ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

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第八十九話 白い悪魔

 

 

「これで終わりだ」

 

 最後の対戦相手に向けて、超大型ビームの引き金を引く。

 

 エネルギーが充填され、とどめの一撃が放たれる……その瞬間、僅かに早く。

 

 遥か彼方の敵機、飛行型にまたがる重砲撃戦機の砲塔が紫電を帯びた。

 

 直後、耳をつんざく高音と共に、激しく機動要塞が振動した。

 

「む!?」

 

 咄嗟にエンジンを吹かして転倒は阻止する。が、今の局面でこの姿勢のズレは致命的だった。

 

 標的を見失った大型ビーム砲が明後日の方に放たれる。それは敵にも基地にもかすりもせず、ただ遠くの岩山を消し飛ばしただけに終わってしまった。

 

 最後の対戦相手は健在だ。

 

「ええい、おのれ!」

 

 恐らく敵が放ったのはレールガン。それが斥力場に守られていない脚部上半分に命中し、その衝撃で機体がバランスを崩した。前述のとおり、この機動要塞はただ突っ立っているだけで、自力では機体を安定させる事ができない。あくまで自重で乗っかっているだけだから、そこに斥力場というクッションを挟まずに強い衝撃を与えればバランスを崩しもする。

 

 狙ったのか、偶然か。

 

 いや、どっちでもいい。

 

 今は敵に対応するのが先だ!

 

「懐に潜り込まれたか……!」

 

 攻撃の成功で、下部が死角と理解したのだろう。急激に高度を落とす敵を、要塞上部のビーム砲やミサイルが追いきれない。迎撃をかいくぐって下から回り込んでくる。

 

 なるほど。

 

 定石といえば定石だ。だけど、だからこそ対策してると思わなかったのか?

 

「近接防御兵装展開」

 

 ガシャコン、と機動要塞正面下部の装甲が展開される。そこにずらりと並んでいるのは、荷電粒子砲の銃口だ。そのかず、4X4で16発。機体側面からばら撒いている荷電粒子砲は、こいつのオマケだ。本命は、足元に潜り込んでくる敵を蜂の巣にする弾幕。

 

 展開された無数のビーム砲に気が付いた敵が、目くらましのつもりか煙幕を展開する。スモークグレネードによって急激に展開された白い煙が、その機体を覆い隠すが……関係ない。

 

 発射される、荷電粒子の散弾。圧倒的密度で放たれたそれが、煙幕ごと突っ込んできていた敵機を蜂の巣にした。

 

 ビーム系の中ではもともとダメージが通る方だった荷電粒子砲だ。飛行能力に特化したと思わしき敵機はその猛攻に耐えきれず墜落していく。

 

 あとは敵の基地を吹き飛ばせば終わりだ……そう考えた所で、ビビ、と警告音がコクピットに響く。

 

 はっと顔を上げると、要塞の上空に砲撃戦機の姿があった。

 

「煙幕の狙いはこっちか」

 

 攻撃の直前、煙幕を目くらましに離脱していたのか。至近距離でこちらにレールガンの砲身が向けられるが、こちらに焦りはない。

 

 なぜならば……。

 

「その程度の攻撃で斥力場装甲を抜けると思うなよ」

 

 放たれた超音速の一撃は、しかし展開された見えない力場に弾かれる。多少の負荷は感じるが、全然許容範囲だ。そもそも攻撃が通じないから下に回り込んだのだろうに、無駄な抵抗もいい所だ。

 

 反撃の為に、要塞上部に並んでいるフォトンビーム砲の狙いを定める。いくら一発一発の威力が低くても、複数発撃ちこめば流石に耐えられまい。

 

 だが、こちらの攻撃の予兆を見て取った敵機は思わぬ行動に出た。

 

「なぬ?」

 

 距離を取るのではなく、その逆。まさかの、斥力場シールドへの突貫である。

 

 馬鹿な、いかな重装機体であっても斥力場障壁に接触したらただでは済まない。まさか、そんな事も知らないのか? あるいは、もう勝ち目がないと見て取ってのヤケクソの特攻か。

 

 無駄な足掻きだ、と見送った私は、しかし驚愕する事になる。

 

「なんだと!?」

 

 空中で激しくスパークが生じる。その出所は、敵機と激突した斥力場障壁だ。接触するもの全てを粉砕するはずの見えない力場が、しかしたかが敵機一体に拮抗している。見れば敵は何やらツインランサーのようなものを振りかざして障壁に突き立てているが、しかし、そんなもので斥力場障壁を破れるはずが……。

 

 だが現実に、ツインランサーは真っ向から障壁と打ち合っている。いや、よく見ればほんの少し、互いに距離があって……まるで相手の武器もまた、不可視の力場を持ち合わせているようにも……。

 

「まさか……あのツインランサー、斥力場発生装置を内蔵しているのか!?」

 

 斥力場障壁は防御だけでなく攻撃にも使える事は私もよく理解している。ならば、それと同じことを思いついたプレイヤーが他に居ても当然だ。

 

 同じ斥力場障壁同士がぶつかったらどうなるか、そういえば試した事はない。その結果が、今まさに目の前で繰り広げられていた。

 

「発生装置が……!」

 

 モニターに表示される警報。過負荷により、要塞を守っていた斥力場発生装置が次々と停止していく。それはお互い同じはずだが、一振りのツインランサーと、要塞全体を守る斥力場装甲では釣り合いが取れない。

 

 くそっ、制御システムの軽量化の為に一括制御にしていたのが仇になったか!?

 

 障壁が消滅し、敵機が要塞上部に降り立つ。使い物にならなくなったランサーを投げ捨て、展開された肩部レールキャノンがこちらを見据える。

 

 一見するともはやこちら側には打つ手なし。

 

 だが……。

 

「お決まりのパターンを対策してないはずがないだろう?」

 

 トリガーを引くと同時に、要塞の艦橋……中央司令塔に搭載された108mmバルカン砲が火を噴いた。本来対空砲などに使用されるバルカン砲が、直接照準で一機の機体目掛けて火を噴いた。

 

 秒間600発を越える高速連射が、敵機体を粉微塵に粉砕する。口径的にいえばアヴェンジャーの3倍だ、全長10mのロボットだってひとたまりもない。

 

 本来ならば反動も絶大、サイズもサイズなので10m級の機体では主力装備にするような代物だが、要塞のサイズからすれば小さなものだ。懐に入られた時の近接防御装備としてはちょうどいい。

 

「残念だったな。バルカンをなめたのがお前の敗因だ」

 

 木っ端みじんに粉砕された敵機の残骸が、バラバラと地上に降り注ぐ。これで敵は殲滅した、あとはビームの冷却をまって、敵基地を砲撃すれば……。

 

「?!」

 

 ずずん、という衝撃と振動。

 

 機動要塞が傾き、私は慌ててコクピットにしがみついた。

 

 なんだ……何が起きている?

 

 慌ててモニター越しに外を確認するが、どうにもおかしな点は見受けられない。生き残っている最後の敵要塞は沈黙しており、攻撃を受けている様子は無い。

 

「これは……まさか?!」

 

 はっとしてモニターを機体のそれに戻した直後、要塞中枢制御室の床が何かによって突き破られた。爆発の煙が押し寄せ、一瞬モニターが灰色に染まる。

 

 その向こうに浮かび上がる影。

 

 爆発の向こうから歩み寄ってくるのは、白を基調としたトリコロールの機体だった。外見上は特筆するような特徴もない、極めてオーソドックスな汎用機。

 

 だがそのゆらりとした歩みに、私は最大限の危機感を喚起させられて唾を呑んだ。

 

「馬鹿な、敵は全て撃墜したはず……はっ!」

 

 思い当たる事があり、要塞視点のモニターを切り替える。対象は、最初に撃墜した飛行型の黒い機体。要塞の足元に墜落し、木っ端みじんになったと思われたその機体……だが改めてみると、どこか不自然だ。

 

 外見から受けるイメージよりも、飛び散っている残骸の質量が少ない。まるでハリボテのような、中に何かを入れるスペースがあったみたいな……。

 

「嘘だろ、あの飛行型の中に納まっていたのか!?」

 

 考えてみれば、敵陣突破用の増加装甲やスラスターを一つの機体に仕立て上げるのは珍しい話ではない。

 

 撃墜された不利をして懐に飛び込み、砲撃型が気を引いている間にアーマーパージしたこの機体が、死角である下から要塞の外壁を突き破って内部に突入してきた、そういう事だろう。

 

 なんという浪漫。私もやりたかった。

 

「おのれ……だが、そう易々と中枢は破壊させん!」

 

 緊急スイッチを叩くようにして起動する。同時に、メガアームから要塞に繋がっていたケーブル類が切断され、機体が自由を取り戻す。背後で輝く要塞中枢を守るべく、私はタイタンコアを最後の敵に立ちはだからせた。

 

 呼応して、武器を手にする白い機体。向けられたライフルから徹甲弾が連射される。

 

 狙いは中枢ではなく、私の方。あくまでも決着をつけるつもりか!

 

「ぬるい!」

 

 メガアームから展開した斥力場でライフル弾を弾き返しつつ、反撃の指ビームを放つ。狭い制御室で、拡散するビームを完全に回避する事は不可能だ。

 

 相手はとっさにビームの間に入り込んで直撃を避けようとしたが、重ねて網状に放射されるビームがライフルを破壊する。

 

 武器を失って一瞬立ち尽くす敵目掛けて、スラスターを噴射。最大速度で拳を振りかぶる。

 

「これで終わりだ!」

 

 勝利を確信して繰り出した右のストレート。

 

 しかし、その一撃は空を切った。

 

 ぬるり、としか言いようのない、妙にフレームレートの高い動きでこちらの一撃を回避する白い機体。大きく仰け反ったその機体が、腰から武器を引き抜く。

 

 やたらとナックルガードが大きな、幅広の実体剣。ナイフよりはマシ、という程度のその武器を、敵は空振りしたこちらのメガアームに向かって振りぬいた。

 

 斬撃の軌跡に、ピンク色の光が重なる。

 

 直後。

 

 並大抵の攻撃では破壊できないはずのメガアームが、その半ばから両断されていた。

 

「な……なにぃいい!?」

 

 驚愕に後退する私を追撃する事なく、切っ先を床に向けて低く得物を構える白い機体。その手にしたブレードは、どういう訳かビームの光を表面に纏っていた。

 

 ビームソード!?

 

 私以外にもビームを使うプレイヤーが!? それも、砲撃戦ではなく、格闘戦で!?

 

「お、おのれ!」

 

 牽制でサブマシンガンを放つが、敵はゆらゆらとした左右移動で射撃をかいくぐり、はっとした時には目の前にいた。

 

 再び翻るブレードが、残った左のメガアームと機体本体の両腕を切り落とす。切断面から火花が生じ、小さな爆発が衝撃をもたらす。

 

 その衝撃に後退りしながら、私は驚愕を禁じ得なかった。

 

「ば、馬鹿な……いや、そういう事か! お前も、影響激化スキルを……!」

 

 理屈は分かる。恐らくビームによって赤熱、軟化した装甲を実体ブレードで破壊するという構造なのだろう。ブレードがビームを帯びて溶解しないのは偏向スキルの応用と視るべきだろう。

 

 つまりこのプレイヤーは、方向性こそ違えど、私と同じレベルまでビームスキルを育てた物好き。同好の士。

 

 こんな所で、それもこの大一番でそんな奴に遭遇するとは!

 

 いや、むしろ宿命か?

 

「は、ははははは! 運命とは奇遇なものだ!!」

 

 自分と同じく、ビームを愛する者が居た事に喜べばいいのか、よりによってそいつが最大の敵である事に悲しめばいいのか。

 

 自分でも感情の整理がつかないまま、私は最後の突撃を敢行した。

 

 もはやこちらに武器はない。ならばこのまま質量差で押しつぶす!

 

 残されたメガアームを盾にして突撃するこちらに対し、白い機体は一瞬も怯まずに真っ向から向かってきた。

 

 閃光の刃が煌めく。

 

 直後、正面モニターがブラックアウト……その向こうから装甲を突き破った刃が、コクピットに座る私を串刺しにする。

 

 刀身の纏うビームで、アバターが原子分解されていく中、私の口元に浮かぶのは称賛の笑みだった。

 

「見事! お前に倒されるなら、悪くな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《“ホワイトライダー”に 撃破 されました》

 

 

 

 

 

『チーム:テレサちゃんカワイイ が敗北しました』

 

 

 

 

 

《78ブロックの試合が終了しました》

 

 

 

 

 

 

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