ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

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第八十二話 地下大空洞

 

 鉱山地帯を訪れた私達を早速歓待したのは、要塞砲を背負ったメタルインセクトだ。

 

 いつぞやの火山地帯のヤドカリを思わせるが、こちらは随分とガタイがいい。

 

 背負った砲台を破壊され、砲撃が出来ないと判断するや否や、そいつは見た目によらない俊足でこちらとの距離を詰めてきた。

 

 ビームは冷却中で使えない。ハンドガンで迎撃するが、小口径の拳銃弾は盾のようにかざされた鋏の前で虚しく火花を散らすだけだ。

 

 だったら……。

 

「白兵戦に移る!」

 

『わ、わかりました! ご武運を!』

 

 背後でぎゅっとテレサが身を硬くする衣擦れの音。

 

 操縦桿を倒して、スラスター全開でオオヤドカリに突っ込む。こちらの接近を見て取ったオオヤドカリが攻撃モーションに入り、鋏を大きく振り上げるが、それよりもこちらが懐に入る方が早い!

 

 両腕を格闘形態に変形させ、突進の勢いを乗せての……右のアッパーカット!

 

「ふんぬぅ!!」

 

『ギシャア!?』

 

 下から上に向かってかちあげるような一撃が、オオヤドカリの体を仰け反らせる。脚をバタバタたせるオオヤドカリ、ならばもう一発!

 

「そいやあ!」

 

 今度は左の掌底だ。立て続けに殴打を受けて、ぐらりとオオヤドカリの体が傾ぐ。そのまま後ろに引き倒されるようにしてひっくり返り、ずずんと地響きが大地を揺らす。

 

 なるほど、背負った砲台が重すぎてトップヘビーでバランスが悪いのか。とにかく、貰った!

 

 起き上がろうと足をジタバタさせるオオヤドカリに、上からまたがるようにしてその本体を、殴る殴る殴る!

 

 時折鋏の反撃がくるので、それは後退して回避。んでもって、避けたら再び殴る殴る殴る。

 

 そうして10発ほど鉄拳をぶち込んだ所で、相手のHPバーは底をついた。

 

 パリーン、と砕け散るようにして消滅するオオヤドカリ。転がる砲台の残骸を前に、私はふぅ、と息を吐いた。

 

「よし。なんとかなった」

 

『ちょっとひやひやしました……』

 

「なあに勝てば官軍、結果が全てよ」

 

 戦闘を終えてコンディションチェック。格闘形態から戻して指の動きを確認するが、まだまだ問題なさそうだ。マニュピレーターは繊細な部品だからね、気を付けて扱わないと。

 

 しかし、ここにきてこんな砲撃タイプのメタルインセクトが現れるとは。パーツの解放段階も考えると、そろそろスラスターによる回避を覚えてくださいね、って感じの運営の思惑か。

 

 これまで通り、ビームを一発撃ってちんたら逃げてるような機体ではやられていたかもしれない。

 

「なるほど。こういう連中が出てくるんだったら、上位ギルドの連中が機動性偏重思想になるのもうなずけるな」

 

『まあ、基本的に現代兵器の矛と盾は、最終的に矛が勝るものですしね……』

 

 もし防御力で勝負しようと思ったらそれこそ斥力場装甲でも持ち出さないといけないだろう。だがあれはサブエネルギーを死ぬほど使うしな。

 

 ……いやまてよ。

 

 今、ビームで砲弾を迎撃できたんだから、それならビームで迎撃システムを作るというのはどうだ? 対物火力は過剰なぐらいあるんだから、いっそもっと細かく分散させたスプレーみたいなビームで迎撃膜を作れば……。

 

 以前だったらそんなのは不可能だったが、今はビーム偏向力場が仕える訳だし。ちょっと考えてみるか。

 

「……ふむ。まあとりあえず今は、このエリアの探索を優先しよう。まずは鉱山の入口を探して、1フロアか2フロア、探索したら引き返そう。環境に合わせて機体を調整したいし」

 

『了解しました。引き続き、周辺の探索を行います』

 

 背後でカタカタ響くキーボードの音をBGMに、私は慎重に歩いて周辺の散策を始めた。

 

 さっきみたいに、潜伏状態のメタルインセクトから先制攻撃を食らっては溜まったものではない。

 

 しかしそうすると、今度はそこら中にメタルインセクトが潜んでいるような気がする。大岩とか、何かの廃墟とか、そういった意味ありげなものが全部敵の擬態に見えてきてしまう。

 

 ううむ。これはこれでやり辛いぞ。

 

 はっ、こうして疑心暗鬼に陥らせてプレイヤーの集中力を削ぐのが運営の狙いか……?

 

「まあそんな訳ないか。……うん?」

 

 と、そこで山陰を覗き込んだ私は妙な盆地を見つけて首を傾げた。

 

 何やら大きく凹んでいて、そこだけ地面の色が違う。ひょい、と降りてみると、どうやらそれは重機の類を使って掘り起こされ、整地された場所のようだ。100m四方ほどが四角く掘りぬかれ、隅っこには積み上げられた土や石と、それを成したであろう古びた重機が放置されている。

 

 そして、正面には鉄骨フレームがむき出しの、地下に続くゲートらしきもの。

 

 どうやら、ここが坑道への入口のようだ。幸いな事に、10m級ロボットが通るに丁度いいサイズである。設定的にも、この星の活動インフラはロボットを基準としているようだ。

 

「入口発見」

 

『あー。先をこされちゃいました……』

 

「はっはっは、時には頭を使うよりも足を動かした方が早い時もあるのだよホームズ君」

 

 上機嫌でやりとりしながら坑道に近づく。一応、中からメタルインセクトが奇襲してこないか警戒しながら覗き込むと、中には急ごしらえのエレベーターらしき縦穴が遥か底の奈落まで続いていた。

 

「動くかな?」

 

 傍らのボタンをぽち、と押してみると、下からずごごご、という音が。

 

 待っていると、地下からせり上がってきた床板が、ぷしゅん、と目の前で音を立てて停止する。恐る恐るその上に乗ると、床板が今度は地下に向かって沈み始めた。

 

 見る見るまに高度計がマイナスに下がっていく。見上げると、降りてきた縦孔の入口が、遥か頭上に遠のいていくのが見える。

 

 大分深いぞ、数キロ以上は軽くある。

 

『随分杜撰なエレベーターですね。下に降りてる時に落下したらどうするんでしょう』

 

「まあね。やっつけの工事現場とはいえ、だからこそ安全装置は必要だよなあ」

 

 見た所結構古いもののようだから、もしかするとシャッターとかが壊れちゃっただけかもしれないが。でも考えてみたら人間じゃなくてロボットが使うものだし、うっかり落ちたらスラスター吹かせばいいだけの話かもしれない。

 

 そんな事を考えてるうちに、床の下降速度が徐々に落ちていく。どうやら終点が近いようだ。

 

 やがて静かに床板が静止する。ここが坑道の内部のようだが……。

 

「何も見えんぞ」

 

『まあ地下ですしね……』

 

 普通、そこはゲーム的な補正がかかって、薄暗いけど見えなくはない程度に留めるものではないだろうか。

 

 まあ手段はある。何度かそれで失敗したので、頭部機能は疎かにしてはいない。

 

 スイッチを入れると、頭部に内臓されたライトが、眩く正面を照らし出した。見える範囲は限定的とはいえ、これでなんとか探索はできそうだ。

 

 おっかなびっくりエレベーターから降り、周囲をライトで照らして確認する。

 

「……大分広い空間だな?」

 

『そうですね……音の反響から広さを調べてみます』

 

「頼む」

 

 照らすライトの光が、壁まで届かずに虚空に融けるように消えている。おまけに、何やら微細な粉塵が漂っていて普通に視界が悪い、霧の中を見通しているようだ。

 

 広いのはいいが、こうも見晴らしが悪くては。何か照明弾とかが必要かもしれない。

 

「ラインナップにあったかな? ……む」

 

 闇の向こうに何かが動いたような気がして思わず身構える。

 

『ショウさん?』

 

「しっ。……敵が来るぞ」

 

 じりじり、とエレベーターホールの方に向けて後退する。

 

 直後。

 

 闇の中に無数の赤い点が灯り、それらがこちらに向けて一斉に動き出したのが見えた。

 

「やっぱりかあ!」

 

 広い地下空間に暗闇といったらお約束だよな。

 

 んでもってこのシチュエーション、ゲーム好きなら大体何が居るかなんて決まっている!

 

 周囲を照らすのも兼ねて、先制で指ビームをぶっ放す。扇状に広がるビームの掃射が、地面を薙ぎ払い、赤熱させて爆発と共に敵を吹き散らす。

 

 その鮮烈な閃光によって、殺到してくる無数のメタルインセクトの姿が露になる。

 

 大きな複眼、巨大な顎。トゲトゲした甲殻に、細い脚。

 

 最初の花畑にも居た蟻型、それを二回り以上巨大化させて攻撃的にしたような、兵隊蟻型のメタルインセクト!

 

「蟻だぁー!」

 

『なんでちょっと嬉しそうなんですか!?』

 

 こうしてワシャワシャ迫る巨大な機械蟻相手の、撤退戦が始まった。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

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