 

 そんな状況だけども、敵は容赦してくれなかった。対岸に並ぶ対空機銃の一部が、こちらに向けて狙いを定める気配。

 

「ふんぬ……っ!」

 

 今さら方向転換なんぞ出来る訳が無い。両腕で胴体を庇い、できるだけ当たり判定を小さくしながら弾幕の中に飛び込む。

 

 雨粒のように飛び交う曳光弾、実際にはこの数倍の実弾が飛び交っていると思うとぞっとする。

 

 だが幸いな事に、飛び交う弾丸はすんでのところで機体を通り過ぎていく。恐らく補正がまにあっていない……ロケットブースターで真っすぐ飛び込んでくるアホは想定外と言われたらそれもそうだ。自分自身を撃つ訳にもいかないから射角制限もあるだろうし。

 

 意外と楽勝? そんな事を考えている内に、みるみる対岸が近づいてくる。そして、向かうべき本体への入口も。それはシャッターで閉ざされていて、その隣には開閉装置と思わしきコンソールが、って……。

 

「ちょ、ま……」

 

 この速度で飛び込んだら、シャッターに激突してぺしゃんこである。かといって今減速したら機銃の狙いが追いついて蜂の巣である。

 

 機銃の下に潜り込んだら全力で足で地面を擦って減速するしかない? いや間に合うか?

 

 ゴールを目の前にして思わぬ展開に気持ちが乱れる。

 

「い、いかん、判断が鈍る……おわあ!?」

 

 不意に視界が持ち上がる。気持ちの乱れで足を踏み外したか、あるいは被弾したか? 焦るあまり操縦桿を握る手が震える。ゴール地点の確認と、ステータスの確認と……ああいや今更確認しても遅いか?

 

 混乱する思考。

 

 しかし、状況は容赦なく動き続ける。持ち上がった機体が浮かび上がるようにして、地面から離れていく。

 

 いや、これは違う。機体が浮き上がってるんじゃなくて……。

 

「足場が……!」

 

 そう。

 

 思い返そう。今、私はボスの足の一つを足場に見立てて、本隊に向かって渡っている最中だった。が、その間ボスが動きを停めているかというとそんな事はなく、現在進行形でズシンズシン歩いている最中だ。そして、私が渡っている最中にボスが足を動かして、持ち上げている最中……という訳である。

 

 本来ならば足を持ち上げれば下り坂なのだが、こちらは今現在、ホバーしながらロケットブースターでかっ飛ばしている最中である。脚に持ち上げられるようにして機体がふわり、と浮かび上がり、そのままの勢いですっ飛んでいく。その結果、機体は目指していた対岸、ボスの脇腹ではなく、そのままボスの背中目掛けてすっ飛んで行った。

 

 さらに悪い事に、その勢いで上下方向に回転するような運動エネルギーが加わってしまう。ふわりと

 

浮き上がった機体が上下にぐるぐると回転を初めて、そのまま制御を失う。

 

 気分はまさに人間パンジャンドラム。実際に体が振り回されている訳ではないのに、映像だけで酔って吐きそう。

 

「お、おわあああー!?」

 

 もはや機体を制御するどころではない。そのままぐるぐる回転しながら、私の機体はボスの背中目掛けてつっこんでいく。

 

 そして、激突。

 

 衝撃と共に、モニターがブラックアウト。

 

 ばるん、ばるん、と操縦席内で体が跳ねる。

 

 またしてもHPがごりっと減ったのがよく見えた。

 

「お、おげぶ……」

 

 辛うじてシートベルトで体を支えられながら、傾いたコクピットの中で体をぶらんぶらんさせる私。

 

 ややあって気力を取り戻して、なんとか機体を復旧させようとコンソールに手を伸ばす。

 

「いつつ……何がどうして、どうなった……?」

 

 まずはステータスを確認。予想はしていたが、衝撃の強さに比例して各部が真っ赤になっている。無事なのは、無駄に頑丈な脚部ぐらいのものだ。

 

「うげ、背部ホバーユニット中破、左腕部脱落? マシンガンもどっかに取り落としたか……」

 

 そうこうしているうちに、時間経過でエラーから回復したのか、正面モニターに映像が戻ってくる。カメラもどうやら破損しているようで、写される映像には罅割れが入り込んでいるが、まあ見えないことはない。

 

「ここは……ボスの背中の上か」

 

 目の前に広がるのは、戦艦の上部構造物を思わせる鉄の建築物と、ずらりと並ぶ大砲らしきもの。陸上戦艦、という言葉がぴったりの異様が立ち並ぶその様は、全長10mのロボットからみてもあまりにも巨大で威圧感に満ちていた。現実にはあり得ない規模の構造体。船というよりまさに要塞である。

 

 その上に、私の機体はぽつんと横倒しになっている。

 

 なんとか立ち上がって足元を確認すると、それなりの質量が突っ込んできたにもかかわらず、装甲版は凹みもしていなかった。

 

「……どうしよ」

 

 自分の頭の上にのった蟻一匹、気にすることはなく移動要塞は動き続けている。

 

 ほぼ中破した私の機体に、出来る事はあるのだろうか。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

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