ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
燃え上がるフィールド。崩れ落ちる前線基地。
その有様を特等席で見下ろしながら、私は上機嫌に腕を組んだ。
「ふっふっふ、まあ、こんなものか」
ここは、機動要塞“ギガントタイタン”の中枢部、主動力炉の前に鎮座する愛機“タイタンコア”のコクピットである。要塞と一体化したタイタンコアのメガアームの指先からは、無数のケーブルが伸びて部屋中を這いまわり、要塞へと接続されている。情報処理能力を強化されたコクピットには通常の倍近いコンソールや計器が設置されており、今も要塞の状態をリアルタイムで通達してくれている。
まあその大半は私には意味がわからないのだが。テレサが組んでくれた制御プログラム様様である。
「くっくっく、まるで他のプレイヤーがゴミのようだ。なーんて、ね」
どうせ誰にも聞こえていないのだから、思う存分悪役ロールで悦に浸る。実際、他の真面目な参加プレイヤーからすれば、私の存在は冗談にも程があるだろう。
だが当然、何かルール違反をした訳ではない。ちゃんとルールにのっとって、この機動要塞は建造されている。
そもそもだな、こんな巨大構造体を作った所で、本来ならば動かせるはずがない。当然だが、あくまで設置物として用意されている前線基地のオプションに、モーターだのシャフトだのはない。このゲームの自由性を生かしてそれっぽいものを作った所で、出力も強度も足りない(一敗)。
だから、このギガントタイタンの足っぽいものは、単なる極太のシャフトと、その受け皿であって、関節として動力は仕込まれていない。本当に唯の棒である。
それを動かす事を可能にしたのは、複数のプラズマジェットエンジンだ。大型プラズマビーム砲を軸に改造して作ったこれらは、サブエネルギーをあまり消費せずにある程度の推力を得る事が出来る。それを多数配備する事で、無理やり本体を持ち上げ、脚を前に踏み出させている……ぶっちゃけ、数歩歩くだけで色々カツカツである。テレサの見つけてきた触媒なども用いて出力を大幅に強化してもこれだから、多分他の方法でこのサイズの構造体を動かす事は不可能だと断言してもいい。
そしてそこまでやっても、材質が自重に耐えられない。テストでは少なくとも、直立状態を維持できるのはもって10分。それ以上は関節の受け皿が破損して、最終的に足が砕けて崩れ落ちる(一敗)。
だが……。
「それなら10分以内に敵を全滅させてしまえばいいのだ。くくく、ブロックに勝利すれば基地は全回復だなんて、あまりにも都合がいい話だね」
そう。
焼けつくほどプラズマジェットエンジンを吹かしても、罅割れるほど関節を酷使しても、勝ちさえすれば全て元通りである。実体は今にも崩壊しそうな砂上の楼閣であっても、崩れる前に次に進んでしまえば何の問題もない。
幸いにして、予選のフィールドはさほど広くなく、機動要塞が立ち上がれば全域を射程に収める事が出来た。二足歩行の面目躍如、という奴である。欠点として語られる事もある全高の高さだって、一方的にぶん殴れる状況なら最高の利点だ。
「さて、と……」
敵を全滅させた事で、次ブロックへの参入処理が始まった。画面がブラックアウトし、ローディング画面に切り替わる。それに伴い、あちこちレッドアラートを示していた各種モニターが、一斉にグリーンに戻る。
数秒後、無事にブロックへの参加が完了したようで、モニターには古びた廃墟の都市が映し出された。すでにある程度の戦闘が勃発しているらしく、前線基地同士で砲火が飛び交っているようだ。この様子だと敵機体も都市部に散開している可能性があるが……まあ、基地をフッ飛ばしてしまえば問題はあるまい。
「ふふふ……いくぞ! スタンディングオペレーション!!」
バァン、とメインコンソールのスイッチを叩くように押す。それによってテレサが組んだプログラムが起動、機動要塞の全身が噴射煙で覆われる。超大型ロケットブースーターも併用して機動要塞が身を起こすと、一気に視界が広がった。
視界に映る、五つの前線基地。
残念ながら、今回は複数の前線基地を纏めて吹き飛ばす、とはいかないようだ。うまい具合に散開してしまっている。
「まあいい。一つずつ消し飛ばすだけだ」
まずは一番遠い基地に照準を定め、主砲の超大型ビーム砲を展開する。
本来なら基地の敷地に固定して、敵を引き込んで撃たなければ到底命中など望めそうにない武装だが……というかどう考えても実用を想定していない……しかし、基地そのものが動くとなれば話は別だ。機体下部のプラズマジェットエンジンの出力を調整しながら噴射して、対象を真正面に捕らえる。
「……発射!」
引き金を引くと同時に放たれる、超大口径のフォトンビーム砲。
これでも、一般プレイヤー機を一撃とはいかないのが本当に悲しい所だが、前線基地はプレイヤーではない。あくまで地形の一種にすぎない。
故に、影響激化スキルの影響がいかんなく発揮され、直撃を受けた基地施設が蒸発する。中枢まで一撃でぶち抜かれた基地が、火柱を上げて爆発四散した。
「はっはっはっは、たーまやー!」
いやあ、テレサにも見せてあげたいね、この光景。巨大ボスの残骸をこれで焼き払った時は凄い悦びようだったなあ……いやまあ、何か決定的に学習方向捻じ曲げちゃった気もするけど、それはそれ、これはこれ。
さて。
超大型ビーム砲、流石に冷却時間もそれなりに長い。残った武装で、最低あと三つの前線基地、仕留められるかな。
「おっと、流石に反撃が早い」
こちらを最大の脅威とみなしたのだろう、互いの交戦を一時中断しての砲火が降り注ぐ。が、残念ながら、それらは展開した斥力場シールドに全て防御されている。
基地四つとプレイヤー12人の集中砲火、圧力もそれなりに感じるが、残念ながら基地一つを押し返せるほどではない。サブエネルギーも、機動要塞を動かすエンジンと主砲の超大型ビーム砲の熱量でほぼ再現なく回復するから、このサイズの物体を防壁で包んでも何の影響もないのだ。
まあ、機体下部とか、本体に干渉しちゃう部分には展開できないんだけど(一敗)……そのためには接近しないと駄目だ。ああやって遠距離から撃ってる限りは問題ない。
「ふんふふふーん」
斥力場と装甲に守られながら、最寄の基地に側面を向ける。もちろん、弱点を晒している訳ではない。
この機体の側面には、大規模な粒子加速装置が搭載されている。当然、これは荷電粒子砲のためのものだ。本来ならば収束した荷電粒子砲をバシュー! と飛ばして敵の大部隊を壊滅させたかったのだけど、そう上手くはいかなかった。
なので発想の転換である。収束しないならいっそ拡散させてしまえばいいのだ。
つまり、荷電粒子砲の拡散ビームを、しこたま叩き込む。
バシュシュシュシュ、と複数の粒子加速路から、無数の荷電粒子の飛沫が敵基地に降り注ぐ。降り注いだ荷電粒子は基地の防壁や防衛設備に接触するなり大爆発を起こし、前線基地を崩壊させていく。それに巻き込まれて右往左往する敵プレイヤーの機体をよそに、私は大きく一歩、機動要塞を前進させた。
エンジン全開で大きく持ち上げた脚が、地べたに広がる敵基地に暗い影を落とし、そして……。
「ぷちっとな」
踏みつける。
荷電粒子砲で破壊された基地の敷地に巨大な脚がめり込み、地下まで一息で踏み抜いた。踏みつぶされる敵中枢……そして爆発。
機動要塞は足元で起きる爆発をものともしない。まあコイツの足、ほぼ合金の塊だしね。
まあ……情けない事に今ので脚部関節が限界を迎えて、ここからはもう一歩も動けないんだけど。
とりあえず、一番遠い基地に照準を定めて機体を固定しておく。ステータスは……あ、ちょっと調子に乗りすぎた。大分真っ赤である、早く決めないとヤバイ。
「そういう訳で、残弾一斉発射といきますか」
二つの基地をロックオンして、垂直ミサイルサイロから全弾放出。降り注ぐミサイルに搭載されているのは爆薬ではなく、例の金属触媒である。敵の迎撃で大半が撃墜されるが、爆発する代わりに巻き散らかされた粒子が敵基地を包み込み、茶色く染め上げていく。
そこに、機体上部にずらりと並んだ12機のフォトンビーム砲を叩き込む。これだけで敵基地は破壊できないが、触媒を反応させるには十分だ。
真っ赤に赤熱する触媒の霧。その中に囚われた敵基地や機体は、数千度を超える高熱にさらされて溶解していく。
それだけで仕留められなくても、何十発かは搭載している通常弾頭のミサイルを撃ち込めばそれで済む。もはや無抵抗となった基地にミサイルが降り注いで、敵基地の反応が二つ消えた。
あとは最後の一つを残すのみ。
これも主砲の冷却が完了している。引き金を引くだけで、全て終わりだ。
「ちょろいちょろい……むむ?」
レーダーに感あり。
これは……。
「へえ……打って出るつもり? やるじゃん」
拡大される正面モニターの映像。
そこには、戦闘機じみた黒い機体と、それに乗る重砲撃戦らしき緑の機体。
その二機はまっすぐ、こっちに突っ込んでくる。
基地に籠ってもやられるだけ。ならば戦って討ち死にという訳か。
「その意気やよし。諸共葬ってくれるわ」
まあ直撃でもプレイヤー機は即死しないんだけどね。でも逆に言えば、数機巻き込んだぐらいでビームの威力が衰える事もない。
私は突っ込んでくる敵を巻き込むように照準を調整し、ビームの引き金に手をかけた。
「これで終わりだ」