ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
襲い掛かってくるメタルインセクトの数はざっと10以上。
指ビームの薙ぎ払いに怯んだのか一時的にその足を止める事は出来たが、すぐに硬直から復帰して群がってくる。
狭まってくる包囲網。ハンドガンを連射しながら、エレベーターホール向けて後退する。
スラスターで一気に逃げたい所だが、こいつら相手に背を向けるのはちょっと怖い。それに応戦しながらのバック運転は事故ったらお終いだ。
ここは安全策をとって堅実に対応すべきである。
「とはいえ、ええい、数が多い!」
『で、ですが、先制攻撃が効いているようでがむしゃらに距離は詰めてきません!』
「でもさ、そうなるとさあ……」
顔面にハンドガンを叩き込まれて後退する蟻。その背後、前が渋滞してこちらに詰めてこれない蟻達が、なにやらお腹を振りかざすような動きをしている。
鋭くとがったお腹の先端から噴出される何か。銃弾でも爆弾でもなく、液体状のそれはこちらにむかって降り注ぐ。バシャ、と地面やメガアームの袖にかかった焦げ茶色の液体が、シュワア、と嫌な音と共に煙を立てた。
「さ、酸だー!!」
『だからなんで嬉しそうなんです!?』
いやあ、ごめんごめん。このシチュエーションだと言わなきゃいけないと思って。
でもまあ、あまりふざけても居られないか。
ここでやられるって事は、酸で溶かされて死ぬって事だ。私はともかく、テレサにそんな死に方はさせられない。何としても生きてこの場を離脱しなければ。
「よし、エレベーターに辿り着いた!」
なんとか入口まで後退し、エレベーターに乗り込む。顔を突っ込んでくる蟻達の顔をメガアームでぶん殴って遠ざけて、スイッチをON。蟻達を置き去りに、地下を後にする。
ぐんぐん上昇していくエレベーターに、ほっと一息。
「ふぅ、吃驚した。だけどなんとかなったな」
『はい。でもあんなにたくさんメタルインセクトがいるんじゃ、調査もままならないです。どうしましょう?』
「そうだなあ。どうしたもんだか」
流石にどこぞの惑星防衛軍よろしく100体とか200体とかってスケールで襲ってくる事はないとは思うけど、どっちにしろ数が多い。
仮にマシンガン装備で来てもきつそうな気がする。元ネタがそうだしね。
となると、何か他の手段がありそうな気がするが。
考えていると、ガタン、と床が揺れて上昇速度が低下した。
そして、床下から聞こえてくるギシギシという音。これは……。
『これは……下にメタルインセクトの反応多数! エレベーターシャフトを昇って追いかけてきたみたいです!』
「ちいっ」
がくん、と床が落ちる。咄嗟に見切りをつけて、スラスターで上に向かって跳躍。一瞬遅れて、床を突き破って生えてきた巨大なアゴが噛み合わされた。
無数の兵隊蟻が、次から次へと姿を現す。たちまちエレベーターの床は噛み砕かれて破片となって落下し、地下まで続く奈落には無数の赤い光が点々と輝いていた。
これはヤバイ。
「地上まで一気に飛ぶ! 捕まってろ!」
『で、でも計算だとエネルギーが足りませんよ!?』
テレサの指摘どおり、表示されるサブエネルギーの数値はみるみる目減りしていく。機体が重たいから速度もでないしな。
だけど考えがない訳じゃない!
『エネルギー尽きます!』
「だったらあ!」
スラスターが切れる前に、メガアームを大きく広げ、つっかえ棒にしてシャフト内に固定する。
これで少なくとも墜落の心配はない。
「このまま、シャフトをよじ登っていけば……!」
内壁の凹凸に指をかけて地上を目指す。エレベーターとスラスターで大分距離を稼げたみたいで、地上の光が窓のように見えてくる。
だが……。
『駄目です、おいつかれます!!』
「くそ!」
眼下には、もうすぐそこまで迫ってきている蟻の群れ。差し込む日差しで、黒光りする甲殻が闇の中に浮かび上がっている。
ビーム砲の冷却は……くそ、まだ終わってない! そもそもこんな狭い中で撃ったら崩落の恐れがある。
もう一つの武器のハンドガンはメガアームのグリップと一体化させちゃったから下に向けて撃てないし、誰だこんな構造にしたの! 私だよ!
ええい、こうなったら通常腕で頑張ってやる!
あちょー、と機体に格闘戦の構えを取らせて、兵隊蟻を待ち受ける。
連中は重力をものともせずにシャフト内を登攀してきて、こちらに迫り来る。
迫り……せまって……あれ?
「おや?」
『あれ?』
急に、蟻達の動きが止まる。
電撃に撃たれたように固まった彼らは、やがてゆっくりと、ついには急ぎ足で地下へと戻っていく。押し寄せていた黒い波濤が引いていくのを見て、私はテレサと思わず顔を見合わせた。
「……あきらめた?」
『みたい、ですね。なんででしょう?』
「さあ……?」
首を傾げつつも、私はふと思いついて顔を見上げた。
遥か頭上では、入口から差し込んだ光が天窓のように輝いている。
まさか。そういう事なのか?
だったら、何とかなりそうな気もする。とにかく一度戻って、武器カタログを見ない事には始まらないが。
「まあとにかく助かったからよいとしよう。で、それで、ここからどうするかだけど……」
『……サブエネルギー、ほとんど空っぽですねえ』
そう。
蟻の追撃はやんだけど、エレベーターは壊れちゃったし、エネルギーも底をついている。依然として機体はシャフトの中で宙ぶらりんだ。
「しかたない、地道に登っていこう」
『が、がんばってください!』
えっちら、おっちら。
テレサの声援をうけながら、シャフトの中をよじ登る。
結局、私達が地上に脱出できたのは、それから10分後ぐらい後の事だった。
這う這うの体で出口から這い出し、差し込み光を体一杯で浴びる。
「ああー、地上だー! なんか随分久しぶりの気分」
『実時間では30分も居なかったんですけどねえ』
冷静なつっこみありがとう。
何はともあれ、今日はこれでしまいだ。寄り道せずにまっすぐ帰ろう。
……なのだが。
「サブエネルギー一度尽きちまうとホント大変だな……」
『ですねえ』
のそのそ歩いての帰り道。敵と遭遇する事を考えるとビームは無駄撃ちできないし。
結局、探索しながら坑道に向かった前半と同じぐらいの時間をかけて、私達は前線基地に戻ったのであった。
◆◆