ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
そんな訳で翌日、ログインすると前線基地のパソコンの前だった。
周囲にテレサの姿はない。別の場所にいる様だ。
「どっこにいるのかな、と」
掘っ立て小屋を出て、基地の敷地を見渡す。
と……。
「おや」
中枢の隣に立てた、超大型ビーム発振装置。私の居ない間に何度か動かしたのか、その正面の大地が黒く焦げている。そしてその先には、溶け崩れた何かの金属塊。
それなりに時間がたったのは、すでに冷えて固まって閉まっているその前で、何やら調べ事をしている人影がある。
靡く金髪の髪、テレサだ。
「おおーい。何してるんだ?」
『あ、ショウさん! おはようございます!』
声をあげて駆け寄ると、テレサは端末を手にぺこりと頭を下げた。そんな彼女に頷き返しつつ、傍らの金属塊を見上げる。
全高4mほどの金属ブロック。その表面は溶け崩れ、虹色に煌めいている。見た感じ、結構硬そうな金属だが……。
「これは?」
『はい。倉庫のインゴットを失敬して、ビーム兵器の照射実験を行っていました。あ、ちゃんと、後で溶かして元通りにしますから、資材には影響ないはずですよ』
「まあ、そこは気にしてないけど。怒ったりしないから安心して」
わたわたと弁明するテレサに苦笑する。もとよりこの手の実験に関しては制限は出してないからね、何か損害がでてもそれは指示した側の責任だ。
「それで、これはどういう?」
『ショウさんの言った、ビーム兵器が間接的に与える影響を強化する事で、結果的に威力を上げる為の実験をしていました。具体的には、触媒を用いたダメージ増幅実験です!』
「触媒とな?」
イマイチピンと来なくて首を傾げる。そんな私に、テレサは分かりやすくたとえ話で説明してくれる。
『そうですね。例えるなら水で濡らしてから電気を流した方がよく痺れる、みたいな話でしょうか?』
「ははあ、なるほど」
早い話が油壷を投げた後に火炎瓶を投げろ、みたいな話ね。それは確かに盲点だった。
確かに手間は増えるかもしれないが、ビームは基本的に1発オーバーヒートだ。出力を調整すれば2発ぐらい撃てるかもしれないが、どっちにしろ威力不足でそれだけでは殺しきれない。ひと手間挟む事でダメージを増幅できるなら、むしろ必要な行程が減って効率がいい。
「具体的にはどうするんだ?」
『とりあえず、ショウさんのお話から、金属粉末を散布した上でビームを撃ち込んだらどうなるか、を試しています。ほら、工業地帯のボスの話をしてくれたじゃないですか。所謂テルミット反応と併用する事で、ダメージを増幅できないかと』
「ほうほう」
なるほど。つまりア〇ザムリ〇ダーみたいな事をしようという訳だな。
面白いじゃないか。
「進捗は?」
『色んな素材を総当たりで試して調査中です。もうしばらくお待ちください!』
ふむ。自分でやってもいいが、この手の試行回数に物を言わせるのはAIの得意分野だしな、餅は餅屋だ。あちらの土俵では到底勝ち目がないし、私は人間の得意分野……発想の自由さで差別化していこう。
という訳で、早速、私は私にしか出来ない仕事の時間だ。
つまり、新エリアへの進出である。
「今日は先に進もうと思うんだけど、来る?」
『行きます!!!』
問いかけに食い気味で答えると、テレサは『ちょっとお片付けをしますね!!』と拠点中枢の方に奔っていった。
「元気だなあ……」
とりあえず、先にコクピットに行って待っていようか。
◆◆
という訳で、コクピットに乗りこみ、出撃前にぽちぽちと確認。
とはいってもパーツ生成機能がない今の前線拠点で出来るのは、修理の他はカラーリング変更と各種設定の調整ぐらいだ。
「そういや、コイツにまだ機体をつけてなかったな」
あれこれ試す関係で、同じ機体を長時間運用しないのもあっていつからか名前を付けるのがすっかりおざなりになってしまっていた。いや、設定項目が多いから、パーツを適宜交換するよりも設計図そのものをリセットして最初からやった方が早いんだよね。
とはいえ、今回の機体はそこそこ当たりで長い付き合いになりそうだ。
願掛けも兼ねて、それっぽい名前を付けてあげるべきかもしれない。
「んー、じゃあ、“グレイタイタン”と」
安直なネーミングだが、まあ変に凝ってもしょうがない。
さて。これで出来る事はほぼなくなった。あとはテレサを待つだけだが……。
『お待たせしましたー!』
「ほいほい、いらっしゃい」
と、キャットウォークを駆け上ってくる少女の姿。コクピットを開放すると、彼女はいそいそと中に乗り込んできた、って。
「ちょ、近い近い」
『す、すいません、でもこうしないと後ろの席に座れなくって……』
狭いコクピットの中、屈んで四つん這いになって私の横を通ろうとするテレサ。そのせいでいつになく距離が近いというか、その、あれだ!
「い、一端私が外に出るから……」
『え、ま、まって、わあ』
「おわー!?」
慌てて立ち上がった拍子に肩がぶつかって、テレサがバランスを崩して倒れ込んで、あとはもう揉みくちゃである。
なんとかお互いに席に座り、出撃準備を終えるのには数分の時間が必要だった。
『ご、ごめんなさいー』
「い、いや、焦って立った私も悪かった……」
背後から聞こえてくる謝罪の声に、私は苦々しく答える。
いやほんとに何をやってるんだ。相手はただの数字と文字の集合体だぞ? 見た目が可愛らしいと勝手に感情移入して思い入れを抱いてしまうのは人間の悪い癖だと知っているだろうに。
「をほん。とにかく、出撃する」
『は、はーい……』
これ以上話がこじれる前に出撃準備。
ハンガーユニット前面のキャットウォークが解放され、格納庫の扉が開く。外から差し込んでくる光に目を細めながら、一歩、また一歩機体を前に進ませる。
「正面ゲートから出撃する。……多分アレが見えるから、目を塞いでおいてね」
『は、はひ……』
返事は硬い。やっぱりあれは苦手か。
解放されたシャッターを潜って外に出ると、高台の近くに転がる移動要塞の残骸。見た所片付けは大分進んでいるようだが、相変わらずびっしりとサソリ型が張り付いてツマツマしている。
刺激しないように距離を置きつつその様子を眺めていると、背後でぼそりとテレサが呟いた。
『……ねえ、ショウさん』
「ん?」
『基地の超大型ビーム砲、あの残骸に向けて全部焼き払いません?』
思いつめたような口調で、とんでもなく物騒な事を口にするテレサ。よほどアレが嫌らしい。
「ま、まあ、考えておくよ……」
『本当ですか!? 約束ですよ!? 絶対ですからね!?』
とりあえず現状維持というか引き延ばしのつもりで曖昧に応えたのが悪かったのか、テレサは随分と必死な様子で食い下がってきた。
……しょうがない。ちゃんと何等かの手段を考えておくかぁ。
「わかった、わかった。じゃあその為にも資金やらアイテム稼がないといけないからね。今日は頼むよ」
『……はい!!!』
帰ってくる決意の言葉。
妙な事になったな、と思いつつ、私はマップの未踏破区域へ向かってスラスターを噴射した。