イドルムは今頃、工場の見学を終えているだろうか。僕はカロスさんとマスターの話で盛り上がっていた。
まさかマスターが、海中三回転捻りで窮地を切り抜けるとは……
カロスさんもどこか楽しそうに笑っている。
「マスターも相変わらずのようで楽しそうですね」
「楽しいかはともかく、だいぶお世話になっていますよ」
マスターを肴にした話もひと段落ついて、僕とカロスさんは別の話題を探し始める。
「ふと、思ったのですけれど」
遠慮がちにカロスさんが切り出す。聞きづらそうにしているあたり、恐らく聞きたいのはテンセイシャのことだろう。
「なんでしょうか?なんでも聞いていいですよ!」
僕は明るく答え、カロスさんを促した。
「貴方たちテンセイシャは、一体どこから現れたのですか?地上で何度も魔物と戦いましたが、あのテンセイシャとユキノフさんを見ていると、どうにも別の世界から現れたように思えるのです」
意表を突かれた。まさか、そこに踏み込まれるとは思いもしなかった。
この世界では、テンセイシャは魔物の一種として認識されている。
なのに、カロスさんは僕たちを魔物と思っていないのか?
「僕が覚えていることは少ないのですが……」
「構いませんよ」
僕は覚悟を決め、カロスさんに返答する。
「ええと、少し重い話になるんですけど……僕たち……テンセイシャは一度、死んでいるんです」
「……続けて」
カロスさんの表情が凍り付く。
無理もない。いきなり目の前の人間から、「自分は一度死んだ」と聞かされれば、そうなるのも当然だ。
「それで、僕たちは、知らない場所で、女神という存在に出会って……そこから先が、未だに思い出せないんです」
「ッ!そう……貴方たちが……彼女の言っていた……」
カロスさんの表情が険しくなり、そう呟く。僕が一度死んだということに反応したのは、信じられないとか、ショックとか、そういう話ではないのか?
女神。そう聞いた瞬間にカロスさんの様子がおかしくなった理由を尋ねようとした、その時だった。
「カロス!それと人間!大人しくしろ!」
ドアが乱暴に開き、武装した魚やマーマンが雪崩れ込んでくる。
その勢いと唐突さに、僕は反応が遅れ、タイのような魚に槍を突きつけられ、動けなくなってしまう。
一方、カロスさんは、イカが持っている剣を掴んで奪い取り、イカを切り付け、返す刀で周辺の魚を薙ぎ払う。
そのままこの場を制圧しようとしたところで、僕の姿を見て動きを止めてしまう。
そのまま睨み合っていると、人混みならぬ魚混みを掻き分け、大きなサメが現れた。
「剣を捨てろカロス!でねえとこの人間が死ぬぞ!」
目に闘志を宿しながらも、カロスさんは剣を捨ててしまう。
僕のせいで、カロスさんを危険な目に合わせてしまった。
「気にすることはありませんよ、ユキノフさん」
穏やかにカロスさんは僕へ語りかけると、恐らく、首謀者であろうサメに向き直る。
「確か、ティフルが運用している工場の魚たちでしたね。待遇を改善して欲しいならティフルに言いなさいな」
「あの地上狂いがまともに話をすると思っているのか?思わねえだろ?だから起こしたんだよ、この騒ぎをよお」
「すぐに、親衛隊によって鎮圧されます」
「だから、その前にお前にホーギョクのところまで案内してもらうんだよ」
ホーギョク……宝玉と言いたいのだろうか?
僕の疑問を他所に、会話は続く。
「なぜ、貴方が宝玉のことを?ユキノフさんといい……あの日のことを思い出しますね」
「ある筋からの情報でな、信用もできるぜ?」
「……ユキノフさんの安全を。傷一つつけようものなら、わかっていますよね?」
「おお、いいぜ?んじゃさっさと案内してくれや」
サメは下品に笑いながらカロスさんを突き飛ばした。カロスさんの身体がわずかに後退する。だが、体勢は一切崩れていなかった。
サメは器用に舌打ちをすると、カロスさんを急かした。
カロスさんに合わせて、僕も槍を突きつけられたまま移動する。
僕は罪悪感と、無力感を抱きながら、カロスさんについていくことしかできなかった。
一方、イドルムたちは、ユキノフとカロスが人質になったという知らせを聞いていた。
その直後、魚たちがティフルを襲撃してきたが、ヒデキとマグナ、そして親衛隊によって即座に鎮圧された。
ひとまとめにされた魚たちを、ハルバードを携えたマグナと、訓練場にあった銃を両手に構えるヒデキが拘束し、見張っていた。
親衛隊は周囲を警戒しており、その中心でティフルは威圧するようにふんぞり返っている。
イドルムはというと、落ち着かない様子でティフルの様子をうかがっている。
「で?人魚と人間を人質にとって何がしたかったのよ?工場の待遇改善要求なら一切聞く気はないわよ」
ティフルがドスを利かせて問いかける。凄みのある声でさえ、人魚特有の美しさを失っていなかった。
「……もう目的は達している。ジョーンズがカロスを確保した時点でな」
「ジョーンズ?」
「サメのことだ。前からなんか怪しいと思ってたけど、あいつが首謀者だったか……」
イドルムの質問にヒデキが答える。その表情に笑みはなく、何かあれば即座に魚を銃撃するつもりだろう。
「そんなことより呑気にしてていいのか?お前の母親と仲間が今頃どうなってるか気になるんじゃないのか?」
「そうだよティフル!ユキノフが捕まってるんだぞ!?助けねえと!」
魚の言葉にイドルムが食いつく。ユキノフと離れたばかりに、こんな事態を招いてしまった。そんな思いが、彼女を突き動かしていた。
だが、それに対するティフルの対応は、とても冷たいもので……
「人魚1匹に人間1匹でしょ?失ったところで痛くもなんともないわ。できればユキノフだけは救出しなきゃだけど」
――イドルムにとって、家族は何よりも大切な存在だ。仲間意識の強いドラゴンなら、なおさらである。祖父のボルトスに同じことが起きたなら、イドルムだって平静ではいられないだろう。
「母ちゃんなんだろ!?」
「人魚よ、間違えないで」
イドルムの方を向かずに答える。
「それよりもよ、こいつらの目的がわからない以上どう動いたらいいのかがわからないわ」
「普通に待遇改善じゃないか?ティフル、この間も突っぱねてたろ」
「当然よ。仕事があるだけありがたいと思ってほしいくらいだわ」
ティフルとヒデキがなんてことないように話し始める。
イドルムはマグナに助けを求めようと視線を向けた。だが、マグナは何かを考え込んでおり、話しかけられる雰囲気ではなかった。
イドルムは牙をむき、拳を開く。
「……場所はどこだ。アタシがユキノフとティフルの母ちゃんを助けに行く」
「ダメよ。あのサメは無駄に強いからあんたじゃ歯が立たないわ」
「なら、ヒデキ!一緒に来てくれ!お前、強いんだろ!?」
「ダメだ、下手に動いてユキノフとカロスを傷つけたくないし、ここを手薄にして武器を奪われるのはもっとまずい。一応ここ、武器庫も兼ねてるし」
ヒデキに冷たい声で突き放され、イドルムは悔しげに歯噛みする。
「ユキノフとカロスの場所はわかった?」
ティフルが話は終わりだと切り上げるように、近くの親衛隊に声をかける。親衛隊はあちこちを泳ぎ回っていて、特定の誰かに投げかけたものではない。
ティフルの不特定の問いは、どこかからこちらに泳いできた親衛隊の一人が答える。
「はいーどうやら二人を連れてタービン室に向かってるそうですー」
「タービン室?」
そう発言したのはマグナだ。どうやら、話は聞いていたらしい。
「簡単に言えば工場を動かすためのエネルギーを作る場所よ」
「それはどこにある?」
「ここから結構下のほう。なんだってまたそこに行くのかしら?」
「下、だと?」
その直後、轟音と共に、建物が揺れる。
水中にいるティフルや魚は問題ないが、床に立っているイドルムたちはその衝撃をまともに受け、体勢を崩す。
「やったのか!?」
「ホーギョクを手に入れたんだな!」
「俺たち、これで解放されるんだ!」
「でも、なんか気配が多くね?」
魚たちが騒ぎ始める。イドルムは知らない単語を持ち出す魚たちを睨みつけ、黙らせる。
「ホーギョク……宝玉か!?クソ!なんで気づかなかった!ティフル!タービン室とやらに案内しろ!最悪は免れるかもしれん!」
「ホーギョクって何よ!タービン室にんなもんないわよ!あるとすればお母様が絶対に触るなって言ってた変な球体くらいよ!」
「それが宝玉だ!」
ティフルとマグナが激しく言い争う。親衛隊はいっそう忙しなく泳ぎ回り、ヒデキは上のほうをじっと見つめている。イドルムはどうすればいいかわからず、頭の中が真っ白になっていた。
そんな中、親衛隊が勢いよく部屋の中に飛び込んでくる。
「ティフル様!都市に海中魔物が大量に押し寄せてます!ひとまず住民の避難は終わりましたが防衛の戦力が足りないです!」
「ティフル様!タービン室になんかデカい魔物が出ました!カロス様が残って対処してて他は全部逃げたみたいです!」
「情報量が多い!マグナ!知ってること話しなさい!」
ティフルは押し付けられた情報を処理し、対処に必要な情報はマグナが持っていると察する。
「タービン室の魔物は宝玉によって暴走した魔物だ!一刻も早く殺せ!都市に押し寄せている連中はそいつに引き寄せられた魔物だ!最悪殺しきれなくてもいい!」
「ユキノフ!ユキノフは無事なのか!?」
「あっはい、どうやらカロス様に逃がしてもらったみたいで、保護しましたー。今こちらに向かってますー」と、親衛隊の報告を聞き、イドルムはひとまず胸を撫で下ろした。だが、今度は魔物が大量に襲ってきている。早いところユキノフを探さねばと、ティフルに改めてタービン室への道を聞こうとする……
「ユキノフが逃げたのならちょうどいいわね。燃料を過剰供給してタービン室を吹っ飛ばすわよ。それでデカい方を対処するわ」
ティフルの非情な決断に、イドルムは彼女に掴みかかる。が、それはヒデキに羽交い絞めにされることによって阻止された。
「先に言っておくわ。いくらお母様といえど、優先順位は低いの。デカい魔物の強さがわからない以上高火力でさっさと始末したほうがいいの。タービンはまた作ればいいし」
反論を封じ込められ、ヒデキの腕の中で項垂れてしまう。
「……それでも、家族なんだろ?」
答えは、返ってこなかった。
その少し前――。
僕は魚たちに槍を突きつけられたまま、カロスさんの案内で宝玉のある場所へと向かっていた。
「この方向は……確かタービン室の方だったな。ティフル以外入ったのを見たことがねえけど」
「ええ、ティフルが『どうせ誰も入れないのなら改造したっていいでしょう』と……そういうことではないというのに……」
そう言いながら頭を押さえるカロスさんを、ジョーンズと呼ばれるサメが先を急がせる。
僕は未だに槍を突き付けられたままだ。誰も口を開かず、沈黙が場を支配していた。
「おい人間、名前は?」
沈黙に耐えかねたのか、ジョーンズが僕に話を振る。
「……ユキノフ、です」
「そうか!ユキノフか!お前も災難だな!アイツのせいでこんなことに巻き込まれるなんてよ!」
ガハハと、下品にジョーンズが笑う。何を言ってるんだ、魚の癖に……!
せめてもの抵抗として睨みつけていると、僕に向いている槍が、少しだけ刺さり、血が出てしまう。
声は出さなかったけど、表情に出してしまい、それをジョーンズが察してしまう。
「オイ! くだらねえマネしてんじゃねえよ! お前のせいでカロスが暴れたらどうするつもりだ!」
ジョーンズは槍を持つ魚を怒鳴りつけると、今度は僕へ顔を向けた。
「おい、ユキノフだったな。そんなに深くは刺さってねえみたいだな」
これなら大丈夫だと、ジョーンズは進行を再開する。単に人質というだけではないのだろうか?
でも、こいつは所詮テロリストだ。そう自分に言い聞かせながら、僕は先へ進んだ。
歩き始めてどれくらい経っただろう?僕たちは階段をいくつも下り、神殿の奥へと進んでいた。
……妙だ。この神殿は魚たちの居住区で、ティフルさんがあちこち改造したものだと聞いている。
それなのに、階段の幅や段差の高さ、途中にある扉の大きさや取っ手の位置、部屋の間取り。そのどれもが、人間が使うことを前提に造られているように見えた。
まるで、元の世界で見たファンタジー作品に登場する神殿のようで……
待て、僕が今いる世界そのものがファンタジーの世界ではなかったか?
これまでにも喋る動物や、切ってもすぐ生える樹、ドラゴンには出会ってきた。だが、そうしたものはこの世界では当たり前になりつつあった。
それなのに、この神殿には妙な既視感がある。
説明のつかない違和感が、胸の内で膨らんでいく。だが、こうやって考えていることも長くはできずにいる。
「着きました。ここが、宝玉のある場所です」
時間と事態は、いつも僕を待ってくれない。
それは石造りの両開きの扉だった。とても重そうで、押して開けられるようなものではなさそうだ。
だが、僕の予想に反して、カロスさんは扉に手をかけ、そのまま押し始めた。
ズズズ……と、重い音が鳴り、扉がゆっくりと開いた。
「ふう……これを一人で開けるのはしんどいですね。さあ、目的の物はそこにありますよ」
カロスさんはどうぞと、魚たちを上品に迎え入れた……
扉の向こうには、神殿の一部だったと思われる広間が広がっていた。壁や柱には古めかしい装飾が残っている。
ゴウンゴウンと、耳をつんざく轟音が響いている。青を基調とした神殿の広間には、場違いな灰色のタービンがいくつも設置されていた。かつては冷たい水に満たされていたであろう空間も、今ではタービンの熱で温められている。壁や床にはケーブルが張り巡らされ、水の中を縦横無尽に走っていた。
そして、目に入ったのは、この部屋の奥に置かれていた宝玉だ。
それは海を凝縮したように蒼く光っていた。その美しさに一瞬息をのんだが、タービンの轟音に現実へ引き戻される。自然破壊に反対する人たちの気持ちが、少しだけわかった気がした。
「なんだこの……なんだ?」
ジョーンズを含めた魚たちは、困惑した様子で部屋を見渡していた。目的の宝玉を見つけたものの、目の前の光景に戸惑っているらしい。
その隙を、カロスさんは見逃さなかった。
「ぐあっ!」
僕に突きつけられていた槍を尾びれで弾く。魚の手から離れた槍を水中でつかみ取り、そのまま持ち主だった魚を切りつけた。続けざまに他の魚たちを次々と蹴散らしていく。どうやら、殺してはいないみたいだ。
「クソッ!早いところ確保しねえと!」
魚たちが怯む中、ジョーンズが部屋の奥にある宝玉めがけて突っ込んでいく。
それを阻止しようとカロスさんが後を追おうとするが、我にかえった魚たちが体当たりを仕掛け、行く手を阻む。
僕もただ見ているだけではない。宝玉をジョーンズに回収させてはいけないという謎の確信を得て、宝玉に向かって駆け出す。なんとしてでも先に宝玉を回収しなくては!
しかし、ここは水中だ。地上と同じように動けたところで、水中を泳ぐ魚に追いつけるはずもなく……
「こいつがホーギョクか!早速……ゴグン!」
あっさりと、僕の目の前で宝玉はジョーンズに飲み込まれてしまった。
「さあ!ホーギョクよ!俺の願いを叶えろ!誰にも負けない力を!」
そう叫んだ直後、ジョーンズの身体が歪に膨れ上がる。魚の妨害を抜けてきたカロスさんがジョーンズに槍を突き立てようとするが、ジョーンズから放たれる謎の衝撃波によって吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「グォオオオOOOOOO!???!?」
変質し、巨大化していくジョーンズ、だったもの。
頭部は巨大化し、口から覗く歯は鋭く伸びていく。
背びれと尾びれには刃のような突起が生え、鱗までもが触れるものを傷つけるほど鋭く変質していった。
「SHAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
今、一匹の魔物が産声を上げたのだった。
「あ、あ……うわあああああああああああ!???!??」
「逃げろ!ジョーンズが魔物になっちまった!」
「待て!俺を置いていくな!」
魚たちは倒れた仲間を置き去りにし、次々と部屋から逃げ出していく。
壁際で起き上がったカロスさんは近くに落ちていた槍を拾うなり、魔物に向かって突っ込んでいく。
それに気づいた魔物はカロスさんに向かって体当たりを仕掛けていく。
カロスさんはその攻撃を紙一重でかわしざま、槍の先で魔物の体表を削り取ろうとする。
だが、魔物の鱗は想像以上に硬く、槍の方が削られて折れてしまう。
「ッ!ユキノフさん!逃げてください!この魔物は私が食い止めます!」
「でも!それだとカロスさんが!」
「いいから行きなさい!貴方がここにいて何ができるというのです!」
僕が言い返す間もなく、魔物は水流を操ってカロスさんの動きを封じ込めると、彼女を潰そうと突進する。
そうだ、吸血鬼の時と同じなら、適応を使えばジョーンズを元に戻せるのではないか?
僕は覚悟を決め、魔物に向かって走っていく。
「ユキノフさん!?なにを!?」
「SHAAAAAAAAA!」
魔物は僕に気づくと、強引に方向を転換して僕のほうに突っ込んでくる。あまりの迫力に、スキルを発動するということが頭から抜けてしまう。
怖い
魔物が、怖い
嫌だ
死にたくない
魔物の口が、目の前で開く。
「っづあああああああああ!!!!」
直前で視界が揺らぎ、身体が横に引かれる。気づけば僕は、カロスさんの腕の中にいて、魔物から遠ざかっていた。
どうやら、直前で助け出されたらしい。
「年長者の言うことは、素直に聞くものですよ」
ぐうの音も出ず、僕はうつむいた。
やがて、部屋の入口にたどり着くと僕は扉の外に投げられ、そのまま水中に漂う。
「いいですか、既に親衛隊が動いているはずです。保護してもらって安全な場所にいるのです。貴方が何をするにしても、死んでしまっては元も子もありません。いいですね」
カロスさんは言うだけ言うと、石の扉を内側から閉め始めた。
どうやらカロスさんはここで魔物を食い止めるみたいだ。よく見ると尾びれ付近が抉れている。
だけど、僕が何か言う前に、扉は音を立てて閉まってしまった。
「あー!確かユキノフ、さん!お怪我はなさそうでなによりですねーカロス様はどうしましたかー?」
カロスさんの言葉通り、一人のティフルさんの親衛隊が駆けつけ、僕の様子を確認すると、カロスさんについて聞いてくる。
「カロスさんは、あの中にいます。魔物を、食い止めています」
「あちゃーこの扉、私たちが沢山いないと重たくて開けられないんですよねー。とりあえずティフル様のところに行きますかー泳げますかー?」
「……はい、案内を、お願いします」
「はいなー」と、気の抜ける声色で親衛隊は案内を始める。僕はなんとか姿勢を立て直してその後を追う。
走っていれば気もまぎれるかと思ったが、浮かぶのはさっきのカロスさんの言葉だ。
『貴方がここにいて何ができるというのです!』
『年長者の言うことは、素直に聞くものですよ』
『死んでしまっては元も子もありません』
僕は、無力だ――